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2014年2月

[No.517-1]疎遠

No.517-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「テレビ電話でもしてるの?」
「えっ!なんで!?」
「だって、スマホに向かって、ブツブツ言ってるじゃん、さっきから」

独り言が多いのは自覚している。
ただ、あらためて言われると、少し腹立たしい。

「そんなにひどかった?」
「なに言ってるか、聞き取れはしなかったけど」

でも、考え事をしていたのは確かだ。
それが、口に出たのかもしれない。

「・・・しれないって、思いっきり出てたわよ」
「そうダメ押ししないでよ」
「・・・で、なに?」
「う、ううん・・・」

疎遠になってしまった知人がいる。
もともと、親密な関係ではなく、適度に距離をとっていた。

「男の人?」
「まぁ、いちおう・・・」

数ヵ月に一度、メールのやりとりをする程度だ。
それもスマホではなく、パソコンでだ。

「今どき珍しいね」
「昔でいう、文通みたい」

それはそれで当たっているのかもしれない。
けど、それには理由がある。

(No.517-2へ続く)

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[No.516-2]雪景色

No.516-2

胴体はサッカーボールより、ひとまわり小さいくらいだ。

「こうして、頭を乗っけたら・・・」

もう、完成が目前だ。

「楽しそうね?」
「だって、滅多にないことだもん」

友人はあることに気付いていない。
東京で生まれ育ったのに東京タワーに行ったことがない。
例えるなら、それに似ている。

「暇だから私も作ろうかな」

よくよく考えなくても、雪だるまを一度も作ったことがない。
雪質が違うのが大きな理由だ。
ここの雪と違い、サラサラすぎて、そのままでは固まらない。

「おっ!プロの出番ね」

それに、あえて作る人も居ない。
自分もそうだった。
実際、観光客が作ったであろう以外は、見たことがない。

「・・・案外、下手ね」
「だって、初めてなんだから・・・」
「・・・えっ!?」

それぞれが作り上げた雪だるまが並ぶ。

「あはは!情けない顔ね、あなたもそれも」
「だって、うまく作れなかったんだもん!」
午後の陽射しで、雪だるまの顔も溶け始めていた。
S516
(No.516完)
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[No.516-1]雪景色

No.516-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「わぁ~!結構、降ったわね」
「・・・驚かないわけ?」

雪国に長らく住んでいた私にとっては、見慣れた風景だ。
ただ、ここでこれだけまとまって降るのは珍しいだろう。

「・・・そっか、雪国育ちだったわね」
「まぁ・・・ね」

面倒なので特に否定はしなかった。
本当は生まれも育ちも、雪とは縁遠い場所だ。
でも、仕事の都合で地元以上に長らく雪国に居た。

「見て見て・・・あれ!」

見渡せる範囲に、いくつも雪だるまが作られていた。

「やっぱり、定番だよね」

雪だるまに、雪合戦・・・。
雪と縁遠い人たちにとっては、憧れでもあるのだろう。

「私たちも作ってみない?」

どうやら、目の前の友人もそのひとりらしい。

「・・・あっ!ごめん、ごめん」
「どうして謝るの?」
「だって、雪国に居たんだから、珍しくもないわよね」

そう言うと、ひとりでそそくさと雪を集めだした。

「すぐできるから、ちょっと待ってて」

(No.516-2へ続く)

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ホタル通信 No.197

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.277 異人館
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

実話度は低めです。交わされた会話に事実はなく、ほぼ創作になります。

当時、「神戸の異人館を訪れるカップルは別れる」という噂がありました。もちろん、単なる噂であったことは分かっていたのですが、もしそれを目の前に突き付けられたら・・・そんな話に仕上げています。

冒頭、実話度は低めで会話も事実ではない・・・と書きました。
それは間違いではないのですが、所々、当時の心境と言いましょうか、ほんの少しだけ事実が見え隠れしています。
実際、異人館の話題が出たことがあって、それもふたりの関係がギクシャクしていた頃です。
それこそ、小説と同じように「あえてそこに行こう」と言わんばかりの・・・そんな記憶があります。

結局、私たちは異人館には行かなかったのですが、別れることになりました。
結果的に異人館に行こうが行くまいが、ダメになるときはダメになる・・・当時、冷静に受け止めていました。
ただ、ブラックユーモアで考えるとすれば、少なくとも異人館の話題は出ていたわけですから、もうその時点でジンクスに負けていたのかもしれませんね。異人館は別れのサイン・・・そう考えることもできます。
今はどうなんでしょうか?でも、あえて調べてみようとは思いません。それはそれで良い想い出です。

小説はいつもの通り、結末を考えず、ふたりに会話を委ねました。最後はハッピーエンドに仕上げてみました・・・こんな結末を望んでいたのかもしれません。
小説のようにならなかった私たちですが、青春の1ページってきっとこんなことの繰り返し・・・そう考えています。
T197
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[No.515-2]デスティニー

No.515-2

本来、病院に向かうはずだった。
でも、私は亡くなった彼女と共に家にいる。

「・・・深夜に急変して」

看取ってくれた友人のひとりがポツリとつぶやいた。

「それでもあなたが来るまで頑張っていたのよ」

何度と無く、乾いた機械音がけたたましく鳴り響いていたらしい。
それこそ、ドラマでよく見るシーンそのものだ。

「本来なら、とっくに亡くなっていてもおかしくなかったって」
「あなたが来ることを伝えたら、意識がないはずなのに・・・」

体がピクピクと反応していたらしい。

「あなたに迷惑を掛けたくなかったんじゃない?」
「金曜日までに、もし死ぬようなことになったら・・・」
「・・・そうね」

それこそ、どうしてよいか分からなくなるだろう。
仕事と人の命を天秤に掛けるつもりはない・・・でも・・・・。

「彼女も、仕事人だったから・・・」
「あなたの立場を一番よく分かっていたと思うよ」
「だから、今日まで頑張ったと思うの」

その言葉を聞いた途端、嗚咽した。
涙はここに来るまでに、もう枯れてしまった。

彼女が倒れる少し前に、偶然ある歌を耳にした。
“見えない糸に操られている”
このフレーズが妙に印象的だった。

「・・・ありがとうね」

見えないはずの糸が今、見えた気がした。
S515
(No.515完)
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[No.515-1]デスティニー

No.515-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
見えない糸に操られている・・・そんな感じがした。
偶然聞いた、歌の歌詞のように。

「今、亡くなった」

メールが届いた。
その人のもとへ向かう、私の到着を待たずして。
そう・・・あれは1週間前のできごとだった。

「・・・どうしよう、あっ!もしもし!」
「あの・・・それでね、倒れた、ほらアノ・・・」

辛うじて友人のひとりだと、声で分かった。
ただ、何を言いたいのかは全く分からない。

「ちょっと!落着いて!で、なにが倒れたって?」
「・・・よ!」

唐突に親友の名前がでてきた。
けど、何がなんだか、状況を把握できない。

「・・・なら、お正月に三人で会ったじゃない?」
「さっき、病院に運ばれたって!危険な状態だって」
「・・・えっ!ちょっとどういうことよ!・・・ねぇ、ねぇってば!!」

返事はなかった。
ただ泣き崩れる声だけが遠くに聞こえるだけだった。

危険な状態は辛うじて脱したと、再び電話があった。

「金曜日に休みをとって札幌に行くから」

お見舞いに行きたいけど、すぐには行けない。
大阪と札幌にはそれなりの壁があった。

「急いで行くね」

まるで待ち合わせに遅れたかのような感覚で返事を返した。
悲しみが頂点をこえたせいかもしれない。

(No.515-2へ続く)

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[No.514-2]未来予想図

No.514-2

「・・・忘れてる?」
「そう、ほら・・・大事なことを」

大事なことと言うか、順番と言えば良いのか・・・。

「せいじゅうろうの仲間・・・ひとり忘れてない?」

一匹ではなく、“ひとり”と数える。
そうしないと菜緒(なお)に怒られるからだ。

「ひとり?せやから、キイロイトリやん!」
「えっ!そうじゃないだろ?」

いつもの通り、これも作戦のうちなんだろうか?

(ひょっとして、すでに罠に掛かっている!?)

可能性は十分にある。

「ほら、仲間と言えば、まず・・・」
「コリラックマやろ」
「・・・だよな」

ますます怪しい。
分かっていながら、あえてそこには触れてこない。

「だったら、順番から言えば、次はコリ・・・」

言い終える前に気付いた。

「・・・もしかして」
「そうや、そのもしかしてがこれや!」
Image_10

(No.514完)
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[No.514-1]未来予想図

No.514-1    [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「うう~ん・・・」

菜緒(なお)が珍しく、うなっている。

「困りごとでも?」

さっきから腕組みをしながら、何度も首をかしげている。
ただ、悩みごとがあるようには見えない。

「前、せいじゅうろうのミニカー見せたやん」
「・・・例のあれ?」

ドライブに行くための車が・・・ミニカーだったというオチだった。
まぁ、いつものごとくだったが。

「うちな、今度、発売されると思うねんな」
「・・・何が?」

話の展開が読めない。
まさか本物のリラックマカーが、ということだろうか?

「・・・ちゃう!ちゃう!それやない」

俺の表情だけで、答えどころか返答までしてしまう。
菜緒がすごいのか、俺が分かりやすいのか・・・。

「じゃあ、何が?」
「今度はキイロイトリのミニカーがでると思うねん」

有り得ない話ではない。
けど、大事なことを菜緒は忘れている。

(No.514-2へ続く)

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ホタル通信 No.196

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.283 パープル・レイン
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

この話は過去の実話を、恋人同士の会話というかたちで紹介したものです。

会話をするふたりは創作ですが、そこで話される内容はほぼ実話です。当時、デートと言えば映画が定番であった時代にあって、自分もご多分にもれず映画を選択したのですが・・・。
ご存知の方も多いかと思いますが、高校生がそれもカップルが見るには、とてもお勧めできない映画です。

今なら十分に下調べも出来るわけですが、当時は今、どこでどんな映画を・・・なんて、手軽に調べられる環境にはありませんでした。
ですから、若さゆえの勢いもあったのでしょうか・・・出たとこ勝負で適当に選んだら、それが見事ハズレました。
記憶は定かではありませんが、ゴジラかなんかの怪獣映画もその当時、公開されていたと思います。
“自分的”に無難な怪獣映画にしようか、内容は不明だけど何となくカッコよさそうなパープル・レインにしようかと、迷っていたように記憶しています。

ラスト近くで、美崎(みさき)もその映画を見たことになっていますが、会話するふたりが架空の人物であるため、これ自体も作り話です。
語り手こそ“男性”ですが、作者は映画を見たカップルのどちらかになります。

最後に、もうひとつエピソードを付け加えますね。
昔は“同時上映”と言う仕組みがあって、パープル・レインがメインで、もうひとつ映画がオマケで付いていました。
その映画も、どちらかと言えばそっち系で・・・(笑)
T196
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[No.513-2]行きと帰り

No.513-2

「でもね、帰りは違ったの」

この橋を渡り終えた時、もう涙は消えていた。

「だって・・・ね」

海と空の構図が帰りには、街と空に替わった。

「なんだか、急に現実に戻された気がしたの」

行きは悲劇のヒロインにでもなった気で居たのかもしれない。

「しっかりしなきゃいけない・・・そう思ったの」
「・・・らしいな」

空港での滞在時間は30分もなかった。
たったそれだけなのに、行きと帰りでは大きく気持ちが変わった。

「だから不思議なの・・・ただ橋を渡っただけなのに」
「・・・色んなドラマがあったんだろうな」
「そうね、その時の私たち以外にも」

時を経て、また私はこの橋を渡ろうとしている。

「今回はどんな気持ちになるんだろう・・・」
「帰りが・・・ってことか?」

ただ、あの時とはシチュエーションが異なる。
帰りは私ひとりじゃない。

「うん、涙は涙でも・・・」
「きっと、うれし涙で橋を渡れるさ」

行きも帰りもふたりで橋を渡る。

「これからもずっと、そうなるよ」
S513
(No.513完)
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[No.513-1]行きと帰り

No.513-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
海上の空港につながる一本の橋がある。
この橋を渡る時、色々な想いが巡る。

「どうした・・・何か物憂げな表情だけど・・・」
「えっ!そんな表情してた?」

軽く、とぼけてみた。

「悩みごとでも?」
「ううん、悩みごとではなくて・・・」

とぼけた意味がなくなった。
遠まわしに物憂げな表情を認めたことになる。

「不思議なんだよね、この橋」
「・・・不思議?ただの橋だろ」

空港に向かって橋を渡る。
その時、車中からは一点透視法のような構図の海と空が見える。

「景色が、ってこと?」
「あのね・・・」

数年前、この橋を元カレと渡った。
転勤を機に別れることになった彼を見送るために。

「その話なら聞いたことあったよな?」
「確か、転勤が原因じゃなくて・・・」
「そう、転勤が背中を押しただけ」

運転する私に、彼はいつになくやさしかった。
そんな私を気遣えば気遣うほど、涙が溢れ出してきた。

「空港に向かう時は本当に辛かったわ」

この橋を越えれば、いよいよ別れの時を実感せざるを得なかった。

(No.513-2へ続く)

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[No.512-2]LINE

No.512-2

「・・・ちゃん?」

LINEにメッセージが届いた。
ただ、内容よりも送り主が、誰だか分からない。
ニックネームで届いたからだ。

「彼女かな?」

そのニックネームは、スマホデビューした彼女の名前に似ている。

(返事する前に確認したほうがいいかも)

意図した相手ではなかったら大変だ。
LINEではなく、普通に彼女へメールした。

「一応、確認だけどLINEでメッセージくれた?」
「したけど、何か変だった?」

送り主が分かれば、LINEのほうが話が早い。
返事にはLINEを使った。

「そうじゃなくて、ニックネームで届いたから・・・」

事情を話した。

「そうなんだ、それでね・・・」

さすがLINE・・・テンポ良く、話のキャッチボールが続く。

(なんだか不思議な感覚だよな)

メールの返事を数日後に返してくるタイプの彼女だからだ。S512

(No.512完)
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[No.512-1]LINE

No.512-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
それは使い方のアドバイスから始まった。

「スマホデビューしました!」

知人の女性からメールが届いた。

「まだ使い方がよく分からなくて」

どうやらiPhoneにしたようだった。

「僕もiPhoneだよ」

彼女が最新モデルで、僕のはひとつ前のモデルだ。
ただ、使い方はほぼ同じだ。

「返信する時、ほら、前の文章が勝手に・・・」

言いたいことは良く分かる。

「設定がないから面倒だけど・・・」

知りうる範囲の知識と経験で彼女にアドバイスを返した。

「それはそうと、デビューのついでにLINEしない?」

もはや合言葉のようなセリフだ。

「でも・・・知らない人に・・・なんて聞くから」
「私はちょっと・・・」

どうやら、乗り気ではないらしい。
確かに、今の時代、これくらいの警戒心があってもいいだろう。
それから、数日が経過した時だった。

(No.512-2へ続く)

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ホタル通信 No.195

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.226 振り返る
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

小説では、偶然、元カレと同じ・・・のような話になっていますが事実は少し異なります。

本当は、偶然ではなく「キョロキョロ」していたんです。元カレに似たような人を探していたのではなく、元カレそのものを。
この場所なら「もしかしたら逢えるんじゃないかな?」なんて、淡い期待を抱きながら・・・。

話は一旦変わりますが、冬のホタルは、それぞれの話が繋がっていることが少なくありません。登場自分が思いのほか限られているので、複雑に絡み合っています。
この話も当然のように他の話につながっているのですが、特に繋がりを感じさせる話があり、「No.260眼鏡の理由」がその話になります。
順序・・・シーンと言ったほうが良いのでしょうか、話の流れで言えばNo.260の方が先になります。言うなればNo.260ではキョロキョロする準備をしていたことになります。

話しを戻すと、小説では元カレの匂い・・・なんて、綺麗なオチにしていますが、実際はそんなことはありませんでした。小説とは逆に、似た人とすれ違ったんです。
そして本当に振り向いて・・・これが小説のきっかけになりました。
実話度を上げて、有りのまま書くこともできたのですが、なぜかそうしなかったんですよね、理由は分かりませんが。

今でも、どこかで探しているような、探していないような、そんなことがあります。
多くの人が行き交う雑踏の中で一瞬だけ時が止まる・・・その瞬間を信じて。
T195
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[No.511-2]手を振る子供

No.511-2

「言っとくけど、子供が嫌いなわけじゃないからね」
「知ってるわよ、言われなくても」

私の場合は逆に電車ではなく、人だった。
人に対してバイバイと告げた。

「まるで・・・3年前の自分を見ているようで」

ただ、邪念だらけの“バイバイ”だった。

「怒りや悲しみ・・・色んな感情が入っていたと思う」

もちろん、感謝の気持ちがなかったわけではない。

「・・・で、純粋な子供に嫉妬?」
「かもしれない、恥ずかしいけど」

電車の発車を告げるアナウンスが流れてきた。
それに呼応するかのように、子供の声がより大きくなった。

「手を振ってあげたら?」
「だって、電車にバイバイしてるんだよ?」
「そう?なら、私が手を振る・・・」

そう言いかけた言葉をさえぎり、私が手を振った。

「バイバイ!」

その瞬間、子供と目が合い、私に手を振り返してきた。
あの時とは違う瞬間だった。
S511
(No.511完)
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