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2012年8月

ホタル通信 No.135

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.79 心のスケッチ
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

最近のホタル通信では今回の話のような雰囲気重視の作品を紹介させて頂いています。

さらにこの話は自分でも言うのもおこがましいですが、少し文学的と言いますか、ポエム調でもあります。前半の中盤あたりはまさしくそれです
特にそうしたかったわけではないのですが、人の心の変化を海に例えようとしたら必然的にそうなりました。

さて、話の内容ですが、しっくり来るようなしっくり来ないような・・・そんな感じでしょうか
前述した通り、心の変化や心の内を海に例えて、それ一点だけで話を進行させています。冒頭とラストは、コミカルに仕上げ、それ以外はやや湿っぽく作っています。
実話度は低めで、登場人物を含めてシチュエーションなどはほぼ創作です。

何度か書かせて頂きましたが、雰囲気重視の作品は、当時の心境や心の叫びを文字にした作品が多いのは間違いありません。
ただ「No.079」ともなると、現在の作風に近い作りになっていますので、悪い意味でややサッパリした読み応えです。

今年も多くの人が海を訪れ、そこに色々な想いを映してきたのでしょうね
このままずっと眺めていたいけど、足元に寄せる波がそっと背中を後押ししてくれているような・・・そんな気がします。
No135
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[No.391-2]知らない車

No.391-2

「どうだった?」
「随分と変わった所もあれば、昔のままの所もあった」

それにしても改めて感じる。
便利な世の中になったと・・・。
でも、本当はそこへ足を運ぶべきだったのもかもしれない。

「住んでいた家はどうなってた?」
「昔のままだったよ、ただ・・・」

見た目は、記憶にあるそれと同じだ。
多少、古ぼけたことを除けば。

「じゃあ・・・なに?」
「・・・車」

アパートの前が駐車場になっていた。

「かつての駐車場にね、車が停めてあったの」
「そりゃ・・・駐車場だからだよね?」

そこには、誰かの知らない車が停められていた。
当たり前だと言えば、当たり前の話だけど・・・。

「なんだか・・・こう・・・寂しいというか・・・」

想い出の場所なのに、そこにリアルな生活感を見た気がした。

「いいじゃない、また誰の想い出が作られていると思えば」
「そうね」

けど、もう二度とネットでは見ない。
今度は足を運び、肌で想い出を感じてこようと思ったからだ。

(No.391完)
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[No.391-1]知らない車

No.391-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
他人には分かってもらえない気持ちのひとつだと思う。

「そこどこ?」
「前、住んでいた家」
「それにしても便利な世の中になったわね~」

一応、20代の私だ・・・発言はおばさんぽいが。
それは自覚している。

「その話は後で聞くから、肝心の店は?」

話題のスイーツを食するべく、ネットで下調べ中だった。
方向音痴の私たちだ。
事前のチェックなしで、その店にたどり着くのは至難の業だ。

「バッチリよ!」

今の時代、周囲の風景でさえ映像で見ることができる。
最寄り駅から、店まで続く道を何度も確認した。

「話を戻すけど、前住んでいた家って?」
「あ、うん・・・小さい頃ね・・・」

中学生まで住んでいた家だ。
持ち家ではなく、どこにでもありそうなアパートだった。

「こういうのって、急に調べたくなるのよね」
「わかる、わかる!」

今、どうなっているのか、急に知りたくなった。
あえて同じように最寄り駅から、かつての自宅を目指してみた。

(No.391-2へ続く)

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[No.390-2]折れた定規

No.390-2

「いつもなら、すぐに捨てちゃうじゃない?」

心なしか、嫌味に聞こえる。
物のようでもあり、人のようにも聞こえるからだ。

「そうね、拘らないタイプだから」

使わない物はすぐに捨ててしまうたちだ。
それが壊れた物となると、なおさらだ。

「どうして、これに限って捨てなかったの?」
「捨てるタイミングを失ったのかも」

事実、折れてしまった後も不自由なまま使っていた。
仕事上、使う必要があったからだ。

「帰りに買えばいいじゃない」
「拘らないなら、コンビニでも売ってるでしょ?」

そう、いつも通り捨てて新しいものを買えば済む話だ。
けど・・・そのタイミングも失った。
その日に限ってなぜだかコンビニに立ち寄ることさえ面倒に感じた。

「・・・で、結局そのまま?」
「案外、これが使えるんだよね」

もちろん、長さを必要とする場面では使えない。
でも、7:3の割合で折れた定規はそれぞれの役目を果たしている。

「あら、珍しい発言だこと!」
「・・・なんか、さっきから引っかかるのよね!」
「いいじゃない!それに元に戻る可能性もあるしね」No390
(No.390完)
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[No.390-1]折れた定規

No.390-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「何それ?」
「・・・これ?」

どこからどう見ても何の変哲もない定規だ。
買ったのは記憶に残っていないほど随分と前だ。
多分、100円ショップだったと思う・・・。

「定規だけど」
「そんなの分かってるわよ」
「それ、折れてるよね?」

言われなくても10cmの定規は間違いなく折れている。
真っ二つではなく、だいたい7:3の割合だ。

「なぜだか捨てられなくて」

どうせ聞かれることだ。
聞かれたことには答えず、されるであろう質問に対して答えた。

「使いにくくない?」
「・・・そうね」

それならなぜ?そんな表情が見え隠れしている。
でも、正直自分でもよくわからない。
なぜ、捨てずに使い続けているのかが・・・。

「想い出の品とか?」
「ううん・・・ただの定規」

本当に何の変哲もない、ただの定規だ。
拘りも想い出や想いもそこにはない。

(No.390-2へ続く)

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ホタル通信 No.134

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.63 傘
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:女性

この話の実話度は限りなくゼロです。話のヒントとなるようなエピソードもありません。でも・・・

シチュエーションとしては、ドラマのワンシーンのようでもあり小説上の現在に回想シーンが挿入されています。
その回想シーンは、前半冒頭の「出逢った瞬間は・・・」から後半の中盤「・・・行き交う人を眺めていた」までになります。

全ての人がそうだとは言えませんが、雨宿りって特にすることもなく、ひたすら雨が止むのを待つばかりですよね?
でも、足止めされていることが、何か特別な休暇を与えられたようでもあり、しばしの雨宿りをちょっと楽しんでいる自分が居ます。
繰り返しになりますが、実話度は限りなくゼロです。でも、ラストシーンは、当時の自分そのものであり、ひとつの決意の表れでもありました

雨を小説の題材にするケースは少なくありません。
自然現象として使うだけでなく、心の状態の例えとして使ったりしています。どしゃぶりの雨であったとしも、止まない雨はありませんからね。
初期の作品に多く見られた“雰囲気重視”の作品というよりもちょっとキザっぽい作品と言えるでしょう。秘書課の女性とプロジェクトチーム・・・狙い過ぎです

“走り出した私に、傘はいらない”
前向きな発言でもあり、涙を隠すためにそうしたのも事実ですが、あくまでも小説の中の話です。でも、そこに現実の私の決意を重ねています。
No134
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[No.389-2]一瞬が全てを変える

No.389-2

「それより、いいセリフじゃない」
「そうね、実は・・・」

そう、私は変わった。
そのセリフ通り一瞬にして・・・。

「単純過ぎない!?」

でも、人が変わる瞬間なんて案外そんなものだ。
感動的なシチュエーションじゃなくてもいい。

「・・・まっ、色々あったしね」
「言わないの!」

何かきっかけが欲しかったのかもしれない。
変わろうとしている自分を後押ししてくれる何かを。

「さぁ、戻るわよ!人波へ」

小休止はこれくらいでいいだろう。
悲しいけど現実はいつも目の前を流れている。

「あっ・・・見て」

ポスターの前で立ち止まっている制服姿の女の子が居る。
そして、小さくうなづく姿が見えた。

「あなたと同じじゃない?」
「そうだといいね」

彼女もまた、背中を押されたひとりかもしれない。

(No.389完)
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[No.389-1]一瞬が全てを変える

No.389-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
“一瞬が全てを変える”

地下鉄の通路にそう書かれたポスターが貼ってあった。

(何のポスターだったのだろう?)

人通りが絶え間ない通路だ。
足を止めるのは気が引けた。
そうなると、貼る場所が適切なのかどうか余計な心配をしたくなる。
でも、こうして強烈な印象が残っていることを考えると・・・。

「・・・逆に宣伝の効果は大きいのかもね!」
「き、きゅうに何よ!?」
「ん?いや、あれよ、あれ!・・・あれ?」

ポスターを探して指が宙をさまよった。
それもそのはずだ。
とっくにポスターの前を通り過ぎているからだ。

「もしかして、あれのこと?」

友人が目線の先にあるポスターを指さす。
今まで以上に、同じポスターが何枚も貼られていた。

「なんでわかった?」
「さっき、ガン見してたじゃん」

それでこそ宣伝の効果なのかもしれない。

(No.389-2へ続く)

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[No.388-2]想い出の道

No.388-2

当時、ある女性と付き合っていた。
ただ、ちょっとわけありの複雑な関係だった。

「けんかでもしたの?」
「・・・それより、先に聞かないのか・・・」
「昔のことでしょ?」

その言葉に嘘はない、表情を見れば分かる。
それでも聞かれたら正直に答えるつもりだった。

「そうだな、簡単に言えばけんかだな」

(簡単に言わなくてもけんか・・・か)

緊急の用事で呼び出されたにもかかわらず、すぐに覆された。

「それが目的の場所の意味ね」
「そこに向かうつもりだったからな」

だから、それを反故にされて、つい・・・。

「誰が見ているわけでもないけど」
「引っ込みがつかなくなった・・・」

そのまま目的の場所へ向かった。
もちろん、向かったところで彼女はそこには居ない。

「向かっただけで、着いてはいないでしょ?」
「なんでそう思うんだよ?」

確かに途中で引き返した。

「だって、想い出は道にあって目的の場所にはないから」No388
(No.388完)
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[No.388-1]想い出の道

No.388-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「道に想い出なんてあるの?」

ここで言う道とは、物理的な道だ。
今まで歩んできた道・・・つまり、人生のことではない。

「まぁな」

それに、どこでもいいわけではない。
今、僕達が車で走っているこの道路にほかならない。

「でも・・・街中だよね?」

有名なドライブコースでもなければ、これと言った特徴もない。
間違いなく他人にとっては何の変哲もない道だろう。
でも、僕にとっては忘れることができない道だ。

「・・・なら、私にしゃべっていいの?」
「もう、昔のことだよ」

大袈裟だが、あの時、僕には行き場が無かった。
だから、仕方なくこの道を走った。

「仕方なく?」

ただ、この道は目的の場所に通じる道でもあった。
そうナビが示していた。

「走り始めてしまったからな」

行くことでしか僕の気持ちは収まらなかった。

(No.388-2へ続く)

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ホタル通信 No.133

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.51 欠けたメロディ
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:女性

今、読み返すと「一体、何を言いたいのだろうか?」と自分の作品ながら恥ずかしくなってきます

ブログを始めるきっかけは何度かホタル通信でも紹介していますが、一言で言えば“想い”という見えないものを小説という文字にかえて形にしたかったからです。
この話もその典型的な例だと思います。実話度はゼロなんですが、当時の心境をしっかり物語っています。

では内容に触れて行きますね。
実話度ゼロですから、全編に亘って登場するオルゴール自体には大きな意味はありません。別に必ずオルゴールである必要もありません。創作しやすかったから・・・と、いうのが本音です。

小説前半の「違和感」、そして後半の「不完全さ」。このふたつがポイントになります。
当時の心境・・・と前述しましたが、正確に言うと「自分自身の心境」と言うより、“ある人”を、このオルゴールに例えています。
つまり、ふたつのポイント「違和感と不完全さ」を持った人が当時、私のそばに居た・・・ということになります。

「違和感と不完全さ」決して誉め言葉ではないでしょう。
でも、そんな人に出逢ってから、私の人生が大きくかわったのも事実です。
普通という言葉が適切ではありませんが、普通に生活して普通の人と出逢う。そして自分もその輪の中の一員であると、どこかで安心感を持っていました。輪の外にも世界が広がっていること・・・当時、意識することはありませんでした。

最後にこのオルゴールに例えられた人物は、もちろん実在しています。性別は秘密ですが、当ブログに一番影響を与えてくれた人なんですよ
No133
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[No.387-2]ラーテスカ

No.387-2

もちろん、聞いたことはないだろう。
でも、食べたことはあるはずだ。

「食べたことがあるの!?」
「あぁ、今までの話の流れを考えれば分るよ」
「流れ?・・・えっと、カ・ス・テ・・・」
「カステーラ!?」

分ってしまえば簡単だ。

「そっ!カステーラ」
「・・・って何?」
「えっ!」

一応、説明した・・・要は、カステラのことだ。
逆さまに読んだのには理由があった。

「昔な、友人から同じことを聞かれたんだ」
「“ラーテスカ”って食べ物知ってるか?って」

もちろん、その瞬間は知らなかった。
ただ、話を聞いているうちに、その事実が判明した。

「そいつ、夏祭りの屋台でそれを見つけたんだ」
「まるでカステラのような甘い香りだった・・・なんていうもんだから」

つまり、“!でいなら走”と同じだ。

「それなら、“フランクフルト”も、そうなのにね!」
「だよな、よほど売っている物と名前が一致しなかったんじゃない?」

あの四角いカステラではない。

「事実が分って、皆で大爆笑したよ!」

今でも、そいつのあだ名は、“ラーテスカ”だ。

「いさだくてっあきつ」
「・・・えっ!?」

理解力と行動力に、脱帽した。

(No.387完)
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[No.387-1]ラーテスカ

No.387-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
麻衣(まい)の言葉を聞いて学生時代に爆笑した話を思い出した。

「“!でいなら走”って何なのかな?」

引き金は、その言葉だった。

「それ・・・ギャグのつもりで言ってるんだよな?」

一応、確認した。
恐らく本気だと思うが・・・。

「ギャグ?」

やはり、本気らしい。
それは確かに“!でいなら走”と書いてある。
普通通り、左から読んだ場合ではあるが・・・。

「右から読んで見ろよ」
「右?ちょっと待って!」

慌てて右を向いている。
それもそのはずだ。
なにせ、エスカレータで上がっている最中だからだ。
だから右と言っても、正確には右下・・・ということになる。

「走・ら・な・・・あっ!?」
「・・・だろ?」

答えは簡単だ。

「“走らないで!”なんだぁ~」
「特殊な走り方だと思ってた」

だとしても、駅のそれもエスカレータの壁に、なぜそれを貼る!
思い切り、突っ込みを入れたい気分だ。

(ん?・・・まてよ・・・)

そう言えば、昔に似たような話があったことを思い出した。

「なぁ、“ラーテスカ”って食べ物知ってるか?」
「ラーテスカ・・・?」

(No.387-2へ続く)

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[No.386-2]片親

No.386-2

「そっか、そうだな・・・」

彼女の瞳には、彼らがどのように映っているのだろうか・・・。
バラバラになる前の家族と重ね合わせているのかもしれない。

「子猫はお父さん似なんやね」
「なんで分るんだよ!?」

目の前の猫を母親と仮定すれば、父親はこの場には居ない。
だから、似ている・・・なんて分りっこない。

「そんなん簡単なことやん!」
「簡単・・・あっ!」

母親と思われる猫の毛色は、黒が大部分を占めている。
それなのに、子猫は真っ白だった。

「確かに、お父さんにそっくりだな」

顔じゃない・・・毛色からそう判断したんだ。
でも、皮肉なものだ。
肝心の父親が居ない。

「まぁ・・・今だけ居ないのかもしれないけどな」

もしかしたら、近くで見守っているのかもしれない。
人間の父親だって、そんな時がある。

「どこか、その辺に居るんじゃない?」
「だったら、ええけどな

最初はあきらめのような言葉に感じた。
でも今は、期待が込められている言葉のように感じた。

(No.386完)
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[No.386-1]片親

No.386-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「あれ見てん!」

“何をだよ!”と聞き返さなくても、何を見れば良いのか分る。

「あの猫のことか?」

案外、珍しいのかもしれない。
親子連れの猫を目撃すること自体が・・・。
普段、見慣れているであろう光景は、写真の中のような気がする。

「最近、見かけへん光景やなぁ」

どうやら、彼女も同じような考えを持っているようだ。

「・・・だよな、それも3匹も」

子猫が3匹、親猫の後を追って歩いている。
足取りは、まだおぼつかない。

「わぁ!危ないやん!」

子猫が1匹、足がもつれるかのように転んだ。
でも、すぐさま親猫が駆け寄った。

「・・・羨ましいなぁ」

何気ない一言なのに、返す言葉が見つからない。

「きっと、お母さんやろな」
「何で分るんだよ?」
「いつもそばに居るから」

ただ、彼女の場合は違った。

No.386-2へ続く

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ホタル通信 No.132

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.34 想い出の鍵
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

この話は初期の作品によく見られた“雰囲気”重視の作品です

小説に書かせて頂いたのは当時だけの心境ではなく、今でも当てはまります。
何らかの想い出から当時の流行歌を思い出すのではなく、流行歌から想い出が蘇る・・・そんな感じでしょうか?
想い出と歌にそれほど特別な関係がなかったとしてもです。
この話しはそんな感覚を小説にしました。初期の作品ですから作り込みは甘いのですが、初々しさはあります。

「歌は想い出の鍵」である。
今でも、テレビやラジオから聞こえてくる懐かしい歌に、忘れかけていた想い出の扉が開けられることがあります。
メロディによって運ばれるのは、当時の懐かしい記憶と甘くせつない青春の日々ってところです。

思えば知らず知らずの内に、鍵穴が作られていたんでしょうね。今でも自分の心に中には、いくつもの鍵穴があるような気がします。
歌によって開けられる扉は違っていて、逆に言えばその扉を開けることができるのは決まった鍵であり、歌である・・・と言えます。

この小説を作ろうと思ったのは、とある歌を耳にしたからです。
そして、その歌で開けられたひとつの扉は、前述した甘くてせつない扉でした。
今思えば、ちょっと照れくさくなるような想い出でも、当時は結構真剣で、それなりに必死だったような気がします。
でも、たまには想い出に浸って見るのも悪くありません。そんな時だってありますよ。
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[No.385-2]消えたせいじゅうろう

No.385-2

「多分、この中に・・・」

かばんをゴソゴソすることもなく、すぐに発見できた。

「ほら、ここに居るよ」
「・・・ホンマや!」

入るのに丁度都合が良いポケットに収まっていた。
昨日、ケータイをチェックされる前に、外して入れた。
よく考えれば、初めてせいじゅうろうを外したことになる。
付けて始めてから、既に3年は経過していた。

「良かった、良かった」

俺以上に、菜緒(なお)の安堵感が印象的だった。

「うちが元の場所に戻しといたる!」

そう言うと、せいじゅうろうをつまみ上げた。

「・・・あっ!」
「ど、どうした?」
「狭い所に居てはったから、グッショリ汗かいてんねん!」
「おい、おい、冗談は・・・えっ!」

触ってみると確かに、グッショリ濡れていた。

「ま、まさか!」

背筋が寒くなる、そんな季節になって来たのは確かだ。
今日も、テレビでそんな特集をやっていた。

「・・・な、わけないやん!」
「でも、実際に濡れてるし・・・」

その問に応えるように、菜緒が俺のカバンから何かを取り出した。

「あっ・・・ペットボトル・・・」

つい、さっき買ったばかりのペットボトルのしずくがその犯人だった。No385
(No.385完)
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[No.385-1]消えたせいじゅうろう

No.385-1    [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「せいじゅうろう、居てへんやん?」
「ん?」

菜緒(なお)の言葉に、すぐには反応できなかった。

「ケータイ、ケータイ!」

ようやく、ことが飲み込めた。

「あぁー!」

ケータイにぶら下がっているリラックマのせいじゅうろうが居ない。

「落としたん?」
「いや、そんなはずは・・・」

確かに紐が切れて・・・ということも考えられる。
ただ、そんなに簡単に切れるものでもない。

「昨日までは、ぶら下がって・・・」

(・・・昨日・・・あっ!)

「思い出した!わざと外したんだ」

昨日、公的な試験を受験した。
最近は特にケータイのチェックが厳しい。
その試験でも、確実に電源がオフされているかチェックされた。

「それだけやったら、外さんでもええやろ?」
「そうなんだけど・・・ほら、何となく」

本音を言えば、少し照れくさかった。
それに、厳かな試験にせいじゅうろうは似合わない。
つい、笑ってしまいそうになる。

「わかる!わかる!笑いのツボに入ったら大変やもんな」
「そやけど、せいじゅうろうはどこへ行ったん?」

行き場所はすぐに検討はついた。

(No.385-2へ続く)

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[No.384-2]青空に聞く

No.384-2

彼女が最後の言葉を発してから、どれくらい経過しただろうか。

「落ち着くね、この景色」

別に街中だって、青空を見上げることはできる。
でも、この場所でなければ意味がない。
同じ青空であっても、感じるものは全く異なる。

「元カノなんだけど・・・」

なぜか、聞かれてもいないのに話し始めてしまった。

「いいよ、話さなくても」

さっきとは立場も展開も逆になった。

「いや、聞いて欲しいんだ」

元カノは幼い時の様々な経験から、心に深い傷を負っていた。
そのせいで、時々自分を見失うことがあった。

「・・・見失う?」
「遠回しに言えば、自分の存在を否定しようと“行動”に出るんだ」
「・・・今、元カノは?」

正直分らない。
あれから一切、連絡は取っていないからだ。

「知りたいけど、知るのが怖い」
「そうよね・・・それなら聞いて見れば?」
「誰にだよ?」

そう聞き返すと、彼女が真剣に青空を見つめている。

「空に!?・・・そうだな」

なぁ・・・青空を下から見上げてるのか?
それとも上から僕たちを見守ってくれてるのか?
No384
(No.384完)
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