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2019年8月

[No.930-1]電車を見送る少女

No.930-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・“鉄ちゃん”だっけ?」
「ん?えっ・・・なに?」

友人の言葉に我に返った。

「どうしたの?電車なんか見つめちゃって」
「いや・・・その・・・それじゃなくって」

別に隠す必要がないけど積極的に言いたくもない。
“その先”をアレコレ聞かれるのが怖いからだ。

「もしかして、あの女の子?」

さすが友人・・・察しが早い。
確かに、電車に向かって手を振る女の子を見ていた。

「たまに見かけるね」
「そうね」

実際、私もそうだった。
電車というより、むしろ乗客や乗務員に向かって手を振った。

「そしたら、車掌さんが手を振り返してくれたり・・・ね」

今まさに、その光景が目の前で起こっている。

「こんな経験が大切なんだよね!」

そう・・・良くも悪くも、友人の言うとおりだ。

(No.930-2へ続く)

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[No.929-2]気が強い女

No.929-2

(連絡・・・忘れてた)

急ぐあまり、遅れることを連絡していなかった。
そんな時の“スマホ”のはずなのに。

「ごめん、焦ってて・・・」

この言葉に嘘はない。
本当に、頭から抜け落ちていた。

「全く・・・今度そうなったとしても・・・」
「冷静に対処すること!」

社会人一年生に怒られる、五年目の僕が居た。

「りょーかい!」
「返事だけは、威勢がいいんだから・・・」

もし、彼女と結婚でもしたら完全に尻にひかれるだろう。
彼女の気の強さは、すでに社内でも有名だ。

「予約、19時だったよね?」
「そうだよ」

幸いにも、予約の時間には何とか間に合いそうだ。

「さぁ、走るわよ!」

そう言うと、さっそうと走り出した。

「プッ!何だよ・・・その走り!」

気の強さとは裏腹な、何とも乙女チックな走り方だった。
S929
(No.929完)
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[No.929-1]気が強い女

No.929-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「もぉ!遅いぃ!」

到着するなり、開口一番に怒られた。
まぁ、30分も遅刻すれば必然的にそうなるだろう。

「ほ・ん・と・・・ごめん!」

途中、スマホを忘れたことに気付いた。
大急ぎで取りに戻ったものの、結果はこうだった。

「スマホくらいいいじゃん!」
「そうはいかないよ」

別にゲームをしたいとかSNSを見たいとかではない。
これがないと待ち合わせもままならないからだ。

「待ち合わせ場所を決めてなかっただろ?」

ある意味、悪い風潮かもしれない。
時間と最寄り駅を決めたら、後はその日次第だ。

「まぁ・・・そう言われたらそうだけど」
「だろ?」

決まっていたら、取りには戻らなかった。
僕にとって、スマホは必需品じゃない。

「なんか、話をズラしてない?」
「そ、そうかな・・・」

どうやらこのまま押し切るのは無理っぽい。
仕方ない・・・もう、一度、素直に謝っておこう。

「とにかく、ごめん!」
「今度から、連絡くらいしてよね!」

彼女の言葉にハッとした。

(No.929-2へ続く)

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ホタル通信 No.404

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.476 気付かない
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

タイトルだけ見ると、どんな小説であったか全く思い出せませんでした。でも、読み返して見ると・・・。

読み返して最初に思ったのは「あれ・・・他にも似たような小説を書いてるよね?」でした。あらためて言うことではありませんが、“あるべき建物が無くなる話”はもはや定番と言っても良いくらい冬のホタルではお馴染みの話です。
そして、いつも“気付けなかった自分”に対する罪の意識にも似た感情がわいてきます。

つくづく思うのは、いつも目にしている光景なのに、いざそこにあった何かが無くなっても、全くと言っていいほど思い出せません。
単に目にしているだけでは、記憶として残らないのだと、つくづくそう思います。
今回の話は多少の思い入れがあったため、そこにどのような店があったのかを思い出すことはできています。でも、無くなったことはすぐには気付けませんでした。

こんな話を大真面目に書いていると、少し引かれそうですが、「こうやって人の記憶からどんどん消えて行くんだ」と思うと少し寂しい気持ちになります。
そんなこんなで、ややしんみりムードの展開だったので、ラストはコミカルに仕上げてみました。
T404
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[No.928-2]なぜか落ち着く店

No.928-2

「それならそれでいいじゃん!」

もし、今まで何かしらの未練があって・・・。
何かに姿を変えて、私たちの前に現れていたとしたら・・・。

「けど、私たちの会話って・・・」
「“アレ”が“居る”のが前提?」

私の一言に、友人が大笑いした。

「そ、そうみたい!」

恐怖心はない。
むしろ、温かいものを感じる。

「そりゃそうでしょ?」
「私たち、極度の怖がりでしょ?」

“彼女”はそれを知ってる。
だから、仮の姿で出てきてくれると思っている。

「本当に本人が登場すれば、腰が抜けちゃうよ」
「だね」

良い意味で、信じていないから言える話だ。

「でも・・・何もないのも寂しいね」
「・・・そうね」

ほんの少しだけ、しんみりした時間が流れた。

「話は変わるけど・・・いい店ね」
「ほんと!すごく落ち着くというか」
S928
(No.928完)
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[No.928-1]なぜか落ち着く店

No.928-1   [No.863-1]今年の夏は  

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「今年は何もなかったわね・・・」
「ようやく成仏したのかな?」

その一言は、友人なりの“ユーモア”だった。

「そうかもしれないね」

ここ数年、墓参りに行けば必ず“何か”が起こっていた。
今年は何もなく、たまたま立ち寄ったカフェに座っている。

「似てる店員さんがいるとか?」
「それは行き過ぎでしょ・・・」

テレビのドッキリ企画なら有り得る話だろう。

「それなら・・・」

どうしても、“彼女”に出てきてほしいらしい。
確かに、その気持ちはゼロではない。

「いっそのこと、ご本人登場!なんてどう?」
「・・・あのね」

でも、もし・・・そうなったらどう対処すれば良いのだろう。
友人の言葉を否定しつつも、考えずにはいられない。

「でも・・・本当に成仏したのかもしれないね」

色々、やりたいことがあったはずだ。
それを思うと、やりきれなくなる。

(No.928-2へ続く)

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[No.927-2]しれっと・・・

No.927-2

「なになに!?」
「今朝ね・・・」

今朝の出来事を話した。

「ネコ?」
「うん、時々見かける野良ネコなんだけど」

そいつが寝そべっていた。
日陰で気持ちよさそうに。

「それで、すぐそばにね・・・」

こちらも時々見かけるおじいちゃんがベンチに座っていた。
傍らに犬を従えて。

「・・・笑える?」
「まぁ、話を最後まで聞いて」

その犬も気持ちよさそうに寝そべっていた。
無理も無い・・・朝から強烈な暑さだったからだ。

「なんだか、ネコもおじいちゃんに飼われてるようで」

野良のはずなのに、まるで飼いネコのような距離間だった。

「しれっと、寝そべってる姿に・・・」

突っ込みを入れずにはいられなかった。
S927
(No.927完)
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[No.927-1]しれっと・・・

No.927-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(えっ・・・あんたは違うでしょ!?)

通り過ぎざまに心の中で叫んでしまった。

「連休中、何か良いことでもあった?」

同僚が私の顔を見るなり、声を掛けてきた。

「・・・なんで?」
「だって、珍しく笑顔じゃん」

返答に困る。

「なら、いつもはどんな顔してんのよ?」

彼女が変顔をして見せた。
美人ではないにせよ、そこまで酷くもない。

「あのね・・・まじめに聞いてるの!」
「もぉ、朝から怒らないのぉ」

その原因を作った人に言われたくない。
でも、心当たりがないわけではない。

「とにかく、何かあった?」

多分、今朝のあの出来事が私を笑顔にしてくれたのだろう。
思い出すたびに吹き出しそうになる。

(No.927-2へ続く)

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ホタル通信 No.403

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.495 鍵以外
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

ありがちなパターンの小説です。何でもかんでも恋愛に結びつけてしまう初期の作風です。

・・・とは言うものの、読み返して見ると、そこそこ良い感じのオチが付いています。正確には覚えていませんが、オチは後から思い付いたパターンでしょう。あくまでも「鍵が固い」という事実から話を展開させています。

従って、実話度は低めです。
実話度はゼロでも支障がないレベルですが、鍵と悪戦苦闘していたのは事実であり、“シュー”と潤滑油を吹きかけたのも事実です。
こんな“日常の中の日常”過ぎるネタを選んだのも何らかの可能性を感じていたからだと思います。
固い・・・ギクシャク・・・人間関係・・・彼との関係と連想するのはそう難しいことではありません。
ラッキーなことに“調子が悪くても騙しだまし使う”のフレーズが彼との関係にも使えたことでした。一言で言えば、惰性ということになるのかもしれませんが、その言葉よりもリアリティを感じます。

オチは分かりますか?
特にひねっていないので読んで頂いた通りです。“油”が何であったかは別にしても、それを差しすぎたせいで「ベトベト=ラブラブ」になってしまったわけです。小説ではあえて言及せずに、鍵なのか彼なのか、はぐらかして終わらせています。
T403
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[No.926-2]黄色のラケット

No.926-2

「でも、急にどうした?」
「・・・卓球、始めるの?」

昔と違って、雰囲気も変わった。
俺たちの時代は、少なからず卓球に偏見があった。
やや根暗なスポーツだと・・・。

「まさか!」
「うち、スポーツはまるでアカン」

ある意味、意外だった。
見た目は少なくとも文学少女ではないからだ。

「そうは見えないけどな・・・」
「それならどうして?」

今日、急に呼び出された。
それなりの理由がなにかあるはずだ。

(・・・まてよ)

こんな時は、かならず“あいつ”が出てくる。

「実はなぁ・・・」
「せいじゅうろうが・・・」

そう言うと、あいつを目の前に出してきた。

「随分と汚れたな~!」

そこそこ痛みも進んでいる。

「卓球、始めるんやて」
「せいじゅうろうが?」

もはや、“誰が”と本気でボケたりはしない。

「はぁ・・・いつものせいじゅうろうだよね?」

目の前にはいつものあいつか居る。

「よう見てん!黄色いラケット持ってるやん!」
「どこにだよ!?それは、まくら・・・」

片方がほつれて、ラケットを持っているようだった。
S926
(No.926完)
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[No.926-1]黄色のラケット

No.926-1      [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「俺か?まぁ・・・短かったけど」

菜緒(なお)から、質問を受けた。

「よく覚えてたな?俺が卓球部だった話」

かなり前に、ほんの少しだけ触れたことがあった。
短期間だけ、卓球部に所属していた話を。

「二週間やった?」
「ほんと、よく覚えてるな・・・」

これだけ覚えられていると、恥ずかしさも増してくる。
長続きしない奴とか根性無しな奴と思われるからだ。

「別にええやん」
「せやかて、なんで辞めたん?」

“ええやん”と言いながらも、しっかりと理由を聞いてくる。
正直、あまり答えたくはないが・・・。

「よくある、練習がキツイというパターンだよ」

それに、一度も玉を打たせてもらえなかった。
初心者は体力作りから・・・という理由で。

「そりゃ、そうなんだろうけど」
「・・・納得がいかなくて」

そうそうに退部というか・・・練習に行くのをやめた。

(No.926-2へ続く)

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[No.925-2]ロンサム・シーズンⅡ

No.925-2

俗に言う自然消滅だったと思う。
少しずつ距離が遠のいていった。

「そうなのかな?」
「何だよ・・・違うのか?」

別にケンカをしたわけでもない。
それに少なくとも僕は彼女のことを嫌いになっていない。

「私だってあなたのことを嫌いになったわけじゃない」

気付けば、1ヵ月が過ぎ、さらに半年が過ぎていった。
その内、これに慣れてしまった自分が居た。

「言い方がよくないけど・・・」
「何だか、肩の荷が下りたというか・・・」

言いようのない不思議な安堵感がそこにあった。

「そう・・・」
「・・・ごめん」

とは言え、結局別れた理由にはなっていない。

「言っとくけど、別によりを戻そうというわけじゃないのよ」
「・・・分かってるさ」

もちろん共通の友達もそれをも見越した計らいだ。

「でもね・・・」

そう言ったまま、しばらく考え込んでしまった。

「・・・何だよ、はっきり言っていいぞ」
「曲が始まってから53秒後が私の言いたかったこと!」

何の曲だよ?

(No.925完)
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[No.925-1]ロンサム・シーズンⅡ

No.925-1      [No.428-1]ロンサム・シーズン

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・ひ、久しぶり・・・」
「こちらこそ!」

こういう場面になると、女性の方が堂々としている。

「何年振りかしら?」
「あまり、変わってないね!」

たじろぐ僕を尻目に、話をどんどん先に進めてくる。

「そ、そうかな・・・」
「そうよ!」

学生時代に付き合っていた彼女と会うことになった。
ただ、二人きりではない。

「会ってくれないと思ってたよ」
「それはこっちのセリフだよ」

共通の友達を通じて、この場が設けられた。
あまり乗り気じゃなかったのが、正直な気持ちだ。

「私たち、どうして別れたんだっけ?」
「・・・それは・・・」

ある意味、返答に困る。
口にしたくない理由があるからではない。

「僕の・・・せい?」

恐る恐る聞いてみた。
お互い明確な“別れ”を口にしたことはなかったはずだ。

「・・・どうだろう?」

彼女も考え始めてしまった。

(No.925-2へ続く)

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ホタル通信 No.402

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.473 私でした
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

実話度が高い分、何ともいえない“ゆるさ”で仕上がっています。でも、お気に入りの小説のひとつです。

大阪以外でも、“551”をご存知の方は多いでしょう。大阪土産として持ち帰る人も結構いらっしゃいます。
冒頭、「お気に入りのひとつ」とは書きましたが、全体的に好きというわけではありません。好きなのは、ラストの一行だけです。このフレーズがあるから、この小説が成立していると言っても過言ではありません。

そのラストの一行は実話です。つまり、実際にメールのやりとりが行われた結果、最後に送られてきたものがその一行です。
それが何とも面白くて、車内で思わず吹き出しそうになったのを覚えています。
小説だと、メールの他にアレコレ差し込まれているので、テンポは感じ難いですが、実際はテンポよく話が進んだために、ラストの一行が際立ちました。「私でした」という何の変哲もない一行ですが、相手の表情や感情まで、その時感じました。

最近、小説の“質”が落ちていることを自覚しており、かなり長いスランプに陥っています。
ただ、創作能力が落ちたのではなく、小説のネタを感じ取る感性が落ち、魅力的な実話に出会っていないため・・・と言ったほうがいいでしょうね。しばらく“我慢”が必要な今日この頃です。
T402_20190803232101
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[No.924-2]さっきのグー

No.924-2

「今回はね・・・すごいよ!」
「・・・な、なにが・・・」

今回はいつものパターンとは違う。

「セミのように息も絶え絶えじゃなくて・・・」
「元気そのもの!」

誤って、建物の中に迷い込んできたらしい。
でも、いつも不思議に思うことがある。

「不思議?」
「うん、私、7階に住んでるから・・・」

飛ぶことができる彼らには、7階もわけないとは思う。
けど、ここまで飛んでくる必要もないだろう。

「壁を登ってきたとも思えないし」
「・・・それより、話の続きは?」

随分と脱線してしまった。

「ごめん、ごめん!」

バッタは元気そのものだった。
でも、ここに居たらそう長くは生きられない。

「手をグーにして、その中に入ってもらったの」

その名残が、さっきのグーだ。

「元気だから、くすぐったくて」
「・・・私には無理!」

そのまま一階に降りて、適当な草むらで手放した。
力強いキックで草むらに消えたバッタの感触が手に残っている。
S924
(No.924完)
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