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2012年11月

ホタル通信 No.147

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.076 尚、この件は
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

比較的、初期の作品であるということも鑑みても、まぁ、何と言いましょうか、“自己満にも程があるだろ?”と言われそうな作品です

ただ、自己満の話ほど実話度は高くなる傾向にありますが、作者が“報告書に追われる男性”か“なお(女性)”であるかは秘密です。
それはさておき、「初期+自己満」の作品ですから、その完成度は他の作品と比べても郡を抜いて“酷い”です。
当時はそう思っても、今、読み返してみると、そこそこのできに感じる作品もある中で、これについては今読み返しても、何とも酷い出来栄えで恥ずかしくなります。

では、酷いながらも内容について触れて行きます
この話、作者の執筆活動が大きく関係しており、昼休みに執筆活動を行っている関係で、会社のパソコンがどうしても漢字変換を学習してしまうことがきっかけとなっています。
漢字は異なりますが、“なお”という人物を数多く登場させているため、優先的に奈緒、菜緒、奈央・・・が、変換の候補として表示されます。
従って、タイトルにも使ったように「尚、この件は」と打ったつもりでも、「奈央、この件は」のように変換ミスをしてしまうことが何度もありました。

後半は同じ変換ミスでも、ケータイに舞台が移りますが、実はここからが自己満の本領発揮なんです。
パソコンでは今でも変換ミスをしてしまうほど“なお”の優先順位が高いにも関わらず、ケータイでは日を追うごとに下がって行く・・・
つまり、ブログ小説の登場人物として、“なお”は何度も登場しているが、ケータイでメールをやり取りしていた“なお”とは疎遠になったことを超遠回しに書いています。

今でもそうなんですよね。“なお”を変換すれば“奈央”が一番はじめに変換されます。忘れたいような、忘れられないような。
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[No.415-2]口癖

No.415-2

「じゃ、誰なの“なお”って?」
「聞こえてたのか!?」

口癖とは、前の彼女の名前を口にしてしまうことだ。
カップルにおいての致命傷とも言える。

「・・・怒らないのか?」
「前の彼女でしょ?聞き覚えあるから」

いやに冷静だ・・・逆にそれが不気味ですらある。

「ごめん・・・」
「別にいいよ、責めるつもりで言ったんじゃないから」
「じゃ・・・どうして?」
「多分、私と同じ理由だからと思って」

どうやらそこまで見透かされていたらしい。

「・・・そうなのか!?」
「うん、私も最近、出ちゃうんだ」

他人からすれば、不可解とも言える会話をしている。
前の彼女と彼氏の名前を口にする恋人同士。
本来なら修羅場決定だろう。

「俺も最近、特に」
「そっか、なら安心した」

他人には理解し難い話が続く。

「でも・・・一応確認しておこうか?」
「それもそうね・・・」

お互いの不安が笑いに変わるには時間が掛からなかった。

「良かったぁ!同じで」

今が幸せだからこそ、昔の人をつい心配してしまう。No415
(No.415完)
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[No.415-1]口癖

No.415-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
最近、口癖のようにつぶやいてしまう言葉がある。

「・・・何か言った?」
「いや・・・なんでもない、ただのひとり言だよ」

また、口にしてしまった。

「ただのじゃないよ!ひとり言こそ、心配になるじゃない」
「ごめん、ごめん!」

今の彼女と付き合い始めて、3年が経過しようとしている。
1週間前に、その記念日をふたりで祝った。

「改めて、3年間を振り返ってみてたんだよ」

日中はそうでもないカフェでも、夜になるとそれなりにムードがでる。
満天の星空の下、物思いにふけるには丁度良い。

「意外にロマンチスト?」
「おいおい、意外はないだろ」
「冗談よ!で、振り返ってみてどうだった?」

答えに困る。
嘘を付いていたからではない。

「そ、そうだなぁ~色々あったよな」
「良いことも悪いことも」

抽象的な答えに不服そうな顔をしている。

「話は戻るけど、だからひとり言が出ちゃったわけ?」
「う、うん・・・」

これも嘘じゃない。
けど、振り返っていたのは、前の彼女のことだった。

「ふ~ん・・・」
「なんだよ!?」

何となく見透かされているようでこわい。

(No.415-2へ続く)

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[No.414-2]一期一会

No.414-2

大袈裟だが、そうかもしれない。
仲間意識の最たる例だろう。

「で、話を戻すけど・・・」

男性と同じにグループになった。
目的は同じであっても、考え方は大きく違った。
その結果、何度も激しく論議を交わした。

「逆にそれが良かったのかも」

話を合わせてくれたり、私に賛同してくれる人も多かった。
けど、どこか本心じゃない・・・そんな気持ちもあった。

「意見が合うから好きになるわけでもないし」

意見は合わなくても、“人となり”を知りたい。
その意味では、彼の本心に触れた気がした。

「だったら余計・・・もしかして、例の後遺症?」

前の彼氏とは遠距離恋愛の末、別れた。
想像以上に、辛い恋愛になった。

「確かにそれも無いとは言えないけど・・・」

ただ、それ以上に“一期一会”の気持ちが強かった。
連絡先を聞いたら、今の私たちの関係が希薄になる気がした。

「まさしく、一期一会ってわけね」
「ごめんね」

なぜか、謝ってしまった。
友人の期待に応えられなかった、そんな気持ちがあるからだろう。

「ほんとそう!その男性からどこにどう繋がるかもしれないのに!」

友人もまた彼氏が居ない。
No414
(No.414完)
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[No.414-1]一期一会

No.414-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「なんで連絡先、聞かなかったのよ!」
「そう強く言わないでよ・・・」

本来、強く言われる筋合いはない。
とかく恋愛になると鬱陶しいほど、友人は熱くなる。

「だって、せっかくのチャンスだったわけでしょ!?」

さも現場に居たかのような発言だ。
これもまた友人の特徴でもある。

「別にそんなつもりじゃなかったの」

先週、社外で実施されたセミナーに参加した。
5日間の宿泊型で全国から人が集まっていた。
そこで、同じセミナーに参加していた男性と知り合った。

「“避暑地の恋”になってたかもしれないのよ!?」
「あのね・・・」

ある意味、避暑地だ。
自然に囲まれ、一時的にでも都会の雑踏を忘れることができた。
ただ、ある意味では・・・。

「人里離れた、山の中なんだよ?」

どこにでもあるはずのコンビニさえない。
ない・・・というより、車で1時間ほど走ればある。

「逆に、恋愛しかすることがなくていいじゃない!」
「あのね・・・」

何度、“あのね”と言えば済むのか・・・。
ただ、軽く否定はしたものの、そう思わなくも無い。
確かに“仲間意識”は芽生えやすいと思う。
閉鎖的な環境、同じ目的、こころざし・・・。

「例えるなら無人島での男女の関係ね!」

(No.414-2へ続く)

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ホタル通信 No.146

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.195 二度目の出逢い
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

この話、芸能界で言えば楽屋ネタみたいなものでしょうか?
身内しか分からない話の典型的な例です

とは言え、もともと冬のホタルは一般受けするのがブログの趣旨でもなく、表現は悪いですが“自己満足”が基本です。
ですから、その趣旨をより色濃く出した作品だと言えます。
さて、タイトルが二度目ですから、当然一度目があるわけです。別に一度目を隠す必要もないし、本編ラストにも堂々と書いています。

この話は人との出逢いではなく、言葉の出逢いです。
一度目が“ラジャー”、そして二度目が“ゆう”で、その言葉を発した人はそれぞれ別の人です。
たかが、言葉なんですが、その言葉に泣き、笑い・・・色んな思い出が詰まっているんですよね。もちろん、結果的にそれが人に繋がって行くのですが、小説的に少し変化球で勝負したくて、言葉をメインに持ってきました

ラジャー”については、小説もホタル通信も既出ですのでリンク先をご確認願います。
そして、“ゆう”の人を題材にいくつか話を書かせてもらいましたが、一番ストレートなのは「No.150 謎のオーケストラ」になります。
ブログ繋がりで知り合えた彼女。色々な意味でとても魅力的な人です。作者自身も変わっていることもあるからでしょうか?知り合いになる方も、大変個性的な方が多く、そのお陰で、大変良い刺激となっています。

最後に内容について少し触れさせて頂きますね。
実話度は高めですが、実際に対話したわけではなく、あくまでもメールのやり取りをひとつの時間軸上の話としてまとめたものです。
他人には全く何のことなのか、分からない部分もありますが、日常なんてそんなものです。だからこそ、その日常が大好きなんです。
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[No.413-2]初恋の基準

No.413-2

「その時はねぇ・・・ほら、色々あるじゃない!」
「でも、あながち嘘でもないのよ」

実際、始めて付き合ったのが、中学生の時らしい。

「それじゃ、小学3年生はどう説明するの?」
「これも、嘘じゃない」
「よくその男子に抱きついていたんだけど・・・」

特に意味もなく、ふざけ半分で抱きついたりしてたらしい。

「そのころから肉食系だったの!?」
「・・・今風に言えばそうなるわね」
「ところがね、ある日・・・」

今までとは違う感覚を覚えた。
それ以来、その男子とは一定の距離を置くようになった。

「よく分からないけど、とにかく意識するようになったの」
「で、それを初恋と決めてたの」
「どうして意識するようになったのか、謎だけどね」

結局、初恋の基準なんて、人それぞれなんだろう。

「ところで、あなたはいつなのよ?」
「私?言ったとおり、記憶というか基準が曖昧だから・・・」

だから、いつなのか決め兼ねている。
好きになった人はそこそこ居たりしたにもかかわらず。

「じゃあ、切り口を変えて失恋したのは?」
「小学5年生・・・だったかな?」
「だったら、初恋はそれで決まりね!」

(No.413完)
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[No.413-1]初恋の基準

No.413-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
初恋の記憶なんて、本来曖昧なはずだ。
そもそも、何を持って初恋なのか・・・。
その基準が曖昧だからだ。

「ほら、“初恋はいつ?”って聞かれたら・・・」

意外にみんなスラスラ答える。
保育園とか小学生とか・・・はたまた高校生とか。

「それだけみんな印象に残ってるからじゃない?」
「そうなのかなぁ~?」

幼稚園の時、確かに好きな男の子は居た。

「好きだからと言って、初恋と呼べるのかしら?」

さすがに幼稚園では、相手を“男”とは見ていない。
逆に、自分が“女”であると自覚もしていない。

「いわゆる“異性”として・・・ということね」

だからと言って、それを感じた時が初恋でもないだろう

「じゃあ・・・やきもちとか?」
「ほら、別の女子が仲良くしてたら、嫉妬しちゃうとか」

確かに、それはあるかもしれない。
独占欲と言うか、他の女子と仲良くしているのを見ると・・・。

「ちなみに私の初恋は、小学3年生だよ」
「ん?この前の合コンじゃ、中学生って言ってなかった!?」
「そう・・・だっけ?」

初恋の基準はやはり曖昧だ。

(No.413-2へ続く)

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[No.412-2]昔のケータイ

No.412-2

答えは単純明快だ。

「目覚まし時計の代わりよ」
「目覚まし?」

スマホにその機能が備わっていないわけじゃない。

「じゃぁ、なんで?」
「いちいち、面倒でしょ?アレもコレも1台に任せてたら」

ただでさえ、色んな役目を背負わせている。

「だから、目覚まし時計専用にしようかと」

目覚まし時計を買わないのは、地球にやさしい行為のつもりだ。
使えるものは使えばいい。
それにしても当時の最新機種がいまや時計代わりだ。
何となく神妙な気持ちにもなる。

「それに、これ見てよ!」
「見てって・・・普通にメニュー画面じゃん」

見てもらいたいのは、画面そのものじゃない。

「文字、見てよ?」
「文字?・・・今となっては随分、見難いわね」

極端に言えば、昔遊んだファミコン風のドット文字だ。
今とは滑らかさが違う。

「これが良いんじゃない!」
「全然、その気持ちわかんないけど」

何となくノスタルジックな気分になる。
ちょっと、一息つけるような、そんな感覚だ。

その目覚まし時計は今でも現役だ。
ベットの傍らに置いてある。
ただ、メールも着信履歴も全て消去した。
毎晩、枕を涙で濡らすわけにはいかないからだ。
No412
(No.412完)
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[No.412-1]昔のケータイ

No.412-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「確か、この中にあったと思うけど・・・」

スマホは便利だ。
ただ、1台何役もこなしてもらうと、逆に面倒な時がある。

「何、探してるのよ?」
「ケータイ電話」

“手に持ってるじゃない?”と聞かないのは時代の流れだろうか。
スマホは、もはやケータイではないらしい。

「あ、あったぁ~!」
「それ、2世代前のじゃない!?」

当時、友人と同じ機種を買った。

「そうね、かれこれ4年まえくらいかな」

たかが4年、されど4年だ。
ケータイ業界の変化は早い。
進化どころか、ケータイはいつしかスマホにその座を奪われた。

「いまさら、何するのよ?」
「ははぁ~ん・・・」

疑いの眼差しと、にやけた表情がどうやら答えらしい。

「ち、違うわよ!」
「確かに、まだ色々残ってるけど」

メールも着信履歴も当時のままだ。
まるで、ケータイの中だけ時が止まったままになっている。

「でも、時計は進んでるでしょ?」

嫌味にも聞こえるが、辛うじて時計は動いていた。

「それはともかく、教えなさいよ!」

思い出に浸りたいために、探していたわけじゃない。

(No.412-2へ続く)

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ホタル通信 No.145

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.124 歌えないカナリア
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

自分で言うのも変ですが、なんとも不思議なムードが漂う小説です。実話度はゼロなんですが、ただ・・・。

この話のきっかけなのですが、カナリアでもなければ、ネット、ブログ、カフェ・・・小説に登場するキーワード的な言葉はどれも当てはまりません
では何がキーワードなのかと申しますと、この話はある女性の置かれている状況と言いましょうか、それを描いたものです。
自由になりたくてもなれない、ひとりの女性。飛び出したいけど飛び出せない、そんな状況を詠った小説と言うより“詩”に近いものがあります。事実、ネット上に掲載されていたというシチュエーションで前半冒頭に詩を書いています。

偏見かもしれませんが、カナリアの存在価値は、その美しい鳴き声にあり、“見る”鳥ではなく“聴く”鳥であると思っています。
その鳥が、声を失ってしまったらどうなるか・・・もはやただの鳥に過ぎません。
ただ、このようなイメージはあるものの、ラストを飾る「でも、それと引き換えに、自由を手に入れたようだ」も別の意味でカナリアのイメージだと思っています。美しい声で鳴き続ける限り、カナリアは一生カゴの中から出ることはできません。

小説の実話度はゼロなんですが、背景は非常にリアルであり、様々な葛藤を抱えながら生きるある女性の姿を描いています。
リアルさを多少、オブラートに包むために、かなり遠回りの設定にしています
ブログに記載された何とも間接的な詩、それを傍観者として見つめる私。結局、ブログの主は直接的には登場せず、詩が消されていたこと、そして鳥かごのイラストが掲載されたことでその存在を表しています。

当時は結構苦労して作った小説で、しっくり来ていませんでしたが、改めて読み直してみると、そこそこ読める内容に仕上がっているように感じました。
No124
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[No.411-2]交錯する季節

No.411-2

「まぁ・・・分らなくもない話だけど」

ただ、明らかに面倒そうな顔をしている。
だから何なんだ・・・という話をしているのも事実だろうから。

「で、結論としては?」

それを見透かされたような彼の発言だった。

「それだけよ・・・いつも勘違いしているという、お話・・・」
「いつも?」
「そうね、ここ数年、今時期になるとこんな話してる」

単に記憶力が悪いだけなのか、何か思い込みがあるのか・・・。
いずれにせよ、だからと言って何か問題があるわけでもない。

「別に迷惑は掛けてないでしょ?」
「そうだな、迷惑は掛けてないけど」
「・・・けど、なによ」

今度は明らかに何か言いたそう顔をしている。

「・・・言えば?」
「言っていいのか?」
「・・・えっ!」

真剣な彼の表情に、一瞬、たじろいでしまった。

「びっくりするじゃない、もぉ!」
「だって、“言え”と言っただろ?」

話が堂々巡りしそうな雰囲気が出てきた。

「去年は聞いてないからな」
「来年も聞かせろよ」
「何をよ?」

そう言い終えてから気付いた。

「そうね・・・あなた次第じゃない?」

来年も再来年も勘違いした話を彼としたい。
No411
(No.411完)
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[No.411-1]交錯する季節

No.411-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
「ん?」
「ん?」

世界一とも言えそうな短い会話を彼と交わした。
でも、意志の疎通はできていると思う。
私は何かに気付いた“ん?”だ。
彼は私の“ん?”に対する“どうしたの?”的な“ん?”だ。

「もう、そんな季節になってきたのね」
「もしかして、この匂いのことか?」

今時期になると飛び込んでくるキンモクセイの香り。

「ただ、いつもすぐに名前が出てこなくて」

・・・というより、ある植物と間違えてしまう。

「間違える?」

香りに気付き、何の植物か考える。

「この香り・・・“沈丁花”だったかなぁ~って」

はっきりしないので、それを確かめるべく、ネットで検索してみる。
そこでようやく間違いであることに気付く。

「確か、春の植物だよな?」

似ても似つかない名前なのに、いつも勘違いしてしまう。

「そうなんだよね、季節的に似てるからかな?」

キンモクセイの香りが漂うのは、だいたい10月の上旬ごろだ
一年の中で、気温的に過ごしやすい時期でもある。
ただ、そう考えると、過ごしやすい時期がもうひとつある。

「・・・春?」
「うん、4月ごろもそうかな」

寒さが暑さに変わる時と暑さが寒さに変わる時。
その一点で捉えると同じだ。
その頃にキンモクセイも沈丁花も香る。

(No.411-2へ続く)

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[No.410-2]スニーカー

No.410-2

結局、理由が分らないまま店を出た。
ただ、スニーカーは買った。

「現実的には、もう成長は止まってるとは思うけど」

後、数年で30歳の大台に乗る。

「だから・・・そうやって胸を見ないの!」

少なくとも友人よりは大きい・・・と思う。

「小さくなったんだから維持どころか、老化してるのかもね」
「あ~、一番聞きたくない言葉!」

(聞きたくない?)

「だから・・・なんだ・・・」

さっきの首をかしげたくなるその気持ち。
無意識に“老化”をイメージしていたからだろう。

「ふ~ん・・・言われてみればそうかも」
「でも、痩せたりしたら大喜びするのにね」
「それだって、一種の“小さくなる”なのに」

確かに、場所によって一喜一憂しているのかもしれない。

「ただ、足のサイズなんて人畜無害よ」
「逆に小さい方が“可愛い女性”を演出できるんじゃない?」

そうかもしれない。
“小顔”に通じる考えだろう。

「けどね・・・別の意味であなた損しているわよ」

私が選んだスニーカー、真っ黒に銀色のドクロがやけに眩しい。

(No.410完)
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[No.410-1]スニーカー

No.410-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「なに、怪訝な顔して・・・」

友人が声を掛けてきた。

「えっ!そんな顔してる?」
「何度も首をかしげているわよ」

新しいスニーカーを買いに来た。
今まで履いていたスニーカーが痛んできたからだ。

「なにか気に入らないわけ?」

そうとも言えるし、そうとも言えない。

「足のサイズなんだけど」

一回り小さくなっている。
今までずっと24cmだったのに、23cmがピタリとくる。

「そんなのメーカーによって、多少は違うんじゃない?」

確かに同じサイズの靴でも履き心地は違う。
ただ、それはあくまでもフィット感であって、サイズではない。

「大きくなるよりはいいんじゃないの?」
「まぁ・・・場所によってはそうでもないけど」

そう言うと、私の胸をジッと見る。

「こっちは成長中なの!」
「冗談よ・・・で、小さくなったらなにか不便でも?」

別に不便ではない。
それに、なにか困ったことがあるわけでもない。

「だったら、いいじゃない」

でも、何だろう・・・首をかしげたくなる、この気持ちは・・・。

(No.410-2へ続く)

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ホタル通信 No.144

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.59 見えない文字
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

これぞ、“The 冬のホタル”と言う作品です。最近では見かけなくなったリアル感が懐かしいくらいです。

実話度に関しては、ほぼ100%と言っても良いでしょう。ですから、作者は“僕”か“由美”かのどちらかです。
ホタル通信は小説上の牽引役が語り手となるため、今は男性である“僕”が語り手になります。

内容は実話度ほぼ100%ですから、読んで頂いた通りです。
この時、生まれて初めて“死を覚悟した”人を目の当たりにしました
『死ぬのはこわくない、でも悲しいよね』
この言葉は記憶とか脳裏に焼き付いたとか、そんな半端なものではなく、今でも僕の“DNA”に深く刻まれており、忘れることは一生できないと思います。

死を選ぶことに対して、この場では否定も肯定もしませんがあの時の彼女は少なくとも“弱い人間”には見えませんでした。よほど僕よりも、強い人間に見えました
ただ、死を選ばなければならない自分に対して、疑問を抱き幸せになりたいのに、なれない葛藤に苦しんでいました。

さて、話は横道に反れますが、冬のホタルでは話がそれぞれ密接な関係にあります。それは登場人物がかなり限られているからです。
その中でも、この話は直接的に関係する話が多く、次の3つの作品がそれにあたります。
 「No.24 一人だけの入学式
 「No.210 記事を読む理由
 「No.285 誰も居ない助手席
ただ、小説の発表順が実際のエピソード順ではありませんので、良ければ上の3つの作品もご覧になってください。

この記事を書いていると、改めて想うことがあり、涙が出そうになります・・・でも、悲しい涙ではありませんからね
No144
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[No.409-2]アイドル

No.409-2

彼女とアイドルは、ひいき目で見なくとも似ている。
なのに本人も含めて、誰も似ているとは思っていないようだ。
それが今、はっきりした。
それになぜなのか?・・・も。

「やっぱり、憧れる?」
「うん・・・でも、うちには遠い世界や」

ルックスなら引けをとらない。
とらないどころか、上を行っている。
だからといって成功するかどうかは、時の運もある。

ただ、彼女とそのアイドルには決定的な違いがある。

「そんなことないだろ?」
「せやかて、プロフィールなんて書けばええねん?」

プロフィールなんて、ある意味嘘でもいい。
ただ、嘘を突き通してもかもし出す雰囲気を隠すことはできない。
それは生い立ちであり、そこから来る雰囲気の違いだ。
その雰囲気に包まれているからこそ、似ていると感じないのだろう。

「そのうち、“宿無しアイドル”なんて書かれるやろな」

両親のもとを離れ・・・というか、家を飛び出している。
今はどうにか、あるところに住んではいる。
でも、真の意味で、落ち着ける場所ではない。

「宿無しアイドルか・・・新しいかもな」
「いけるかな?」

ふたりで顔を見合わせる。

「今、何考えていた?」
「きっと、同じことやと思う」

ステージに立つ彼女、それを見守るマネージャーとしての僕。No409
(No.409完)
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[No.409-1]アイドル

No.409-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
彼女に良く似たアイドルが華やかにステージを彩っている。
彼女とは言っても、付き合っているわけではない。
あくまでも、女性の呼び方のひとつとしての“彼女”だ。

「・・・うちの顔になんか付いてるん?」
「ん?・・・いや、ごめんごめん!」

無意識に彼女の顔を見つめていたようだった。

「考えごとしてたら・・・」
「・・・どんな?」

嘘ではないため、答えに困る。

「ほら、人には言えないこともあるだろ?」
「・・・せやね・・・わかった!」

拍子抜けするほど、あっさり引き下がる。
多少、問い詰められた方が良かった気がしないこともない。

「この子、めっちゃかわいいやん!」
「誰かに似てるんだよな~」

ちょっと、あることを確かめてみた。

「だれなん?」
「ここまで出掛かってるんだけど・・・」

僕は悩んでいる振りをした。
でも、彼女は真剣に悩んでいるようだった。

「・・・まっ、そのうち思い出すよ」

これではっきりした。
彼女はそのアイドルが自分に似ていると思っていない。
恐らく、他人に言われたこともないのだろう。

それに、もうひとつはっきりしたことがあった。

(No.409-2へ続く)

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