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2013年11月

[No.498-1]つなぐ

No.498-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
帰りは、行きとは全く異なる空気になった。
原因は自分にある。

「・・・そんなに気にすることないよ」

さっきから口を開くのはマネージャーだけだった。

「達也のせいでも、誰もせいでもないよ」

そんなことはない。
少なくとも僕とあいつの責任だ。

「リレーだもん!そんなアクシデントもあるよ」

僕が二走目で、あいつは三走目だった。
この間で、バトンパスが途絶えた。
結果的に、僕らのチームは完走さえ出来なかった。

「他の人もそう思ってるよ」

果たしてそうだろうか?
他のふたりからは、そんな言葉が聞こえてこない。
ただ、怒ってはいない。
ショックで言葉が出ない・・・そんな雰囲気だ。

「僕らよりも・・・」
「・・・アンカー?」

そう・・・アンカーはただ呆然と立ちすくむだけに終わった。
ある意味、僕ら以上にショックだったと思う。

「あぁ、走れずに終わったんだぜ?」

この言葉を最後に、マネージャーさえも口を開かなくなった。

(No.498-2へ続く)

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ホタル通信 No.188

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.233 360円の思い出
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

あえて作り変えている部分はあるものの、大筋は事実です。
今でもちょっとせつない気持ちになります。

冒頭、“作り変えている”と書きましたが、その部分は“女の子向けの人形”です。人形と言えば人形なのですが、詳しくは書けません。
今でもハッキリと覚えています。360円の人形を買うために、1000円を握り締め、どれを買おうか、アレコレ悩んだことを。
それに「後80円あったら、人形が3つ買えるのに」と思っていたことも・・・。
いつもお釣りが“280円”になることに「いつ気付いてくれるのかな?」なんて、子供心にそう思っていました。

デパートはそれこそ特別な場所で、今のように気軽に行ける場所ではありませんでした。
それに、当時の1000円は私にとって大金でした。金額の上でと言うわけではなく“重さ的”にです。母親がどのような想いで1000円をくれたのか・・・。
普段、そんな額のお小遣いをもらっていませんでしたから、正直に嬉しいはずなのに、複雑な気持ちも半分持っていました。

残念ながら当時買った人形はひとつも残っていません。ただどのようなものであったかは、詳細に覚えています。
だからこそ、詳細に書くと作者の性別が分かってしまうので書けない・・・のです。ご勘弁ください。
最後に、ラストの部分「合コンの目利き」に関しては創作です。
全体的にちょっとせつない話を、明るく締めくくるために付け加えました。
T188
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[No.497-2]金木犀

No.497-2

「それに比べて、この匂いは・・・」
「ある日突然“来た!”って、感じだもんね」

その突然さが、印象に残る理由なのかもしれない。

「わたしもあるのよ、風物詩」
「何の花の匂い?」
「ううん・・・花じゃない」

(花じゃない?)

だったら、何の匂いなんだろうか?

「・・・匂いでもなくて」

(匂いじゃない?)

「たぶん、そろそろ分かるわよ」

一体、なにが分かるというのだろうか?
特に変わった雰囲気は感じられない。

「なにも、なさそうだけ・・・!?」

その時だった。

「わぁぁぁ!」

忘れていた。
この季節、あまり綺麗とは言えない小川沿いは危険地帯だった。
蚊のような虫が大群で舞うようになるからだ。S497
(No.497完)
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[No.497-1]金木犀

No.497-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「きんもくせい!!」

(あっ!しまった・・・)

思わず口に出てしまった。
初めて即答できたからだ。
いつもはしばらく悩んだあげく、別の花に行き着いてしまう。

「・・・だよね?」

友人も同時に匂いを察知したようだ。

「どうしたの急に!?」
「・・・ほら、もうそんな季節になったのかな?って」

自分にとっての風物詩だ。
通勤経路が変わっていないから、毎年、匂いをかぐことになる。

「言われてみればそうよね」

季節の移り変わりを感じることは他にもある。
けど、これほどまで印象的なものはない。

「嗅覚恐るべし!ってとこかな?」

確かにそうだ。
視覚や触覚を抑えて、私の中では嗅覚が一番ということになる。

「まぁ、暑さ寒さは、徐々に変化するからね」

時に緩やかな変化と言えない場合もある。
でも、知らず知らず寒くなっていることが多い。

(No.497-2へ続く)

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[No.496-2]EACH TIME

No.496-2

(あれ?まだ持ってたんだ・・・)

押入れの奥の小物入れから、カセットテープが数本出てきた。
その内の一本に“EACH TIME”と書かれていた。

「懐かしいな・・・」

その昔、友人から借りたレコードをカセットテ-プへダビングした。
聴いてみたいが、再生する装置が手元にない。

「世の中、進んでいるのやら遅れているのやら・・・」

(あっ!そうだ・・・)

今の時代、ネットを使えば何とでもなる。
案の定、検索すると無料で聞けるサイトがすぐ見付かった。

「でも、なんだろう・・・」

画面をクリックすれば、懐かしい音楽を聴くことができる。
それなのに、何だか躊躇している自分がいる。
できれば、カセットテープで聞いてみたい。

「ラジカセ・・・まだ、あったかな?」

実家に確認したが、さすがにもう捨ててしまったようだった。
それとは逆にあるものが見付かった。

「わぁ!返すの忘れてたぁ!」
S496_2
(No.496完)
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[No.496-1]EACH TIME

No.496-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「これ聴いてみない?」

友人から一枚のレコードを手渡された。

「EACH TIME・・」
「洋楽なの?」

音楽に“うとい”わけじゃない。
けど、ジャケットからはそんな程度の情報しか伝わらない。

「ううん、邦楽だよ」
「大瀧詠一、知らない?」

とりあえず、名前は知っている。

「とにかく聴いてみなよ」

半ば強引に、レコードを押し付けられた。

「私に必要?」

恋愛関係なら 今の所、必要ない。

「まぁまぁ、それはそれで!」
「・・・分かったわよ」

たまには良いのかもしれない。
普段、聴かない音楽を聴いてみるのも。

(No.496-2へ続く)

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ホタル通信 No.187

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.223 ブラジル
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

この喫茶店は実在しています。ただ、今も営業しているのか定かではありません。

実話度は高めです。
実在する喫茶店で、小説に似た会話が繰り広げられたのは事実です。ただ、小説ほど軽いノリではありませんでした。
冒頭、この喫茶店は実在する・・・と書きましたが、喫茶店でそれも“ブラジル”と来れば、当時はそれこそ山のようにあったんじゃないかと思います。
当時、地元でもそこそこ有名だった店だと思います。小説にも書いてある通り、デートの定番だったような・・・そんな記憶があります。

この喫茶店は「No.431 みゆき通り」にも登場しています。
これとペアで小説を読んで頂ければ、どこにあるブラジルか検討は付くと思います。
たかが喫茶店、されど喫茶店・・・今でも喫茶店に入ると少しドキドキします。カフェとは一味違う、人、物、そしてゆっくりと流れる時間。様々なドラマを感じずには居られません。

さて、小説の内容についてもう少し触れておきますね。
前半のラスト近くに、喫茶店、コーヒー、ブラジルと連想ゲームを思わせるセリフがあります。
この前後のやりとりは実際にはありませんでしたが、緊張感に続く、脱力感を演出したいがため、あえて入れています。
あえてこの部分を、ホタル通信で紹介したのは、これにつながるきっかけがあったからです。
その、きっかけは“アラブ石油”という名前のガソリンスタンドを目にしたことです。
その余りにもピッタリなネーミングがとても印象的で、いつか小説のネタにしようと考えていました。

話は戻りますが、今でも営業しているのかな?
人通りが見える、奥の窓際の席にもう一度座って、あの時とは違う、また別の景色を眺めてみたいものです。
T187
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[No.495-2]鍵以外

No.495-2

家に着くなり、早速試してみた。

「すごい・・・」

今までがうそのように軽やかになった。
その上、片手でも開閉できる。

「・・・こういうこと、よくあるな」

いわゆる“騙しだまし”使うこと。
とりあえず、今何とかなってるから・・・。

「私と彼の関係みたい・・・」

いつしか、ギクシャクし始めていた。
でも、関係が極端に悪化しているわけではない。
言葉を借りるなら、騙しだまし関係が続いているようなものだ。

「それこそ、この油ね」

同僚から手渡された缶をまじまじと見つめた。

「これを彼との間に“プシュー”と」

想像の中で、油を吹きかけてみた。
・・・その時、同僚の言葉を思い出した。

「鍵以外にも吹きかけるものがあるんじゃない?」

今となって、同僚の真意が伝わってきた。

(粋なことするじゃない!)

「昨日はありがとう!すごく軽やかになったよ」
「それはなによりね」

昨日の結果を早速報告した。
ただ、油を差しすぎたせいで、ちょっとベトベトしている。

「それは鍵なの?それとも彼の方?」
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(No.495完)
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[No.495-1]鍵以外

No.495-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(・・・ったくぅ!)

いつものことだから、余計に腹が立つ。
ただ、腹立たしい対象は・・・。

「かぎ?」
「そう!頭きちゃう!固くて」

郵便ポストに付けている鍵が固い。
正確に言えば、開閉が固い。
特に閉めるとき、力任せにポストに押し付けている。

「錆びてるんだよね」

どこにでもある南京錠だ。
黄金色がくすんで、さびが目立つようになってきた。

「分かってんなら、油でもさせば?」
「・・・それもそうね」

案外、当たり前のことは考えつかないものだ。

「なんなら、貸してあげるわよ」
「なんで持ってるわけ!?」

机の中から、スプレー缶のようなものを取り出してきた。

「意外に重宝するのよ」

そう言うと、私の椅子の車輪にそれを吹き掛けた。

「動いてみて?」
「・・・あっ、軽快!」

動きが鈍かった椅子が、軽やかに動くようになった。

「これで仕事もはかどるでしょ?」
「だったら、もっと早く貸してよぉ!」

とにかく・・・借りて帰ることにした。

(No.495-2へ続く)

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[No.494-2]ドライブ

No.494-2

そうこうしているうちに、当日がやってきた。
・・・目の届く範囲に車はない。

「本当に乗ってこなかったんだけど?」
「かまへんよ、うちが用意する約束やったし」

(どこかに駐車しているのかな?)

辺りをなんとなく見回してみる。
けど、それらしい車は見当たらない。

「せいじゅうろうも連れてきたで」
「そうなんだ」

それは想定内だ。

「せやけど、今回はせいじゅうろうだけ」
「珍しいな、いつもなら全員参加だろ?」

言わば、彼らは菜緒(なお)の家族のような存在だ。

「今日は、せいじゅうろうが運転手やねん」

嫌な予感がする。
予感はするが、なにが繰り広げられるのか見当が付かない。

「運転手というより、そのものかな~」
「・・・そのもの?」

菜緒がかばんの中をゴソゴソしはじめた。

「そろそろ、出発しよか」

そう言うと、かばんから何やら茶色いかたまりを取り出した。
この期におよんで、茶色い物体はあいつしかいない。

「さぁ、乗り込んで!」
「無理やろ、それ!」
Image
(No.494完)
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[No.494-1]ドライブ

No.494-1    [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------

少し肌寒い日が続く。
でも、行楽するには丁度良い季節かもしれない。

「週末、どっか行かへん?」

菜緒(なお)の声が、いつになく元気だ。

「週末?また、急だね」
「あかんの?」
「ううん、大丈夫だけど」
「せやったら、決まりやね!」

今時期なら・・・紅葉だろうか?
ちょっと遅い気もするが、場所によりけりだろう。

「紅葉でも見に行く?」
「・・・せやね!」

この辺りは随分と紅葉が進んでいる。
週末ともなれば、少し遠出したほうが良さそうな雰囲気だ。
それに、ドライブにもなる。

「じゃ調べておくよ、見ごろな場所」
「気を遣わんでもええよ」
「うちは近所の公園で十分」

確かに絶景とは言えないまでも、それなりに見ごたえはある。

「それじゃ、ドライブにはならないだろ?」
「ううん、それがちゃんとなるねん!」

近所と言うだけあって、菜緒の家から徒歩で10分もかからない。

「一応、聞くけど・・・車、必要だよな?」
「必要やけど、うちが用意するから」

(・・・車、持ってないよな?)

「わざわざレンタカーでも借りるの?」
「・・・似たようなもんかな」

悪い予感はしないまでも、いつものごとく何かある。

(No.494-2へ続く)

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ホタル通信 No.186

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.213 ORION
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

歌詞や歌い手を含めて、歌にまつわる話を作ることは少なくありません。この小説はその走りかもしれない存在です。

中島美嘉さんの“ORION”という歌は、楽曲が世に登場した時に熱心に聴いていたのではなく、随分後になってから知った・・・というのが事実です。
メロディもさることながら、小説の題材にもなっている歌詞の秀逸さに心奪われました。
その時「これって小説になる!」とも思いました。歌詞自体のストーリー性が高く、特に歌詞冒頭の部分は、大袈裟ですが衝撃的でした。

どういう意味だろう?時間をさかのぼって考えてみよう・・・
正しく、小説と同じことを現実でも考えていました。従って、ほぼ創作ではあるにせよ、小説の牽引役である女性の考えていたことは事実なんです。
歌詞を紐解く過程を、冬のホタル風にアレンジさせてもらいました。

さて、話を戻すと、他にも歌にまつわる話は少なくありません。歌にまつわる“何か一部”を切り出した話がほとんどの中で、ひとつだけそうではない話があります。
No.346 パッセージ」は、工藤静香さんのアルバム“ミステリアス”の同名曲を小説風に起こしなおしたものです。
この歌も非常にストーリー性が高く、ドラマティックです。心情的なものより、情景的なイメージが思い浮かびました。
このパッセージという小説は、歌にまつわる一部を切り出したものではなく、歌詞そのものに尾ひれ背ひれをつけた自分の中でも非常に珍しい作品です。

最後に、今でも彼女たちはカラオケBOXでORIONを熱唱しているのかも知れませんね。僕が泣いた理由を見つけるために。
T186
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[No.493-2]ギザギザの葉っぱ

No.493-2

「エサ、なにあげてた?」
「エサ?覚えてないよ、そんなこと」

少なくとも、ペットフードではない。

「なにかの葉っぱとか、あげてたと思うけど」

近くのスーパーに野菜の残骸をもらいに行った記憶がある。

「そうね、基本はそれかな」
「基本って・・・それ以外にあるの?」

農家の人から分けてもらったことがなかったわけじゃない。

「自分たちで調達したことない?」
「・・・だから、スーパーとか農・・・」
「じゃなくて、自分の手で摘み取ったか、ってこと」

意味がよく分からない。

「野草よ野草!まぁ、たんなる雑草かもしれないけど」

友人は、野草を摘みに行くのが日課だったらしい。

「タンポポをよく摘んだわ」
「だから、ギザギザの葉っぱ?」

うさぎが好んで食べる姿に、子供ながら充実感があったらしい。

「それに、そんなに美味しいのかな?・・・なんて」
「話のオチは“私も食べた”じゃないでしょうね!?」
「まさか!」

単に、うさぎのエサを思い出した話だった。
ただ、スーパーの野菜売場では聞きたくない話だった。
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(No.493完)
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[No.493-1]ギザギザの葉っぱ

No.493-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「あっ!ギザギザの葉っぱ!」
「・・・ギザギザ?」

ギザギザの葉っぱを見ると、あることを思い出すらしい。

「聞いてもいいの?その思い出話」

ただ、とんでもない話は勘弁して欲しい。

「小学校ってさぁ、動物を飼育してるでしょ?」
「・・・今はどうだか知らないけど」

確かに、私の通った学校でも色々な動物を飼っていた。
おまけに、私は飼育係りだった。

「だったら、話が早い!」

急に友人のテンションが上がり始めた。
どうやら、押してはいけないスイッチを押してしまったようだ。

「ちなみに、なに担当?」
「なにって・・・動物のこと?」
「そうに決まってるじゃない」

友人の目が、キラキラ輝いているのが分かる。
嘘を付くべきか正直に言うべきか迷う。
答え次第では、よからぬ方向へ向かいそうに思えたからだ。

「うざぎ・・・だけど」

とりあえず、正直に答えた。

「そう!それそれ!」

一体、なにが“それ”なんだろうか?

(No.493-2へ続く)

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[No.492-2]変わっていなかったもの

No.492-2

「当時の先生がまだ居たとか?」
「それもある」

ずっとそこに居たのか、戻ってきたのかは定かではないが。

「前回の寄付かな?・・・寄付した人の名簿が載ってて」
「だれが寄付したんだろう・・・って?」
「うん、それには興味があった」

早速、自分が卒業した年度を探した。
思ったよりも、そこに載せられていた名前は多かった。

「え~!あいつが!?・・・みたいな?」
「あぁ、ただ、それ以上に気になることがあって」

名前の中に、ある女子の名前を見つけた。

「好きだった子?」
「ちがうちがう!そんなんじゃない」

名前を見た途端、その女子の顔が思い浮かぶ。
特に親しいわけではなかったけど、同じ中学校の出身だった。

「ふ~ん・・・なにか気になるわね」
「だから、そっちの展開じゃなくて・・・」

その女子が好きだったから、覚えていたわけじゃない。
自慢じゃないが、好きでもない女子でもクラスメートなら覚えている。

「でもな、他にも女子の名前が載ってたけど」
「その女子以外、誰も思い出せなくて」

正確に言えば、名前と顔が一致しない。

「じゃあ、どうしてその子だけ一致したの?」
「当時の名前のままだったからね」
S492
(No.492完)
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[No.492-1]変わっていなかったもの

No.492-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(久しぶりだよな?)

ポストに懐かしい名前の封筒が入っていた。
差出人は・・・母校だった。

「用件は何だったの?」
「早い話、寄付みたいなものかな」

以前も似たような理由で届いたことがあった。
もちろん、便りの全てが寄付というわけでもない。

「なんか、記念碑みたいなもの建てるって」
「なんか・・・って、興味なし?」

言い方は適切ではないが、腐っても母校だ。
興味がないわけではない。

「そうじゃないけど、随分と変わってしまったから」

いつの間にか、県内でも有数の進学校になっていた。
それに、クラブ活動も盛んになっていた。

「当時の野球部と言ったら・・・」

地区予選でも初戦コールド負けが当たり前だった。

「それが今じゃ・・・」

以前の便りで、プロに行った人も居ることを知らされた。

「それじゃ、あまり感情移入できないね」

当時のまま、時間が止まっていて欲しいとは思わない。
ただ・・・面影がほとんど残っていないことに寂しさを感じる。

「変わってないところもあったんだけど」

(No.492-2へ続く)

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ホタル通信 No.185

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.200 ホタルノヒカリ
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

今でもブログを続けることができている理由のひとつのような作品です。

理由は話の内容にあるのではなく、テーマにあると言えます。
つまり、小説にするにはあまりにも“くだらない”ことを、堂々と活字にしてしまうところが、続けていける理由なんです。
ブログのコンセプトを守りつつも、荒っぽく言えば小説を作るきっかけはなんでも構いません。

実話度はやや低めです。
極端に言えば“ピュゥゥ~♪”以外、全て創作になりますが、当時の心境を会話形式で表しています。
さて、先にタイトル“ホタルノヒカリ”について触れておきます。
小説の区切り(No.100やNo.200など)では、当ブログに関係が深い話を発表しており、普段は余り深く考えないタイトルも結構、頭を悩ませています。
できれば“ホタル”というキーワードを差込みたいので、それを中心にタイトルを考えました。ただ、考えたのは小説が完成した後でした。
だからこそ、こんなタイトルになったわけです。スイッチ、電球から“ヒカリ”にたどり着くまでに、時間はそう掛かりませんでした。
従って、歌やドラマのタイトルを引用するかたちでタイトルを付けたわけではなく、結果的に同じになったものです。

内容は私が良く使う表現である“商業的”であり、ラストにはそれなりのオチが付いています。自分でも言うのもおこがましいのですが、結構気に入っているオチなんですよ。
それに、タイトルに頭を悩ませたこともあり、タイトル、内容、そしてオチが珍しく一体化した作品に仕上がりました。
T185
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[No.491-2]ナビの通りに

No.491-2

「それもあるけど、それ以前に“どこ”で買うのか分からなかったの」

確か・・・ビルの7階くらいに映画館があった。
普通に考えれば、7階にチケット売り場があるはずだ。

「・・・なかったの?」
「ううん、普通に7階にあったよ」

けど、それは今だから冷静に言えることだ。
初お付き合い、初デート、初映画館・・・。
初物続きの私たちに平常心を持てと言う方が酷だった。

「でね、7階じゃなくて1階で買おうとしたの」
「1階?・・・またなんで?」

1階に今で言うインフォメーションセンターがあった。

「もしかして・・・」
「・・・そう」

彼が、そこの“お姉さん”に声を掛けた。

「大人2枚って・・・」

私も知らなかっただけに、口を挟むことができなかった。

「ここじゃないって知って、ものすごく恥ずかしかったよ」

今のように簡単には下調べできない時代だった。
何も分かぬまま、ドキドキしながら、映画館に向かった。
そして、映画を何とか見終えた充実感ときたら・・・。

「半端なかったな・・・お互い」
「だろうね、なんだか私まで汗かいてきちゃった」

あらためて、当時の私たちの顔が脳裏に浮かぶ。

「勇気あるね、昔のあなたたち!」
S491
(No.491完)
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[No.491-1]ナビの通りに

No.491-1

登場人物
=女性  女性=相手
-----------------------------
「えぇーっとね・・・この角を右に曲がったら・・・」

便利な世の中になったものだ。
見知らぬ土地に来ても、こうしてスマホがナビをしてくれる。

「あっ!あったよ、ホラホラ!」

目指していた、話題のスイーツ店が目の前に迫る。

「ほんと助かるね」
「まぁ・・・お互い方向音痴だから」

スマホのナビ通りに行けば、恐らく迷うことはないだろう。
実際、こんな私たちでも、難なくたどり着くことができるからだ。

「・・・でもね」
「ん?・・・どうしたの?」

たどり着いた感動が薄い。
初めて訪れた店なのに、それほどのものを感じない。

「来る前にネットで散々調べたからね」
「ストリートビューも・・・」

それを使えば、周りも含めた、その店のおもむきも分かる。

「悪く言えば、それだけでも行った気になってしまう」

それに迷う心配も少ない。
来る前に、ストリートビューを使い、シミュレーションもした。
反面、なにか物足りなさを感じる。

「昔ね、私が高校生の時・・・」

物足りない理由は分かっていた。

「彼と映画館に行ったんだけど」
「チケットの買い方が分からなかったとか?」

(No.491-2へ続く)

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[No.490-2]すれ違い

No.490-2

(まいったな・・・)

あの後、2~3日してから、メールを送った。
いつもの通り、土曜日に逢う約束をした。
こうもすれ違いが続くと、是が非でも逢いたい。
それはふたりの結論だった。
だけど・・・。

「明日、仕上げておかないとちょっと心配だな・・・」

そんな時に限って、急な仕事が入る。
土曜日に必ずしておかなければならないレベルではない。
ただ、納期は絶対だ。
土曜日にほぼ仕事を終わらせて、それを確実なものにしたかった。

「ごめん、今度は俺が・・・急に仕事が入っちゃって」

ありのままメールに書いた。

(あれ?・・・アッ!)

あることに気付いた。

「これも・・・定番中の定番だよな」

悪く言えば男が“うそ”を付くときの定番でもあるだろう。

「わかった!お仕頑張ってね!」
「ごめんね」

自分から誘っておいて、逢えなくなったことを詫びた。
そして・・・疑ってしまったことも詫びた。
S490
(No.490完)
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[No.490-1]すれ違い

No.490-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ごめんなさい、体調が悪くて・・・」

待ち合わせ時間の30分くらい前に、メールが届いた。

「・・・だから今日もごめんなさい」

(・・・なんだよ)

仕方ない・・・それは分かっている。
けど、さすがに2度目ともなるとちょっとムカっとくる。

「2~3時間で回復しそうなら、時間を潰しておくけど?」

一応、食い下がってみた。
出掛ける前なら素直に返事が出来たのかもしれない。

「待って貰っても申し訳ないので」

しばらくしてから返事がきた。
言葉を選んでいたのかもしれないし、体調のせいかもしれない。

「わかった、お大事に」

体調が悪いと言っている以上、無理強いできない。
ただ、先週もそうだっただけに何か引っ掛かる。

(意図的じゃ・・・ないよな?)

それも、待ち合わせ時間の直前だ。
彼女を疑うわけではないが、定番すぎるほど定番な理由だ。

そうこうしているうちに、待ち合わせ場所に着いてしまった。

(No.490-2へ続く)

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