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[No.552-1]最初の一日

No.552-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
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「今日で最後なんです・・・」

声を掛けられて、あることに気付いた。
でもあえてそれを口にしなかった。

「えっ!」
「今までありがとうございました」

別にお礼を言われるほど特別な貢献をしたわけではない。

「あっ・・・いいえ、僕はそんな・・・」

僕は単なる客のひとりに過ぎない。
ただ、少なくとも月1回、そして5年間・・・この店に通ってきた。
いくつかある店舗の中でも、あえてここを選んでいた。

「最後にお会いできて良かったです」
「すごい偶然ですよね」

偶然いう言葉は、この瞬間のためにあったように思えた。
いや・・・偶然以上かもしれない。

「そう言えば、こうやってお話するの、初めてですよね?」

見透かされたのだろうか・・・先に彼女から言われた。

「そうなんですよね」

5年間通っても注文する時以外、会話をしたことがなかった。
つまりこれが、最初で最後の会話になる。

(No.552-2へ続く)

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