カテゴリー「(038)小説No.926~950」の50件の記事

[No.950-2]半年先にあるもの

No.950-2

「これからどうするの?」
「・・・今は答えを持っていない」

ただ、主治医の言葉通りなら、半年先には答えが出てしまう。
黙っていても。

「治療をあきらめる選択肢もある」

もちろん、続ける選択肢もある。
けど、そこにゴールはない。

「時々会いにいくさ、バレない程度に」

急に実家に帰る回数が増えるとそれこそ疑われる。
今まで通り、電話で調子を確認したり、たまに行ったり・・・。

「そうね・・・それがいいかも」
「正直に言えば、顔を見るのも辛いからね」

彼女が小さくうなづく。
言い方は適切ではないが、これに関しては彼女の方が先輩だ。

「冷静で居られる自信もないしな」
「私も・・・そうだったな」

とにかく今まで通り・・・今まで通り、過ごすことに決めた。

「うん・・・それもありだね!」

今回ばかりは時間が解決してはくれない。
解決どころか、むしろ複雑化する一方だろう。

「それでも、受け入れるつもり」
「本人と一緒に戦っていくだけさ」
S950
(No.950完)
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[No.950-1]半年先にあるもの

No.950-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・どうだった?」
「うん・・・まぁ・・・」

最後まで言わずとも察してくれると思う。

「呼ばれた時点で覚悟はしてたけどな」
「・・・そう・・・」

昨日、主治医から呼び出された。
もう、その時点で予想はできていた。

「本人には?」
「もちろん、言ってない」

ただ、気付かれている可能性はゼロではない。
僕が呼ばれていることを知っているからだ。

「ただ・・・ね」
「なんて言うか・・・」

ドラマや映画のワンシーンを見ているようだった。
まるで他人事のように・・・。

「私も・・・そんな感じだったよ」
「全然実感が湧かなかった、その瞬間は」

僕も同じ気持ちだった。
元気いっぱいとは言えないものの、普通の生活はできている。
その姿からすれば、主治医の言葉がウソに聞こえるくらいだ。

「僕も、今頃になって・・・こう・・・」

昨日のことを思い出すだけで胸が苦しくなる。

(No.950-2へ続く)

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[No.949-2]目薬

No.949-2

「・・・まだやってるのか?」
「だって・・・」

下手糞と言うか、不器用と言うか・・・。
さっきから上を向いてばかりだ。

「注してやろうか?」
「いいよ、自分でやるから」

そう言うと、向こうを向いてしまった。
さっきとはうって変わって、その姿を見せたくないらしい。

「見ないでよ」
「見ないよ」

それにしても、やっぱり彼女は不器用だ。
けど、そこが彼女らしいところでもある。

「もぉ!せかすから失敗したじゃない!」
「・・・みたいだな」

今まさに、彼女の頬を目薬が伝って落ちようとしている。

「難しいね!」
「まぁ、そういうことにしてあげるよ」

そう言っている間にも、次から次へと目薬が頬を伝う。

「じゃ、元気で」
「うん・・・あなたもね」

僕の眼からも目薬が流れ始めた。
S949
(No.949完)
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[No.949-1]目薬

No.949-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「なにしてるの?」
「なにって・・・見て分からない?」

それは僕でも分かっている。
言いたいのは、そのだらしなく開いた口のことだ。

「なんで、口が開いてるんだよ?」
「えっ!?そうなの?」

やはり気付いていなかったらしい。

「まぁ、気持ちは分かるけどね」

昔は僕もそうだった。
口は開くけど、肝心の目が開かない。
上手に注せるようになったのは、しばらく経ってからだ。

「なによ、同じじゃん!」
「なぜか口ばかり開いちゃうんだよね」

上手く注せなかった目薬が口に流れ込んだこともあった。
その度に“オエッ!”とえずいていた。

「・・・あれ?目薬してたっけ?」

今までしているところを見たことがない。
そもそも、人前であまりするものでもないが・・・。

「う、ううん・・・最近、目が乾いちゃって・・・」

季節的にも乾燥する時期になってきたことは確かだ。
それに今日は寒さが特に厳しい。

(No.949-2へ続く)

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[No.948-2]モジモジ

No.948-2

『美味しそうだね!』

まずはいつも通り、当たり障りのない返事を返す。

『味はイマイチだろうけどね』

この意味は分かっている。
謙遜でもないし、料理が下手なわけでもない。

『仕方ないよ』
『いわゆる“病院食”みたいなものでしょ?』

あえて薄味にしている。
その理由も、それを誰が食べているのかも知っている。

『そうだね』
『とりあえず今から行って来ます!』

どこに向かうかも知っている。
すかさず、“了解”のスタンプを返す。

『それにしても、バイブが激しく振動すると・・・』
『・・・ちゃんからの料理のサ・イ・ンだよね!』

LINEを返して気付いた。
このフレーズ・・・まるで・・・。

『これって、ドリカムの・・・』

未来予想図Ⅱの歌詞と何となく似ている。
シチュエーションこそ違うが、雰囲気はそう遠くはない。

「・・・ん!?」

すぐに返事が返ってきた。
“照れたキャラクター”がモジモジしているスタンプだった。
S948
(No.948完)
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[No.948-1]モジモジ

No.948-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
ここ数ヶ月、日曜日の午前中にあるLINEが届くようになった。
でも、今日はまだ届いていない。

「忘れてるのかな?」

督促するのは変だけど気にはなる。

「まずは、さりげなく・・・」

言葉ではなく“空腹を連想させる”スタンプを送った。
彼女ならきっと気付いてくれるはずだ。

「これでよし・・・と」

日曜日になると料理の写真が送られてくるようになった。
ただ、“インスタ映え”を狙ったものではない。
それに、単なる料理自慢をしているわけでもない。

「気付いてくれ・・・あっ!」

そう独り言を言いかけた時、スマホのバイブが激しく振動した。

「おっ!来たか!」

多分、料理の写真に間違いないだろう。
バイブの振動が何度も続いたからだ。

「どれどれ・・・」

やはり、料理の写真だった。
それも、12枚。

「今回はいつもより多いな」

そこには、秋の味覚がふんだんに盛り込まれていた。

(No.948-2へ続く)

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[No.947-2]憂鬱になる曲

No.947-2

「まぁ・・・それでも生き延びたよね、私たち」
「何とかね」

毎日が全力だった。

「この曲を、いつか心穏やかに聞けるのかなぁ?」
「どうだろうね」

完全に“この曲イコール辛い日々”の図式が成立している。
これを崩すのは容易ではないだろう。

「それにしても・・・」

私たちの気持ちをよそに曲は流れ続けている。
爽快な良い曲なのに残念だ。

「・・そう言えば覚えてる?」
「もしかして、“彼”のこと?」

同僚がうなづく。

「イケメンだったよね!」
「そうそう!だけどさ・・・」

彼は彼で全力だったし、必死だったと思う。
みんな、とても浮かれた気分にはなれなかっただろう。

「あまり話す機会もなかったもんね」
「どうしてるのかな?」

彼も彼で“生き残った”ことだけは覚えている。

「出来れば、違う環境で出会いたかったよね」
S947
(No.947完)
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[No.947-1]憂鬱になる曲

No.947-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
同僚と目が合う。
何も語らずとも、その目が合った理由は分かっている。

「この曲・・・」
「私もそう思ってた」

大いに聞き覚えのある曲が店内に流れ始めた。
相変わらず爽快なメロディだ。

「曲自体に罪はないんだけどね」

私も同僚と同じ考えだ。

「そうよね」
「環境と言うか・・・シチュエーションと言うか・・」

この曲を始めて聞いたのは会社の寮だった。
毎朝、7時になると目覚まし代わりに曲が流れる。

「“一日が始まるぅ!”・・・と思うと」
「辛かったよね」

新入社員だった私たちには過酷な毎日だった。
不安な中、研修の毎日が続いた。

「トラウマまでは行かないけど」
「もの凄く当時を思い出しちゃう」

もちろん、私も同じだ。
爽快なメロディに反して、気分は憂鬱そのものだった。

「良い曲なのにね」
「全くそう!」

出来れば、違う環境で出会いたかった曲だ。

(No.947-2へ続く)

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[No.946-2]私は三流

No.946-2

「なんか、申し訳なくて」
「・・・それで浮かない顔なのね」

ブログを続けることだけに固執していないか?
最近、そう考えるようになった。

「辞めるってこと?」
「・・・その考えもゼロではない」

もちろん、出来る限り続けて行きたい。
それに・・・。

「やっぱり、書くことが好きみたい」

昔から文章を書くのは好きだった。

「前にも言ったことがあるかもしれないけど」
「その苦しみもネタにしちゃえば?」

その考えは悪くはない。
今の私には、むしろ有り難い提案だ。

「そう思ってはいるんだけど・・・」

なかなか踏ん切りがつかない。
ブログの主旨から外れているように思えるからだ。

「もう!優柔不断なんだから!」
「それなら、一言、言ってあげる!」

友人が意を決したような表情をした。

「スランプってね・・・一流の人が使う言葉なの!」
「あんたは、三流以下!」

そう言うと、黙り込んでしまった。
でも、その気持ちは十分過ぎるほど伝わった。

「そうね、三流以下だから・・・」
「質なんて関係なし!」

いつか一流になれるかな?
S946
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[No.946-1]私は三流

No.946-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・どうしたの?浮かない顔して・・・」
「う、うん・・・」

ここに来て、かなりのスランプに陥っている。
原因はいくつか考えられなくもないが・・・。

「スランプ?」
「なんかスポーツとかしてたっけ?」
「ううん、私の場合・・・」

長年続けている“アレ”のことだ。

「・・・もしかして、ブログのこと?」
「そう!当たり」

ブログで小説を書いている。
正しくは、日常を“小説風”に切り取ったに過ぎない。

「まぁ、書けてはいるんだけど」

内容が伴っていない。

「そう?私が見る限り、そんな風には見えないけど?」
「“そんな風に見えない”のが逆に問題」
「どういう意味?」

最近、小説の質が落ちている。
私が言う質とは、見栄えのよさじゃない。

「世界観というか、泥臭さというか・・・」
「あなたがよく言ってる“商業的な”ってこと?」

さすが友人、よく知っている。

「そう・・・なんか、小さくまとまって」

魂が抜けた小説ばかりになっている。

「それでもね、“拍手”をくれる人が居て・・・」

同一人物か分からない。
ここ数ヶ月、日に20以上の拍手をもらうこともある。

(No.946-2へ続く)

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