[No.612-2]追憶
No.612-2
「・・・今日ぐらい、晴れてくれればいいのにね」
今日はあいにくの雨だった。
それも手伝って、余計に悲しみが増して行く。
「私たちはここでお別れね」
「・・・そうだね」
関係者がそそくさと乗り込むバスを遠くから見ていた。
別れが近づくにつれ、雨足も強くなってきたように感じる。
「悲しみの雨・・・か」
友人がポツリとつぶやいた。
「そうかもね」
単なる偶然でも、今はそう思いたい。
「喜んでいるのはカエルだけね」
「ん?あぁ・・・アレね」
雨足に呼応するかのように、田んぼからの鳴き声が大きくなる。
「でも、あの人ならこっちじゃない?」
「・・・どういう意味?」
笑顔が絶えない人だった。
「悲しみの雨じゃなくて、喜びのカエルかな・・・なんて」
バスが視界から消えようとしている。
それに合わせ、カエルの鳴き声もやさしく消えて行った。
(No.612完)
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