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[No.773-2]思い出の品

No.773-2

「小さい頃に遊んだボールなの?」
「多分な・・・」

遊んだ記憶はあっても、そのボールだったかは覚えてない。
ただ、わずかながらその痕跡が残っていた。

「痕跡?」
「あぁ、とっても分かりやすい痕跡が・・・ね」

マジックで書かれたであろう文字がうっすらと残っていた。
たった一文字だけ。

「それって・・・」
「思ってる通りだよ」

そこには僕の名前が書かれていたのだろう。
最初の一文字だけが何とか読み取れた。

「昔はそんな習慣があったよね」

そのお陰で、捨てられずに済んだのかもしれない。

「両親に感謝ね!」
「で・・・そのボールは?」

持ってこようかとも考えた。
けど、そのまま物置に置いてきた。

「せっかくの思い出の品じゃん?」
「だからこそ、置いてきたんだよ」

もちろん、僕にとっての思い出の品だ。
でも、それは同時に両親の思い出の品でもある。
S773
(No.773完)
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