[No.471-2]どかん
No.471-2
でも、そんな“どかん”も、とうの昔に取り壊されていたようだ。
正確には、裏山そのものがなくなっていた。
「今となっては、いい想い出ね」
どかんは、いわゆる“立ちはだかる壁”だった。
幼い私たちにとっては。
「壁ならぬ“穴”ってとこだけど」
いつか大人になったら、どかんを通り抜けたい。
誰もがそんな想いに駆られていた。
だから、どかんに対して恐怖心はなかった。
むしろ、偉大な存在として君臨していた。
「子供心に敗北感があったのは確かね」
そんな偉大な“どかん”も、今は影も形もない。
「この窓から見えていたのにね」
「そうそう!この位置がベストなんだよね」
今は単なる住宅街が見えるだけだ。
「でも、こうしてこの窓から外を見るのも最後になるわね」
「・・・あのあたりだよね?どかん」
指さした先に、遠い記憶が蘇る。
偉大なる、どかん。
そして、その前で躊躇する私たち。
(No.471完)
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