[No.840-2]濃い本
No.840-2
「・・・ったく、いつもこんなんだよな」
彼女の返事は決まって、写真かスタンプだ。
ただ、嫌われているからではないと思う。
その証拠に、ほとんど彼女の方からLINEが来るからだ。
(そっちがその気なら・・・)
『濃い本をお願いします』
意地悪く、返事を返した。
最初の写真に、気になる本が数冊あったからだ。
「どれを選んで返してくるかな?」
僕の返信の意味が分からないわけではないだろう。
“濃い”に隠された意味が分かれば“あの本”を選ぶはずだ。
「さてさて・・・」
もう、返事が届いても良い時間だ。
でも、うってかわって、返事が届かない。
(・・・悩んでいるんだろうな)
こちらの思惑通りだった。
“あの本”を選ぶと、多少、波風が立つ可能性があるからだ。
「ん!?」
それとは全く関係がない、ビジネス書の写真が届いた。
タイトルがやたら長い本だった。
(逃げたな・・・)
あえて、あの本を避けたと考えて良いだろう。
『無難な本だね』
さっきよりも、さらに意地悪い返事かもしれない。
ただ、正直に言えば、少し“あの本”の話がしたかった。
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