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2019年7月

[No.924-1]さっきのグー

No.924-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・あれ?)

今年は・・・いつもの年と違うかもしれない。

「やっと、出会いがあったわよ」

出勤するなり、仲の良い同僚に報告した。

「そう・・・やっぱり、セミ?」
「なんで、そうなるのよ!?」

とは言え、悲しいかな“モノ”は違うが方向性は当たっている。
私の顔にそう書いてあるのだろうか?

「ほら、その手?」
「・・・手がどうした・・・」

言い掛けて気付いた。
無意識のうちに、手が“グー”の形を作っている。

「また、“その中に”居たんでしょ?」
「・・・で、セミなわけ?」
「ううん・・・今回は違うの」

なぜかしら、エレベーターを待っていると彼らと出会う。

「今回はセミじゃなくて、バッタだったの」
「ちょっと、小さめの・・・」

薄いグレーのような茶色のような・・・そんなやつだ。
メジャーな緑のやつじゃない。

「バッタ!?」
「・・・ほんと、躊躇なくさわれるよね?」

それに関しては否定しない。
でも、だからと言って虫が好きなわけじゃない。

(No.924-2へ続く)

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[No.923-2]虹の彼方へ

No.923-2

「えーなんでぇ・・・」

もともと消えかかっていたとは言え、薄情すぎる。
自然現象に文句を言っても仕方ないけど・・・。

「ごめん・・・消えちゃった」
「別に謝ることでもないだろう?」

せっかくなので、彼と一緒に虹を見たかった。

「もう少し早く気付いてたら・・・」

スマホかざした時点でそうそうに気付くべきだった。

「相変わらず、真面目と言うか・・・」
「自然現象だろ?」
「・・・うん」

ただ、逃した魚は大きい。
例え話が適切ではないが、そんな気分だ。

「君は見たんだろ?」
「えっ・・・うん」

うっすらだった分、目には焼き付かなかった。
でも、心にはしっかりと焼き付いた。

「なら、それでいいよ」
「聞かせてくれよ、どんなだったか」

虹にどんなもへったくれもない。
けど、話したいことは山ほどあった。
S923
(No.923完)
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[No.923-1]虹の彼方へ

No.923-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
(・・・ん?)

向こうから来た人が、スマホを空にかざし始めた。

「・・・なに挙動不審な行動をしてるんだよ?」
「えっ!?わたし?」

何かあると思い、キョロキョロしたのが失敗だった。

「ほら、あの人・・・」

空になにかあるらしい。
あらためて、その方向に視線を向けた。

「・・・あっ!」

うっすらだが、虹が大きな弧を描いていた。
かなり久しぶりに見た気がする。

「ほら、見て見て!」
「いてて・・・何だよ、急に!?」

つい、彼の肩を強く、叩いてしまった。
興奮覚めやらぬうちに、彼にも見て欲しい。

「虹よ!に・・・じ・・・」

叫んでいる最中にも、さらに虹が薄くなっている。
消えるのも時間の問題といったところだ。

「虹?どこだよ」

彼が振り向いた時には、完全に消えてなくなっていた。

(No.923-2へ続く)

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ホタル通信 No.401

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.479 次の返事は
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

実話度は高めです。ただ、時系列が分かり難く、メールやら手紙やらで、何とも収拾がつかなくなっています。

整理すればこうです。
まず、「夏季休暇には北海道に戻ってくるのですか?」のメールが入り、返信はしたものの、これで会話は途絶えました。
その後、その返信とも言えるような出来事が冒頭のお菓子です。そこに手紙が添えられており、過ぎ去った「夏季休暇」のことが書かれていたわけです。

当時はLINEがなかったのでもっぱらメールでした。リアルタイムでの会話を望んでいたわけではないものの、せめて次の日くらいには返事が欲しかったのが本音です。
場合によっては数ヶ月先に返事が来ることがあり、嬉しいやら悲しいやら・・・複雑な気持ちになったものです。
これが恋愛のテクニックのひとつなら、彼女はかなりの上級者と言わざるを得ません。

彼女は実在の人で、いまでも付き合いがあります。
・・・とは言うものの、その彼女が作者である“私”の可能性もあるわけですから、「冬のホタル」はどうしてこんなに面倒な小説なんでしょうね。
T401
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[No.922-2]それと同じ

No.922-2

「事情を知ってるからじゃないの?」
「色々説明しなくても・・・」

確かにそれは言える。
父親に届けていることも、写真から想像できたくらいだ。

「想像?」
「ある日、バス停の時刻表の写真が送られてきて」

“日に数本しかない”とのメッセージが添えられていた。
最初は、その意味が分からずにいた。

「プチ旅行かな・・・と思ってた」

その内、バス停と料理の写真が同時に送られてくるようになった。

「・・・それで気付いたんだ」

彼女の実家の住所も何となく知っていたからだ。
最初の内は、料理自慢か、ノロケ話を想像していた。

「気付いて欲しかったのかもね?」

最近では週末に大量のLNEが届くのが恒例になった。

「でもさぁ、何で僕なんだろうね?」
「好意を持たれているとは思えないけど」

それが嬉しい勘違いであってほしい気持ちもある。

「まぁ、女子ってそんな所があるかもね」
「なんだよ、“そんな所”って」

全く・・・相談した意味がない。

「じゃぁ、聞くけど・・・」
「どうして、私に相談したの?」
S922
(No.922完)
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[No.922-1]それと同じ

No.922-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「君ならどう思う?」

こんな話題は同姓に相談するのに限る。

「そうねぇ・・・」

とある女子社員から時々、LINEが入る。
特別親しい関係ではない。

「僕が人畜無害だから?」
「・・・そうねぇ」

二年間ほど、同じ職場で働いたことがあった。
同郷と言うこともあり、自然と会話するようになった。

「一度に大量の写真が来るときもあるんだよな」

特に多いのが料理の写真だ。

「別々に暮らす、父親へのお届けものだって」

母親が数年前に急死した。
そのため、週末だけ作って届けているらしい。

「いいことじゃない!」

だから、皿ではなく、小さなタッパに盛られている。
そこに“色気”は全く感じられない。

「だけどさ、それを僕に送るのは正解なの?」

もちろん、女友達に送るのもどうかと思う。
ある意味、返信し難いだろうし。

「そうねぇ・・・」

さすがに同姓でも考え込んでいる。
さっきから同じ返事を繰り返している。

(No.922-2へ続く)

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[No.921-2]セミと私

No.921-2

「まだ・・・だよ」
「随分、答えに時間が掛かったわね?」

それに関しては私のせいじゃない。
最初から、そう言ってくれれば十数秒で終わる話だ。

「とにかく・・・それは残念ね」
「残念?」

確かに毎年、何かしらのネタを提供してくれる。
ただ、決して笑える話ではない。

「だって、そこそこいい話を持ってくるじゃん!」
「・・・あっ・・・そ、そうなんだ」

意外な答えだった。
間違いなく茶化されると思っていたからだ。

「セミの一生って、長いと思う?」
「それとも短いと思う?」

これまた唐突に哲学っぽいことを言い始めた。

「あなたは直接、命に触れたわけだから」
「それはそうだけど・・・」

ここ数年、今まさに命の火が消えそうなセミを手にしている。

「その前に、どうしたのよ?朝からマジメな話をして・・・」

いつもの同僚らしくない。

「・・・何か悩み事でも?」

もしかしたら遠回しに相談を持ち掛けられているのかもしれない。

「私も・・・デビューしちゃったみたい」
S921
(No.921完)
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[No.921-1]セミと私

No.921-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「今年はまだ?」

同僚が唐突に聞いてきた。

「・・・何よ、まだって?」

とは言え、あれこれ頭をよぎる。
心当たりがないわけじゃない。

「今時期、まだと言ったらアレしかないでしょ!?」
「あのね・・・クイズ形式はいいから・・・」

このまま進められたら面倒だ。
さっさと結論を求めた方が良いだろう。

「ユーモアが通じない人ね!」
「それって関係あるの!?」

いわゆる言い掛かりの典型的な例だ。
今風に言えば、逆ギレだ。

「アレと言えば、セミと私でしょ!」
「・・・あっ!私って言っても、あなたのことよ?」

出来ればこんな話は昼間にして欲しい。
朝は、心も体も本調子じゃない。

「で、そのセミと私がどうしたって・・・」
「・・・あっ」

言い終えて気付いた。
そう・・・今年はまだだった。

(No.921-2へ続く)

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ホタル通信 No.400

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.496 EACH TIME
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

冬のホタルは超短編を売りにしていますが、その中でも特に短い小説ですね。ホタル通信を書くにあたり、読み返して気付きました。

実話度は低めですが、その昔、小説のようにレコードを借りたことがありました。仮に、レコードの発売時期に対して、リアルタイムでこれが行われていたら・・・作者の年齢がバレてしまいそうですがそのあたりの解釈は読者にお任せします。

さて、EACH TIMEというアルバム、リンクは付けませんが、良ければ検索してみて下さい。小説の内容がより身近に感じられます。
楽曲の雰囲気は、山下達郎さんのような感じですが、唯一無二の存在感が半端ありません。
男性に透明感という言葉は似合わないかもしれませんが、独特の声質も手伝ってそう感じています。

後半は時が流れ、ダビングしたカセットテープを見つけるところから始まります。
再生する装置がない・・・となると、時代は一気に“現在”に飛んでいることになりますね。再生措置を求めて実家にラジカセがないかを確認したら・・・あるものが見つかって、無事オチを迎えます。
何が見つかったか分かりますか?答えは“EACH TIME”のレコードに他なりません。つまり、返していなかったわけです。
ただ、自分の名誉のために言っておけば、この部分は創作であり、キチンとお返ししていますので。
T400
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[No.920-2]あの日のように

No.920-2

中学に入ってからは、そんな傾向はなくなった。

「反抗期?」
「・・・だな」

逆に見送りに来ない方が良かったくらいだ。
顔を合わせるだけでも、意味もなくイライラしていた。

「でもさぁ、不思議なもので・・・」

就職を機に地元を離れることになった。
そんな時、昔の自分が蘇ってきた。

「6年分の失われた時間が・・・」
「・・・一気に押し寄せてきた感じだったな」

そして、旅立ちの日を迎えた。

「しばらく過ごす寮の近くまで来てくれて」

そして駅のホームで別れた。

「・・・あの日のように?」
「あぁ・・そうだな」

唯一、違うのは“ぐずってはいなかった”ことだ。
でも・・・最後に“ぐずって”みたかった。
S920
(No.920完)
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[No.920-1]あの日のように

No.920-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
永遠の別れでもないのに泣いてしまう・・・。
小さい頃はそんな泣き虫少年だった。

「そんな感じには見えないけどね」

夏休みになると、父を残して家族で祖母の家を訪れていた。

「父は後で来るんだよね」

当時は一緒に来れないことを不思議に思っていた。
でも、今はその理由は明確だ。

「だいたい、そうよね?」
「私のうちもそうだった」

場合によっては、お盆休みが取れない時だってある。

「それで、父が見送りに来てくれるんだけど」

なぜか、その時に号泣する僕がいる。

「別れるのがつらいから?」

記憶が曖昧だが、それしかないだろう。
他に何があるのか・・・自分に聞いてみたいほどだ。

「数日後には会えるのにさぁ」

駅のホームで、“ぐずっていた”ことは鮮明に覚えている。

(No.920-2へ続く)

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[No.919-2]あなたを好きだから

No.919-2

「な、わけないでしょ?」
「だったら、あんたなんかと一緒に居ないわよ」

いつもの彼女らしいセリフだ。

「それはこっちも同じ」

僕は僕で、彼女が居ない。

「じゃぁ・・・何があったんだよ?」
「・・・先週の金曜日、覚えてる?」

覚えてるもなにも、毎週金曜日はカラオケの日と決めている。
先週も例外ではない。

「いつものひとりカラオケがどうした?」
「・・・LINEくれたよね?」

確かにLINEした。
特に意味もなく、“デンモク”を写してそれを送った。

「雰囲気出てただろ?」
「そうね」

返事が何だかそっけない。

「・・・原因はそれか!?」

逆に、“デンモク”以外はほとんど写っていない。
だから、突っ込まれようがないはずだ。

「もしかして・・・一緒にカラオケしたかったのか?」
「・・・オンチなの知ってるよね?」

そうだった。

「本心かどうか、聞いてるの!」

言っている意味が理解できない自分がいた。
S919
(No.919完)
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[No.919-1]あなたを好きだから

No.919-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
普段と違う雰囲気をかもし出している気がする
何となく、よそよそしいというか・・・。

「なんかあった?」
「・・・どうして?」

返事に一瞬の間があった。
気にしすぎだろうか・・・。

「だっていつもの元気はどこいったんだよ?」
「そ、そうかな?」

先週末あたりから様子が変わった。
今時期で例えるなら、セミ以上にうるさいはずなのに。

「もしかして・・・失恋か?」
「だとしたら、どうしてそんなに嬉しそうなのよ?」

(・・・しまった!)

つい、人の不幸を喜んでしまった。

「ごめん!ごめん!」
「付き合ってる人、居ないことぐらい知ってるでしょ?」

そう言われて見ればそうだ。
あえて聞いたことはないが、確かに居ない。

「まぁ、俺と行動してるくらいだからな」

彼女とはいわゆる幼馴染だ。
幼稚園から大学、それに就職先も同じという快挙っぷりだ。

「もしかして・・・」
「逆に彼氏ができたのか!?」

それはそれで複雑な心境だ。

(No.919-2へ続く)

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ホタル通信 No.399

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.421 名誉の傷
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性

実は肝心な部分を脚色しています。筆箱を投げつけられたのではなく、実際はもっと痛い思いをしました。

この話は彼の話ですので、ややこしいですが、あたかも私がそれを体験したかのような口調で進めて行きますね。
まず、全体的な流れはほぼ事実です。ただ、前述したように、筆箱を投げつけられたのではなく、鉛筆を頭に刺されました(笑)
鉛筆が短かったので、キャップを取り付けて握りやすくしていた・・・そんな状態の鉛筆でした。銀色の金属製のキャップがキラリと光っていたことを今でも覚えています。
ただ、刺されたと言っても、突き刺さったわけではなく、刺したと同時に芯が折れ、大した傷にはなりませんでした。

小説の通り、自分よりも相手の女子がビックリして・・・今でも申し訳ないと思っています。もちろん悪気はなく、反射的に手が出てしまったのでしょう。何よりも原因を作ったのは私なのだから。
ラスト付近で、その女子が転校したことになっていますが、この部分は少し記憶が曖昧です。
転校したような記憶があるのですが、ハッキリとは覚えていません。
ただ、展開とラストのオチを考えた時、転校してもらった方がしっくりくるので、そうしてもらいました。

この記事をその人が見る可能性はほぼゼロでしょうが、あらためて「ごめんなさい」と言わせて下さい。
T399 
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[No.918-2]飛び出し注意!

No.918-2

「スッキリしないけど、とにかく急ぎましょ!」

いつもギリギリで学校に到着する。
だからこそ、私の行動が気になるのかもしれない。

「そうだね!」

確かに無意識の内に、スピードが落ちている。
もしかして、このわき道は・・・

「微妙に坂になってるのかな?」
「それとも、なにか因縁がある・・・」

昔、ホラー漫画で似たようなシーンを見た記憶がある。
墓場の前を通ると、ものすごく重い老婆が背後にとり憑く。

「ちょ、ちょっと朝から脅かさないでよ!」
「もしかしたらその老婆が・・・」

自分で言っておきながら、背筋が寒くなった。
その展開では、私に“憑く”ことになるからだ。

「冗談よ、冗談!」
「そんなことあるわけないじゃん!」

・・・その時だった。

「キャァァーアッーーーー!」

友人の叫び声だった。
・・・と同時に、急ブレーキで自転車を止めた。
 
「ほら、もうすぐよ!」

あの日以来、私たちはわき道をゆっくり走ることにした。
モヤモヤしていた理由がハッキリしたからだ。
S918
(No.918完)
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[No.918-1]飛び出し注意!

No.918-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「前から思ってたんだけどさぁ・・・」
「なによ、あらたまって」

とは言うものの、今、言う必要があるのだろうか?
学校に着いてからでもいいはずなのに。

「この辺りになると、ゆっくり走ってない?」
「・・・ゆっくり?」

正直、自分の走りを気にしたことはない。
いつも通りの速度で自転車を漕いでいるつもりだ。

「多分、このわき道に入ったら・・・だと思う」

わき道と言っても、自転車でも十分すれ違うことができる。

「学生が歩いてることが多いから?」

自分のことなのに疑問形になってしまった。

「それはこっちのセリフだよ!」
「・・・だよね」

自分では意識したことはない。
だから、本音を言えば私が聞きたいくらいだ。

「強いて言えば走り難いからじゃない?」
「今は草刈してるからいいけど・・・」

しばらくすれば、また生えてくるだろう。
そうなると、このあたりは雑草でうっそうとなる。

「まぁ・・・そう言われたらそうだけど」

自分でも分からないまま、わき道を先に進む。

(No.918-2へ続く)

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[No.917-2]新しい生活

No.917-2

「まだ、引きずってるわけ?」
「・・・まぁ・・・な」

あの日、声を掛けられたこと。
そして、それに応えられなかったこと。

「大袈裟かもしれないけど」
「そんなこと、人生においてはよくあることじゃない?」
「な、なん・・・」

言い掛けた気付いた。
彼女にはそれを言う資格がある。

「そ、そうだよな」

彼女は数年前に母親を亡くした。
いわゆる突然死で、日常に突然幕が下りた。

「そうそう!」
「だから、もう気にしないの!」

新しい気持ちで、その家の前を通れそうだ。

「今度はどんな人が住むのかしら?」
「また、“おばあちゃん”だったりして・・・」
「おいおい・・・」

時々、ブラックジョークにも似たセリフを投げ付けてくる。

「冗談よ、冗談!」

とは言え、可能性はゼロではない。

「全く・・・勘弁してくれよ・・・」

誰かの新しい生活は、僕の心残りに終わりをもたらしてくれた。
S917
(No.917完)
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[No.917-1]新しい生活

No.917-1     No.856-1 売物件

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・あっ」

小さく声が漏れてしまった。

「ほら、以前、話したことがあっただろ?」
「・・・何だか聞いたことがあるフレーズね?」

そう言えば、話の切り出し方が前と同じだった。

「まぁ、それはさておき・・・」

さっさと話を進めたい。

「・・・ということは例の家?」
「よく覚えてるな!?」

それなら話が早い。

「今日、敷地内に車がとまってて」

いわゆる営業車や工事車両じゃない。
一般の乗用車だ。

「・・・ということは」
「あぁ、入居者が決まったみたい」

以前から、業者らしき人が出入りしていたのは知っていた。
だから入居に向けた動きは察知できていた。

「そう・・・」
「・・・うん」

関わりが全くゼロではないため、少し複雑な気分だ。

「けど、それはそれで良かったんじゃない?」

僕にとっては、ある意味そうかもしれない。

(No.917-2へ続く)

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ホタル通信 No.398

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.456 ちらし配り
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

今まで何度も思ったことですが、小説ネタに苦労しているというか着眼点が独創的というか・・・。

実話度は高めで、後半を除けば概ね書いてあることは事実です。
小説のきっかけがチラシであることは間違いないのですが、それよりも、それを配っていた人の印象の方が強く残りました。
確かにチラシはウザイのですが、配っている人に罪はなく、逆にキチンと仕事をしているからこそ郵便受けがチラシで溢れ返ってしまいます。
今でも、配っている最中に出くわすことが時々あり、微妙な空気の中、チラシや郵便物を回収しています。

冒頭に書いたように、こんなことまで小説にするとは、我ながら笑ってしまうほどです。
冬のホタルはこのような、“エピソードにも満たない小さな事実”を見つけて小説“風”に仕上げています。質はさておき、独創的な着眼点なら、他の方々にも負けていないとは思います。

ラスト付近はほぼ創作です。
ありがちですが、数年後に結婚したという設定です。あれほどウザかったチラシが役に立った・・・ということでしょうね。
T398
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[No.916-2]中二から

No.916-2

「中二なったら、クラス替えがあっただろ?」

それからの彼女に何があったか知らない。
いや・・・そこから目を背けていた。

「違うクラスになってホッとした?」
「・・・正直に言えば・・・そうかもしれない」

クラスが違えども、様子を見に行くことはできる。
高校になってからは駅で何度か彼女を見掛けたこともあった。

「・・・声、掛けてくれればいいのに?」
「ごめん・・・後ろめたくて・・・」

高校生にもなると、さすがに僕らの関係を知る者はいない。
だから、彼女が標的になることもなかったはずなのに。

「ほんと・・・変わらないね!」
「やさしいというか、気が弱いというか・・・」

事実を知ることが怖くて、彼女から逃げていた。

「でも、今頃どうして?」
「うん・・・実は・・・」

就職のため、住み慣れた地を離れることになった。

「そうなんだ・・・」
「だから、最後に謝っておこうと思って」

意を決して、彼女の家を訪ねた。

「・・・スッキリした?」
「ごめん・・・一方的に・・・」

やはり、蒸し返してしまったことに変わりない。

「そう思うなら、もう一度やり直す?」
「中二から」
S916
(No.916完)
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[No.916-1]中二から

No.916-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「なぁ、覚えてる?」
「・・・何を?」

もし、忘れているのだとしたら蒸し返すことになる。
できれば忘れていて欲しい。

「ほら・・・なんていうか、中一の時・・・」
「・・・なんだ、そのこと?」

やや拍子抜けするような返事が返ってきた。

「もちろん!忘れるわけはないわ」
「・・・だよな」

彼女とは小学生から仲が良かった。
それは中学生になっても続いた。

「気にしてるの?」
「そりゃ、そうだろ!」

やや強めの口調で返した。

「あれから何年経ってると思ってるのよ?」
「君だって、忘れてなかっただろ?」

中学に入ると、急に異性を意識し始める。
ただ、それは男子よりも女子の方が先だ。

「まぁ、そう言われたらそうだけど」

僕たちの仲の良さは、一部の女子から反感を買った。
ただ、その矛先は全て彼女に向けられた。

「ずっと気になってて・・・」

露骨なイジメこそ無かったが、彼女は孤立した。

「へぇ~そうなんだ?」

興味がなさそうな返事がかえって、胸が苦しくなる。

(No.916-2へ続く)

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[No.915-2]君の名は

No.915-2

「・・・えっ・・・と・・・何だっけ・・・な」
「ビーチとかで見かけるやつよね?」

確かにそう見えなくもない。
けど、少なくともうちの家族は、室内だけで使っていた。

「ん~・・・思い出せない」

独特なネーミングだった気がする。
何となく、響きが良いような・・・。

「ほら、どれも幸せそうな顔してるじゃん!」

逆に自分では気づかなかった。
それにしても、それと一緒に写っている写真が多い。

「よほど好きだったのね」

記憶では折りたためたはずだ。
使わない時は、部屋の隅に置かれていた記憶もある。

「涼しそうね!」
「そうね、夏はこの上で・・・」

風通しも良いし、ビニール素材でひんやりしていた。

「けどよく怒られもしたわ」
「飛び跳ねないように・・・ってね」

子供程度なら多少跳ねても大丈夫だった。
クッション性も高かったからだ。

「話を戻すけど、名前は?」

残念ながら、ボンボンと飛び跳ねている光景しか思い出せない。
S915
(No.915完)
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