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2019年1月

[No.895-2]消えた四千円

No.895-2

しばらく無言のまま手を合わせる。
神妙な時間がしばし流れた。

「・・・これでよし!・・・と」

彼女の充実した顔が微笑ましい。
自分のことのように考えてくれる。

「ちゃんとお願いした?」
「あっ、も、もちろん!」

もちろん、お願いした。
なんせ、今回は四千円もつぎ込んだのだから。

「そう・・・それならいいけど」

ただ、願い事は前と同じだ。

「かなうといいな」

昇進がどうでもいいわけじゃない。
けど、彼女はそれ以上の存在だ。

「確認するけど・・・」
「私の幸せなんて、願ってないよね?」

「えっ・・・い、いやぁ・・・そ、それは・・・」

慌てふためく僕を見て、察したらしい。

「もぉ!うれしいけど・・・」
「もう一回、入れるわよ」

財布の中から、また二千円が消えた。
S895
(No.895完)
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[No.895-1]消えた四千円

No.895-1     [No.756-1]出世の神様

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ねぇ、早くぅ!」
「急いだって何も変わらないだろ?」

約二年ぶりにここに来た。

「こういうことは早いほうがいいの!」
「ほら、早く早く!」

前と同じように、僕の財布からお金を抜き取った。

「二千円!?」
「もちろん、私も出すわよ」

今回は額を二倍にした。

「少しは上乗せしておかないとね!」
「神様はお金じゃ動かないだろ?」

昇進試験に落ちたわけじゃない。
けど、色々と制限があり、一旦、その道が閉ざされていた。

「でも、これくらいは必要よ」

まさか、もう一度道が開かれるとは思っていなかった。
ある意味、お賽銭の効果だったのかもしれない。

「じゃ、入れるわね」

強引に見えても、僕以上に僕のことを心配している。
欲ではなく、純粋に僕を応援してくれている。

「あぁ、いいよ」

硬貨ではない分、いつもの軽快な音は聞こえなかった。

(No.895-2へ続く)

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ホタル通信 No.387

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.499 空き箱
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

この小説を読み直していると、あることに気付きました。これと似た小説が他にもあることを。

前回のホタル通信でも書きましたが、各小説は様々なリンク関係があり、またひとつのエピソードを分割したり、別の角度から書いたものもあります。
たかが、空き箱の話ですが、結構思い出と言うか、小学生の頃箱が“無くて”苦労した経験があります。これが今でも記憶として残っており、小説として蘇りました。
尚、もうひとつの小説は「No.750 叶えてあげる」です。この小説もアプローチは違いますが、背景にあるものは同じです。

箱を用意するために家中を探す・・・挙句の果てには、中身が入っているものを出して無理やり空き箱にする・・・小説の通りのことを実際、していました。
でも、結果的に何も出来ないんですよね、構想だけ立派で結果に結びつかないことは今も変わっていません、残念ながら。

今でも特に、石鹸の空き箱を捨てる時、すこし心によぎるものがあります。もったいない・・・ではなく、どこか懐かしいような、ほろ苦いような・・・。
T387
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[No.894-2]雲の切れ間

No.894-2

「向こうで何かあった?」
「・・・だから、帰省したんでしょ?」

多分、そうだと思う。
他人事のような言い方になるが・・・。

「そうね・・・たぶん」

ただ、これと言った悩みや不安が見当たらない。
東京での生活も、そこそこ満喫できている。

「それが悩みなのかもしれないよ」
「・・・贅沢な悩み」

そうなのかもしれない。
なにもかも普通過ぎて、逆に充実感や達成感がない。

「思い切って、告白でもしてみたら?」
「好きな人くらいは居るんでしょ?」

確かに、居ないことはない。

「当たって砕けてみたら?」
「玉砕が前提!?」

けど、それもいいかもしれない。
もしかしたら、何かが変わる可能性がある。

「ほら・・・空だって」

雲の切れ間から、一筋の光が差し込んできた。

「“今がチャンス!”って言ってるみたいだよ」
S894
(No.894完)
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[No.894-1]雲の切れ間

No.894-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
天気と気持ちは同期しやすい。
けど、それは自分に対する言い訳だ。

「今日もどんよりしてるね・・・」
「いつものことでしょ?」

年末年始を北海道で過ごした。
帰省も兼ねて、古くからの友人を訪ねた。

「そうだっけ?」
「もぉ!すっかり、東京人なんだから」

年末年始の帰省は10年振りだ。
もちろん冬の北海道も。

「何だか気分も晴れないね」

特別、悩みごとがあるわけじゃない。
恋愛だって、悩みと言えば“相手がいない”くらいだ。

「天気に八つ当たり?」
「ち、違うわよ!」

でも、このどんよりした気持ちは、天気そのものだ。
加えて言えば、今にも泣き出しそうな空だ。

「でも、雨じゃなくて雪だけどね」

友人がチャチャを入れてくる。

「分かってるわよ!」

少しだけイラ付いている私が居る。

(No.894-2へ続く)

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[No.893-2]覚えている理由

No.893-2

「ほら・・・食事や買い物とかしてたじゃん?」

二度目も三度目も最初の出会いから、かなり離れている。
場所も時間も。

「それなのにまた出会うなんて・・・」

これを運命の出会いと言わずして何と言うべきか。

「気持ちは分かるけど“出会って”はないよね?」
「単にすれ違っただけの話でしょ?」

そう言われると見も蓋もない。
確かに私が意識しているだけだ。

「でも、すごい偶然だとは思わない?」
「まぁ・・・それに関して言えばそうね」

二度ならぬ三度までとは・・・。
偶然にしては、かなりの確立だろう。

「こんな人ごみの中・・・だよ」
「それなら“四度目”があったら、声掛けてみなよ!」

友人がかなり無責任なことを言い放った。
けど・・・そうしたい気持ちがないわけではない。

「・・・向こうは覚えてるかな?」
「あなたが覚えてた理由と同じならね!」
S893
(No.893完)
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[No.893-1]覚えている理由

No.893-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「あっ!?」
「な、なによ急に!?」

驚きの余り、おもわず声がもれてしまった。

「なにかあった!?」
「・・・あのね」

3時間くらい前に、地下街である男性とすれ違った。
知人ではなく、全くの他人だ。

「まぁ、私好みのイケメンだったので・・・」

かなり印象として残った。

「あなたがそこまで言うなら、相当ね」
「・・・でね、さっき、またすれ違って」

今、3時間ほど前とは全く別の場所にいる。

「けど・・・そんなことなくない?」
「同じ人とすれ違うことって」

この話には続きがある。

「実は、さっきすれ違う前に・・・」
「えっ!?もしかして、さっきで三度目?」

察しが良い友人の言葉に、だまってうなづいた。

(No.893-2へ続く)

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ホタル通信 No.386

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.405 御堂筋線
実話度:★★★★★(100%)
語り手:男性

本来は「せいじゅうろうシリーズ」として掲載する予定でしたが、思いのほか、“そうじゃない”仕上がりになりました。

実はこの小説、数々の小説とリンクしています。例えば後半に出てくる“近くのカフェ”は、「No.322 英国屋」です。ただ、No322では彼女は回想の中で登場しています。さらに、No322の回想部分を抜き出した小説も存在しています。
また、時間的に午後からのシーンで始まっていますが、実際は午前中に会っており、午前中のエピソードもいくつか小説化しています。自分でもどの小説か探せないほどに。

実話度の通り、ほぼ事実です。そう言えば、“目的の場所”も小説になっています。これは確か、せいじゅうろうシリーズの中にあったと思いますが、数が多すぎて探すのが大変で・・・すみません。

小説の方針は今も昔も変わっていませんが、内容が年々薄くなっています。当時の作品は一般受けしないけど、自己満足度が高い濃い目の仕上がりが多かったと思います。苦しかったけど今では良い思い出です。
S386
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[No.892-2]ひとつと半分

No.892-2

「で、もう一個はどれにする?」

2個じゃ多い・・・でも、1個じゃ物足りない。

「そうだな・・・」

それは彼も同じらしい。
男性のわりには少食で、2個では多すぎるらしい。

「やっぱり、これかな?」

彼がパンを指差す。

「そうね・・・やっぱり、これね!」

それはクルミパンだった。
特にこの店はこのパンが美味しくて有名だ。

「大きさは?」
「この中くらいのでいいんじゃない?」

パンをトングでつかむ。
これで、パンは全部で3個になった。

「これなら半分にすれば丁度いいね」

それぞれ好きなパンをひとつ選ぶ。
そして、二人が好きなパンをひとつ選ぶ。

「これでいつもの、ひとつと半分ね」
S892
(No.892完)
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[No.892-1]ひとつと半分

No.892-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
彼と私では食の好みがかなり違う。

「どれにする?」
「私は・・・これ!」

チーズがたっぷり入っているパンを手に取った。
今にもこぼれ落ちそうなくらいとろけている。

「ほんと好きだよな?」
「俺は絶対無理!」

彼はチーズが嫌いだ。
それにチーズだけでなく、乳製品全般がダメらしい。

「そう?美味しいのに」

味だけではなく、匂いさえも受け付けない。

「俺のパンにくっつけるなよ!?」
「分かってるわよ、大袈裟ね!」

トレーには私と彼が選んだパンが仲良く並んでいる。
彼のパンはカレーパンだ。

「私に言わせれば、よくそんなクドイの食べられるね?」

私は揚げたパンが苦手だ。

「そう?美味しいのに」

さっきの私と同じセリフを返してきた。

(No.892-2へ続く)

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[No.891-2]僕の順番~今年は~

No.891-2

「とりあえず、返事をしておくか・・・」

こちらもスタンプをふたつ返すことにした。
もちろん、文字は書かない。
少なからず文字から伝わるものがあるからだ。

「同じが一番!」

足しもしなければ引きもしない。
それに何かを期待しているわけでもないからだ。

「・・・これでよし」

当たり障りのないスタンプを送った。

「まさか、年明けすぐとは・・・」

それにしても今回は予想外の展開だった。
嬉しくないと言えば嘘になる
けど、そう手放しには喜べない。

「とにかく・・・」

去年に引き続いてこうして一年が始まった。

「さてと・・・」
「・・・ん?」

誰かからLINEが届いたようだ。
そして本当の一年がここから始まった。
S891
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[No.891-1]僕の順番~今年は~

No.891-1     [No.813-1]僕の順番

登場人物
男性=牽引役
-----------------------------
朝、寝ざめるとすでにLINEが届いていた。

「早っ!」

時間は00:30だった。
年が明けてすぐに送ってきたようだ。

「う~ん・・・」

去年は午前中の微妙な時間帯だった。
これが僕を大いに悩ませる原因となった。

「これはこれで・・・」

僕と彼女とは単なる同僚に過ぎない。
ただ、今は遠く離れた別々の部署にいる。

「気にされている?」

年明けすぐの“あけおめ”は、親しい間柄で交わされる。
少なくとも僕はそんな認識だ。
恋人だったり、親友だったり・・・。

「僕ってただの人・・・だよな?」

あらためて自分に言い聞かせる。

「それにしても、あいかわらずだよな」

年始のあいさつはスタンプがふたつ送られてきただけだ。
ただ、彼女は普段からこんな感じだ。

(No.891-2へ続く)

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ホタル通信 No.385

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.424 LINE POP
実話度:★★★★★(100%)
語り手:女性

実話度はほぼ100%です。小説のようなことが実際に展開されました。それにしても懐かしい小説です。

さて、実話度100%のお決まりで、作者は僕か女子社員のどちらであるかは秘密です。
一般的に男性が女性の電話番号を知ることはそれなりにハードルがあると思います。それなのに、向こうが勝手にスマホに登録してしまうのですから、何だか笑ってしまいます。
彼女が好意を持ってくれていたことは知っていました。小説に書いてある通り、言わば先生と生徒という関係だったからです。
もちろん、お互い恋愛感情はありません。だからこそ、いい関係を続けてこれました。

さて、その彼女のことを書いた小説がもうひとつあります。
「No.573 祝電」です。つまり、無事、結婚したわけです。実は新郎も知っている人で、新入社員の時代からその人のことが好きだったことも知っていました。
前述した通り、先生のような立場であったため、何度か相談されました。

タイトルのLINE POPですが、残念ながら昨年の12月にサービスを終了しています。思い出深いゲームだっただけに残念です。
T385
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[No.890-2]ガラクタ

No.890-2

「便利だろ?」

とは言え、作り自体はかなり雑だ。

「どうしたのこれ?」
「何でも幼稚園で作ったものなんだってさ、母親いわく」

先週、実家に帰った時に、渡されたらしい。

「他にも色々あったよ」

今までこれらの存在を知らなかったようだ。

「なんでも“終活”の一環なんだってさ」
「全く・・・縁起でもない」

確かに世の中は終活ブームとも言える。
知らず知らずのうちにそれに巻き込まれた感じだろう。

「けど良かったじゃん!」
「どこがだよ!?」

彼としては、お宝のひとつも期待していたらしい。
結局、出てきたのはそれとは程遠い物ばかりだった。

「まぁ、よく持ってたなと思うよ、こんなガラクタ」
「それが母親ってものよ」

将来渡そうと大切に持っていたに違いない。

「もう一度言うけどガラクタばかりだよ?」

そんな彼の表情は何ともうれしそうだった。
S890
(No.890完)
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[No.890-1]ガラクタ

No.890-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「これ何だか分かる?」

彼が奇妙な物体を差し出してきた。

「・・・土器?」

それこそ、社会の教科書に出てきそうな物だ。
いかにも陶器と言わんばかりの色をしている。

「・・・なわけないだろ?」
「それもそうね」

手のひらサイズで、全体にゴツゴツした作りだ。
何かを入れる皿のようにも見える。

「・・・で、結局なに?」

長引きそうなので結論を急いだ。

「灰皿」
「・・・はいざら・・・って、たばこの?」

聞き返したものの、普通、灰皿と言えばそれしかない。

「見えない?」
「まぁ、そう言われて見れば見えなくもないけど・・・」

石鹸を乗せるのに丁度いい大きさと形だ。

「ここに・・・」

ゴツゴツした所に、たばこを置いてみせた。
意外と凝った作りになっている。

(No.890-2へ続く)

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[No.889-2]夢の余韻

No.889-2

「何か恋愛に不安でも?」

察してか、彼女が冗談とも思えない表情で聞いてきた。

「それはないけど・・・」
「・・・ならいいんだけどね」

年の瀬を前に、自ら不安を演出してしまった。

「ごめん、変な話をして」
「それだけ、印象に残った夢だってことでしょ?」

あくまで夢は夢・・・そんな言い方だった。

「そういうことだね!」

自分に言い聞かせるように言い放った。
ある意味、はた迷惑な夢だった。

「ところで相手は誰だったの?」
「えっ!?」

なぜかしら、相手が誰であったかだけは覚えている。
彼女ではない・・・でも、言えない・・・。

「覚えてないなぁ・・・」
「そう・・・少なくとも私じゃなければいいけどね」

夢の余韻はせつないけれど、なぜか温かい。
S889
(No.889完)
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[No.889-1]夢の余韻

No.889-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
せつない夢を見た。
恋愛関係の夢だった。

「へぇ~どんな?」
「それがさぁ・・・」

強烈に覚えているけど、思い出せない。

「・・・矛盾してない?」
「そうなんだよね」

本当に夢の内容を思い出せない。
ただ、せつなさだけが強烈に残っている。

「目覚めた瞬間は覚えてたんだけど」

けど、一気にせつなさが込み上げ、それを打ち消してしまった。

「だから、それだけが残ったのね?」
「まぁ、そんなとこ」

恋愛物の夢を見ることは少なくない。
でも、今回のような夢は初めてだった。

「・・・とは言うものの伝わらないよな」
「だね」

そもそもどうしてこんな夢を見たのだろう。
彼女を前に、若干、不安になった。

(No.889-2へ続く)

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