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2014年10月

[No.569-2]土に還る

No.569-2

「・・・土に還る準備?」
「土に・・・かえる?」
「それって、死ぬってこと?」

死ぬことを、そんな言葉で表現することもある。

「そうよ」

普通に考えれば失礼な発言だ。
けど、なぜだか、腹が立たない。

「そうかもしれないね」

今すぐというわけじゃない。
遅かれ早かれ、いずれそうなる日が必ず来る。

「まぁ・・・あと五十年後くらいにして欲しいけど」
「そりゃそうよ」

僕たちは、土から生まれたわけじゃない。
けど、還る場所は、そこだと感じ取っているのかもしれない。

「私も始めようかな・・・」
「家庭菜園?」
「・・・ダメ?」

仲間が増えることは大歓迎だ。

「それなら、色々とノウハウ、教えるよ」
「ありがとう!あなたと一緒に土に還る準備をするね」
「エッ・・・!?」

あの日から、四十年近く経過した。
今日、彼女は土に還った。
S569
(No.569完)
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[No.569-1]土に還る

No.569-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「そんな趣味あったの?」
「・・・言ってなかった?」

数年前からベランダで家庭菜園を始めた。

「今年は収穫時期に出張が重なってしまって」

丁度、食べ頃に三週間近く家を留守にした。

「・・・枯れちゃった?」

青々としていた葉は枯れ、実は腐って朽ち果てる手前だった。

「あぁ、夏真っ盛りだったし」

ベランダでは恵みの雨の恩恵は受けられなかった。

「収穫を楽しみにしてたからさぁ・・・」

結果は分かっていたものの、落胆は大きかった。

「けど、意外ね」
「こんなことに一喜一憂するタイプじゃなかったでしょ?」

確かに当たっている。

「そうだな・・・自分でも不思議に思う」

正直、知り合いから勧められて、何となく始めた。

「けど、始めてみたら、なんか落ち着くんだよね」

懐かしいような・・・そんな感覚だった。

(No.569-2へ続く)

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[No.568-2]物忘れ

No.568-2

「そのうち、思い出すパターンよ」
「それもそうね」

別の景色が、記憶を呼び戻してくれるかもしれない。

「それより、楽しみよね」
「・・・何が?」

友人の言葉になぜかピンと来ない。

「何がって・・・あなたが“行こう!”って言い出したんでしょ?」
「今・・・アウトレットに向かってるんでしょ?」

友人の言葉で我に返る。

「そ、そうだった!」
「まさか、それが思い出せなかったこと!?」

さすがにそれじゃない。

「大丈夫よ、ちゃんと向かってるから」
「・・・それならいいけど」

(そう・・・ちゃんと向かって・・・ない?)

「やだ・・・通過しちゃった」
「えっ!?」

本当なら、ついさっきの出口から降りなければならなかった。

「いつものクセで、つい・・・・」
「あの店に行くコースだよね?」

今、思い出した。
S568
(No.568完)
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[No.568-1]物忘れ

No.568-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・ん?)

何か胸騒ぎがする。
けど、決して悪いタイプのものじゃない。

「どうしたの?そわそわして」

ハンドルを握る私への注意喚起も含ませた言葉だろう。

「・・・う、うん・・・この景色を見てたら・・・」

高速道路からは見慣れた風景が広がる。

「何かを思い出してきて・・・」
「恋愛関係?」
「知ってるくせに!」

ここに越して来てから、3年が過ぎようとしていた。

「そうだったわね、ごめん、ごめん!」

いまだに恋人は居ない。
だから、ここには恋愛話は存在しない。

「じゃあ、なに?」
「だから・・・それが思い出せなくて」

いわゆる“ここまで出掛かっている”パターンだ。
気持ちが良いものではない。

「なんだっけ・・・な・・・」
「それはそうと、安全運転よろしくね」

確かに運転中だ。
余計なことは考えないほうが良い。

(No.568-2へ続く)

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ホタル通信 No.223

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.364 見えない壁
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

実話度はやや低めです。この小説も当時の心境を綴ったようなタイプの話です。

前半の友人の行動は創作ではなく事実なんですが、冒頭、“当時の心境”と書いた通り、本当は友人ではなく作者のことなんですよ。
もともと冬のホタルは作者を必ずしも牽引役として登場させるわけではなく、時には牽引役に対する相手役だったりします。
客観的に物事を語りたい時、少しオブラートに包んだような内容にしたい時などに、このような手法をとります。

物語の進行は、どちらかと言えば、ダラダラ、クドクド・・・そんな感じでしょうか?
タイトルである“見えない壁”は、後半を書いているうちに自然と出てきたキーワードです。オチに相当するラストも、それを軸に考えてみました。
何度か書かせて頂きましたが、ラストを考えてから書き始めることはほとんどなく、ぶっちゃけ、成り行き任せです。これを作者は「登場人物達に任せる」と表現しています。

自分にとっての雑踏は、騒がしい象徴ではなく、寂しさの象徴です。人は大勢居るけど、そのつながりは限りなく希薄・・・。
けど、その中で、もがき苦しみ、生きていることを実感しているのかもしれませんね。
S223
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[No.567-2]雪の壁

No.567-2

「ある日、物珍しさもあったから、散歩に出掛けたの」

折角なので、普段は通らないような道をあえて選んだ。
それが間違いのもとだった。

「それで迷子に?」
「うん、真っ白な壁に囲まれて方向感覚が麻痺しちゃって」

帰り道を選んだつもりが、見知らぬ場所に出てしまった。
山の手に住んでいたせいか、曲がった道も多かった。
それがいっそう、方向感覚を鈍らせる。

「それでどうなったわけ?」

気付けば、陽も傾きかけていた。

「そしたら、覚えのある匂いがしてきて」

家のすぐ近くに独特の匂いがする焼肉屋があった。

「よく見たら、家の裏手に居たの」

手軽にスマホでナビできる現在ではあまり聞かない話だと思う。

「今でも覚えてる・・・当時のこと」
「それは迷子のこと?それとも匂いのこと?」
「もちろん、両方よ」

焼肉屋での会話だった。
S567
(No.567完)
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[No.567-1]雪の壁

No.567-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・ど、どうしよう・・・)

歩道は背丈以上の雪の壁で覆い尽くされている。

「ここ・・・どこだろう・・・」

そんなに遠出をしたつもりはない。
それに少しは通い慣れた道のはずだった。

「それ、夢の話?」
「ちがうわよ、現実の話」

季節柄、雪の話になった。

「つまり、迷子になったってことでしょ?」
「そうよ」

仕事の都合で、5年ほど北海道に住んだことがあった。

「初めて本格的な冬を迎えたとき・・・」

大雪で世界が一変した。
銀世界・・・というより、経験がない真っ白な世界。

「雪が降るとね、街の印象も随分と変わるんだよね」

多少、見慣れてきたはずの建物や道が、別物に見えた。

(No.567-2へ続く)

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[No.566-2]継ぎ足し

No.566-2

「当たり前でしょ」
「こんな、とってつけたような話する時は決まって・・・」

好きな人ができたか、その逆の時だ。
ただ、今回は・・・。

「で、どっちなの?」
「・・・どっちでもない」

今回の例え話をよく理解して欲しいところだ。

「・・・まさか、とは思うけど・・・」

友人が神妙な顔をする。
それに応えるかのように、私も神妙な顔をした。

「えっ・・・本当にそうなの!?」
「う、うん・・・なりゆきでそうなっちゃって」

歯磨き粉の例えと同じだ。
結果的にそうなってしまった。

「でも、最終的には“振る”わけでしょ?」

世間では短期間であっても二股と言うだろう。
でも、私は進んでそうしたわけではない。

「そうね、捨てそこなったものを捨てるだけ」

日常は結構そんなことで溢れている。
S566
(No.566完)
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[No.566-1]継ぎ足し

No.566-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
残り少ないのに、無くなりそうで案外無くならない。
日常は結構そんなことで溢れている。

「あるある!そんなこと」
「例えば・・・歯磨き粉なんかもだよね?」
「そうそう!」

チューブから出しにくくなる。
大抵、そんな頃に新しい歯磨き粉を買う。

「無くなったらいやだもんね」

買いだめする習慣はない。
だから、無くなるころ合いを見計らい、新しい物を買う。
ところが・・・。

「案外無くならないよね」
「量が減っても絞りだしたり・・・ああして、こうして・・・」

これからが驚くほど長い。
数日で無くなると見込んだものが気付けば1週間を超え・・・。

「物によっては、それ以上もよくある」

延ばそうと意地になっているつもりはない。
結果的にそうなってしまうだけだ。

「・・・で、ようやく本題でしょ?」

さすが友人だ。
私のことをよく理解している。

(No.566-2へ続く)

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ホタル通信 No.222

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.347 遅いメール
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

この小説にある背景については、ほぼ実話です。モデルになる人も実在し、時々、小説に登場して頂いています。

小説の通り、返事が極端に遅い人です。
それこそ、いつ頃の何のメールに対する返信なのか分からないことが、しばしばありました。時にはひとつの話が完結するまでに数か月掛かることさえありました。
腹が立つというより、そこまで覚えていることがとても不思議でなりませんでしたね。

そんな状態から生まれたのが、この小説です。
“いつ頃の何のメールに対する返信か分からない”この曖昧さを利用して、少し艶っぽく仕上げてみました。
彼女がさも告白したような返信に付け入り、どさくさにまぎれて告白する・・・これが小説の軸になっています。

ただ、最後まで読んで頂ければ分かるように、彼女は告白したわけでもなく「私も○○が好きだから、それを買いに行くために付き合ってください」というのがオチになっています。
ちなみに、○○に相当するものは、特に何も想定していません。
重いと想いを引っ掛けているわけですから、女性ではそれなりの重量物ということになりますね。

艶っぽく仕上げた・・・と前述しましたが、今でもお互い、良い意味で中途半端な関係を続けており、艶っぽさも、多少なりとも事実のひとつなですよ。
T222
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[No.565-2]酔った勢いで

No.565-2

飲むと多少、気持ちが大きくなる傾向にあるようだ。
でも、お酒は決して強くない。
お酒に呑まれてしまうタイプだ。

「これ以上、君のイメージを悪くしたくないからね」
「イメージが悪い・・・私に対する?」

話が始まって早々“そんな人”と言われている。

「そんなことしない人に見えてたんだろ?」

酔った勢いを、ワイルド系として片づけてはいけない。
今の時代、一歩間違えはセクハラになる。
いや、それでは済まない。

「確かに、そんなことしない人だと思ってた」
「だろ?」
「けど、落胆したわけじゃないわよ」

落胆?・・・意味がよく分からない。

「なんだよ、それ?」
「いいから・・・そんなことより、飲みなさいよ!」
「だから、飲むのはまずいって!」

次の朝、“落胆じゃない”意味が分かった。
S565
(No.565完)
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[No.565-1]酔った勢いで

No.565-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
その言葉は、あまり良い意味では使われないだろう。

「あなたって、そんな人だったの?」

飲み会の席で、隣の同僚と酒にまつわる話をしていた。

「じゃあ・・・どんなイメージだったんだよ?」
「草食系男子と思ってたから」

確かにイメージはよくない。
何も無かったとは言え、寸前まで行ったのは事実だ。

「だから、あくまでも酔った勢いで・・・」

ただ、僕だけでなく彼女も酔っていた。
酔った者同士が、それぞれの勢いで・・・。

「何度も言うようだけど、行ったのは確かだけど」
「二人とも酔い潰れてしまって」

結局、何もないまま朝を迎えた。
・・・とは言え、大いに誤解を招くことにはなった。

「そりゃ、そうでしょ」

それからというもの、お酒は控えめにしている。

「・・・そうみたいね、全然飲んでないみたいだし」

(No.565-2へ続く)

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[No.564-2]読書の秋

No.564-2

「せいじゅうろうも読んでるんよ」
「せいじゅうろうも!?」

思いがけない所から、いつもの展開になってきた。

「自分の本を自分で読む・・・か」

せいじゅうろうはリラックマであり、キャラクターだ。
けど、少なくとも菜緒(なお)前では、そう扱ってはいけない。

「で、どこにいるの?」
「向こうの部屋で読んどるわ」

一応、断った方が良いだろう。

「行っていい?」
「もちろん、ええよ」

すでに仕込みは終わっているようだ。

「本気で読んでるみたいやで」

とにかく、となりの部屋に行ってみた。
すると、どう見ても本を抱えて読んでいるヤツがいた。

「ほんとだ、本気みた・・・い?」

いつものせいじゅうろうとなんか雰囲気が違う。

「読書の秋・・・だからやろ?」
Image
(No.564完)
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[No.564-1]読書の秋

No.564-1  [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
珍しく菜緒(なお)が本を読んでいる。

「何、読んでるの?」

その本を覗き込んだ。

「あっ、これな・・・」

返事を貰う前に、どんな本か分かってしまった。
活字はほとんど見当たらない。

「せいじゅうろうの本なんや」

だららん日和・・・まさしく、せいじゅうろうの本だ。
以前、同様の本を見たことがある。

「絵本なんやけど、ええこと書いてるで」

そう・・・それは当っている。
たかが、絵本と侮るなかれだ。

「確かに、グッとくる一言も多いよね」

シンプルで日常的な言葉でしかない。
けど、それが格言めいて聞こえるから不思議だ。

「せいじゅうろうやもん!」

答えになっていないようで、なっている。

(No.564-2へ続く)

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ホタル通信 No.221

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.327 京阪電車
実話度:★★★★★(100%)
語り手:女性

実話度はほぼ100%です。心情というより、珍しく描写に拘った作品です。

小説では乗車駅は書いていませんが、どこだと思われますか?
実は、古川橋駅なんですよ。古川橋から乗車し、淀屋橋まで向かうまでを小説化しています。
・・・ですが、目的はもうひとつあったと言いますか、本当はそれを目的に古川橋に行ったのです。

小説の冒頭に「記憶では仕事場に10時ごろ着くと聞いた。それを逆算すると、今頃の時間になるだろう」という記載があります。
彼の生活サイクルに合わせて、より疑似体験を濃いものにしたいと考えたのではなく、その時間なら、もしかして逢えるかも・・・という期待があったからなんです。
彼はちょっとしたモデルのような仕事をしていたのですが、表舞台でキラキラ・・・というようなものではありませんでした。

そんな彼と音信普通になり、でも逢いたい気持ちは抑えられない・・・これが古川橋へと向かった理由なんです。
もしかしたら、彼に逢えるかも・・・そんな想いで、駅に立ち、何本も電車を見送りました。
小説としては、そんなに気合を入れて作ったわけでもなく、他の小説よりも特に優れているとも思えません。でも、不思議なことに一番多くの拍手を頂いており、なにか共感していただけるものがあったのかな?・・・と嬉しい限りです。

最後に、当時はもう二度と古川橋に行くことはないだろうと思っていたのですが・・・「No.505 私に行けと・・・」
T221
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[No.563-2]勿忘草

No.563-2

「ごめん、本来は必要ないね」
「・・・ハンドルネームで十分やもんな」

だから、本名なんて名乗る必要がない。

「でも、なんで教えてくれたの?」
「せやね・・・何でやろう?」

少なくとも僕から聞いてはいない。
それに、知りたいとも思わない。

「知らんほうが良かった?」
「ん?いや、そうじゃないんだけど」

知ったところで何かが変わるわけでもない。
けど、知れて良かったかもしれない。

「じゃあ、“奈央ちゃん”でいい?」
「ええよ」

この瞬間、彼女は“綾”から奈央に替わった。

今でも彼女の自己紹介を思い出すことがある。

「今は“南沢奈央さん”の・・・って紹介してるのかな?」

秋晴れの空に、彼女の面影が重なる。
S563
(No.563完)
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[No.563-1]勿忘草

No.563-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「奈央・・・ほら、AV女優の」
「・・・あぁ、彼女ね」

知ってる自分が少し照れくさくもあった。
ただ、TVにも出てるから有名人ではある。

「うん、その彼女と同じ名前なんや」
「他に例える人がおらへん」

そうかもしれない。
目の前の奈央と同じ名前の有名人・・・確かに居ない。

「そうだよね・・・・知る限り、居ないな」
「せやろ?」

とにかく、ちょっと変わった自己紹介になった。

「けど、僕にとっては分かりやすかったよ」

聞けば、知らない人も居るから引かれる時もあるらしい。

「それなら普通に、奈良県の“奈”とか中央の“央”とか言えば?」
「なんか面倒やん」
「自分の名前にも面倒もなにもないだろう!?」

とは言ったものの、良く考えてみたら・・・。

(No.563-2へ続く)

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[No.562-2]涙の量

No.562-2

「だったら、その涙・・・どう説明するの?」
「正しくは“涙の跡”になるのかもしれないけど」

彼に別れを告げた後、夜通し泣き続けた。

「それこそ、枯れるまでね」

夜が明ける頃には、もう涙は出なくなっていた。

「でもね、正直に言えば・・・」

枯れたというより、泣き疲れて、どうでも良くなってきた。

「そしたら不思議なことに、どう頑張っても泣けなくなって・・・」
「・・・」

友人の沈黙は、すぐに大笑いに変わった。

「ちょ、ちょっとなにそれ~!」
「そんなに笑わなくていいじゃない!」

本当に涙は出なくなってしまっていたからだ。

「じゃあ・・・後悔は?」
「もちろん、してないわよ」
「涙が枯れた時、そう決意したの」

涙は枯れることはない。
けど、枯れたように見えることはある。
S562
(No.562完)
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