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2017年11月

ホタル通信 No.342

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.361 続・成長
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

続編の意味としての“続”がタイトルに付く小説は、これを含めて3話あります。

通勤や通学、その他諸々において、人とすれ違う一瞬をヒントにした小説は多々あります。ある意味、定番化していると言っても過言ではありません。
ただ、作者の情報を曖昧にするために、時には通勤にしたり、ある時には通学にしたりと、シチュエーションは様々です。

見覚えのある顔なのに、なぜか違和感を感じた・・・が、小説のきっかけとなりました。
その理由として、私は“化粧をしていたから”と判断し、彼女も同意はしてくれたものの、その濃さについて見解が分かれたようなラストを迎えます。結果的にこの小説は、男女の見方や考え方の違いを表現したものと言えます。ただ、最初からそれを狙って書き始めたのではなく、いつものごとく、たまたまそうなったに過ぎません。
“化粧が濃くなったこと=成長”と位置付けていますが、もう少し深い意味を持たせています。
今回の対象者がOLであれば、失礼にあたるのでこのような小説は書かなかったと思います。あくまでも、学生がぎこちなさからつい化粧が濃くなってしまった・・・というニュアンスも含ませています。
とは言え、今の時代、学生と言えども化粧は上手なので、私の考えはもう過去のものでしょうね。
T342
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[No.804-2]ロケットパンチ

No.804-2

「・・・そうだ!こんな遊びやらなかった?」

突然、あることを思い出した。

「なによ!急に・・・」

あらためて姿勢を正してみる。
加えて、袖で手がもっと隠れるように、わざと肩をすぼめた。

「・・・なにしてるのよ?」
「まぁ、見ててよ」

指先まですっぽりと袖で隠された状態で、あの言葉を発した。

「ロケットパァァーンチィ!!」

声と同時に、片腕を前に突き出す。
まるで、腕が飛んで行かんばかりに。

「・・・」
「いや・・・だから・・・その・・・」

女子には理解出来なかったのかもしれない。

「ほら、マジンガーZとか・・・」
「知ってるわよ、それくらい」

冷ややかだった目が、より一段と冷たくなった。

「“冷凍ビーム”を、おみまいするわよ!」

コートを着ていて良かった。
S804
(No.804完)
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[No.804-1]ロケットパンチ

No.804-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・」
「何だよ・・・」

無言のまま、視線を上から下に落としている。
もしかして・・・。

「気付いた?」

つい最近、コートを新調した。

「どうかな?」
「・・・それ以前にちょっとサイズが大きくない?」

痛いところを突かれた。
違う意味で気付かれていた。

「ちょうどいいサイズがなくて・・・」

大きいサイズしか残っていなかった。
限定品だけに“再入荷は無い”と店員に言われた。

「だから、多少なら・・・と」

コートだけにダブつき感は、さほど気にはならない。
ただ、袖が長すぎて、姿勢を正すと手の甲が隠れてしまう。

「入学したての中学生みたい・・・」

服に着せられているとでも言いたいのだろう。
ある意味、的を得た表現だ。

(No.804-2へ続く)

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[No.803-2]手が覚えてる

No.803-2

「それにしても、子供たちは楽しそうね」
「・・・だな」

店の中は子供たちの熱気でいっぱいだ。
思い思いに何かを作っている。

「あの子なんて・・・」

上手くはないが、一目でロボットだということが分かる。

「子供の想像力にはかなわないよ」

ある意味、無敵だ。
大袈裟だけど、無限の可能性を感じる。

「なんなら、プレゼントするわよ」
「もうすぐ、初めてのクリスマスなんだし」

彼女がさりげなく言い放った。

「お返しが・・・怖いな」

もしかして、プレゼントで先手を取られたかもしれない。
それも彼女は手ごろな価格で・・・。

「もちろん、期待してるわよ!」

やはり、思った通りの展開だ。
懐かしさにつられて、この店に入ったのが失敗だった。

「分かったよ・・・」

潔くあきらめることにした。

「あなたが作ったクリスマスツリーをプレゼントしてくれない?」
S803
(No.803完)
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[No.803-1]手が覚えてる

No.803-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「へぇ~上手じゃん!」
「えっ!?そ、そうかな・・・」

別に自慢しようとしていたわけじゃない。
懐かしさのあまり、つい手が動いてしまった。

「そうよ!なかなかのものよ」
「・・・久しぶりに作ってみたけどな」

ただ、小さい頃、作っていたのとはかなり違う。
昔は、ひとつひとつのパーツがかなり大きかった。

「大きい?」
「あぁ・・・手のひらサイズくらいあった」

もちろん、幼稚園児の手のひら・・・としてだ。

「そんなに!?」

比べると、目の前のそれはかなり小さく感じる。
自分が大人になったこともあるが。

「よく、それで飛行機を作ったよ」

正確に言えば、SF映画に出てくるような飛行機だ。

「想像して?」
「当時はよく考えていたよ」

特撮のテレビや映画の影響もあったと思う。
とにかく、空想するのが好きだった。

「それを絵にしたり、形にしたり・・・」

色々なもので表現した。

(No.803-2へ続く)

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ホタル通信 No.341

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.281 神隠し
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

タイトルである“神隠し”自体は、小さい頃、よく使った言葉です。
言葉の意味としては子供らしくはありませんが、その不思議感から、子供だからこそ使うのかもしれません。

実際に、子供が言う神隠しのような出来事はあったのですが、それを消しゴムがなくなった騒動に置き換え小説を作りました。
事実を書くと話がややこしくなり、説明的な文章になってしまうため、分かってもらいやすい話にしました。そのため、実話度は控えめにしています。

この“神隠し”は大人になってからも時々出会います。
もちろんオカルト的なことではなく、勘違いや思いも寄らない所から出てきたり・・・と言う従来のパターンです。足元に落ちた程度だと思っていたら、かなり遠くまで飛んで行っていたこともあります。
それに、懸命に探しているときは見つからないのに、何かの拍子でそれが見つかって、「えっ!?」となることも少なくありません。

最後のセリフ、単なるオチとしてだけではなく、少しブラックな要素が入っています。私のセリフ自体がそうだと言うことではなく、友人が“意図的に、どこかに忘れてきた”というニュアンスを加えると、どうなるでしょうか?
T341
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[No.802-2]僕らの鉄工所

No.802-2

「・・・だから、懐かしいな・・・と」

地元を離れた数年後に、廃業したらしい。

「その鉄工所は、僕らにとっては宝の山だったからね!」
「これに、そんな思い出があるとは・・・ね」

僕自身も意外だった。
思い出と言うほど、大切にしてきたつもりはなかったのに。

「正直、忘れてたくらいだよ」
「でも、思い出ってそんなものじゃない?」

確かにそうとも言える。
この金属クズが、思い出の引き出しを開けるカギになった。

「上手いこと言うわね!」

何となく、カギにも見えなくもない。

「多分、あそこの工場からだろうね」

目線の先に、小さな町工場が見える。

「そうだな・・・転がってきたんだろうな」

形が形だけに、そう考えるのが妥当だろう。

「どうするの、これ?」

拾ったものの、どうしていいか対応に困る。
捨てるのも忍びないが、今の自分には“不要”な物だ。

「届けてあげたら?今までの感謝を込めて」
S802_2
(No.802完)
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[No.802-1]僕らの鉄工所

No.802-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「これ何だか分かる?」

目の前に落ちていた、それを拾い上げた。

「何かの金属片だよね?」
「まぁ・・・大きく捉えるとそうだね」

欠片と言うより、正確には金属クズになるだろう。
クルクルと、らせん状になっているのが懐かしい。

「・・・懐かしい?」
「あぁ、子供の頃、よく集めてた」

子供の頃のよくある話だ。
特に意味も無い物を、意味も無く集める。
この金属クズもそのひとつだ。

「それって、結局何なの?」

何の変哲もない、金属の削りかすだ。
多分、金属を削ったりした時に出てくるのだろう。

「実家の近くに、鉄工所があって・・・」

その前を通ると、よくそれが落ちていた。

「何に使うの?」
「だから、さっき言ったように、意味はない」

キラキラと輝くらせん状の金属に、何となく価値を感じていた。

「まぁ・・・子供らしいと言えば子供らしいけど・・・」

ただ、その鉄工所はもうない。

(No.802-2へ続く)

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[No.801-2]近付けば近付くほど

No.801-2

「ただね、皆とは壁を感じたな・・・」

会場に来ていたほとんどの人は地元に残っていた。
私のような“流出組”は数える程度だった。

「なんで?」
「だって、地元のこと・・・何も知らないんだもん・・・」

記憶は高校生で止まっていた。

「ほら、社会に出て、飲みに行ったり・・・」

そんなこんなで、地元についてもっと詳しくなる。

「・・・かもね」
「まぁ、会場に着く前に分かっていたことだけど」

それは普通電車に乗った時から始まっていた。

「電車?・・・どういう意味?」

同僚が不思議そうな顔をしている。

「だって、地元に近付けば近付くほど・・・」

知らない地名であふれていた。

「地元に残ってたら・・・と思うとね」

少し寂しい気がする。

「でも、“ここ”は詳しくなったでしょ!?」
「そ、そうね!」

同僚も流出組のひとりだ。
地元に拘らなくても、住み着いた土地を愛すればいい。
S801
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[No.801-1]近付けば近付くほど

No.801

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(急いでないから、普通でもいいかな・・・)

次の特急電車が来るまでには、少し時間がある。
それに普通電車の方が座れるはずだ。

「同窓会はどうだった?」

昨日、中学の同窓会が開催された。

「まぁ、あんなものよ」

曖昧な表現で返した。

「ドラマのような話ないの?」
「あるわけないでしょ!?」

世間では不倫だのゲスだの、ある意味、魅力的な言葉が踊る。
独身の私にとっては・・・。

「あら、つまんないの!」
「じゃあ・・・好きな人は来てた?」

あくまでもそっち方向に話を持っていきたいらしい。

「来てたわよ、でも・・・」

百年の恋も冷めるとは、このことだった。
悪い意味で、別人だった。

「同窓会、あるあるね・・・」
「私も人のこと言えないけどね」

けど、だからこそ同窓会は盛り上がる。
その“ガッカリ感”もまた楽しい。

(No.801-2へ続く)

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ホタル通信 No.340

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.267 ゆれて湘南
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

好きだった人が、あるアイドルに似ていた話は事実です。そのアイドルが誰なのかは、言わずとも答えは書いてあります。

少しややこしい話になりますが、小説上の私(男性)は、そのアイドルのことを知らなかったことになっていますが、小説の作者である私(性別は秘密)は、知っています。
従って、この部分は脚色です。特別な理由があってそうしたわけではなく、単に“年齢的”なものです。これについて、アレコレ書き過ぎると、作者の年齢がわかってしまうので、今回はこの辺りでやめておきますね。

さて、小説の内容ですが、女性との間で会話こそありませんでしたが、書いてあること自体はほぼ事実です。
また、ラストはダウンロードを「したか、しなかったか」、小説では結果を書いていませんが、実際はダウンロードをしています。つまり、相手の女性の言う通りです。

この小説は、“アイドルに似ている”ことよりも、ラストの“ダウンロード”がきっかけとして、小説が生まれたようなものです。
最初は全く意識していませんでしたが、顔だけではなく、声も似ていることに気付きました。
それに気付いた時、何かが始まって、何かが終わった気がしました。
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[No.800-2]僕のポジション

No.800-2

ある日、彼女がLINEで写真を送ってきた。
彼女が飼っている犬の写真だ。

『急に寒くなってきたよね!』

その犬は毛布のようなものに、くるまっていた。
実際、ここ最近、急激に気温が下がっている。

「また、いつものパターンか・・・」

特に意味があるとは思えないスタンプが返ってきた。

『風邪には気を付けてね』

こっちも当たり障りのない返事を返す。
すぐに、話の流れとは無関係なスタンプが返ってきた。

「しばらく文字を見てないよな・・・」

会社では、文字による会話が成立してる。
けど、LINEだと、写真かスタンプしか送ってこない。

(嫌われてはいないと思うけど・・・)

嫌われているなら、頻繁にLINEしてこないはずだ。
ただ、文字がない分、全く感情が読めない。

「僕って、どんなポジションなんだろうか・・・」

彼女の気持ちに気付いていないだけ?
物思いにふけるには丁度良い季節かもしれない。
S800_2
(No.800完)
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[No.800-1]僕のポジション

No.800-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
『質問があるんだけど』

忘れた頃に、こんな連絡が入る。

『どんなこと?』

メールではない。
言わば、チャットのようなソフトだ。

『・・・について聞きたいんだけど』
『あぁ、それなら・・・』

個人的に入れているわけではない。
業務用として正式にインストールされている。

『・・・すればいいよ』

仕事の話だけが淡々と進む。

『ありがとうございます』

世間話が入るわけでもなく、話が終わる。
業務中だから、当たり前と言えば当たり前だけど。

『また、何かあったら連絡して』

隣近所も居るのに、わざわざ僕のところに問い合わせしてくる。
特別、僕が仕事に精通しているわけじゃないのに。

(No.800-2へ続く)

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[No.799-2]犬の目線

No.799-2

「たまには散歩もいいでしょ?」
「まぁ・・・ね」

どちらかと言えば、いやいや散歩に付き合っていた。

「土日だけでもどう?」
「話をすりかえないの!」

本音を言えば、悪くない提案だ。

「気が向いたら、付き合ってあげるわ」
「そうこなくっちゃ!」

目線が変わると、聞こえてくる音さえ変わる気がした。
風の音や川のせせらぎさえ、聞こえてきそうだ。

「小さい頃は、いつもこんな目線だったよね」

もっと草花が身近に感じられた。
そこで暮らす生き物たちも。

「それに、色んなものを拾ったり・・・」

私の場合、きれいな石を見つけては宝物にした。

「そうそう!何か落ちていないかな・・・」

昔を思い出して、辺りをゴソゴソしてみた。
ぬるっとした感触が手に伝わる。

「・・・ん?うわぁ!!!!」
S799
(No.799完)
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[No.799-1]犬の目線

No.799-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「わぁ・・・きれい・・・」
「あら、ほんと」

友人と犬の散歩に出掛けた道中で見つけた。
とても小さな花だった。

「なんて花?」
「知るわけないじゃん!」

きれいな花であっても、見るからに名も無き花という感じだ。
雑草感は半端ない。

「立ったままなら気付かなかったよね」

老犬だけに、やたら休憩が多い。
それに合わせて、私も腰を落としていた。

「こうして、犬の目線になってみると・・・」

別の世界が広がっていた。
小さな花もそのひとつだった。

「ほら、模様も・・・」

よく観察すると模様のひとつひとつが手に取るように見えた。
とても繊細で、色鮮やかだ。

「遠目じゃ、全然わからないよ」

草花をこんなに間近で見たのも久しぶりだ。

(No.799-2へ続く)

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ホタル通信 No.339

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.254 できる男
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

小説と言うより、何らかの資料を読んでいる感じがします。オチに向かって、説明調の会話が続いています。

それでも、それなりに実話度は高く、実際、メールを早く返す、返さないの駆け引きがありました。小説にも書いた通り、メールを遅く返
す理由がなかったので、すぐに返信していました。メールが主役の時代でしたから、これがLINEとかになると、また違った展開があったのでしょうね。

ある日、その“できる男”を実践してみました。
今日明日の内容ではなかったので、すぐに返事を返さず、数日放置してみました。私としては「どうしたの?」「メール見た?」など、“追メ
ール”が来ると思っていましたが、電話さえも来ませんでした。それどころか、これを期に、彼女とは音信普通になりました。理由は今でも分かりません。
調子に乗って、“できる男”を演じた結果がこうでした。ある意味、自分を彼女よりも上に見ていたせいでしょうか・・・。

全体の質がよくないわりには、オチは気に入っています。
前述した通り、メールではなく、LINEだとまた違う展開があったと思います。いわゆる“既読スルー”の方が、事態は深刻なのかもしれませんから。
T339
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[No.798-2]210円の切符

No.798-2

「半年前かな・・・」

今日のようなシチュエーションを目撃した。
電車を降りた女性に、高校生の女の子が声を掛けた。

「“切符、落としましたよ”ってね」
「そしたら・・・」

その女性は“私のじゃない”と足早に去って行った。

「事実なんだから、その女性を責められないけど」

その女の子は何ともバツが悪そうに席に戻った。

「褒められるべき行為なのに」

車内には微妙な空気が漂った。

「・・・だよね」
「意外に尾を引くのよね・・・こんな経験」

これからは落ちている切符を見つけても躊躇するだろう。

「だから、私は受け取ったの」
「・・・私のじゃなくても」

彼女たちの行為をムダにしたくない。
それに親切心がないのは、むしろ私達“大人”のほうだ。

「210円の切符だけど」

彼女達はそれ以上の価値を生み出したんだ。
S798
(No.798完)
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