[No.975-2]話したいこと
No.975-2
「教材?」
「うん、後で知ったんだけど・・・」
いわゆるセールスマンから買ったらしい。
今の時代、死語に近い売り方かもしれないが・・・。
「一冊、二冊・・・とかそんなレベルじゃなくて」
相当な量だったことを覚えている。
金額こそ聞かなかったが、安い買い物ではないことくらい分かる。
「やっぱり、心配だったんじゃない?」
「そうだとは思うんだけど・・・」
でも、正直に言えばそれにはほとんど手を付けなかった。
最初こそ興味をそそられたが、三日坊主もいいところだった。
「それじゃ・・・」
「でも、受験は上手くいった」
自分に見合った学校を選んだこともあって・・・。
「じゃその本は?」
「さりげなく捨てたんだ」
中身を見られる前に紐で縛って、古新聞と共に回収に出した。
その時はすごい罪悪感に襲われた。
「結果オーライとは言え・・・」
「それに母親が勝手に買ったとは言え・・・」
結局、それについて母親に詫びる機会を失った。
「そんな僕なんかのために大枚をはたいてさぁ・・・」
「別に今からでも遅くないんじゃない?」
「・・・だ、だよな!」
今度、実家に帰ったら話してみようと思う。
やさしく微笑む遺影の前で。
(No.975完)
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