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2012年6月

[No.375-2]出せないメール

No.375-2

「それで、どうしようと考えているの?」

彼と連絡が取れない以上、唯一可能性があるとすれば・・・。

「・・・もしかして、彼女に!?」
「うん、アプローチしてみようかと」

ただ、あれから1年ほど経過している。
だから、アドレスが変わっている可能性だって十分ある。

「そこまでしなくても・・・」
「でも、はっきりさせたいの」

彼女と暮らしているなら、それでもいい。
もし、彼女と別れていたとしても、改めて付き合う気は無い。

「どうやって彼女にアプローチする?万一・・・」

そう・・・もし彼女が今も彼と付き合っていたとする。
加えて、彼が二股していたことを知らなかったとする。

「そうね、もめる可能性は否定できない」

もちろん、そんなことは望んでいない。
それは、うそじゃない。

「それでもするの?」
「ごめんね、頑固者で」
「いいよ・・・今に始まったことじゃないし」

幸か不幸か、彼女にメールが届くことはなかった。
送信した瞬間に、宛先不明を知らせるメールが届いたからだ。

「もう・・・忘れることにする!」
「そうね・・・ところでメールには何て書いたの?」
「何も書かなかったよ」

同じ人を好きになった者同士だ・・・多分、感じてくれると信じた。

(No.375完)
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[No.375-1]出せないメール

No.375-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
中途半端な状態で分かれてしまった彼が居る。
ケンカしたわけでもないのに、ある日突然、連絡が途絶えた。

「でも、予兆くらいあったんでしょ?」
「まぁ・・・無かったとは言えない」

確かに順風満帆なつきあいではなかった。

「それはそれとして“彼女のアドレス”ってなに?」
「彼と付き合っていた彼女のアドレスよ」
「・・・それって・・・」

私とその彼女からすれば、彼は二股していたことになる。

「思ってる通りよ、でも知ってたし」

正確に言えば、彼女が居ることを承知で付き合った。

「とにかく、その彼女のアドレスってことね?」
「そう・・・以前彼から送られてきたメールに・・・」

彼が彼女とケンカした時だった。
彼が彼女から送られた来たメールを私に転送してきた。

「えっ、と・・・話がややこしいわね」

彼から転送されて来たメールに、彼女のアドレスが載っていた。

「あえて載せたんじゃないと思う・・・転送ならそうなっちゃうし」
「多分、彼女のメールを私に見せて」
「“どう思う”的なコメントが欲しかったんじゃない?」

ただ、友人に相談したかったのは、メールの内容ではない。

「彼女のアドレス・・・私のケータイに入ってるんだ」

電話帳としては登録していない。
彼からのメールを保存している関係で、それも残っている。

(No.375-2へ続く)

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[No.374-2]by せいじゅうろう

No.374-2

必ずとは言いたくないが、仕事にミスはつきものだ。

「どないしたん?元気ないやん」
「あのな、昨・・・いや、なんでもない」

女性・・・それも年下相手に愚痴るのは止めておこう。
男のプライドとしてではなく、少なくとも楽しい話ではないからだ。

(・・・そうだ!こんな時こそ)

「格言にでも頼ってみようかな?」
「菜緒(なお)も随分、見ただろ」

この際、開き直ってクイズっぽくしてしまおう。

「今の俺にピッタリな格言・・・紹介してくれよ」
「なんか、わくわくする展開やん!」

・・・と言ってはいるが、一向に探す気配がない。

「探さないの?」

(もしかして、熟読して覚えてしまったとか!?)

「ちょうど、ぴったしの格言あるよ」
「そ、そうなんだ」

やはり、覚えてしまったらしい。
さすがと言うか、若いと言うか・・・とにかく、羨ましい記憶力だ。

「で、どんなの?」
「このページを見てみ?」

開けたページには、菜緒の手書きで何か書かれていた。

“なやんでも・・・・・” by せいじゅうろうう

また、菜緒とこいつらに助けられた気がした。
Sn3p0075
(No.374完)
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[No.374-1]by せいじゅうろう

No.374-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
仕事で使っているシステム手帳。
1ページごとに、格言が掲載されている。
どれもこれも、心に響く。

「だから、格言なんやろ?」

菜緒(なお)にしては、すごくまともな突っ込みだ。

「そうなんだけど、ほら・・・なんていうか」

時に、自分にピッタリな格言が見つかる。
悩みごとを和らげてくれたり、吹き飛ばしてくれることさえある。

「綺麗ごとを並べただけじゃないからな」

単に格好良い言葉を並べたわけじゃない。
むしろ、人間のドロドロした部分に迫っている。

「だから、今でも生きているというか・・・」

それこそ、何十年、何百年もその言葉は生き続けている。

「なんか、話が壮大やな~」

長年、人間を見つめ、そして戒め・・・。
でも、本質はとても温かい。

「ええこと言うやん!」
「・・・そ、そうかな?」
「うちにも見せて、その格言」

仕事用とは言え、別に社外秘が書いてあるわけではない。
スケジュール管理が主な手帳だ。

「日曜日に、返してくれればいいよ」

2日間もあれば十分、格言を堪能できるだろう。

(No.374-2へ続く)

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ホタル通信 No.126

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.180 答えはひとつ
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

この小説は、冬のホタルの中でもかなり変わったタイプの話です。でも、表面的にはそれが余り感じられないかもしれません。

さて、何が変わっているかと申しますと・・・
前半冒頭、ネットで“ケース・バイ・ケース”と言う言葉を検索し、そこからとある小説へとリンクして行きます。
検索の結果、目的としていたものとは違うものに辿り着いてしまうことは、よくあることですよね?
ですから、これ自体は珍しくも変わってもいません。変わっているのはその辿り着いた先の“小説”にあります。

それでは、その小説が“かなり変わった話だった”ということになるのでしょうが、そういったこともありません。
実はその小説の作者は当ブログの作者である“ホタル”なんです。つまり“ケース・バイ・ケース”という言葉を検索した所、「No.151 ケース・バイ・ケース」に辿り着いてしまったわけです
つまり、実話度を考えないとすれば、本来小説は架空の話にも関わらず、実在する小説に辿り着いてしまう、それも自分が作った小説に・・・です。

話が少しややこしくなりますが、小説上の私(女性)はその辿り着いた小説は「誰かが作った単なる小説」にしか過ぎません
ところが、小説上の私は作者(ホタル)でもありますから、作者の目から見ると、自分の小説にリンクさせるという、何とも不思議な感覚です。

変わった話・・・の話だけで内容には触れていませんが、ひねった部分は少ないですから、有りのままを感じて頂ければと思います。
ケース・バイ・ケースを「最も最適と思われる答えが見つからない時の最も最適な答え」と定義付けしたのは、手前味噌ながらお気に入りです。
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[No.373-2]笑顔に逢いたい

No.373-2

とりあえず、物陰に隠れようと思った。

(どこがいいかな・・・)

再び辺りをキョロキョロする。

「ナイスな場所、発見!」

エレベータに向かう通路が丁度、周りから死角になりそうだ。

(とりあえず、急・・・あっ!)

目があった。
それにお互い、一歩も動けないくらい硬直した。

「・・・居たの!?そこに」

その誰か、つまり親猫がそこに居た。
親猫とは言っても、断言はできないが・・・。
でも、硬直しながらも耳が子猫の泣き声を探っている。

「じゃぁ・・・私が姿を消すから」

(・・・と見せかけて)

数秒、親猫の死角に入ったが、再び顔を覗かせた。
すると、さっきよりは距離が進んだ位置で再び目が合い硬直した。

「ごめん、ごめん!もうしないから」

親子の再会を邪魔する、たちの悪い人間として映っているだろう。

「ほら、もう行って」

気持ちと言葉が分ったと言うのだろうか?
目の前を疾走して行った。
・・・と同時に、あれほどうるさかった子猫の鳴き声が止んだ。

「良かったね!」

(何だか、私も逢いたくなってきちゃった)

まだ見ぬ母を思い出した瞬間だった。
No373
(No.373完)
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[No.373-1]笑顔に逢いたい

No.373-1

登場人物
=牽引役(女性)
-----------------------------
(・・・ん?)

近くで猫の鳴き声が聞こえる。
猫が好きでも専門家でもないが、恐らく子猫の鳴き声だろう。
声が、か細いことに加えて・・・。

「えっ・・・と、どこかな?」

泣き声が聞こえる辺りをキョロキョロと見渡した。
すると、数メートル離れた先に、それは居た。
思った通り・・・子猫だった。
大きさからすれば、生まれたばかりのような気もする。

「鳴いてないで、こっちにいらっしゃい!」

つい、雰囲気で子猫を呼んでしまった。
もちろん、通じるなんて思っていない。

「あっ・・・ちょっと待ってよ!」

逆に私の声に驚いて、姿を隠してしまった。
でも、遠くには逃げてはいない。
まだ、泣き声が近くで聞こえるからだ。

(やっぱり・・・そうか!)

泣き声だけで子猫だと思った理由はふたつある。
ひとつは泣き声が、か細かったこと。
もうひとつは、誰かに呼びかけているような泣き声だったからだ。
もちろん、その“誰か”も想像はできていた。

「・・・と言うことは・・・・」

きっとその誰かは近くに居るはずだ。
そう直感した。

(そうなると・・・私がここに居ると、警戒して近寄れないわね)

まずは少なくともこの場所から立ち去らなくてはならない。

(・・・と見せかけて)

意地悪いが、完全にここから立ち去るわけではない。

(No.373-2へ続く)

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[No.372-2]誘った夜

No.372-2

『ごめんなさい、今は無理』

予想通りでも、予想外でもない。
この場合、なんと言えば良いのだろう・・・。

『そうなんだ、じゃあ、またの機会に』

文字を打ち込んだものの、送信ボタンを押すのをためらっている。
今は無理・・・その言葉をどう捉えて良いか、迷っているからだ。

次の機会がすぐに訪れるものなのか、それとも二度と・・・。
もちろん、後者ということも十分考えられる。
・・・と言うより、今は後者の匂いがする。

つまり・・・。

「これ、断られた・・・よな」

真意を確かめることなく、作ったメールを削除した。
しつこく誘うつもりはないが、潔く諦めた方が良いだろう。

『そっか、分かった』

結果が聞けただけでも、良しとしよう。
少なくとも彼女がしびれを切らしている訳ではなかったからだ。

メールはこれで途切れた。
逆に途切れて良かったと思っている。
これ以上続くと、返す言葉も続けていく話題も見当たらないからだ。

『今日、来れますか?』

今でも、この言葉の真意が分からずにいる。

(あの日、何もなかったのがダメだったのかな?)

そんな自意識過剰な考えも脳裏に浮かぶ。
誘われた夜、そして・・・誘った夜。
ちょっとほろ苦い、それぞれの夜。
No372
(No.372完)
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[No.372-1]誘った夜

No.372-1    [No.371-1]誘われた夜

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
1週間が経過した。
あれから色々と考えてしまう、特に・・・。

(僕から送った方が良いのだろうか?)

前回は彼女から誘われた格好だ。
でも、見方によっては“しびれを切らしたから”ともとれる。
社交辞令と思い、僕が彼女を誘わなかったばかりに・・・。
ただ、今は状況が違う。

「やっぱり、ここは誘うべきだよな」

今度は僕が彼女の勇気に応えないといけない。
彼女がしびれを切らす前に。

(でも、どう誘ったら・・・)

お互いその気なら、何も悩む必要はない。
言わば出来レースを演じれば良い。
ただ、さすがにそこまでには至っていないだろう

『・・・遠慮せずに・・・だから・・・』

とにかくメールした。
けど、内容はかなり遠回しだ。
ずるいけど、彼女に結論を預けてしまった。

『言ってる意味が良く分からないけど』

すぐに返事が返ってきた。
予想していたものの、こうハッキリ書かれるとは思っていなかった。

(だよな・・・仕方ない!)

『今度、遊びに行っていい?』

直球、ど真ん中で勝負した。
言いたかったことは、正直これだけだ。

今度の返事は1時間後に到着した。

(No.372-2へ続く)

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ホタル通信 No.125

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.110 雨の匂い
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

もしかすると、この話・・・ブログのテーマである「悲しい終わりはありません」に引っ掛かっているかも!?

実話度はかなり低めで、小説冒頭の“雨の匂い”にまつわる部分は事実ですが、そこから広がっていく後半の“手紙”については創作です。
雨の匂い・・・言わば、湿気っぽい匂いです。
小説に書いた通り、特に夕立が降る前に感じるような気がします。そんな経験から、雨が降ることが前もって分かる、それなら雨を避けることも可能・・・と、言う流れから小説が生まれました。

さて、話を戻しますが「悲しい終わりはありません」が当ブログのテーマでもあります。
従って、例え涙で終わる話でも、悲しい涙で終わらせることは決してありません。ただ、この小説、改めて読み返して見ると、何やらテーマに反したエンディングのような・・・。
・・・と見せかけて、実は奥深い所に・・・と、いうこともありません。従って、書いてある通りのエンディングです。

話を続けましょう
一言で言えば、エンディングでは失恋したことになります。
「手紙を渡せなかった」または「渡したけど突き返された」を想定しています。特にどっちかを決めていません。
他の小説にも書いたことがあるのですが、登場人物にあえて雨に降られてもらうことがあります。
理由は様々あるのですが、今回の話は王道とも言えるであろう「涙を隠すため」です。

手紙を「渡せなかった」「渡したけど突き返された」は別にしても、雨の中、涙を隠す私(女性)の姿が想像できませんか?もし想像できるなら、どんな表情をしていますか?

決して悲しい涙では終わらせないのが冬のホタルなんですよ。
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[No.371-2]誘われた夜

No.371-2

自分としては、少なくとも土日を想定していた。
もしも、彼女の家へ遊びに行くことがあったとしたら・・・だ。
それが平日、しかも・・・夜も遅い。

『これから行くよ』

ストレートに短く答えた。
何だか、彼女の勢いに押されている。

(さて・・・どうしたものか)

彼女の家に着く前に、あることないこと考えてしまう。
彼女が覚悟したのか、僕が覚悟しなくちゃいけないのか・・・。

「いらっしゃい」
「ワンワン!」

そうこうしている内に、彼女とチビが出迎えてくれた。

「私も、そう!」
「な、だろ!」

会社を離れることで、見えてくるものもある。
思った以上に会話も弾んだ。
でも、そんな時こそ、時間は無常にも過ぎて行く。

「・・・ごめん、つい話しこんじゃって」

気付けば、もうすぐ23時になろうとしている。

「じゃ、もう遅いから帰るね、また今度」
「・・・うん」

こう言いながらも低俗だけど・・・戸惑っている。
何かした方が良かったのか、しなかった方が良かったのか・・・。

彼女の想いがつかめぬまま、帰路に付いた。
No371_2
(No.371完)
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(No.372-1へ続く)

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[No.371-1]誘われた夜

No.371-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
一気に緊張感が走る。
社交辞令だと思っていたことが、そうではなかったからだ。

『今日、来れますか?』

(・・・えっ!今日・・・)

たった一行のメールをさっきから凝視している。
こと始まりは、ちょうど1週間前にさかのぼる。

『それなら、遊びに行こうか?』

同僚の女子社員に送ったメールだった。
もちろん、この前に何度もメールやりとりしていた。
その流れの中で、このような結論に至った。

『うん、待ってる。チビも喜ぶし』

チビとは彼女が飼っている犬の名前だ。
この時は社交辞令に毛が生えた程度だと思っていた。

『じゃあ、また今度な』

社交辞令の王道とも言える返答をした。
極めて曖昧な所が、ある意味、大人な対応だ。

『分かった、今度ね』

多少、惜しい気もする。
けど、この手の話には期待しない方が身のためだ。
過去、何度と無く・・・。

「うそだろ?・・・今からなんて」

こんな時、男性の方が意気地がないのかもしれない。
時計の針は、もう21時をとっくに過ぎていた。

(No.371-2へ続く)

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[No.370-2]一枚の写真

No.370-2

「名前・・・だって知らない」

正確に言えば、覚えていない。
当時は、“姓”なら知っていたはずだ。

「昔、ツアー旅行に行ったことがあって・・・」

気ままな、ひとり旅だった。
本来なら、ひとり旅とは言えないのかもしれない。
でも、知り合いが居たわけでもない。
だから、気持ちの上では、十分ひとりだった。

「言っとくけど失恋の痛手を・・・なんてことじゃないからね」

ただ、いくらひとりと言えども、その内、仲間意識は芽生える。

「それを見越して?」
「うん・・・ひとりと言いながら、誰かの温もりを感じたかったのかも」
「・・・で、その男性と知り合いになったんだ?」
「それがね、違うんだ」

その男性とは最後の最後まで話はしなかった。

「でね、別れ間際に一言二言だけ話したんだ」

皆がそれぞれの帰路に付こうとする瞬間だった。
何を話したのか全く覚えてはいない。
けど、何年来の友人のように、ごく自然に言葉を交わした。

「だから妙に印象が残ってて」

偶然なのか、必然なのか・・・。
写真に写る彼は、私好みの顔だった。

(No.370完)
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[No.370-1]一枚の写真

No.370-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
(あっ!この人・・・)

ある人の写真を引き出しの中で見つけた。
一気に当時の記憶が蘇った。

「ある、ある!写真に見入ってしまうこと」

引き出しの中は整理されていない写真で溢れかえっていた。
もう、何年もそんな状態だ。
でも、今更ながら整理しようと思い、手を付けたら・・・。

「気になる一枚を見つけたんだ」
「元カレ?」
「・・・なんて言えばいいのかな」

手っ取り早く言えば、限りなく“他人”だ。

「他人?何だか、良い展開になってきたじゃない!」
「あのね・・・」

この手の話に目がないと言った表情だ。

「まだ男性とも女性とも言ってないよ?」
「間違いなく、その人は男性よ!違う?」

理由を聞いても、恐らく根拠などないだろう。
ただ、そういうことに関してはめっぽう鼻が利く。

「当たってる・・・」
「で、その人との関係は?」
「だから・・・限りなく他人だって」

うそじゃない、間違いなく他人だ。

(No.370-2へ続く)

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ホタル通信 No.124

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.48 昨日のセンチメンタル
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:女性

この作品も初期の作風が色濃く出ています。完成度は相変わらずですが、伝えたい想いは現在の作品よりも、強いものがあります。

さて、この作品は話の途中に2回、回想シーンが登場しますが、「過去どんなことがあったのか」を説明しているのではなく、揺れ動く私の気持ちを回想シーンを挟むことによって演出しています。
実話度はゼロでも、話の源流となるそのものがゼロであることは今まで数多くの作品を手掛けてきた中で一度もありません。従って、この話も源流となる事実はありました。

実話度ゼロですから、登場人物や舞台設定等は全て創作です。ただ、なぜ舞台として高台を選択したかは、今となってははっきり覚えていません。
でも、ひとつ言えることは小説を読み直してみると、今でも当時の気持ちが蘇って来ます。そして、その高台にあたかも居るような、そんな錯覚さえも覚えます。

小説の完成度はともかく、小説の作り方が独特なのが「冬のホタル」の特徴でもあります。
話の展開は登場人物が決める・・・今でもその方法ですが作風は少しずつ変化しています。
初期の作品は、「抽象的な話」が多かったように思えます。
ある意味、小説っぽいと言えるのですが、作り込み過ぎると本来の持ち味を生かせません

具体的ではない話ほど、実は現実味が強いのですが、一般受けはしない・・・これが冬のホタルの持ち味なんですよ。
No124
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[No.369-2]ですな

No.369-2

「人の口癖とか頻繁に聞くと、移っちゃうんだよな」

だから、アレなんか、すぐに影響される。

「お笑い芸人のギャクなんか・・・」

気付けば何度も口走っている。

「だから、特長のある言葉を言うの、勘弁してよ~」
「そうですな~考えておくわ」
「あのね・・・」

それにしてもどこでこの言葉を覚えたのだろう。

(どこかの方言なんだろうか?)

「ちなみに、生まれはどこ?」
「言わんでも、わかるやん!」
「・・・だよな」

どうやら言葉通りらしい。
どこからどうみても大阪人だ。

「“ですな”って大阪弁?」
「どやろ、気にしたことないけどなぁ~」

方言と言うには、少しインパクトが足りないような気がする。
でも、自分の知らない方言なんて、数え切れないくらいあるだろう。

「それやったら聞いとくわ、今度」
「誰に?」
「村の長老ですな~」

彼女が話すとうそに聞こえないところが笑える。

(・・・って、なんだよその表情・・・)

「えっ!うそじゃないの?」

(No.369完)
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[No.369-1]ですな

No.369-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
朱に交われば赤くなる・・・とでも言っておこう。

「美味しかったですな~」

目の前に居るのは20代前半の女性だ。
・・・いや、女の子と言った方が似合う。
なのに語尾が、女の子っぽくない。

「その、“ですな~”何とかならない?」

別に汚い言葉でもないし、キツイ言葉でもない。
むしろ、柔らかで温かみを感じる。
ただ、なんとなく、老人の言葉のように聞こえてならない。

「・・・ほら、アレ・・・アレだよ!」

ここまで出掛かって、出てこない。

「・・・!そうだよ、長老・・・村の長老!」
「随分、レアな人物ですな」

言ったそばから、また“ですな”が登場した。
とにかく、村の長老と言うか・・・徳のある人と話している気がする。

「それなら、ええことやん・・・ですな!」
「無理やりくっつけるなよ~」

この後、ふたりで大笑いした。
別に、彼女とけんかしたくて、“ですな”を指摘したのではない。

「あ~あ、だめだ・・・」
「どないしたん?」

頭の中はすでに“ですな”で埋め尽くされている。
そう・・・僕はすぐ影響されてしまうたちだ。

(No.369-2へ続く)

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[No.368-2]夢の中

No.368-2

「うん、全然知らない人」

(知らない人なら、意識することもないか・・・でも・・・)

「まだ見ぬ運命の人・・・ってことも有り得るね!」

なぜか私の方が積極的な発言をしている。
確か、そんなことを聞いたことがあったからだ。
見知らぬ人の出現は将来出逢うであろう、運命の人だと。

「・・・そうなんだ」
「あれ・・・嬉しくないの?」

意外だ・・・誰よりも喜ぶ話をしたつもりなのに。

「運命の人かもしれないのよ!」
「だから・・・全然知らない人だって!」
「それはさっきから何度も聞いてるよ」

知らない人だから、感情移入ができないのかもしれない。
それが例え運命の人であったとしてもだ。

「あのね、知らない人のことなんだけど」
「相手の男性だけじゃなくて、抱きしめられてた女性も知らない人」

「・・・えぇー!!」

友人には気の毒だが、夢ってそんなものだろう。No368
(No.368完)
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[No.368-1]夢の中

No.368-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「昨日、強く抱きしめられちゃったんだよね・・・」

友人が朝から艶かしい話をしてきた。

「その割にはあまり嬉しそうじゃないけど?」
「そうかな・・・」

私にはここ数年、彼氏が居ない。
だから、ちょっと刺激的なセリフではある。

「いつもなら、もっとテンション高くない?」
「・・・もう、分かってるくせに!」
「やっぱり、そうなんだ・・・」

この場合、想像力と言うべきか、妄想と言うべきか。
いつもごとく、夢の中の出来事らしい。
何となく察しは付いていた。

「夢の中でも、いつもなら・・・」
「それがね、今日は知らない人だったんだ」
「知らない人?」

友人の夢の中には、知り合いがよく登場する。
夢って、だいたいそんなものだ。
潜在意識を含めて、現実とオーバーラップする。

ただ、友人はそれをきっかけに好きになってしまうことが多い。

(No.368-2へ続く)

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ホタル通信 No.123

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.39 コントロール
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

初期の作品ですから、完成度は今一歩も二歩も・・・という感じですが当時の苦悩を描いた作品です。

実話度が示す通り、シチュエーション的にはほぼ事実と言えます。友人とは言いませんが、とある人に相談し、実際に小説に似たような会話を交わしました。

さて、時間的な流れの補足です。
前半の冒頭から中盤までは回想シーンです。つまり、小説上の友人に相談する内容を回想シーンを使って明らかにしています。
後半はこれも冒頭から中盤かけて、前半よりも更に時間を経過させています。ここではひとつの恋が終わろうとしているシーンです。恋と言っても前半の続きではなく、前半の言葉を借りれば、次の恋・・・ということです。

ところで、この話は当時の苦悩を物語るように、様々な話とリンクしています。既にいくつかご紹介していますが、改めて整理すると次のようになります
但し、それぞれの小説の登場人物はあえて別人に設定していますので表面上、繋がっているようには見えません。

No.39はそのままNo.28「女の子へ聞け」に繋がり、No.28はNo.25「受信フォルダ8」へと進んで行きます。詳しくはホタル通信No.078をご覧くださいネ。
そして更にはNo.39の原因になる話が存在します。つまり、小説冒頭の回想シーンの原因です。良かったら、探して見てください。何となく「これじゃないかなぁ~」なんて話がありますから。

最後になりますが、この小説にはオチを入れています。
最後まで読んで頂ければ、その瞬間「えそうだったの」とチョットだけ、ビックリするかもしれませんよ。
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