[No.941-2]匂いのせいで
No.941-2
「何の匂い?」
「多分、ワラを焼いてる匂い」
何となく香ばしい匂いと言うか・・・。
決して焦げ臭いくはない。
「“わら”って・・・稲の?」
「そうだよ」
記憶は定かではない。
でも、今頃になると、そんな匂いがあたりに漂っていた。
「実家が郊外にあって」
「田んぼも多かったから・・・」
稲刈り後は多量のワラが積み重ねられていた。
それを燃やしているところも幾度となく見てきた。
「その時の匂いと同じだったの」
実家を離れてからは、その匂いを嗅ぐこともなくなった。
「まぁ、こんなビル街じゃね・・・」
「だから、どこから匂いがしてるのかな・・・って」
もちろん、田んぼも畑も近くには見当たらない。
だから勘違いの可能性は大いにある。
「・・・しばらく帰ってないんでしょ?」
確かにここ数年、実家に帰っていない。
「それなら、思う存分、嗅いできたら?」
「・・・そうね」
実際、その匂いのせいで、故郷が恋しくなっていた。
(No.941完)
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