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2020年7月

[No.997-1]兄弟ってそんなもの

No.997-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「なにこれ?」
「見ての通り、お墓だよ」

彼女が小さい頃に書いた絵を見ている。
絵と言っても、画用紙に殴り書きしている程度の絵だ。

「・・・これガイコツだよね?」
「そうみたいだな」

多分、幼稚園の時に書いたものだろう。

「墓場にガイコツ・・・か」
「子供にとっては鉄板ネタだろ?」

ある意味、そこが墓場だということが分かる。

「でもさぁ、子供って残酷よね」
「これ、お姉ちゃんの名前でしょ?」

絵に描かれた墓石らしきものを指差す。
そこに書かれている名前は、紛れもなく姉の名前だった。

「そうだよ」
「兄弟って、そんなもんだよ」

特別、姉が嫌いだったわけじゃない。
単なる悪ふざけのひとつに過ぎない。

「まぁ、当時は」
「悪ふざけとも思ってなかっただろうけど」

口悪く言れば、それが日常だった。
繰り返しになるが、兄弟ってそんなものだ。

「ふ~ん・・・そんなもんなんだ」

ひとりっ子の彼女には理解し難いのかもしれない。
兄弟の関係は。

(No.997-2へ続く)

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ホタル通信 No.437

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.521 奥の細道
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

タイトルは、奥の細い道のことではなく、松尾芭蕉の紀行作品のアレです(笑)

タイトルだけでは内容が思い出せない作品は数多くありますが読み直せば、ほどなくして思い出せます。ただ、今回の作品は「なぜ奥の細道なの?」としばらく考え込みました。
もちろん、奥の細道そのものではなく、俳句のことであることは分かっていましたので、正しくは「何の俳句なの?」が正解です。
全く記憶から消えていたので、ググってみると・・・多分、これじゃないかと思われるものがありました。それは、次の俳句です。

『夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡』

この小説は「私と新参者との自転車置き場を巡る攻防戦」です。
誰もが一度は・・・とまでは言いませんが、自転車の置き場ではなくとも、自分の居場所を確保するための攻防戦を少なからず経験していると思います。
自転車置き場は、部屋番号が書かれているわけでもないのでどこに駐輪しようが問題はありません。
ただ、暗黙の了解と言いましょうか、だいたい同じ場所に置くのが普通でしょう。私もようやく安住の地を見つけて、さりげなく縄張りを主張するために、盗難防止のチェーンを置いていました。
ところが・・・ここからが小説の後半の展開です。
もちろん、前述した通り、どこに駐輪しても問題はありませんがそれを知ってか、知らずにかは分かりませんが、堂々と駐輪されてしまうと心中穏やかではいられません。

で、この結末も小説の通りです。
急に駐輪場に空きが目立ち始めたのを見て、フッと懐かしむような、それはそれで寂しいような・・・そんな心中を俳句に例えてみました。
T437
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[No.996-2]コーヒーカップ

No.996-2

「うん、飲めないと言うか、飲まない」
「やっぱりトラウマだから?」

飲めるかどうかは別にして、確かにトラウマはある。
コーヒーカップ自体に。

「そうだね」
「何があったの?落として割って怒鳴られたとか?」

なかなか良い展開だ。
勝手に話が進んで行く。

「まぁ・・・そんなところかな?」
「うそばっかり」

(ん?・・・気付かれている?)

「う、うそじゃないぞ!」
「コーヒーカップにトラウマがあるのは確かだよ!」

トラウマになるくらいだ・・・かなり強烈に覚えている。
あの出来事を・・・。

「泣いたでしょ?」
「えっ!?なんで知ってんだよ!?」

あの日の事実を知っているのはごく身近な人だけだ。
僕の家族と当事者である、いとこの女の子だけだ。

「ビックリした?」
「そりゃ、するでしょ!?」

自分自身でもう一度確認する。
誰にも話したことは・・・絶対にない。

「これよ」
「それ・・・僕のアルバム・・・」

もしかして・・・。

「ほら、この写真」
「あっ・・・」

写真の傍らに、ご丁寧に書いてある。
トラウマの原因となるものが。

「読んでみたら?」
「・・・コーヒーカップで急回転されて号泣・・・」
S996
(No.996完)
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[No.996-1]コーヒーカップ

No.996-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ねぇ、トラウマになってることある?」
「なんだよ、唐突に・・・」

まぁ・・・無いと言えば嘘になる。
と言うか、ひとつある。

「私はね!」

聞いてないのに自ら話始めた。
やんわりと僕を追い詰めているのだろうか?

「・・・で、あなたは?」
「君の話で十分だろ?」

でも、これでプールや海に行きたがらない理由が分かった。
それなら、トラウマにもなるだろう。

「なに言ってんのよ」
「私の話は前座なの!」

いつの間にかハードルが上がっている。
そもそも、そんな感じでスタートしていないはずなのに。

「まぁ、その・・・」
「早く言っちゃいなさいよ!楽になるわよ」

まるでカウンセラー気取りだ。

「・・・コーヒーカップ」
「コーヒーカップ?」

そう・・・僕のトラウマはそれだ。
ただ、悔しいからちょっとからかってやろう。

「そう言えば、コーヒー飲めなかったよね?」
「あぁ」

飲めない理由は他にある。
だけど、だますなら今はこの方が都合がよい。

(No.996-2へ続く)

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[No.995-2]バナナの先っぽ

No.995-2

「飲食店でバイトとかしてたの?」
「いいや」

それなのにこの出来栄えだ・・・。
よほどセンスの持ち主とみていいだろう。

「言っとくけど」
「他の料理は作れないからな」

もちろん、私へのけん制じゃないのは分かってる。
でも、どうしても言ってみたい言葉がある。

「やれば出来るんじゃない?」
「そう来ると思ったよ!」

本気で彼の手料理を食べてみたい気になった。
いや、いっそのこと料理人になってもらったほうが・・・。

「料理人?冗談だろ?」
「・・・でも、悪い気もしないな」
「でしょ!」

そうしたら、いつでもご馳走にありつける。

「こら!調子に乗るんじゃないぞ」
「ばれた?」

ただ、その素質は十分あると思う。
それに味だけじゃなく、彼のやさしさがうれしい。

「いつものバナナも置いとくぞ」
「ありがとう!」

あらためて、バナナを確認する。
いつもの通り、剥きやすいように先端に切れ目が入っている。

「なんだよ?ニヤニヤして」
「ううん、何でもないよ!」

バナナの先っぽをつかむ瞬間が好きだ。
S995
(No.995完)
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[No.995-1]バナナの先っぽ

No.995-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「いつも悪いわね」
「いいよ、休みの日くらい」

最近、週末は彼と過ごすようになった。

「料理が得意だって知らなかったよ」
「料理?そんな大袈裟なものじゃないよ」

ある時、彼が朝食を作ってくれた。
目玉焼きに、ウィンナー・・・そしてサラダ。

「味よ、味!」
「なんかひと工夫されてるって感じ」

単なる目玉焼きだって何かが違う。
ホテルで出てきそうな見た目と味だ。

「そう?」
「まぁ、ちょっとでも美味しく食べるための知恵さ」

そのひと手間がうれしい。
特に私のような根っからの大雑把な女には。

「あーお腹すいたな!」
「おいおい、寝坊しといてそれかよ?」

彼が笑いながらやさしく応えてくれる。
甘えている自分・・・以前の私ならこうはいかなかった。

「もうすぐ出来るからさ!」
「まてないぃー!」

思う存分、ワガママを言ってみる。
一番、幸せな時間だ。

「お待たせ!」
「わぁ、美味しそう!」

定番だけど、何度食べても飽きがこない。
まぁ、だからこそ定番なんだろうけど・・・。

(No.995-2へ続く)

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ホタル通信 No.436

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.561 痕跡
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

う~ん・・・何というか、良く言えば自己満足感が満載のまさしく冬のホタルの王道的作品です。

この小説、超短編の中でも更に短い小説ですね。こんな小説を書いていたとは・・・完全に忘れていました。
とは言え、実話度はそこそこ高めです。構成的には、前半が過去の事実、後半がその回想になっています。小説上の彼女は実在の人物です。
彼女との関係を一言で言えば、仲の良い友達のようなものでした。小説では健全な関係ではなかったと書いていますが、これはややオーバーに表現しています。ただ、彼女には彼氏が居たため、全く健全だったかと言われればそうではありません。

やましいことがなければ堂々と友達として付き合えば良いのでしょうが、彼女は彼氏のことを本気で好きだったわけではなく、止むを得ない事情により、“好き”を演じていたと言えなくもありません。
ですから、僕との関係が例え友達であったとしても波風が立たない保障はなかったわけです。こんなややこしい状況がこの小説というわけです。
彼女も僕たちの関係を知られないように、タイトルにもなっている痕跡を常に消していました。

時は流れ・・・今はどこにもその痕跡は残っていません。唯一、残っていた僕の心の中からも消え去っています。
ただ、時よりすれ違う人波の中に彼女のまぼろしを見ることがあります。それが何を意味しているのか・・・。
S436
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[No.994-2]幸せな時間

No.994-2

「じゃぁ、たこ焼きは?」
「覚えてるよ、ソフトクリームも売ってたろ?」

ここに来る楽しみでもあった。
たこ焼きをほおばり、ソフトクリームで締めくくる。

「ほんとそうだよね」
「・・・幸せな時間だったな」

そんな店も今は跡形もなく消え去っている。

「そうそう!俺はいつも箱詰め係りでさぁ」
「私もそう!」

適当なお客用のダンボール箱を見つけてくる。
そこに品物を詰める。

「思い出は尽きないね」

周辺もそれなりに変わった気がする。
でも、特徴的に曲がった道路はいまも健在だ。

「そうだ!この辺りに自販機があったの覚えてる?」
「もちろん!」

今の時代、自販機など珍しくもない。
それは当時だってさほど変わらない。

「最近はあまり見掛けない紙コップ式だったろ?」

実はもうひとつ、重要な事実がある。

「昔の店舗の・・・その前って知ってる?」

記憶に薄っすらと残っている。
失礼な言い方だが、倉庫のような薄暗い建物だった。

「・・・知ってる」
「俺たちそんな歳だったっけ?」

幼なじみが笑っている。
その姿は今も昔も変わらない。
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(No.994完)
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[No.994-1]幸せな時間

No.994-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「なんか随分と様変わりしたな」
「そりゃそうよ、もう・・・年も経ってるからね」

ここにはかつて、大型スーパーがあった。
全国的に有名なあのスーパーの前身の店舗だ。

「何か、見通しが良くなったというか・・・」
「そうね、2階がなくなったからね」

1階が主に食料品で、2階が日用品の売り場だった。
2階には本屋やレコード店もあった。

「よく覚えてるね?」
「そりゃそうさ」

特にレコード店なんてそう多くはなかった時代だ。
始めて買ったのもこの店だった。

「まぁ、カセットテープだったけどな」
「確か、階段を上がったところだったよね?」

それは間違いない。
ただ、ちょっと変わった構造だった記憶がある。

「そうなんだけど・・・」
「階段が交差してなかった?」

通常、階段はその場所にひとつしかない。
エスカレーターと違い、上りと下りを分ける必要がないからだ。

「そう言われてみれば・・・」

丁度、階段の真ん中で別の階段に居る人に手が届く。
中には乗り越えようとするやつもいた。

「ほら、俺たちも・・・」
「・・・というより、あなたでしょ!?」

何がどうしたというわけではない。
昔は、こんな程度でも十分、遊べたものだ。

(No.994-2へ続く)

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[No.993-2]前世はカミナリ様

No.993-2

「これで晴れてたら私・・・立ち直れない!」
「なんだ、意外とデリケートじゃん」

とは言え、その心中を察していないわけじゃない。

「もぉ!“意外と”は余計なの!」
「はいはい、怒らない」

そうこう話しているうちに、雨足はさらに激しさを増してきた。

「ちょっと、遠慮してよ!」
「私に文句!?」

私が雨女じゃないと弁明する方が難しくなってきた。
これで、建物の中に逃げ込んで雨が止んだとしたら・・・。

「仕方ない、もう一軒行く?」
「いいね~!」

まるで会話が飲み歩くオジサンそのものだ。
とにかく、適当な店を探そう。

「そうだ!私に任せて、いい店、知ってる」

ここからも遠くないし、ゆっくり過ごすのに丁度良い。

「さぁ、急ぐわよ!」

大急ぎで、その店を目指す。

「もしかして・・・あの店?」

店に飛び込んだ瞬間、雨音が消えた。
音がシャットアウトされたわけじゃない。

「・・・止んだね」

学会に発表する決意を決めた。

「・・・ん?なに泣いてるのよ?」
「だぁってぇ~このぉみぃせぇ~」

同僚が雨にも負けない勢いで泣き始めた。
どうやら、彼に別れを告げられた店らしい。
S993
(No.993完)
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[No.993-1]前世はカミナリ様

No.993-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・学会にでも発表する?」

友人が最高レベルの“嫌味”を言ってきた。
けど、そう言いたくなる気持ちも分かる。

「それもいいね」

私がカフェを出た途端、雨足が急に強くなった。
まぁ、いつものことだが・・・。

「ここまで来ると、逆に凄いよ」
「まさに神様級じゃない?」

褒められているのか、ディすられているのか・・・。

「そうね、前世はカミナリ様だったのかしら?」

自分が雨女だということは認識している。
それに、会社の人にもバレている。

「けど、みんな非科学的すぎるよ」
「私の力で雨なんか降らせられないのに」

とは言え、その言葉に力強さはない。
今まで何度、雨空に変えてきたことか・・・。

「分かってるわよ」
「でも、さぁ・・・」

私の顔をジロジロと覗き込む。

「な、なによ!?」
「まぁ、たまには役に立ってるんじゃない?」

だからこそ、同僚と午後の一息を過ごしていた。

「今はこれくらいの雨が丁度いいよ」
「・・・まぁ、それならいいんだけど」

どこにでもある話だ。
目の前の同僚が失恋した。

(No.993-2へ続く)

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ホタル通信 No.435

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.581 リメンバー
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

小説の冒頭に「こんなシチュエーションを体験したことがある」と書いてあります。これに関しても実話です。

それに小説として発表済みなんですが、さて、どの小説だったのか・・・遠い記憶を頼りに探してみました。
結果、その小説は「No.417 待ち合わせ」だと判明しました。自分で作っておきながら探すのに苦労しました。尚、No.417よりも先にNo.581のホタル通信を発表することになりました(笑)

さて、本題のこの小説も比較的、実話に基づいて作っています。
ある人と待ち合わせをしていた時、偶然にも経験したことがあるシチュエーションになりました。
ただそれだけのことなんです。でも、待ち合わせ場所に行くために、別々に移動していた二人が、同じ電車に乗り合わせる・・・。ありそうだけど、なかなかそんなシチュエーションは生まれません。
それにとても不思議と言うか奇妙と言うか、本来なら待ち合わせ場所で会う二人が、それ以前に電車で会ってしまう。こんな何気ないことにこそ、冬のホタルの触覚は伸びていきます。

タイトルだけでは思い出せなかったのですが、読み返して見るとすぐに思い出すことができました。
冬のホタルの中でも短い部類の自己満足の小説です。とは言えこれが本来の姿なんですよ。
T435
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[No.992-2]今年のゴーヤ

No.992-2

「で、どうやって食べるの?」
「そうね・・・今年お初だから」

定番中の定番で行こう。

「・・・と言うことは、アレね?」
「わざわざ、アレって言う必要ある?」

そもそも、レパートリーも少ない。
いや、正直、アレしか知らない。

「とにかく、作るわ!」
「出来たら呼んでね」

まぁ・・・招待した手前、我慢するとしよう。
まずは包丁をゴーヤに入れる。

「丁度いい感じ!」
「やっぱり、新鮮ね!」

収穫のタイミングもベストだったようだ。
失敗した経験がようやく生かされてきた。

「タイミングが遅れると黄色くなるのよ、知ってた?」

黄色いゴーヤは市場には出回らない。
育てている人にだけにわかる“あるある”だ。

「そうなの!?」
「そうなんだよ!」

台所とリビングのソフォーとの間で会話が飛び交う。
ゴーヤでこれだけ盛り上がれるのも珍しい。

「さぁ!気合入れて作るわよ!」
「あっ・・・イテテ!」

ゴーヤが少し赤く染まった。
S992
(No.992完)
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[No.992-1]今年のゴーヤ

No.992-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「どう?立派でしょ?」
「売り物みたいじゃない!?」

まるで我が子を褒められているようでうれしい。
まだ独身だけど。

「今年はなかなか芽が出なくて」

いつもなら10日もあれば芽が出ていた。
それなのに、今年は20日近く掛かった。

「気温の影響?」
「どうだろう・・・」

今年は暖かくなってから種まきをした。
それが逆効果だったのかもしれない。

「いつもフライング気味だったから」
「ちょっと遠慮したつもりだったのに」

それに、いつもなら蒔いただけ芽が出る。
でも今年は、数本しか芽が出なかった。

「もう気が気ではなくて・・・」
「まるで農家さんみたね」

そう・・・まさしく農家さんの気持ちだ。
家庭菜園を始めて、その気持ちに寄り添えるようになった。

「だからこそ収穫が嬉しくて!」

手の掛かる子供の方がかわいいとも聞く。

「でも、独身だもんね?」
「もう!それは言わないの!」

本格的に母性が目覚めてきたのかもしれない。

(No.992-2へ続く)

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[No.991-2]まずは目の前の・・・

No.991-2

「じゃぁ、踏みとどまった理由は?」

どちらかと言うと、こっちの話が聞きたい。
なぜ、“辞めなかったのか”を。

「当時の上司に相談したんだ」
「そしたら飲みに誘ってくれて」

なるほど・・・それで色々とアドバイスしてくれたんだろう。

「アドバイス?」
「それがさぁ・・・あはは」

彼が急に笑い出した。
何かを思い出したかのように。

「笑うところ?」
「ごめん、ごめん、思い出しちゃって」

よほど印象に残っていることがあったのだろう。

「アドバイスなんかひとつもなくて」
「楽しく飲んだ記憶しかないよ」

それならどうして踏みとどまることができたのだろうか?
ますます知りたくなる。

「それじゃ・・・なぜ?」
「何だろうね、俺もよく分からないよ」

雰囲気からすれば嘘や気遣いではなさそうだ。

「ただ、言えるのは・・・」
「俺自身もアドバイスを求めていたわけじゃないってこと!」

その言葉にドキッとした。

「だから、まずは目の前のビールを飲み干そうよ」
S991
(No.991完)
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[No.991-1]まずは目の前の・・・

No.991-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
誰もが通る道は言わない。
でも、少なくとも一度は考えたことはあるはずだ。

「俺か?」
「そうだな・・・」

入社5年目にして、会社を辞めたくなった。
理由はひとつじゃない。

「確か・・・3年目の時だったかな?」
「ご多忙にもれず」

3ヶ月、3年、30年・・・一般的によく言われる年数だ。
そのことを言ってるのであろう。

「理由は?」
「何だろう・・・よく覚えてないな」

あえて隠しているわけではなさそうだ。
私に気を遣って。

「ちょっと、一息つけたからかな?」
「ほら、3年も経つともう新人でもないし」

もちろん中堅とは言えない。
でも、都合よくそんな感じで扱われることも少なくない。

「色々見つめ直した時期だったのかもな」
「フッと、そんな気になることもある」

私の場合は・・・自分でもよく分からない。
別に会社が嫌いでもないし、嫌な事があったわけでもない。

「なんだろう・・・ただ漠然とと言うか・・・」
「そう言うものだよ、辞めたい時というのは」

そんな先輩の言葉が有難かった。
変なアドバイスを聞くより、私の心情を理解してくれている。

(No.991-2へ続く)

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ホタル通信 No.434

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.587 私の名は竜王
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

小学生の時にこのような演劇が開催されたのは事実です。不思議なことに今でもあの一言を覚えています。

ただ、小説の書いたセリフとは若干異なっており、実際は「私の名は竜王じゃ」しかセリフがありませんでした。ですから、小説では準主役級とは書いてありますが、どう考えても脇役です。
また、小説上の私(女子)がそれを演じていることになっていますが事実ではありません。実際は男子が演じていました。
作者は、その男子か小説上の友人、もしくは竜王の前でひれ伏した初恋の男子って感じでしょうか?

竜王を事実の通り、男子設定で進めても良かったのでしょうが「その人間は、私の初恋の相手だった」というオチを先に思いついたのでしょうね、多分・・・そうなると女子設定の方が、それが際立ちます。
そんな演劇でしたが、自分のパート以外は正直よく覚えていません。そもそも竜王の立ち位置も、今となっては曖昧です。

小説としてはスラスラと筆が進んだ記憶があります。まぁ、思い出を語る系の内容ですから、筆が進まないわけはありません。
もし、このホタル通信を読んで「もしかしてあの小学校?」とピンとくる人がいるかもしれません。その時はお知らせ下さい(笑)
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[No.990-2]カルピス

No.990-2

「小さいころさぁ・・・」

彼が昔話をし始めた。
なるほど・・・そのことが色濃く影響しているのだろう。

「アイスってあのアイス?」
「そうだよ、カルピスを凍らせて」

最近、コンビニで見掛けないこともない。
ただ、それとはちょっと物が違うようだが。

「夏になるといつも冷凍庫に入ってたなぁ・・・」

その口ぶりからすれば誰かが作っていたのだろう。
その誰かは容易に想像できる。

「凍るとそれほど白くもなくて」
「“みぞれ”と雰囲気は同じ」

もしかしたら、それを分かって作っていたのかもしれない。
牛乳嫌いの子供のために。

「だから、唯一カルピスだけは大丈夫!」
「面倒な人ね・・・全く」

どこか嬉しそうに飲む彼の姿が印象的だった。

「お母さんに感謝だね」
「まぁ・・・そうことかな」

そう言うと、グイっと一気に飲み干した。

「どちらにせよ、飲むたびに思い出すよ・・・色々と」
S990 
(No.990完)
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[No.990-1]カルピス

No.990-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「あれ・・・それ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」

彼がカルピスを飲み始めた。
確か、乳製品は総じてダメだと聞いていたのに。

「・・・牛乳だめだよね?」
「もちろん!」

とにかく牛乳や牛乳が関係するものはダメらしい。
チーズはその最たる例だ。

「だから、それらを使った加工品もダメ」
「特にピザとかグラタンとか」

それについては何度か聞かされたことがある。
味以前に匂いがダメらしい。

「ヨーグルトは食べたことがないけど」
「見た目が白いからな」

ここまでくるとわがままとも言えるレベルだ。

「じゃぁ、豆乳は?」
「見た目はアウト、味はギリセーフかな」

そんな中でのカルピスだ。
奇妙としか言いようがない。

「逆に何で飲めるわけ?」
「それについては自分の中の七不思議かもな」

残る六つも聞いてみたいところだった。

(No.990-2へ続く)

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