[No.783-1]手の温もり
No.783-1
登場人物
女性=牽引役 女性=相手
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(・・・ん!?)
どこからともなく、ジジジ・・・と言う音が聞こえてきた。
今にも消えそうな何とも弱々しい音だ。
「今年も?」
「・・・そうみたい」
今年はもう“ない”と思っていた。
ここ1週間、セミの大合唱を聞いていなかったからだ。
「で、どこにいたの?」
「いつものエレベータホールよ」
まるで、壊れかけのおもちゃのような音だった。
「ジジ・・・ジ・・・ジジ・・・なんてさぁ」
今年は壁ではなく、床でひっくり返っていた。
「相変わらず、やさしいわね?」
「まぁ・・・ね」
続きを話さずとも私の行動は、見透かされている。
「今回はどこに?」
「手ごろな木を選んで“乗っけた”わ」
私の手には消え行くセミの命が伝わっていた。
木に“しがみつく”力さえ残っていないと。
「でも・・・これで良かったのかなってね」
「どうして?」
昔々のあることを思い出したからだ。
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