[No.558-2]壊れたおもちゃ
No.558-2
「正しくは、伸ばしたけど、止めたの・・・」
前と同じように木の上で、一生を終わらせようと一度は考えた。
「・・・どうして?」
「今になって“気持ち悪い!”ってことないでしょ?」
もちろん、ちゃんとした理由がそこにある。
「鳴き始めたの・・・」
「・・・そのセミが?」
ただ、例の大合唱には程遠い、か細い鳴き声だった。
「鳴いているというより、何だろう・・・壊れたおもちゃみたい」
「壊れたおもちゃ?」
鳴き声が途切れたり、大きくなったり小さくなったり・・・。
調子の悪いおもちゃのようだった。
「それこそ、もう電池が切れそうで」
命の火が消えて行くのが見えた。
あれだけ、騒がしい連中だからこそ、そのギャップは大きい。
「電池・・・か・・・子供ならそう言いそうね」
「最後に、鳴き声を披露しに来たのかもしれない」
私が見守る中、懸命に生きたセミの電池は切れてしまった。
(No.558完)
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