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2013年8月

[No.476-1]気付かない

No.476-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「えっ!」

思わず驚きの声をあげた。

「・・・ない」

本来そこにあるべきものがなくなっていた。

「それなら、随分前に無くなったわよ」
「全然知らなかった・・・」

知らなかったと言うより、気付かなかった。
平日は毎日その道を通っていたはずなのに。

「小さな居酒屋だったからね」

居酒屋と言っても地元の個人経営の店だ。
悪く言えばプレハブ小屋のような店構えだった。

「でも、お客さんは多かったよね」
「そうね、入ったことはないけど」

いつも人で溢れていた印象がある。

「取り壊すなら、半日もあれば十分じゃない?」

確かにそうだろう。
重機を使えば、それこそ数時間も掛けずに更地に出来そうだ。

「でも、今更なんで気付いたの?」
「昨日、店があった前でね、おじさんが缶ビールを飲んでたの」

その時、ハッと気付いた。
缶ビールが居酒屋を連想させてくれたからだ。

(No.476-2へ続く)

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ホタル通信 No.177

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.127 振り向けば・・・
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

コメディタッチでテンポ良く話は展開していきますが、その反面実話度はほぼゼロと言っても良いでしょう。

新年明けに交わされた会話という設定ですが、特に新年明けを狙ったわけではありません
振り返るや振り向くというキーワードを自然に登場させたかったために新年を選びました。冬のホタルは超短編に仕上げるために、いわゆる背景をあまり書きません。
特に、時と場所はその代表格であり、会話の中で何となく伝えるようにしています。従って、唐突に振り返るというキーワードが出てきても、そんなに違和感を持たせないようにするために、新年を選んだ次第です。

実話度がほぼゼロでも、当時、振り返りたかったことがあったのは事実です
生きていれば、そんなことひとつやふたつあることが普通なのかもしれませんが、その時は普段とは性質が異なる、振り返りたいことがありました。

では、ちょっと小説について触れて行きますね。
小説のタイトルは「振り向けば」です。で、前半は「振り返る」であり、後半は「振り向く」になっています。
この違い、ホタル通信を書くために読み直して見て気付きました。
小説を書いた当時、あえて振り返ると振り向くを使い分けていたようです。それはなぜか・・・残念ながら、覚えていません。

前を向いて歩こう!小説では偉そうにそんなことを言っています。
でも、今でも振り向いてばかり・・・
だからこそ、今でも冬のホタルを続けられているんじゃないかな。
T177
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[No.475-2]食堂の匂い

No.475-2

私が今住んでいる家の最寄り駅は親戚の最寄駅と似ている。
改札を抜けた辺りから匂いがしてくることも同じだ。

「今のようにね」

それを子供心に“食堂の匂い”と表現した。
匂いの具体的な“手本”があったわけではない。
何となく、それに落ち着いた。

「だからと言って、何か具体的な想い出があるわけじゃないの」
「体が反応しているというか・・・」

大げさだが一瞬、タイムスリップした気分になる。

「こんな気分になるのは、ここだけと言うか、これだけ」

懐かしさがこみ上げてくる。
同時に、だんだんと足が遠のいて行ったことも想い出す。

「足が遠のいた原因は?」
「特別何もない」

別にこの親戚に限ったことではなかった。
成長と共にどこに対しても足が遠のいた。

「なんか、締まりのない話でごめん・・・」

結局、私は何が言いたかったんだろう。
昭和の雰囲気を残す商店街は今日も活気で溢れている。
S475
(No.475完)
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[No.475-1]食堂の匂い

No.475-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
匂いの元は、その時々で違うとは思う。
けど、それらをひとくくりにして“食堂の匂い”と表現している。

「匂いの想い出ってこと?」
「うんん・・・微妙に違う」

確かに視覚でも聴覚でもなく、臭覚には間違いない。
ただ、匂いそのものの想い出ではない。

「その匂いを嗅いだら想い出すの」

中学生になる前まで、よく訪れていた親戚がいた。

「その家の匂い?」
「・・・じゃなくて、最寄の駅に降り立った時の匂い」

最寄の駅に降り立つと、いつも油っぽいような匂いがした。
すぐそばに商店街があったからだと思う。

「決して嫌な匂いじゃないけど・・・なんていうか・・・」
「今、しているこの匂いのことでしょ?」
「そっ、そぉぅ!」

表現し難い匂いだけに、思わず声が裏返ってしまった。

「でも、なんで分かったの?」
「・・・と言うより、想い出したから口にしたんでしょ?」

見事に当たっている。

(No.475-2へ続く)

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[No.474-2]迷子のコリラックマ

No.474-2

「いいや、ちょっと待って!」
「100数えるかい?・・・それとも目をつぶる?」

言うなればかくれんぼだ。
菜緒(なお)なりの流儀があるのかもしれない。

「ちがうねん、なんてゆうたらええんかな・・・」

珍しく歯切れが悪い。

「探せばいいんだろ?」
「せやねんけど・・・」
「うちが声を掛けたら探して」

今まで以上に怪しい展開になってきた。
コリラックマを一体、どこに隠したのだろうか?

(けど、探しがいがあるってことかな?)

「ええよ!」
「ん?・・・探していいってこと?」
「それでは、改めて探すと・・・」

探し始めようと腰を上げた、その時だった。

「あぁー!」
「あぁー!って、なになに!?」
「お尻の下?ウソだろ!?」

今回はどうやら踏んづけてしまった設定らしい。
474
(No.474完)
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[No.474-1]迷子のコリラックマ

No.474-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「どこにもおらへん!」

そのセリフとは裏腹に、菜緒(なお)の表情は穏やかだ。

「せいじゅうろうか?」

何度かこんなパターンは経験している。
こちらも当たり前のように対応した。

「ちがうねん!今回はコリラックマなんや」

あいにく、コリラックマには名前がない。
“せいじゅうろう”のように菜緒が名付けた名前が。

「め、めずらしいな」

ちょっと意表を突かれた気分だ。
今までは、ずっとせいじゅうろうだったからだ。

「心当たりは?」

聞かずとも本人は知っているはずだ。
なにせ自作自演だからだ。

(まぁ、いつもの通りつきあうか・・・)

呆れているわけではない。
逆に、最近では楽しみになってきたくらいだ。

「じゃぁ、探すとするか!」

(No.474-2へ続く)

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ホタル通信 No.176

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.103 オレンジ色の香り
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:男性

ホタル通信を書くにあたって読み返して見ると、とある事実に気付きました。まぁ、そんな大袈裟な事実ではありませんが。

ブログを始めたのが、2009年2月。仕事の都合で引っ越ししたのが、2007年6月小説中の「去年も一昨年も」という記述は、単に時間の経過を表したものではなく、現在住んでいる地域の一員になっていることをかなり遠まわしに表現したものです。
去年も一昨年も・・・と思えるのはそこに住んでおり、その変化に気付けることに他なりません。
コメディタッチで展開される表向きの雰囲気とは別に、裏では知らず知らずに地域に馴染んできた自分を冷静に振り返っています

今でも、キンモクセイの香りがしてくると、すぐに名前を思い出せずにしばらく考えこんでしまいます。
そんな自分に「前もその前も考えこんでいたっけ」と、不思議と笑みがこぼれます。
移り行く季節を感じ、そして時間の経過を改めて知る。過ぎ去った時間は逆にその地域の一員になった時間として積み上げられて行きました。

そこにあるのに見えないもの。そこにないのに見えるもの。
小説の冒頭は何とも思わせぶりな書き出しになっていますがさほど深い意味を持たせていません
自分で言うのも変ですが、何となくそんな書き出しになってしまったのが本音です。
T176
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[No.473-2]私でした

No.473-2

(ん!?)

帰りの電車の中で、独特の匂いに気付いた。

(これ・・・)

間違いなく、551の豚まんの匂いだ。
何気なく車内を見回すと、答えはすぐに見付かった。
さっきまで、この話題をしていたばかりだ。
偶然とは言え、知らせるしかないだろう。

『何だか551の匂いが・・・斜め前の人でした!』

メールを送った。

別に悪い匂いじゃない。
むしろ、食欲がない自分でさえ、食欲を誘う匂いだ。
ただ、周りの数人もキョロキョロしている。

そうそうに返信があった。

『私の周りも何だか551の匂いが・・・』

(そっちも!?偶然ってほんとうに重なるもんだな・・・)

『・・・私でした!』
S473
(No.473完)
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[No.473-1]私でした

No.473-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「えっ!夏場なのに!?」

ひょんなことから、今夜の夕食の話になった。

「うん!夏場だからこそ、ビール片手に・・・」
「551?」

大阪で551と言えば、あれしかない。
あまりにも有名過ぎる。

「そっ!豚まんが合うんだよね」

確かに汗をかいた時は、塩っけが欲しくなる。
いわゆる、海の家で言う“ラーメン”だ。

「急に食べたくなって」
「あるでしょ?そんなとき」
「まぁ・・・なくはないけど」

ただ、こう暑くては食欲自体、減退している。

「これから買って帰ろうかと思って」
「じゃあ、また今・・・」

言い終わる前に、目線の先にある551に向かって走り出した。
そこまでして食べたかったのだと思うと何だか笑える。

(No.473-2へ続く)

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[No.472-2]カモとハト

No.472-2

「羨ましい?」
「うん、ちょっと・・・な」

彼女はそこに何を重ね合わせているのだろう・・・。
僕が言った通り、恋人かもしれないし、違うかもしれない。

「ずっと、一緒に居れたらええな」
「そうだね」

その鳥のことのようでもあり、僕たちのことのようでもある。
そんなセリフとして聞こえた。
けど、僕は後者のつもりで答えた。

「ずっと、一緒に居られるさ!」
「せやな」

さっきと立場が逆転したような会話になった。
それでも本心は隠したままだった。
それは、彼女も同じかもしれない。

「うちは、ハトかもしれへんな」
「なんで?」
「群れてるようやけど、ひとりぼっちやから」

答えに困る。
言っている意味が分かるからだ。

「けど、その群れの中で心配そうに見つめているやつもいるよ」
「・・・それなら、嬉しいけどな」

どちらからともなく、手をつなぐ。
まるで、それが答えかのように。
S472
(No.472完)
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[No.472-1]カモとハト

No.472-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「あれ見てん!」

声の勢いに釣られて、思わずその方向を見てしまった。

「・・・って、どこ!?」

まるで漫才のボケとツッコミのタイミングだった。

「ほら、あそこに鳥がいるやん!」
「・・・鳥?」

(宇宙人じゃあるまいし、今さら鳥ごときで・・・)

「あのカモみたいなやつか?」
「せやで」

何の鳥か自信はない。
けど、雰囲気からして、そうだと考えた。

「別に珍しくもないだろ?」
「せやかて仲がええやん!」

確かに、2羽で行動しているのが数組いる。

(もしかして、おしどりかな?)

「夫婦かな?恋人同士かな?」

話を合わせて見た。
仲が良さそうなのは事実だからだ。
ただ、カモらしき鳥を見る彼女の目が何となく寂しそうに見えた。

(No.472-2へ続く)

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ホタル通信 No.175

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.120 好みは変わる
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

食、異性、音楽。今回の小説に登場するテーマです。ただ、話を作るきっかけになったのは食です。

「あれ?昔は好きじゃなかったのに」
今でもそんな食に出会うことがあります。どうして今頃好きになったのか、はっきりした理由はわかりません。でも、ひとつ思い当たることはあります・・・それは後ほど書かせて頂きますね。

さて、その食の好みの変化を、異性や音楽の好みの変化とクロスオーバーさせながら話を展開させました。
ただ、最初からクロスオーバーさせる予定だったわけではなく、書き始めると自然にその方向に筆が進みました。どこか、潜在意識の中で、これら3つを同じものとして捉えていたのかもしれません。
異性の話を中心にコミカルに展開させています。
あえて重くする必要性も感じませんでしたし、男性を食する・・・なんて、今で言う所の肉食系女子のはしりかもしれませんね。
・・・とは言え、所々にちょっとだけ重い部分を盛り込んで、起伏をつけています

最後に前述した「ひとつ思い当たること」について触れておきます。
・・・けど、リアル過ぎてひかないでくださいね。
当時は食自体が細かったように思えます。食べ盛りの年齢だった割には。別に母親が作る料理がまずかったわけではありません。
でも、よくよく考えると素材のグレード・・・と言えば良いのでしょうか、それほどではなかったと思います
簡単に言えば、パイナップルは缶詰での味しか知らなかったのに生のパイナップルの味を知った・・・なんてことでしょうか。

食って楽しい思い出もせつない思い出もあるんじゃないでしょうか?
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[No.471-2]どかん

No.471-2

でも、そんな“どかん”も、とうの昔に取り壊されていたようだ。
正確には、裏山そのものがなくなっていた。

「今となっては、いい想い出ね」

どかんは、いわゆる“立ちはだかる壁”だった。
幼い私たちにとっては。

「壁ならぬ“穴”ってとこだけど」

いつか大人になったら、どかんを通り抜けたい。
誰もがそんな想いに駆られていた。
だから、どかんに対して恐怖心はなかった。
むしろ、偉大な存在として君臨していた。

「子供心に敗北感があったのは確かね」

そんな偉大な“どかん”も、今は影も形もない。

「この窓から見えていたのにね」
「そうそう!この位置がベストなんだよね」

今は単なる住宅街が見えるだけだ。

「でも、こうしてこの窓から外を見るのも最後になるわね」
「・・・あのあたりだよね?どかん」

指さした先に、遠い記憶が蘇る。
偉大なる、どかん。
そして、その前で躊躇する私たち。
S471
(No.471完)
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[No.471-1]どかん

No.471-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
通称“どかん(土管)”
少なくとも私たちはそう呼んでいた。

「結局、どこに続いてたんだろう・・・」

卒業以来、十数年ぶりで小学校の同窓会が開かれた。
再開を懐かしむ声も、すぐに“どかん”へ話が移った。

「そうね、分からずじまいだったね」

学校の近くに小川が流れていた。
小川は裏山のトンネルに吸い込まれるように繋がっていた。
そのトンネルを“どかん”と呼んでいた。
なぜそう呼んでいたかは定かではない。

「だって、真っ暗なんだもん・・・当たり前だけど」
「だよね・・・」

当時の私たちなら、立ったまま余裕で通れる大きさだった。
男子に混じって、私たちも何度か中に入った。
とは言え、数メートルも進めなかった。

「それに・・・覚えてる?」
「・・・今で言う、都市伝説ね」

中に滝つぼがあるとか、巨大な魚が居るとか居ないとか・・・。
今思えば、単なるうわさだったかもしれない。
私たちを中に入れないための・・・。

「確かに、そのうわさがあったから・・・」
「奥まで行く人は誰も居なかったよね」

(No.471-2へ続く)

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[No.470-2]また次の夏も

No.470-2

「じゃ、どうしたの?」
「とりあえず、茎に掴まらせた・・・と言うか・・・」

一応、茎には掴まってくれた。

「・・・引っ掛かっているだけだと思う」

自力で茎を掴んでいるのではない。
脚の構造上、茎にくっ付いているだけに過ぎない。

「ただね、次の日には居なくなってた」

周辺をくまなく探しては見たものの、見付けられなかった。

「飛んで行った?」
「ううん、そんな力が残っていたとは思えない」
「おそらく・・・」

前日はいつになく風が強かった。

「・・・飛ばされた?」
「・・・と、思う」

あるいは力尽きた後、鳥に狙われた可能性もある。

「まっ、仕方がないことだけど」
「ねぇ・・・今日、カラオケ行かない?」
「なによ!唐突・・・」
「・・・そうね、行こうか!」

会社を出る頃には、セミたちの大合唱はすっかり終わっていた。
その代わり、私たちの大合唱が始まった。

「ねぇ・・・供養のつもり?」
「別にそんなんじゃ・・・」

ただ、届けるつもりで元気に歌った。
S470
(No.470完)
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