[No.329-2]左の靴紐
No.329-2
「ふ~ん・・・で、実際になにか起こったわけ?」
興味なさげな返事の割に、表情は食い付いている。
「ううん、特にこれと言って」
「ただ・・・いつもそんな気になるだけ」
お笑いで言えば、ネタを振ったにも関わらずオチがない。
言わば“振り逃げ”の話しだとは理解している。
「確かに、靴紐が切れたりしたら・・・」
「そんな気にもならなくはないけど」
実際に何も起きていないなら、そう考える必要はない。
なのに、なぜ・・・私が聞きたいくらいだ。
「トラウマがあるとか?」
少なくとも、記憶している範囲ではそれは考えられない。
「いっそのこと解けないようにしちゃおうよ!」
提案口調の中に“面倒だからさぁ”という言葉が隠れている。
でも、解けなければ、余計な考えが起きないのも事実だ。
「そうね・・・絶対に解けないようにしよう!」
接着材で接着しようか・・・そんな大胆な意見も出た。
解く時どうするのか、もちろん考えてなどいない。
「こうね・・・こうして・・・二重にして」
「そこまでしたら、解く時大変だよー!」
いつの間にか、必死になっていた。
さっきまでは、どうでも良かったことなのに。
「これでどう?もう、解こうにも解けないわよ」
靴紐と共に、もうひとつの紐も固く結ばれていくのを感じた。
(No.329完)
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