[No.856-2]売物件
No.856-2
「さすがに色々考えたよ」
かなり高齢に見えた。
何かあってもおかしくはない。
「そうね・・・長期入院だってあるだろうし」
「変な言い方だけど、逆にそう願ってた」
また、帰って来てくれるのだと・・・。
「一度だけ・・・声を掛けられたことがあったんだ」
いつも通り、家の前の通過しようとしていた時だった。
“おはようございます”と声がした。
「僕に言ったのかどうか分からないけど」
状況からすれば、僕の可能性が濃厚だった。
「予期してなかったし、自転車だったので・・・」
「そのまま素通りした・・・と?」
今度会ったら、声を掛けようと、軽い気持ちで走り去った。
「そしたら、今日・・・」
家のフェンスに“売物件”の看板が取り付けられていた。
それを見た瞬間、全てを悟った。
「そっか・・・」
「だから、心残りで」
もう、声を掛けることはかなわない。
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