[No.311-2]右手の指輪
No.311-2
「・・・気付かなかったことに対してだろ?」
「そうよ」
これは間違っていないらしい。
「でも、気付いていない」
「・・・遅いけど・・・今は気付いているよ?」
「そうじゃない」
気付く、気付かないで、キャッチボールが進まなくなった。
(気付いたのに気付いてない?)
状況がうまく飲み込めない。
なにか大きな勘違いでもしていると言うのだろうか。
「今は指輪の話だよな?」
「そうだよ」
念のために確認した。
気付かない対象が“気持ち”だとか、見えないものなら堪らない。
「だったら、今、気付いた。何度も言うけど」
それでも彼女の表情は変わらない。
「指輪であって指輪じゃないの」
彼女がこう切り返してきた。
指輪の話なのに指輪じゃない?・・・ますます理解できない。
「じゃ、これ見て」
彼女がこれ見よがしに右手を僕の目の前に突き出す。
「さっきまでと、変わったところない?」
「・・・あっ・・・!」
彼女の勢いがそうさせたのか、ようやく今までの辻褄が合った。
「指の位置・・・が変わったんだ」
指輪の存在に気付かなかったことが不機嫌の原因ではなかった。
僕のグレードが少し上がったことに対して・・・なんだ。
(No.311完)
| 固定リンク | 0
「(013)小説No.301~325」カテゴリの記事
- [No.325-2]似てるけど似てない(2011.12.20)
- [No.325-1]似てるけど似てない(2011.12.18)
- [No.324-2]二度目の別れ(2011.12.17)
- [No.324-1]二度目の別れ(2011.12.16)
- [No.323-2]隣人(2011.12.13)
コメント