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2014年5月

[No.538-2]10年越しの告白

No.538-2

男子と女子が別れて授業を受けることも多かった。
もとの教室には男子が残り、女子が他の教室へ移動した。

「そのことなんだけど・・・」

ある日、彼女が日記を机の上に出したままにしていたことがあった。
それを心無い男子に読まれてしまった。

「あなたの名前、書いちゃったものだから」

“・・・君が、私のことをずっと見ていた”日記にはこう書かれていた。

日記のことはアッという間に広がった。
そして攻撃対象は僕ではなく、彼女に向けられた。

「ううん、私が勘違いしたからいけなかったの」
「そうじゃない・・・本当に・・・さんを見てたんだ」

当時、照れ隠しもあって、彼女の勘違いということで片付けた。
それもあって、自意識過剰な女・・・そう思われるようになった。

「僕が本当のことを話していたら・・・」

彼女の表情が変わっていくのが分かる。

「それって、好きだったから見てたってこと?」
「あぁ、好きだった」

正確には今も・・・かもしれない。

「みんなぁ~!告白がようやく実ったよ!」
「・・・え?え・・・えええええっ!!」

今までとは違う歓喜の声が上がる。
出しっぱなしになっていた、あの日記・・・
全てはそこから始まっていた。
S538
(No.538完)
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[No.538-1]10年越しの告白

No.538-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
さっきから、幾度となく歓喜の声が飛び交っている。
でも、僕の目的はそっち方面ではない。

「・・・君、だよね?」

歓喜の声をかき分けて、彼女が僕の目の前に座る。

「・・・さん?」

わざと記憶が曖昧なふりをした。
本当は彼女が入ってきた瞬間に分かっていた。

「わぁ・・・覚えててくれたんだ!」

逆に忘れる方が難しいと言ったほうがいい。
あんなことがあったからだ。

「だって、学年一、かわいかっただろ?」
「もぉ!上手いんだから!」

事実、彼女はかわいかった。
だから、彼女に好意を寄せる男子は数知れずいた。
その反面、それを良く思わない女子も多かった。

「あれから、もう10年たつのね」
「・・・そうだね」

少なくとも僕にとっては特別な10年だった。

「あのときは本当にゴメンね・・・迷惑掛けちゃって」

やはり、その話題は避けて通れない。
けど、思った通り彼女は、今も勘違いしたままだ。

「私が学校で日記を書いていたせいで」

(No.538-2へ続く)

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ホタル通信 No.208

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.287 おしゃれな演出
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

ホタル通信を書く際には、小説を読み直しているのですが「懐かしい!」と叫んでしまいそうなくらい、当時のことを鮮明に覚えています。

彼とパフェの存在は、高校時代に付き合っていた話をするための言わば小道具であり創作です。実話度80%は、その高校時代のエピソードがほぼ事実ということを表しています。
小説中では、“グラスには薄紫色のジュースが入っていたと記憶している”と、書いています。
このジュース・・・なんだと思いますか?(現在も発売中かどうかは不明ですが)一時期、復活した“フルーツパンチ”なんですよ。
飲み物そのものが、トロピカルなイメージがあるので、これを採用したのでしょうね。

最初の一、二本は美味しくいただけたのですが、沈黙が続く中、気付けばポッキーが個体ではなく、もはや液体に変わろうとしていました。
でも、小説に書いた通り、これによってまさしく緊張も溶けて行きました。小説では当時の彼が“それを狙っていたかも”のような書き方をしていますが、おそらくそんな狙いはなかったと思っています。

最後になりますが、はじめて彼の家に行った時の話は、この「おしゃれな演出」の他に、もうひとつ書いています。
もし良ければ探してみてください。
T208
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[No.537-2]苦労して

No.537-2

「話のこしを折るようで悪いけど・・・」
「・・・なに?」

友人がなにか言いたげな顔をしている。

「亀を見つけるのに苦労した・・・って話だけど」
「ん?もっと聞きたいの?」
「そうじゃないけど・・・」

近所の男子を引き連れて、毎日のように小川に繰り出した。
私たちにとって、小川は格好の遊び場だった。

「だって、女子の行動とは思えないでしょ・・・亀なんて」
「亀だけじゃないのよ、フナとかザリガニと・・・」
「わ、わかったから!」

自分で言うのも変だけど野生児そのものだった。
獲物を求めてさまよう・・・まるで狩りをしているようでもあった。

「・・・なのに、今じゃね・・・」
「な、なによ・・・」
「本当は、やればできるはずでしょ?」

言いたいことは分かっている。
今は男の一匹さえも“狩る”ことができない、腰ぬけだと・・・。S537
(No.537完)
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[No.537-1]苦労して

No.537-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
家の近所に小さな小川が流れている。
今の時期、特に奴らが目立つ。

「なんでこんなに亀がいるんだろうね」
「・・・亀になにか恨みでも?」

無いと言えばないし、有ると言えばある。

「見てよ、あの数・・・」

親亀の背中に子亀が、子亀の上に・・・まさしくその状態だ。

「ほんとだ・・・それにあっちにも!」
「でしょ!」

子供の頃、家の近所にも小川が流れていた。

「昔は逆に、亀を見つけるのに苦労したのよ」

それこそ、探しても見つけられない。

「そうなんだ・・・昔のほうがいっぱい居そうな気がするけど・・・」
「それだけ、隠れる所があったからじゃないの?」

時より、人里に下りてくる熊みたいなものだろう。
本来の住処を奪ってしまった結果だ。

(No.537-2へ続く)

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[No.536-2]すずめの涙

No.536-2

「ふ~ん・・・」
「・・・連れて帰るべきだった?」

やはり、あの場合、やさしくない男になるのだろうか?

「ううん、ちょっと思い出しただけ」
「へぇ~、そんな経験あるんだ?」

言い終えた後に気付いた。
そんな経験が僕にもあった。
僕にも・・・というより、彼女といっしょにそれを経験した。

「そのすずめも・・・」
「逃げようにも逃げ場所がなかったんやろな」

たまたま、とめていた自転車のそばに彼女が座っていた。
単に座っているだけではないことは見れば分かった。

「そう言えばそんなこともあったよな」

そう考えると、やはり連れて帰るべきだったのだろうか?

「何が一番いいのか、そんなん誰にもわからへん」
「そっとしといたほうが、いいときもあるし」

彼女はどうだったのか・・・そう言われると不安になる。

「そやけど、うちの知ってるすずめは感謝してると思う」S536
(No.536完)
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[No.536-1]すずめの涙

No.536-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・ん?)

自転車のカゴに何かとまっている。

「・・・すずめ?」

普通なら有り得ない距離で目が合っている。
・・・にもかかわらず、逃げる気配がない。

「それで、どうなったん?」

珍しい体験だけに早速、次の日話題にした。

「さすがに触ろうとしたら飛び立ったんだけど・・・」

飛び立ったというより、駐輪場の隅に逃げ込んだかたちになった。

「逃げ込んだ?」
「うん、体が小さかったから子供だったと思う」

上手く飛べなかったのかもしれない。
ケガをしていたとも考えられる。

「それに、そもそも夜だったしな」

さすがに夜空を飛んで逃げるわけにはいかないだろう。

「それから、どないなったん?」
「隅っこでジッとしてたから、そのままにして帰ったよ」

(No.536-2へ続く)

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ホタル通信 No.207

小説名:No.289 社交辞令
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

狙ったわけではありませんが、偶然、前回のホタル通信と同じ組み合わせの登場人物です。

それに、時系列で考えると、前回紹介した小説の後の話になります。
実際に引っ越しを知らせるハガキが届きました。でも、郵便ではなく、いわゆる社内便で僕のもとへ届きました。真意は分かりませんが、何となく思い付くものはあります。でも、そこには今回は触れないことにします。

なぜ、わざわざハガキを送ったのか・・・大いに悩みました。
小説にも書いた通り、今までも彼女の住所を知りませんでしたから、新しい住所も知る必要もありませんでした。
ですから、社交辞令として片付けるには疑問が残ることになりました。
結局、真意は分からぬまま、彼女の家を訪れることは今の今までありません。
本当に遊びに行けばいいものなのか、社交辞令としてこのままの状態を維持するのがいいのか・・・事実は以上の通りです。

小説のラストは創作です。
社交辞令と言いながらも、家に謝りに来い・・・まさしく商業的なオチを用意してみました。
・・・ですが、もし彼女にそんな気があったら、本当にこうなる可能性はゼロではないかも?
T207
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[No.535-2]インスタン島

No.535-2

「本当に覚えていないの!?」
「ごめん・・・」

結構、クラスでも話題になったことは覚えている。
タイトルもそれなりにウケた。
今思えば、その頃から多少文才があったのかもしれない。

「じゃ、今度、作ってよ?」
「・・・今度?」

確かに、ブログで小説のようなものを書いている。
今の技術を持ってすれば簡単かもしれない。

「言ってはなんだけど・・・」
「たかが小学生の考えることじゃない?」

そう・・・友人が言うとおり、たかが小学生の考える小説だ。

「でもさぁ・・・子供なりの発想もあるでしょ?」
「子供だからこそ、書けるみたいな・・・」

大人では思いつかないような発想がそこにあったかもしれない。

「その点は大丈夫じゃない?」

褒められている?・・・それとも遠回しに馬鹿にされている?S535
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[No.535-1]インスタン島

No.535-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・それ、わざとだよね?」
「もちろんよ」

記憶では・・・小学5年生の時だったと思う。
国語の時間に“小説”を書く授業があった。
その時に私が作った小説のタイトルを、今でも覚えている。

「モアイ像で有名な・・・」
「イースター島でしょ?」

今の小学生はさておき、当時はそんな程度だろう。
響きが似ている・・・つまり、ダジャレのつもりだった。

「そう!それをもじって、ずばり“インスタン島!”」

つまり、インスタントラーメンのインスタントに引っ掛けた。

「・・・だめ?」
「ううん、逆に興味がある」

内容を一言で言えば、冒険物だ。
南海の孤島で繰り広げられるスリルとサスペンスのつもりでいた。

「ますます、聞きたくなってきた」
「ただ・・・」

肝心の中身がどうしても思い出せない。

(No.535-2へ続く)

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[No.534-2]釣り日和

No.534-2

「・・・で、せいじゅうろうは?」

防波堤に腰掛けるやいなや質問してみた。

「せいじゅうろうは、もう釣りしてはるよ」
「え・・・えっ!」

今までの経験からすれば・・・。
程度の差はあれど菜緒(なお)の言葉にうそはない。

「あっちの方に、行ったみたいやで」
「どこだよ?」
「小さいから、見えへんだけ」

確かに見渡せる範囲には居ない。
テトラポットの陰にでも居る設定だろうか。

「・・・見に行ってもいいの?」
「それはあかん!“釣れたら見せにくる”って言ってはったから」

結局、“釣れませんでした”で終わるオチなんだろうか?
その時だった。

「せ、せいじゅうろうが、釣れたって!」
「ど、どこだよ!?」

菜緒の足元からわざとらしく、あいつが登場した。

「わぁぁ!大物やん!」
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(No.534完)
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[No.534-1]釣り日和

No.534-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
特に何かを意識して、発言したわけではない。
なんとなく、そんな気になった。

「今度、釣りにでも行こうか?」

暖かい日が続いている。
単に海へと繰り出すよりも、目的があった方がいい。
それに弁当片手にノンビリ釣りでも・・・憧れでもあった。

「・・・魚つり?」
「うん、ほら・・・こんな陽気じゃない」

陽気と魚つりを、多少強引に結びつけてみた。

「それも、そうやな」
「だろ?」

何が“だろ?”なのか・・・。
自分でも恥ずかしくなるくらいの返し方だ。

「せいじゅうろうは、連れていってええの?」
「ん?もちろんいいよ」

今回ばかりは、せいじゅうろうも出る幕はないだろう。

「海に落ちないように“注意するよう”言っておいて」
「せやね!言っとくわ」

他人には滑稽に見えてもお互い本気で言っている。

(No.534-2へ続く)

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ホタル通信 No.206

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.211 あの空の向こうに
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

小説のような会話こそありませんでしたが、シチュエーションは小説の通りです。

作者が男性、女性であるかは別にしても、実際に小説上の彼女は北の大地・・・地元である北海道に戻りました。
その彼女は何度も冬のホタルに登場しています。何度か書かせて頂いた通り、これだけ書き続けて来ても登場人物はごく限られています。

もともとは特に親しい間柄ではありませんでしたが、この地で再び出逢ったことで、少し距離が縮まりました。そのきっかけは「No.189 小さな勇気」であり、「ホタル通信 No.090」で舞台裏も書いています。
正確には同郷ではないのですが、永く北海道で仕事をしていたせいで、気持ちの上では道産子だと思っています。
彼女が北海道に戻る理由・・・もちろん転勤であることには間違いはありませんが、それは形の上だけと言ったほうがいいのかもしれません。

結局、彼女とは何もなく、その後はごくたまにしかメールのやりとりをしていませんでした。
それに、メールを送ってもメールが来たとしても、返事が来るのが物凄く遅い人だったので(笑)
ですが、これをもとにした小説も書いていますし、最近はもっぱらLINEで・・・という話も書いているんですよ。
T206_2
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[No.533-2]Perfect Sky

No.533-2

もし、子供に聞いたどう答えるのだろう・・・。
素直に宇宙があるとか、何もないとかと答えるのだろうか?

「自分は何があると思ってるの?」
「えっ!わたし・・・」

彼と同じで、どう答えれば良いのだろう・・・。

「とりあえず・・・ゆ、ゆめ、かな!?」

再び彼がキョトンとした顔をする。

「ずいぶんとロマンチックな答えだな」

まさしく苦笑・・・という顔だった。

「い、いいじゃないの!」
「まぁ、そう怒るなって」

でも、冷静に考えれば、本来は自分が撒いたタネだ。
彼にあたるのは筋違いもいいところだ。

「ごめん・・・」
「空の向こうには、笑顔があるんじゃないかな?」

その言葉通り、私に笑顔が戻った。
S533
(No.533完)
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[No.533-1]Perfect Sky

No.533-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「ねぇ、空の向こうには何があるんだろうね?」
「・・・空の向こう?」

彼がキョトンとするのも分かる。
あまりの青空に、思わず口に出てしまった。

「哲学的に答えればいいの?それとも・・・」
「う~ん、どうだろう・・・」

自分で問い掛けておきながら、返答に困る。

「ごめん、何となく聞きたい気分になったので」
「・・・ほら、こんなに青空でしょ」

それこそ絵に描いたような青空だ。
雲ひとつ見当たらない。

「まぁ・・・分からないわけじゃないけど」

街外れの海辺は、雑踏とも縁遠い。
加えて、時より心地よい風が吹き抜けていく。
それらが、いっそうそんな気にさせる。

「でしょ!!」

思わず、声高らかに反応してしまった。

(No.533-2へ続く)

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[No.532-2]独りの時間

No.532-2

ゴールデンウィーク中ということもあるのだろう。
カップルや友達同士が多い。
一人で飲んでいる人は・・・見渡す限り居ない。
いや、正しくはここに一人いる。

(来るんじゃなかった・・・)

今になって後悔している。
最初は大人な気分を味わう目的もあった。
いわゆる“酒場”で独り飲むことに憧れもあったからだ。

(・・・私を見て笑ってる?)

周りの視線が気になる。
被害妄想だとは分かっているが・・・。

「大人な気分どころじゃないね、全く・・・」

とりあえず、冷静を装い飲み続けることにした。
幸いにもフォークが二本ある。
加えて、人待ち顔をしていれば、なんとか乗り切れるだろう。

「・・・でも、ジョッキが・・・あっ!そうだ」

もうひとつジョッキがあれば完璧だ。
大急ぎで、目の前の一杯を飲み干した。

今回のことでひとつ教訓が生まれた。 
独りで飲むこと・・・大人な余裕を楽しむのではない。
耐え忍ぶ精神力を鍛えるためなんだ・・・と。
S532
(No.532完)
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[No.532-1]独りの時間

No.532-1

登場人物
女性=牽引役  
-----------------------------
用事を済ませた帰り、たまたまイベントに出くわした。
それが何のイベントであるかは遠くからでも分かった。
デカデカと看板があがっているからだ。

「・・・本場のビールってわけね?」

特にビールが好きなわけじゃない。
でも、音楽と天気の“陽気”に誘われて、つい足が向いてしまった。

(軽く一杯くらいなら・・・)

とりあえず、黒ビールとウィンナーの盛り合わせを注文した。

「ここでいいか・・・」

あいにくの人だかりでテーブルに空きがない。
仕方なく、芝生の上に腰掛けることにした。
周りにもそんな人たちで溢れている。

(・・・ただ)

思った以上に居心地が悪い。
それは芝生に腰掛けているからじゃない。
その答えは皿の中にもある。

「フォーク・・・二本あるし・・・」

少なくともひとりで来たとは思われていない。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。

(No.532-2へ続く)

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