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2015年10月

[No.643-1]心にシール

No.643-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・昔、これがあったら便利だったんだけどな)

仕事上、ファイルを整理しなくてはならなくなった。
そんな時、これはラベルを作るのに便利な製品だ。

「そんなに、それに興味があるの?」
「えっ!?いや、そんなんじゃなくて・・・」

マジマジとそれを見つめていたせいだろう。
同僚の女子社員から突込みが入った。

「でもさぁ、それ便利だよね?」
「あぁ、確かに」

ただ、仕事じゃなければこんなことはしないだろう。
私生活ではラベルを貼るほど、マメな性格じゃない。

「一度、貼り出すとつい何にでも貼りたくなってくるのよね!」

けど、その気持ちを理解できないわけじゃない。

「まぁね・・・僕も学生時代に少し凝ったことがあったし」
「私たちの時代に、あったっけ・・・これ?」
「いいや、無かったよ・・・だから・・・」

もちろん、ワープロさえ一般家庭には無い時代だ。

「転写シール・・・と言えばいいのかな?」

文字が書かれたシールを擦ると紙に転写される仕組みだ。

(No.643-2へ続く)

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[No.642-2]工事のおじさん

No.642-2

「そうかな?私は始めて見たわよ、そんな人」

誘導してくれることは何度も経験している。
でも、頭まで下げるひとは見たことがない。

「繰り返しになるけど、仕事だからでしょ?」

あくまで誘導を任されているだけに過ぎない。
それに自分が直接不便を掛けているわけでもない。

「それでも、頭まで下げるかな・・・」

確かに仕事と言えば仕事だ。
現場を代表して、不便を掛けていることをお詫びしている。

「それに何度も通るわけでもない」
「・・・もう二度と会うこともないかもしれないのに」

大袈裟だけどおじさんにとっての“一期一会”なんだろう。

「まぁ、そこまで言われると・・・ね」

仕事としてではなく、人として行動している。
そんなところが尊敬に値する。

「・・・で、尊敬しちゃうのは私じゃないわけね」
「そう・・・話は戻っちゃうけど」

今も見ず知らずの人に頭を下げている。

「・・・あっ・・・」

ひとつ思い出したというか・・・気付いたことがある。

「・・・彼もそうなのかもしれない」

昨日、彼と喧嘩して“八方美人!”とののしったばかりだった。
S642
(No.642完)
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[No.642-1]工事のおじさん

No.642-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
仕事だから・・・と片付けてしまえばそれまでだ。
けど、それだけじゃないものをそこに感じる。

「・・・尊敬しちゃうわね」
「えっ!わたしを?」

“・・・なわけあるかい!”と突っ込みたい気持ちを押さえた。

「残念ながら違うけど」
「じゃあ、誰なの?」

そう聞かれ、歩いて来た道を振り返った。

「ほら、あの人・・・」
「・・・ほらって・・・そんな人はだれもいないよ?」

友人がキョロキョロし始めた。

「居るじゃん!工事のおじさんが」
「そうなの!?」

ついさっき、工事中の道路を二人で通ってきた。
その時、ひとりのおじさんが誘導してくれた。
臨時の歩道を歩くようにと。

「・・・まぁ、ごく当たり前のことよね?」
「気付かなかった?」
「・・・何を?」

友人が特別鈍感な人だとは思っていない。
私たちはある意味“慣れ”過ぎているのだ。

「頭を下げてたよね?申し訳なさそうに」
「だって、それが仕事でしょ?」

果たしてそれだけなんだろうか・・・。

(No.642-2へ続く)

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ホタル通信 No.260

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.375  出せないメール
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性
 

何だかややこしい話ですが、実話度が示す通り、そこそこ事実にもとづく話なんですよ。

まずは人間関係を整理してみますね。
彼は二股をかけていた・・・その相手が私と彼女でした。私はその事実を知っていましたが、彼女が知っていたかどうかは分かりません。

ある日、彼からメールが送られてきました。転送だったので、彼女のアドレスも目にしてしまったわけです。
これ以前に「二股かけていたら普通隠さないの?」なんて思われるかもしれませんよね?
彼とはそんな微妙な関係だったんです。付き合っているようないないような・・・でも、それ以上の関係であったり。
だから、彼も彼女のアドレスをさらしてしまうことに特に抵抗がなかったのだと思います。あくまでも本命は私ではなく、彼女だったのですから・・・。

そんな彼と突然、連絡が取れなくなり、その解決策として“彼女と連絡を取る”だったのです。
小説では実行していますが、実際は実行することはありませんでした。ですが、メアドは今でも残っています、メールそのものを保存しているからです。これは小説の通りです。

実行していませんから、ラスト付近は全て創作になります。
そうなると「なぜ何も書かなかったメールを送った」というラストにしたのか・・・ですよね。
実は風の便りに聞いた話では、彼女も二股のことを感づいていたようなんです。それを知った上で、この小説を書いたものですから、同じ人を好きになった・・・感じてくれる・・・で締めくくりました。
T260
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[No.641-2]それでも好きだよ

No.641-2

「・・・それで?」
「赤ら顔のスタンプが返ってきた・・・かなり時間を置いて」

つまり、彼は返事に困ったのだろう。
今までの流れで行けば、同じものを返す必要があるからだ。

「がっかりした?」
「・・・どうだろうね」

スタンプからすれば決して悪い反応ではない。
けど、彼女としては“好きだよ”という文字を期待していたはずだ。

「彼も“好きだよ”って応えることは出来たと思う」
「だって、同じものを返しただけと言えば済むことだもん!」

それをあえて外した。
この場合、どう考えれば良いのだろうか・・・。
彼は彼で意識した?それとも・・・。

「スタンプの通り、照れてただけじゃないの?」
「そうかもしれないけど・・・ただね」

それから今日までLINEの反応がないらしい。

「既読にはなってるんだけど」

いわゆる既読スルーってやつだ・・・確かに心配にもなる。

「嫌われちゃったかな・・・私」

確かに告白のタイミングを誤ったかもしれない。
彼にして見れば試されている感があったのだろう・・・けど・・・。

「素直に“ごめんね”と送ってみたら?」

そしたら、同じものを返してくれるはずだ。
S641
(No.641完)
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[No.641-1]それでも好きだよ

No.641-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ちょっと相談があるんだけど・・・」

彼女にしては珍しいセリフだ。

「・・・みたいな顔ね」

見るからにそんな顔をしている。

「何かあったの?」
「うん・・・実は・・・」

彼女には微妙な関係の人がいる。
付き合ってはいないけど、妙に仲の良い男性が・・・。
けど、彼女は友人とは思ってはいない。

「1週間前にね、その人とLINEしてたんだけど」

彼女が頻繁にLINEしているのは知っている。
スタンプだけのやり取りも何度も目にしたことがある。

「彼が私の送ったスタンプと同じものをずっと返してくるから」

私もたまにすることがある。
悪気があるわけじゃなく、単にふざけているだけだ。

「ちょっと、変化球を投げてやったんだ」
「・・・どんな?」

確かに、終わらせ方は難しい。

「好きだよ、って文字で返したの」

最後まで聞かずとも、理由は分かる。
どさくさに紛れて、今で言う“ぶっこんだ”んだろう。

(No.641-2へ続く)

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[No.640-2]おいしいオナラ

No.640-2

その看板は随分前から掛けられていたものだった。

「結構、サビてて塗装も剥げてたんだよね」

そのせいで、肝心のキャッチコピーが一部、読めなくなっていた。

「ちなみにキャッチコピーは覚えてる?」
「もちろん!」

そこには“おいしいお米なら”と書いてあったのだろう。

「・・・だろう?」
「うん・・・一部消えて読めない文字があったから」

ただ、うっすらながら、“米”と思わしき文字が残っていた。
お米屋さんだけあって。

「米・・・が読めないか・・・・あっ!?」
「・・・気付いた?」

米の文字が消えたせいで、“おいしいおなら”になっていた。

「あはは!そりゃ、子供たちにイジられるよね!」

ある種、自然現象が作り出した芸術作品とも言える。

「・・・で、ほら!あの看板!」

そうこうしている内に、その納屋に到着した。

「へぇ~、どっちもまだあるなんて」

ただ、看板の文字は全く読めないほどさび付いていた。

「せっかく、笑わせようと思ったのに~!」
「構わないさ・・・君の話だけでも十分笑えたよ」

あの頃もこうして、みんなとはしゃいでいた。
変わらない自分が情けないやら、ホッとするやら・・・。S640
(No.640完)
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[No.640-1]おいしいオナラ

No.640-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
かつての子供たちの間ではもはや伝説となっている。
その場所までもうすぐだ。

「なんかそわそわしてないか?」
「そ、そうかな・・・」

軽く否定したものの図星だ。
その場所に行くのは約20年振りだった。

「唐突だけど、実家から少し離れた場所にね・・・」

畑仕事用らしき納屋が建っていた。

「納屋・・・それで?」
「でね、その壁に看板が掛かってたんだ」

今ではあまり見掛けない広告の看板だ。

「もしかしてボンカレーとかの?」
「そうそう!そんな感じ」

ただ、看板はメジャーなものではなく、地元の店の広告だった。

「お米屋さんの広告なんだけど」
「珍しいとか、変わってるとか?」
「ううん・・・ごく普通」

そう・・・ごく普通の看板だ。

「そこにね、キャッチコピーみたいなのが書いてあって」
「・・・でも普通なんだよね?」

繰り返しになるが、ごく普通のキャッチコピーだ。

「うん・・・けど、正確には“普通だった”になるのかな?」

看板は、ある理由のために子供たちにイジられるはめになった。

(No.640-2へ続く)

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ホタル通信 No.259

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.398  きゅうりちん
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

自分で言うのもおかしいですが、何てことはない小説風の小説ですね。

もともと日常をテーマにしているので、よほどじゃない限り気の利いた話は作れません。
確かに、一般受けしそうな小説を書くことも少なくはありませんが、概ね、このような日常を切り取ったような話になります。
気の利いた話にならない分、ネタにはあまり困らないのがメリットです。

さて、内容に触れて行けば実話度が示すとおり、ほぼ事実です。
ある日、メールのやり取りの中で、きゅうりを“きゅうり君”と呼ぶようになりました。なにがそうさせたのかは分かりませんが、無機質に“きゅうり”と呼ぶよりは、よほど愛着が持てました。
単なる物体ではなく、植物とは言えやはり生き物ですから。

スクスク育つ・・・まるでそこに赤ん坊の姿を映したのでしょうか?だからこそ“君”ではなく、幼い響きがある“ちん”にしたのかも知れませんね。
これについては、突っ込んで聞いたことがないので、真相は分かりません。

もうかれこれ、4年くらいになるんでしょうか・・・家庭菜園を誘われて始めてから。
今年のシーズンは終わって、ベランダは空のプランターが置いてあるだけです。でも・・・ひとつ楽しみが生まれました。
それが、「No.631 夏の終わり」なんですよ。
S259
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[No.639-2]再起動

No.639-2

「そうねぇ・・・」

考え込む姿からすれば目立った理由はないのだろうか。 

「やっぱり、休止中だったからかな?」
「ん?意味が良く分からない・・・」

休止中だったことはさっき聞いた。

「休んでたのを、ただ動き出しただけ」
「たまたま、その期間が長かっただけよ」

理由になっているような、いないような・・・。

「つまり、止めてないから、再開でもない、ってこと?」
「まぁ、そういうことね!」

どうやら、何かが友人を突き動かしたのではないらしい。
けど、逆に羨ましいくらいだ。

「再開じゃないなら、自分で自分を再起動させたわけね」
「再起動?・・・そうね、なんか良い響き!」
「私もまた始めようかなぁ・・・・」

よく考えれば私もブログを止めたわけではない。
ただ、更新をしなくなっただけだ。

「止めた宣言もしてないわけでしょ?」
「うん、確かに・・・」

ただ・・・本音を言えば、“それ”さえも面倒だった。
S639
(No.639完)
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[No.639-1]再起動

No.639-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
もしかしたら、辞めることより難しいのかもしれない。

「久しぶりにブログを更新したよ」

どうやら1年ぶりの更新らしい。
振り返れば、私も友人と同時期にブログを始めた。
けど、先に雲行きが怪しくなったのは私の方だった。

「もう、止めたのかと思ってた」

(・・・自分が言うのもなんだけど)

「自分の中では休止中だったんだよ」

聞けば色々と事情があって、更新出来なかったらしい。

「何となくそれに思い当たる節はあるけどね」

私の場合は違った。
ただ、単純にサボり癖が付いてしまった。
・・・で、結局、更新しなくなった。

「けど、よく再開したよね?」
「そうね・・・自分でも不思議なくらい」

有名人ならブログと言えども仕事の要素が強い。
けど、一般人なら続けようが辞めようが自由だ。

「なにがそうさせたの?」

私のためにも是非、聞いておきたい。

(No.639-2へ続く)

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[No.638-2]自分だけの宝物

No.638-2

「子供って、そんなものよね」
「私も集めてた・・・あるモノを」

自分だけの宝物・・・ひとつやふたつはあったと思う。

「しばらくは、躍起になって集めてたな・・・」

けど、冷めやすさも子供ならではだった。

「それに洗ってもホラ・・・匂うからさぁ・・・」
「・・・捨てられちゃったとか?」

結局、母親に捨てられて終わりを告げた。
タイミングとしてはある意味、丁度良かった。

「あれから、何十年と経ったな」

まじまじと王冠を見つめた。

「・・・そうだ!“私も”って言ってたよね?」
「うん、言ったよ」

彼女は彼女で何かを集めていた。
それが急に気になり始めた。

「ちなみに・・・なに?」
「指輪よ、オモチャのだけどね」
「・・・そ、それなら・・・これなんかどう?おもちゃじゃないけど」

偶然と言ってしまえばそれまでだ。
けど、たったひとつの王冠が僕の背中を押した。S638
(No.638完)
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[No.638-1]自分だけの宝物

No.638-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・あれ?」
「どうしたの?」

道端にキラリと光るあるモノを見つけた。

「ほら、これ・・・」
「・・・って、なに?」

これを手にしたのは、それこそ何十年ぶりだろうか?

「何だか分からないかな?」

お酒好きの彼女に嫌味っぽく突っ込みを入れた。

「えっ~!なになに!?」

思った通り、“その前の状態”は知らないようだ。
あくまでも注がれたお酒にしか興味はないらしい。

「王冠だよ、一升瓶の」

銘柄までは分からない。
綺麗に剥げ落ちているからだ。

「知らなかった・・・」
「・・・だと思ってたよ」

それにしても、懐かしいものを手にした。

「子供の頃、これを集めてたんだ」

キラキラ輝くそれは、宝物そのものだった。

(No.638-2へ続く)

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ホタル通信 No.258

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.381 初恋×初恋
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

タイトルが少し変わっていますが、なぜ、こうなったかは正確には覚えていません。

話を続けると、ラスト付近は恋のライバルのことが書かれていますので、多分、“恋のバトルを、“×”で表現したのではないかと考えています。
タイトルは、いつもほぼ思い付きか、そのまま名詞を並べて付けるのが大半なので、そんな意味でも変わったタイトルなのかもしれません。

実話度は高くありませんが、経験談に基づいたものです。
ただ、5年生ではなく、実際は3年生の時でした。小説の展開上、そこは脚色しています。
読み直してみると、手前味噌ではありますが、なかなかラストは秀逸かと思っています。
それまでの話の展開を、そこそこ納得できる感で終わっています。

経験談と書きましたが、恋のライバルとバトルがあったわけではありません。
その男子に好意を寄せていることはお互い知ってはいましたが、いざこざがあったわけでもなく、時が淡々と過ぎて行くだけの毎日でした。
結局、お互い、胸に秘めたまま卒業することになってしまいました。それに中学生になると、三人とも別のクラスになり、初恋は淡く消えて行きました。
T258
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[No.637-2]食欲の秋

No.637-2

結局、あの後、せいじゅうろうは菜緒(なお)の家に置いてきた。

「・・・なにかあるよな」

いつものイタズラめいたことを考えているに違いない。

「それはそれで楽しみだけど」

来週の日曜日に、また菜緒の家に行くことになっている。

(せいじゅうろうはどこだろう・・・)

菜緒の家に着くなり、まずせいじゅうろうを探した。

(・・・見える範囲にはいないようだな)

いつもなら、何も言わなくても自ら登場してくる。
もちろん、そうさせているのは菜緒だが。

「・・・ところで、せいじゅうろうは?」
「あれ?今までそこにいてはったんやけどなぁ~」

言葉とは裏腹に少しニヤケた表情をしている。
恐らく、また何か企んでいるのだろう。

「ちょっと待ってな、探してくる!」

普通に考えれば、そんなことは在り得ない。
でも菜緒とならばそれが成立する。

「なんやぁ!そんなとこにおったんやぁ~」

その言葉と共にせいじゅうろうを連れて来た。

「食べ過ぎて、大きなってしもうてん!」
S637_2
(No.637完)
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[No.637-1]食欲の秋

No.637-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------

日ごとに赤や黄に色づいて行くのが分かる。
季節はもう秋の装いだ。

「・・・よく食べるね?」
「そうなん?」

問い掛けたつもりが、逆に問い掛けられた。

「そうなん?・・・って、ケーキ5個は多くない?」

何個が相場なのかは知らない。
ただ、バイキングで出てくるような小さなものじゃない。
店頭で売られている一般的なサイズだ。

「これでも少ないくらいやで」

さすが女子と言うべきか・・・。
いわゆる“別腹”というものかもしれない。

「そや!せいじゅうろう貸して」
「ん?これか?」

カードケースに付けてあるせいじゅうろうを外して渡した。

「せいじゅうろうと一緒に食べるねん!」

そう言うと、せいじゅうろうをケーキに近付けた。
もちろん“食べるふり”だけだ。

「むしゃむしゃむしゃ・・・」
「・・・美味しい?」
「おいしいよぉ」

あくまでもせいじゅうろうが返事をしている。
俺の問い掛けも含めて、そのあたりは心得ている。

(No.637-2へ続く)

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[No.636-2]遠回りして

No.636-2

「それなら何があったの?」

あまりの気分のよさについ、遠回りをしてしまった。

「通学路の?」
「うん」

でも、これにはちゃんとした理由があった。

「音楽聴きながら来たんだけど・・・もう2、3曲聴きたくて」

このまま学校に着くのが惜しい気がした。
それに始業時間には、十分余裕があった。

「それで、真っ直ぐ行く道をワザと曲がったりしてたら」
「・・・迷子に?」
「うん、恥ずかしながら・・・」

通い慣れた道のはずだった。
でも、方向音痴の私には厳しかったようだ。

「そしたら、どこに居るのか分かんなくなって」

それでも何とか学校までたどり着けた。

「やれやれ・・・」

友人の呆れ顔に返す言葉がない。

「朝の気分の良さも、どこかに吹き飛んじゃったよ」

本当なら気分良く到着するはずだった。

「まぁ、いいじゃん!“汗”はかいたわけだし」
「えっ~!?・・・まぁ・・・そうかな」
S636
(No.636完)
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[No.636-1]遠回りして

No.636-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
時々意味もなく、気分が良い朝がある。

「珍しいじゃん、遅刻スレスレに来るなんて」
「・・・そ、そぉ、そ・・・うぅ・・・ねぇ・・・」

友人の言葉通り、スレスレで教室に飛び込んだ。
息も絶え絶えに。

「寝坊でもしたの?」
「・・・う・・・うん・・・そう・・・じゃなくて」

大分、呼吸も整って来た。

「朝起きたら・・・気分が・・・良かったので」
「気分が良い?」

友人が言いたいことは分かっている。
それなら、逆に“早く”来るんじゃないかと。

「うん、何だか良くわかんないけど」
「それで、普段より早く出かけたんだ!」

ますます、“それなら・・・”という顔をしている。

「それなら、なんで遅刻寸前になるの?」
「いつもはいないイケメンでも見つけたわけ?」

友人の言うことはもっともだ。
いつもより早く家を出て、颯爽と自転車を漕ぎ出した。
ところが・・・。

「・・・もしかして事故とかに巻き込まれたの?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど」

いわゆるアクシデントには巻き込まれていない。
良いこと、悪いことを含めて。

(No.636-2へ続く)

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ホタル通信 No.257

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.301  進化論
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

久しぶりの実話度ゼロの小説です。とは言え、話のキッカケとなるものはありました。

自分で言うのも変ですが、内容的には“狙った”感が満載の作品です。つまり「良いこと書いてるでしょ?」的な一種の作者のエゴですね。このような小説は往々にして、オチにエピソードを無理矢理くっつけて行くような作り方になります。
ですから、どこかスッキリしない出来栄えです。今回、読み返してみて、自分でも「何なんだろうね・・・」と感じてしまうほどです。

実はオチの部分は経験談なんです。つまり、前述した話のキッカケです。
運命的な出逢い・・・と思っていても、ちゃっかり記憶の中では取捨選択しています。決して好みのタイプじゃないけど、好きになった人とかもいました。でも、いつの間にか「そんな人は居なかった」のようになっていました。

運命の出逢いは、それこそ奇跡の出逢いではなく、在り来たりな出逢いを繰り返して行く中で“その他もろもろ”は自分の中で自然淘汰された産物です。
だからこそ、タイトルが“進化論”とさせてもらいました。進化ではなにせよ“淘汰”されるのは自然の掟ですから。T257
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[No.635-2]忘れられない夜

No.635-2

3つの光が点滅を繰り返している。
周りが真っ暗なせいもあり、何の点滅かは分からない。

「あぁ・・・確かに」
「もしかして・・・」

そう・・・正確には分からないが、答えは分かっている。
少なくても“アレ”ではない。

「・・・UFOだと?」
「・・・えっ、うん・・・」
「それはあり得ないだろ?」

悪気があって言ったんじゃないことぐらい分かっている。
でも・・・やっぱり彼は“彼”とは違う。

「ほら、点滅はしてるけど光自体は移動してないだろ?」

冷静に分析されると余計つらい。

「う、うん・・・」

“彼”なら、私の勘違いに付き合ってくれた。
それが嘘なのか本気なのかは別にしても・・・。

「ごめん、バカみたいなこと言っちゃって」

どこか価値観が違うような気がしていた。

(やっぱり、そうなのかな・・・)

自分の価値観を押し付けているのは理解している。
けど、他愛無いことこそ大切にしたい。

「UFOそのものじゃなくて、それを誘導している灯りの方だろ!?」

今日は忘れられない夜になりそうだ。
S635
(No.635完)
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