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[No.785-1]例えようがない

No.785-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
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心地よい風に乗り、ある匂いが僕を通り抜けて行った。

「どうしたの・・・急に立ち止まったりして?」
「・・・うん」

僕の左手に一軒の小さな家がある。
正しくは一軒屋ではなく、長屋風の建物の中の一軒だ。
風はそこから吹いてきた。

「見覚え・・・じゃなくて・・・ええっと・・・」

この場合、なんと表現すれば良いのだろうか。

「素直に“匂い覚え”とでも言えばいいのかな?」

何の匂いか思い出せない。
けど、確かに嗅いだことがある匂いだ。

「今も匂いがしてる?」

そう言うと、鼻をクンクンし始めた。

「いいや、さっきの一瞬だけ」

家の奥から吹いてきたと思う。
玄関だけでなく、どこかの窓も開けているからだろう。

「・・・一瞬だけ風に乗ってきた」

でも、強烈に記憶に残っている。
一言で言えば、とても懐かしい匂いだ。

「何かの食べ物?」
「う~ん・・・食べ物のような・・・じゃないような」

何か複雑な匂いだった。
食べ物の匂いも、若干含まれているようには感じた。

(No.785-2へ続く)

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