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[No.844-2]なにもない

No.844-2

考えごとをするつもりはなかった。
けど、草むらを見ていたら、思い出がよみがえってきた。

「小さい頃、土手の草むらでさぁ・・・」

寝転がれば、姿が見えなくなるほどだった。
そこで、青空を仰ぎ、風の音を聞く。

「実家が町の外れだったから」

車もほとんど通らなかった。

「そこで、何もしないことが最高の遊びだったな」
「何もしないのに?」

もちろん、草むらで友達と遊ぶこともあった。
でも、行き着くところはいつもそれだった。

「地球に包まれているって感じだったよ」
「大げさね・・・」

彼女がクスクスと笑い出した。
雷鳴は何とか避けられたようだ。

「あの草むらを見て・・・そんなことを考えてたんだ?」

場所こそ違えども、雰囲気は似ていた。

「そりゃ、草むらだもん!似てるでしょ!?」
「・・・だよな」

初夏の他愛無い会話だった。

「でも、なんだか見えたような気がする」

彼女が僕を見てつぶやいた。
S844
(No.844完)
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