« 2020年8月 | トップページ | 2020年10月 »

2020年9月

[No.1005-2]小さな世界

No.1005-2

「うぇ・・・」
「ただ、言うほどグロテクスじゃないよ」

その時、思った。
小さくても大きな世界がここにあると。

「神様ぽい発言ね?」
「なるほど!」

確かに、その世界を創造したのは私だ。
植物を植えたことで生き物が集まり、生態系が作られた。

「大げさだけど、その通りだね!」
「今じゃ、ベランダに出るのが日課」

植物を差し置いて、生き物たちに目が行ってしまう。
何か新しい“住人”はいないかと・・・。

「なんだか楽しそうね」
「そりゃ、もちろん!」

近くて遠かったベランダが、一気に近づいた。

「今度、お邪魔していい?」
「もちろん!生き物が平気ならね!」

聞くまでもなく、平気なのが友人だ。
むしろ、“好き”と顔に書いてある。

「女子では珍しい方かな?私たち?」
「だろうね、きっと!」

「おはよう!」

今日も小さな世界の住人たちに声を掛けてみる。
ザワザワ・・・と、アチコチから音がした。
S1005
(No.1005完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1005-1]小さな世界

No.1005-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
ベランダで植物を育て始めた。
特に大きな理由はない。

「強いて言うなら、殺風景だったからかな?」

洗濯物を干す以外、用がない場所だ。
近くて遠い、それがベランダだ。

「名言ぽく言わないでよね」
「あはは!かもね」

今では、ベランダが植物で彩られている。
その変わりようは自分でも驚くほどだ。

「それで、色々と気付くことがあって」

もちろん、植物に詳しくなった。
そして、もうひとつ・・・。

「もうひとつ?」
「そう!ある時ね・・・」

ミツバチがせっせと花粉を集めている場面に遭遇した。

「まぁ・・・珍しくはないよね?」

気付けば、もっと小さい何かもゴソゴソしていた。

「えっ!?なにそれ?」
「何だろう、アリのような小バエのような・・・」

この際、種類は気にしない。
小バエは遠慮したいところだが・・・。

「で、もっと隅々に目を向けたらね」

プランターの陰で、一匹のクモが網を張っていた。
そこには餌食となったであろう虫の死骸もあった。

(No.1005-2へ続く)

| | | コメント (0)

ホタル通信 No.443

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.584 白いスカーフ
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:男性

読者に答えを求めるタイプの小説は少なくありません。今回の小説もそのタイプです。

ただ、答えを求めるとは言うものの、一応、作者としても答えは用意しています。そうしないとさすがに何でもアリのオチになってしまうからです。
ただ、小説から読み取れるものもあれば、全く読み取れない場合もあります。この小説は間違いなく後者です。
ですから、後日談と言いますか、舞台裏をキチンと説明する必要ありますね。

舞台裏と言ってもさほど複雑でもなく、十分、予想できる内容です。
スカーフをしていたのは人ではなくネコで、もちろん、野良猫ではありません。ただ、飼い猫にしてはちょっと・・・の雰囲気はありましたし、安っぽく言えば“スカーフのような布”でした。
ですから、スカーフに関しては少し誇張していると言えます。前半人っぽい雰囲気で話を進める上での演出です。

前置きが長くなりましたが、そんなネコに出会い、いつものようにナデナデしてたら、毛のひとつやふたつ、付着するでしょう。それを彼女に見破らていた・・・というのがオチです。
それに、スカーフをしていたのが人ではなく、ネコであると途中で気付かれている設定です、ただ、これに関しても何の伏線も用意していません・・・すみません。

私の小説にはよくネコが出てきます。
色んな意味で、まるで自分を見ているようで・・・今でも通勤途中に彼らと戯れています。
T443
web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1004-2]今ならわかる

No.1004-2

「・・・知らせてたの?」
「ううん、私の口からは知らせてはいない」

反抗期も手伝ってか、詳細は何も伝えなかった。
ただ、プリントは置いておいた記憶はある。

「まぁ、心のどこかでは」
「一応、知らせておこうと言う気持ちはあったかも」

でも、迎えに来て欲しいという意味は微塵も込められていない。
むしろ、来られたら迷惑だった。

「反抗期だけに?」
「そうね、恥ずかしながら・・・」

今思えば、反抗期とは自分に対する言い訳に過ぎない。
イライラの矛先を身近に求めた結果だ。

「だから、まさか来てるなんて思わなくて」
「だうろうね」

他にも何人か、母親が来ていた。
だから、幸いにもそんなに目立ちはしなかった。

「それで、友達と一緒だったんだけど」

ごく自然に別れて、母親のもとに向かった。
特に申し合わせたわけでもないのに。

「それがさぁ・・・なんて言うか・・・」

母親を見た時、涙が溢れ出て止まらなかった。
ただ、その涙が何に対してなのか当時は理解できずにいた。

「今なら?」
「それが良くわかるよ」

あの時とはシチュエーションは違えども・・・。
こうして、子供を待つ身になれば、自然と。
S1004
(No.1004完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1004-1]今ならわかる

No.1004-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「先週、初盆したんだっけ?」
「うん、そうだよ」

その言葉通り、亡くなった母の初盆だった。
亡くなってから、7ヶ月ほど過ぎた。

「ようやく、一段落って感じかな」

もしかしたら区切りは1周忌かもしれない。
でも、私にとってはここで一区切りにしたい。

「くよくよしてられないからね!」
「おー!その調子!」

友人の方がそれを先に経験している。
だから、何気ない言葉に勇気付けられる。

「それでね、昔のことを思い出してたら・・・」
「あることを思い出しちゃって」

とくに大きなエピソードではない。
逆に、とても“静かな”エピソードと言える。

「静かな?」
「うん・・・その表現が似合うのよね」

中学3年の時、修学旅行に行った。
一泊二日の旅だった。

「記憶があいまいなんだけど・・・」
「帰りは電車だったんだよね」

行きはどうだったか記憶にない。
普通はバスのような気がしないでもないが。

「それで?」
「帰りに駅の改札を抜けたら」

母親が迎えに来ていた。

(No.1004-2へ続く)

| | | コメント (0)

[No.1003-2]まるで肩を寄せ合うように

No.1003-2

「こうするとな、余計な水分が落ちんねん!」

確かに、水っぽいものだけがボウルに落ちている。
逆に粘度のある部分は残っている。

「たったこれだけでも違うもんやで」

何がどう変わるかは別にして、そう思えなくもない。
味が濃くなるというか、密度が増すというか・・・。

「で、後は焼くだけ!」
「お早く頼むよ!おなかペコペコだよ・・・」

目玉焼きひとつに、仰々しく時間を使っている。
まぁ、それが彼女の良い所でもある。

「ほな、行くで!」

ザルから、フライパンに卵を移し変える。
食欲をそそる音が早くも聞こえてきた。

「水分が抜けたせいで形もいいよな」
「せやねん!」

白身がベチャッとならず、ふっくらしている。
見た目がホテルで食べる、あの目玉焼きのようだ。

「まぁ・・・実際、食べたことはないけどな」

あくまでも、見たことがあるレベルだ。

「これだけでもうまそうに見えるな」
「せやろ!・・・それに見てん!」

そう言うと、フライパンを指差した。

「うちらと同じやん!」

そこには、まるで肩を寄せ合うように黄身が並んでいた。
S1003
(No.1003完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1003-1]まるで肩を寄せ合うように

No.1003-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「美味しい目玉焼きの作り方知ってる?」
「卵次第じゃないの?」

卵焼きならいざ知らず、目玉焼きにそんな違いは・・・。

「ひと手間かけると全然違うねん!」

隠し味・・・何か調味料でも混ぜるのだろうか?
でも、見る限り、それらは用意されていない。

「違う!違う!」
「これひとつでいいねん!」

そう言うと、ザルを手に持った。
野菜などの水を切る、何の変哲もないあのザルだ。

「えっ!?それだけで?」
「せや!ボウルもいるな」

今度はボウルを取り出した。
そして、ボウルの上にザルを乗せた。

「もしかして、ザルの上で卵を割るの?」
「当たりぃ~!」

割ればザルに落ちる。
ただ、それだけのように思えるが・・・。

「見ててん!」
「あぁ・・・」

当たり前だが、卵の中身がザルに落ちる。
すると、どうだろう・・・。

「あーなるほど!」
「せやろー!」

白身の一部がポタポタとボウルに落ち始めた。

(No.1003-2へ続く)

| | | コメント (0)

ホタル通信 No.442

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.598 風化
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性

う~ん・・・何だか背景が分かり難い小説ですね。作者ですら少し考え込んでしまいました。

ラスト付近に「言わば、2年という時が・・・」のセリフがあります。これからすれば、2年前に何らかの出来事が起こっており、それが風化して今に至る・・・ということになります。では風化したそれは何か・・・覚えているようで覚えていません。
実はこの小説、小説上の私や作者の経験談ではなく、他人の経験を描いたものです。そのため、風化したものがなんなのか、今一つはっきりしません。

そこで、小説の投稿日などを参考に記憶を辿って行くとようやくある事実を思い出した。これを踏まえて、この小説のあらすじを書くとすればこうなります。
小説上の私は、大阪で働いている時に母を無くした。それもあってか、故郷の札幌に戻り、新しい生活を始めた。それから2年の月日が流れ、大阪時代に一緒に働いていた男性と再会する・・・という感じでしょうか。
ちなみにその男性は今でも大阪で働いていますが、私と札幌でも一緒に働いていたこともあり、再会という大袈裟な感じではなく、彼が帰省した際にちょっと会ってみた・・・そんな軽い感じです。

振り返れば、こんなしっかりした話があったのに、覚えていないとは・・・我ながら情けないです。
今一度、当時を思い出して、しっかりと読み返して行きますね。
T442
web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1002-2]スピログラフ

No.1002-2

「この円がね、別の円の中に・・・」
「あぁー!うまく説明できない!」

僕も何となくだが、思い出してきた。
ただ、彼女と同じように、手がかりがない。

「それ、あれだろ?」
「ほら、不規則に回転してさぁ」

彼女の顔が急に明るくなった。

「そう!それそれ!」
「確か、輪がギザギザになってたよな?」

整理するとこうだ。
大き目の輪の内側がギザギザになっている。
その内側に小さな円を回転させる。

「つまり、歯車みたいだったよね」
「そう!小さな円には穴がいくつも開いてあってさ」

そこに色とりどりのボールペンを刺す。
その状態で、小さな円を回転させると・・・。

「不規則な円の集合体・・・」
「万華鏡のような不思議な模様が描けたよね」

正しいかどうかは別にして、二人とも雰囲気は思い出している。
でも、肝心の名前が分からない。

「どうやって調べる?」
「そうね・・・そのまま調べようか?」

“回転させて模様を書く玩具”でググってみることにした。

「ん!?」

何やら、それらしいものがヒットした。

「・・・ローリングルーラー?」
「・・・スピログラフ?」

予想だにしない名前に、しばらく呆然とした。
1002 
(No.1002完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1002-1]スピログラフ

No.1002-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「う~ん・・・思い出せない!」
「何がだよ?」

さっきからひとりで何かを思い出そうとしている。
今の時代、そんな時は・・・アレに頼れば良い。

「ググれば?」
「ググろうにも手がかりが・・・」

とにかく話を聞いてみることにした。

「なんだよそれ?」
「小さい頃ね・・・」

子供の頃に遊んだ、おもちゃだと言う。
おもちゃとは言っても、文房具に近いらしい。

「文房具?」
「何て言えばいいのかな・・・」

彼女があたりをキョロキョロし始めた。
どうやら例えるものを探しているみたいだった。

「ちょっと、待って・・・」

そう言うと新聞紙をはさみで切り始めた。
出来上がったのは丸い円だった。

「この円のどこかに、小さな穴を開けて・・・」
「そこに、鉛筆の先っぽを刺す」

次に、円の真ん中を指で押さえる。

「でね、このまま、円を回転させると・・・」

早い話、コンパスと同じ原理だ。
綺麗ではないが、円が描かれる。

「これを踏まえてぇ!!」
「おいおい、ヒートアップしてるぞ」

伝わらないもどかしさが言葉に溢れ出ている。

(No.1002-2へ続く)

| | | コメント (0)

[No.1001-2]トンボの恩返し

No.1001-2

「でね、意外と大きかったのよね!これが」

秋によく見かけるアレよりも大きく感じた。

「そいつがさぁ、大きな目だまをクリクリさせちゃって」

私を見つめるかのように手の平にしがみついていた。

「あぁ・・・無理無理!」
「話だけでも、鳥肌もの!」

しばらくそのままで居ると、無事に大空に飛び立っていった。
もちろん、振り向きなどしない。

「気持ち悪いけどいい話ね!」
「あはは!」

別にちょっとしたヒーローを気取りたかったのではない。
私にとっては、ごく自然な行為だった。

「いつか恩返ししてくれるんじゃない?」
「トンボが?まさか!?」

動物なら多少期待も出来るが、さすがに昆虫は無理だ。
おとぎ話じゃあるまいし・・・。

「世の中、何が起こるか分からないわよ~」
「・・・というのは冗談で、ほんと暑いわね、今日も」

今日も昨日と同じ、雲ひとつない快晴だ。
それに暑さも厳しい。

「ほんと、嫌になっちゃうね!」
「全然、日陰もないし・・・」

私がそう言いながら、空を見上げた時だった。

「あれ、トンボじゃない?」

数匹のトンボが群れをなして、私の頭上を飛んでいる
まるで、日陰を作るかのように。
S1001
(No.1001完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0)

[No.1001-1]トンボの恩返し

No.1001-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ん?」

どこかで、カサカサと乾いた音が聞こえる。
聞き覚えのある音だ。

「もしかして・・・」

あたりをキョロキョロ見渡す。
数名の乗客も、私と同じようにキョロキョロしていた。

「毎度のことだけど尊敬しちゃうわ~」

昨日の電車内での出来事を話した。

「そうかしら?」
「私じゃなくてもトンボくらい触れるんじゃない?」

友人が“無理”という表情を無言で伝えてきた。
よほど、ダメらしい。

「まぁ、行為自体は褒めてあげたいけどね」
「同じ命には変わりないから」

昨日、車内にトンボが紛れ込んでいた。
逃げ出せず、もがいている音があの乾いた音の正体だった。

「私の他にも乗客がいたんだけど」

皆、トンボの存在には気付いたようだった。
でも、それ以上のアクションはなかった。

「まぁ、みんな女性だったし」
「それはあなたもでしょ!」

だから、私が何とかしようと考えた。

「都合よく、降車駅も近づいてきたので」

さりげなくトンボを捕まえて、そのまま下車した。

(No.1001-2へ続く)

| | | コメント (0)

« 2020年8月 | トップページ | 2020年10月 »