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2014年1月

[No.511-1]手を振る子供

No.511-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
駅のホームから元気な子供の声が聞こえきた。
乗降客が少ない田舎の駅だということもあるのだろう。

「かわいいね!」

友人が第一声をあげる。
さっき降りた親子連れが、まだホームに残っていた。

「“バイバイ”、だって!」

男の子が必死とも思える声で“バイバイ”と叫んでいる。
バイバイの相手は人ではなく、どうやら電車のようだった。

「純粋でいいわね~」

なぜか友人がホッコリしている。

「母性本能でも目覚めたわけ?」

周りの乗客もそんな雰囲気だった。
子供が乗ってきた電車にバイバイと手を振る。
そこに何の邪念を含むことなく。
なのに、私ときたら・・・。

「イラっとしてない?」
「そ、そうかな・・・」

正直、少しそんな気持ちになった。
その光景に、少なからず重ね合わせてしまうものがあるからだ。

(No.511-2へ続く)

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[No.510-2]残してきたもの

No.510-2

「・・・ほら、もうバスも来ちゃった」

そうこうしているうちに、バスがやってきた。
遠くからでも行き先を告げる案内板が光っているので分かる。

「本当にいいの?」
「いいよ、大した傘じゃないわけだし」

地元の友人がなにか言いたげだ。

「連絡しておくよ、あの店に」
「連絡?取りに行ってくれるの?」

明日の朝早くに、ここを離れ、大阪の自宅に帰る。
ここに戻ってくるのは、早くても半年後だ。

「ううん、自分で取りに行けば?」
「自分で!?半年後に・・・?」
「そうよ、一緒に行ってあげるから」

それこそ、ここまで来るバスの運賃だけでも新しい傘が買える。

「だから・・・安物の・・・」

あらためて、安物の傘であると強調しようとした。
その時、気付いた。

「・・・一緒に?」
「そう聞こえなかった?」

大した目的ではない。
でも、それだけでも、私はここに戻ってくることができる。S510
(No.510完)
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[No.510-1]残してきたもの

No.510-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「あっ!しまった・・・」
「ええっ!?なになに!?」

バス停に着いた瞬間に、思い出した。

「傘、忘れた!」
「・・・なんだ、びっくりしたじゃない・・・」

忘れた場所は分かっている。

「どうする・・・取りに行く?」
「でも、時間が微妙・・・」

そろそろバスが来る時間だ。
街中のバスなら、次のバスを待ってもいい。
けど、ここは街外れ・・・大袈裟に言えば山への入り口付近だ。

「そうね、これを逃したら、1時間も後だもんね」

この寒空の下・・・というより、一面の銀世界だ。
ここで1時間、立ちっぱなしは辛い。

「・・・まぁ、ビニール傘だし」

雪をよけるために、とりあえず買ったものだ。
ブランド品でも想い出の品でもなんでもない。

「それにもう、雪もおさまったようだし」

冷静になれば、別に取りに行くような物でもないと分かる。

(No.510-2へ続く)

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ホタル通信 No.194

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.208 宇宙の果て
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

実際に飲み会の席で、このような会話が交わされたわけではないので、実話度については限りなく0%と言えます。

小説を書くきっかけになったのは、タイトルにもなっている“宇宙の果て”について、あれこれ考えていたことです。
ただ、夢見る乙女・・・といったロマンティックなものではなく、かなり科学的なアプローチから思いを馳せていました。

この場を借りて、アレコレ語るつもりはないのですが、たまたまWeb上で宇宙の果てに関する動画を見たとき、人知を遥かに越えたスケールの大きさに衝撃というより、恐怖さえ覚えたものです。
宇宙に果てがあれば、その先にはなにがあるのか・・・。
小説の後半はそこから始まって行きます。
ラストというかオチに相当する部分は、果ての先にはなにも“ない”けど、アレコレ考えることに夢が“ある”・・・ということで結んでいます。

少し話がズレますが、このあたりを機に、科学的な雑誌を読むようになりましたが、逆に読めば読むほど謎が増えて行きました。
けど、それが何とも言えない心地よいもので、現実逃避というわけではないのですが、日常では決して味わえない感覚です。

恐らく、誰もたどり着くことはできない宇宙の果て・・・そもそも果てがあるどうかも分かっていません。でも、夢だけは広い宇宙を駆け巡ることでしょう。
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[No.509-2]半券

No.509-2

「それなら、あまり深く考えずに捨ててしまおうよ」
「そうね、単なるゴミとして捨てるわ」
「そういうこと!思い出まで捨てる必要はない」

彼らしいやさしい発言だ。
だからこそ、元カレのことも包み隠さず話すことができる。
自分に正直になれる・・・彼はそんな人だ。

「それより、こっちの半券は無くすなよ」

これから見る映画の半券を目の前で、チラつかせる。

「もちろんよ!」
「ポッケに大事に・・・あっ!・・・ごめん」
「あはは!いいよ」

去年もこんな感じだった記憶がある。
大事にし過ぎてしまったことが、今回に繋がった。
とにかく、前の半券を速やかに捨てた。
そこに何の想いを乗せず、単にゴミとして。

「・・・よし!これでオッケー!」

ポケットの奥にしっかりと仕舞い込んだ。

「万一、それを捨て忘れても大丈夫だよ」
「えっ!?どうして」
「だって、僕とその話をすることになるからさ」

彼が笑いながら、そう答えた。
S509
(No.509完)
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[No.509-1]半券

No.509-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
(ん?なにか入っている・・・)

おもむろに手を入れたコートのポケットに、手ごたえを感じた。

「・・・あっ、映画の半券」
「どうした?」
「やだぁ、入れたままになってたの」
「それって確か・・・」

丁度、一年前くらいに公開された映画だった。
まだ記憶に新しい。

「ごめん、捨てるの忘れちゃったみたい」

去年、買ったコートで、今日で着るのは2度目だ。
それもあって、クリーニングには出さずにいた。

「あやまることでもないだろ?」
「・・・だって」

彼が気を遣ってくれている。

「誰と行った半券かも分かっているわけだし」

私も彼も、元カレ、元カノについては隠し事をしないタイプだ。
だから、オープンにしてきた。

「やっぱり、イヤじゃない・・・私もあたなも」

特にひどい別れ方をしたわけじゃない。
だけど、今、必要な話題ではない。

(No.509-2へ続く)

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[No.508-2]男女の違い

No.508-2

「寒い朝だったね」
「ほんと、息が真っ白だったよ」

以前の僕たちなら、交わすことがなかった会話だ。
でも、今ならごく自然に話すことができる。

「ねぇ、初めてのデート、覚えてる?」
「なんだよ、急に・・・」
「覚えてないの!?」
「バカ言うなよ、今でも鮮明に覚えてるよ」

この後、なぜか、ふたりで大笑いした。
騒がしい空港のロビー内だ。
多少、大きな笑い声でも雑踏にかき消される。

「あの頃は楽しかったね!」
「今だって楽しいさ」
「・・・だね」

また、ふたりで大笑いした。
それからも楽しい時間が流れた。

「・・・行くね」
「そろそろ、時間だもな」

いつのまにか出発の時刻が迫っていた。

「・・・じゃぁ」
「うん」

その言葉を最後に僕へ背中を向け、出発ロビーに消えて行った。
一度もこちらを振り返ることもなく。
S508_2
(No.508完)
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[No.508-1]男女の違い

No.508-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・じゃぁ」
「うん」

その言葉を最後に僕へ背中を向け、出発ロビーに消えて行った。
一度もこちらを振り返ることもなく。

「・・・で、行くことにしたの?」
「うん、もう決めたの」

数週間前、彼女から転勤の話を聞かされた。

「そっか・・・」
「ごめんね」

彼女はそれほどキャリアウーマンというわけではない。
どちらかと言えば仕事よりも恋愛を優先するタイプだ。

「あやまることはないよ、いいチャンスだもんな」

彼女の背中を悪い意味で押してしまったのは僕だ。
仕事を優先する余り、彼女との関係をギクシャクさせてしまった。

「いつ、あっちには?」
「来週の日曜日にこっちを発つ予定だよ」

彼女自身、転勤を望んでいたわけではなかった。
転勤によって、今の関係を終わらせようとしている・・・。
そこにズルい考えがないのは分かっている。

「見送りに行くよ」
「ありがとう、最後だしね」

色々な意味で引き留めることもできただろう。
もしかしたら、それを彼女も望んでいたのかもしれない。

(No.508-2へ続く)

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ホタル通信 No.193

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.204 背中越しの告白
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

実話度は限りなく0%です。とは言え、アニメやドラマのワンシーンを切り取ったわけではありません。

全体的な雰囲気としては、それこそアニメやドラマのワンシーンであると自分でも感じています。
随分前の作品かつ実話度も0%なので、なにをきっかけにして作ったのかは正直覚えていません。けど、冒頭で書いたように、何かを参考にして作ったものではありません。

自分で作った作品に「あくまでも推測ですが」と前置きするのも変ですが、恐らく、“ドキドキ音”からヒントをもらったのだと思います。ただ、そのドキドキ音も単なる息切れのドキドキ音だったかもしれませんし、小説のように恋のドキドキ音だったのかもしれません。
いずれにせよ、ドキドキ音を単なる鼓動や音としてではなく告白のひとつの手段として使ったのは、手前味噌ながらナイスアイデアだと思います。

それに荒っぽく言えば、いつも小説のタイトルはいい加減に付けていますが、この小説に限って言えば内容とタイトルが一致しています。
ロマンティックさを付け加えるなら、背中越しの告白は爽やかな意味で、体と体が密着しており、だからこそドキドキ音が相手に伝わった・・・そんな意味も含まれています。

鼓動で告白し、鼓動で返事を返す・・・よくもまぁ、こんな照れくさい話を作れたものだと、自分のことながら恥ずかしくもなります。
でも、こんなふたりにどこか憧れているのかもしれませんね。
T193
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[No.507-2]推しメン

No.507-2

「・・・どうした?」

画面を見つめる彼女の目つきが変わってきた。

「この子・・・だれかに似てない?」
「そりゃ、世の中広いんだから・・・」
「・・・どこかで見たんだよね」

彼女もなんとなく覚えているらしい。

「う~ん・・・ダメだ!思い出せない・・・」
「無理しなくてもそのうち、思い出すんじゃない?」

別に思い出したとしても問題はない。
ただ、出来ればもう過去のこととして水に流したい。

「そうね、気持ち悪いけどそうする」

その子は、僕が初めて付き合った人に似ている。
告白されたこともあり、すっかり天狗になっていた。
それもあり、随分と彼女には辛いおもいをさせた。

「なら、チャンネル替えていいかい?」
「うん、どうぞ」

ようやく、この話から開放してもらえそうだ。
その子を見るたびに、若気の至りだったとは言え今でも心が痛む。

(ごめんな)

当時、言えなかった言葉だった。
S507
(No.507完)
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[No.507-1]推しメン

No.507-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「チャンネル替えていい?」
「あれ?ファンじゃなかったっけ?」

今風に言えば、そのグループの中に“推しメン”がいる。

「でも、これには出ていないよ」
「・・・ほんとだ、居ないね」

その時々で出演するメンバーが代わる。
だから、いつも居るとは限らない。
ただ、チャンネルを替えたい理由は違うところにある。

「それはそうと、最近、この子、目立ってきたよね」
「だれだい?」
「えっと・・・ね、この・・・子」

画面上、目まぐるしく動くメンバーの一人を指差した。

「確か、ぱ・・・っていう、愛称で呼ばれているよね?」

(よりによって、一番触れて欲しくない人を選ぶんだから・・・)

「・・・なにか言った?」
「い、いや・・・」
「この子、魅力的だよね!同性からみても」

この場合、どう応えれば良いのだろうか。

「ねぇ、そう思わない?」
「ん?そ、そうかな・・・」

出来れば、早くこの話題を終わらせたい。

(No.507-2へ続く)

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[No.506-2]野良猫

No.506-2

「それにしても昨日も会ったんだって?」
「私も割りと時間に正確なので」

猫は決まった散歩コースを持つと聞いたことがある。
散歩というより、縄張りを“点検”しているとも聞いた。

「昨日も今日も、少し離れた所で振り向いたんだよ」

呼び掛けてもいないのに、まるで分かっているかのように振り向く。
昨日も今日もほぼ同じシチュエーションだった。

「悩みごとでもあるの?」
「別にそんなんじゃないけど・・・」

平凡な毎日に退屈しているのかもしれない。
そこに来て、自由気ままな野良猫だ。

「そう見えるだけかもしれないよ」
「彼らだって、それなりに大変だと思うな」
「・・・そうね、今度会ったら聞いてみるよ」

それから3日後に、例の猫が目の前を通り過ぎた。
やはり時間に正確なところが似ている。

「ちょ、ちょっと待って!」

猫の歩みが止まる。
言葉を理解したわけではなく、私の声にただ反応しただけだ。
そして徐に振り向いた。

「ねぇ、なに考えてる?」

表情を変えることなく、すぐに前を向いて歩き出した。
私の存在などまるで無視するかのように。
S506
(No.506完)
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[No.506-1]野良猫

No.506-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
昨日と同じパターンだった。
目の前を通り過ぎたと思ったら、少し離れた所で徐に振り向く。
そのふてぶてしい表情が・・・羨ましい。

「野良猫?
「多分・・・最近チョクチョク見かけるようになったの」

根拠はないけど、飼われているようには見えない。

「自由人ならぬ、自由猫!って感じがするから」
「でも猫って、もともとそんなんじゃない?
「そうだけど、その猫は特にそう感じたの」

それに食うにも困るだろうし、危険も多い。
大袈裟に言えば生きるか死ぬか、連続の毎日だろう。

「なのに、余裕の表情なんだよね」

逆に私と言えば、平々凡々の毎日のくせに余裕はない。

「野良猫と張り合ってどうするのよ!?」
「ま、まぁ・・・そうなんだけど」

憎らしいのではなく、単純に羨ましかった。
そんな毎日のくせに、何食わぬ顔で生きている。

「それが野生なんじゃない?」
「彼らにとって、それが普通で、人間とかかわることが・・・」
「逆に危険?」
「かもしれないよ」

彼らにとっての野性とは、ごくありふれた日常なのかもしれない。

(No.506-2へ続く)

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