カテゴリー「(039)小説No.951~975」の51件の記事

[No.975-2]話したいこと

No.975-2

「教材?」
「うん、後で知ったんだけど・・・」

いわゆるセールスマンから買ったらしい。
今の時代、死語に近い売り方かもしれないが・・・。

「一冊、二冊・・・とかそんなレベルじゃなくて」

相当な量だったことを覚えている。
金額こそ聞かなかったが、安い買い物ではないことくらい分かる。

「やっぱり、心配だったんじゃない?」
「そうだとは思うんだけど・・・」

でも、正直に言えばそれにはほとんど手を付けなかった。
最初こそ興味をそそられたが、三日坊主もいいところだった。

「それじゃ・・・」
「でも、受験は上手くいった」

自分に見合った学校を選んだこともあって・・・。

「じゃその本は?」
「さりげなく捨てたんだ」

中身を見られる前に紐で縛って、古新聞と共に回収に出した。
その時はすごい罪悪感に襲われた。

「結果オーライとは言え・・・」
「それに母親が勝手に買ったとは言え・・・」

結局、それについて母親に詫びる機会を失った。

「そんな僕なんかのために大枚をはたいてさぁ・・・」
「別に今からでも遅くないんじゃない?」
「・・・だ、だよな!」

今度、実家に帰ったら話してみようと思う。
やさしく微笑む遺影の前で。
S975
(No.975完)
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[No.975-1]話したいこと

No.975-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「普通・・・ね」
「だから言ったろ!?」

中学生の頃の通知表を見ている。
そこには至って“普通”の数字が並んでいる。

「得意な科目は?」
「みれば分かるだろ!?」

オール3だから得意も不得意もない。

「ひとつくらい5とかあってもいいのにね」
「嫌味か、それ?」

けど、それはそれで一理ある。
勉強は出来なくても体育や美術は優れているとか・・・。

「学習塾とかは?」
「ううん、行ったことない」

理由は色々あったと思う。
そもそも僕が勉強に興味を持っていなかったことが大きい。

「別に嫌いだったわけじゃないぞ!」
「それなりに勉強はしてた・・・けどな」

さすがに学校の授業だけではついていけない部分もある。
それは理解していた。

「でも、それ以上どうかしたいとか欲もなくて」

それを親は分かっていたと思う。
都合よく言えば子供の意志を尊重してくれていた。

「それでも受験時期になるとさすがにね」
「行ったの?」

そんなある日、母が僕のために学習教材を用意してくれた。

(No.975-2へ続く)

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[No.974-2]After Tone

No.974-2

「ったく・・・」
「大事に扱ってよ」

しばらくすると懐かしい曲が流れてきた。
数えきれないくらい聞いた曲だ。

「どう?」
「どう・・・って・・・」

当時、私にとっては歌詞が大人過ぎた。
そのアーティスト自体、素敵な大人の女性だったからだ。

「今なら少しは理解できる・・・かな」
「へぇ~そうなんだ?」

付き合っていた彼と別れた。
フラれたのではなく私からフッた形になった。

「なのに、私の方が引きずったままで」
「そんな時、このCDに出会ったの」

彼はすぐに新しい彼女をみつけた。
それが私に追い打ちをかけた。

「そう言えばそうだったわね・・・」
「で、今はどうなの?」

今はもう未練はない。
その証拠に、そのCDがあることさえ忘れていた。

「もう私には必要ないよ」
「そう、それを聞いて安心したよ」

今までの行為は友人なりの心配の仕方だと解釈しておこう。
あえてそのCDの話題を振ってくれたということで。

「何ならあげるよ、そのCD」
「ううん、いらない・・・持ってるから」
S974
(No.974完)
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[No.974-1]After Tone

No.974-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・ん?」
「どうしたの?」

友人が何か見つけたようだ。
とは言っても今はそんな場合じゃない、本当は。

「このCD懐かしいね!」
「ちょ、ちょっと・・・」

さっきから手伝ってるのか邪魔してるのか分からない。
何かにつけ手が止まる。

「まだ持ってたんだ?」
「別にいいでしょ!?」

高校生の時に買ったCDだ。
でも、その頃に発売されたものではない。

「やっぱり忘れられないんだぁ?」
「何によ、その“だぁ”って!?」

言い方が引っ掛かる。
少なくとも心配されているようには聞こえない。

「まぁ、そんなに突っかからないでよ」

そう仕掛けているのは友人の方だ・・・と言いたい。

「ねぇ・・・久しぶりに聞いてみない?」
「今!?」

繰り返すが今はそんな場合じゃない。
引っ越しがもう明日に迫っているからだ。

「パソコンは最後にしまうんでしょ?」
「まぁ、そうだけど・・・あなた・・・」

全てを答え終わる前にすでにパソコンの前に座っていた。
間髪入れずに“カチャリ”とトレーが開く音が聞こえた。

(No.974-2へ続く)

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[No.973-2]ここにも春が

No.973-2

それにしても桜のピンクと空の青さがマッチしている。
やはり、桜はこうやって見上げるにかぎり限る。

「ほら、あれなんて!」

他の枝よりも、ピンク色が濃い花が咲いている。
そうなるともちろん・・・。

「“映え”だね!」

スマホを構え、チャンスを伺う。
風に揺られて、なかなかシャッターが切れない。

「もぉ・・・」

今日はやや風が強い。

「仕方ない・・・ちょっと待つかな」

急いでいるわけでもない。
待てばいいだけの話だ。

「そうそう!あなたも撮ったら?」

桜を見上げるのに夢中で、すっかり友人のことを忘れていた。
その時、風が止んだ。

「チャーンス!」

まさしく奇跡の一枚が撮れた。

「あなたも撮れた?」
「撮れたわよ」
S973
(No.973完)
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[No.973-1]ここにも春が

No.973-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ようやくだね」
「そうだね」

多くの桜で開花が始まった。
殺風景だった枝もようやく色付き始めた。

「やっぱりこれがないとね!」

やはり桜が咲かないと春が来た気がしない。
この感情は決して私だけじゃないと思う。

「ねっ!そうでしょ!」

それにしても、この桜の木は樹齢何年だろうか・・・。
他の桜の木と比べても貫禄があり過ぎる。

「ほんと立派な桜だねぇ」
「まるで“主”って感じね」

それこそ神が宿る木・・・そんな風にも見えなくもない。

「ねぇ、ねぇ、どう思う?」

友人に同意を求める。
ゲーム好きの彼女なら、こう答えるだろう。

「村にある“伝説の木”みたいでしょ?」

言わば村の長老と似たような立場にある。

「この木は何でも知っている・・・なんてね!」

私も随分と友人に毒されたものだ。
すっかり、ゲームの世界観を理解している。

(No.973-2へ続く)

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[No.972-2]嫌いな理由

No.972-2

「そうなの!?」
「こんなに美味しいのに!」

そう言うと、もう一口、パクついた。

「これ系はダメなわけ?」
「ううん、それだけ嫌い」

好き嫌いが分かれるであろう、春菊だって食べられる。
それが嫌いな理由が味ではないからだ。

「今の季節、一番美味しいじゃん!」
「だから余計に嫌いなの!」

就職のため、地元を離れた。
それからというもの、”野生”のそれを見かけたことがない。

「野生?」
「まぁ・・・広い意味では野菜は全部"野生”なんだろうけど」

つまりこういうことだ。
私にとってそれは、道端に勝手に生えている雑草に近い存在だ。

「実家のすぐそばの土手に・・・」

それこそ食べきれないほど生えている。

「・・・そうなんだ」
「そう!分かってくれた?」

正確に言えば嫌いなのではなく、食が進まない。
どうしても雑草を食べているようにしか・・・。

「知らなかった・・・」

美味しそうに食べる友人には悪いがそういうことだ。

「・・・そんなに生えてるなんて」

友人の瞳の奥が輝いて見えるのは気のせいだろうか?
S972
(No.972完)
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[No.972-1]嫌いな理由

No.972-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
どうしても違和感を感じずにはいられない。

「何よ・・・」
「私の顔になんか付いてる?」

友人がベタな反応をしてきた。
まぁ、そうさせているのは私のせいだが・・・。

「ごめん、ごめん!」
「美味しそうに食べるんだなぁ~と思って」

実際、なんでも美味しそうに食べる。

「そうかしら?」
「褒めたってあげないわよ」

普段なら、食い付くところだ。
でも、今は"あげる”と言われてもお断りだ。

「いらないわよ」
「へぇ~、珍しいじゃん」

友人の影響で私まで食いしん坊のレッテルが貼られている。

「べつに珍しくないわよ」
「まぁまぁ・・・そう言わずに」

逆にそれを勧めてきた。
そこがなんとも憎らしい。

「い、いらないわよ、マジで!」
「・・・嫌いだっけ?」

ようやく話が収束しそうだ。

「そう!嫌いなの!」

でも、嫌いな理由は味ではない。

(No.972-2へ続く)

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[No.971-2]飛べない鳥

No.971-2

「怖がらせたらあかんよ」
「ごめん、ごめん」

そうこうしている内に、その鳥が動き始めた。
やはり、怪我をしているらしい・・・歩き方が変だ。

「なんだか、びっこひいてない?」
「せやね」

歩いていると言うより、ピョコンと飛び跳ねている感じだ。
それも片足だけで・・・。

「・・・どうする?」
「う~ん」

このままだと、大型の鳥や猫に狙われるだろう。
もちろん、心無い人間にも。

「とりあえず、捕まえてみようか?」

これで捕まってしまうようなら、保護が必要だろう。
幸いにも、近くに動物病院がある。

「うん!分かった」
「じゃ、そぉ~と・・・」

と、更に近づいて手を伸ばした瞬間・・・。

「あっ!」
「あっ・・・」

大空高く飛んでいってしまった。

「何だよ!元気じゃん!」
「心配して損したよ、なぁ?」

彼女に同意を求める。
でも、空を見つめたまま返事がない。

「・・・」
「大丈夫だよ、きっと!」

目の前の彼女がそうであったのと同じように。
S971
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[No.971-1]飛べない鳥

No.971-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「あれ?」

彼女が急に視界から消えた。
けど、すぐさま足元でしゃがみこんでいるだけと分かった。

「どうしたの!?急に・・・」
「そんな大きな声、出さんといて」
「ご、ごめん・・・」

意味も分からず、とりあえず謝ってしまった。
僕が何かしたとでも言うのだろうか・・・。

「それより、見てん・・・」

そう言うと、目線の先を指差す。

「・・・あっ」
「せやろ?」

一羽の鳥が地面で休んでいる。
休んでいる・・・と言う表現が正しいかどうかは別にして。

「よく分かったな!?」
「目は良いほうやねん!」

雑草に紛れるような感じで休んでいる。
さすがに鳥の種類までは分からない。

「何してるんだろうね」

野生を相手にしているわりには距離が近い。
2、3歩あるけば手が届きそうな距離だ。

「怪我・・・してるんやろか?」
「かもしれないな」

発見してから、数分は経過しているはずだ。
それでも一向に逃げる気配がない。

「もうちょっと近づいてみようか」

気持ち前に一歩踏み出す。
さすがに、こちらが気になるようだ。
地面をついばむのをやめ、こちらを凝視している。

(No.971-2へ続く)

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