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2011年10月

[No.311-1]右手の指輪

No.311-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
(・・・あれ?)

梨乃(りの)の右手に指輪が見えた。

(前・・から?)

記憶があいまいで、ハッキリしない。
前からのようでもあり、今日始めて見たような気もする。

「ゆび・・・わ・・・?」
「ん・・・なに?」

少し、ためらい感が残る聞き方になった。
いくら鈍感と言えども、指輪に意味があることぐらいは知っている。
もちろん、指輪の種類ということではない。

「指輪、前からしてたっけ?」
「・・・これ?」

聞けば、随分前からしていたらしい。

「出逢った時もしてたけど?」

疑問調の返事に、ややトゲを感じた。

髪型や化粧の変化・・・女性が気付いて欲しいポイントだ。
それに、服装やアクセサリーだって同じだろう。
どちらにしても、墓穴を掘ったようになった。

「ごめん・・・」
「これ、目立ちにくタイプだから気にしないで」

そうは言ってくれるものの、表情は険しい。
あからさまに怒ってはいないものの、不機嫌さがヒシヒシと伝わる。

(それにしても、マズイこと聞いちゃったな)

沈黙がしばらく続いた。
この沈黙が、どんな意味を持つかは分からない。

「ねぇ・・・私が不機嫌な理由わかる?」

彼女から先に口を開いた。

(No.311-2へ続く)

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[No.310-2]名も無き彼女

No.310-2

「なんとなく・・・展開が読める」
「・・・多分、考えている通りだよ」

そう・・・僕は彼女が連れてきた友達に一目ぼれした。

その瞬間から、彼女には全く目が向かなくなった。
本来なら苗字から入り、いずれ名前を呼ぶこともあっただろう。
でも、それを口にする前に、友達を好きなってしまった。

「結局、彼女の名前を口にすることなく・・・」
「・・・別れた?」
「あぁ・・・自然消滅的に」

申し訳ない気持ちは今でも持っている。
だから、印象には残っている。
けど・・・名前となると別だ。
“覚えていない”というより、もともと記憶されなかった可能性がある。

「ますます、ひどい話に聞こえるね」
「・・・だろうな、今ならそう思う」

逆に今は、何としてでも思い出したい気持ちでいっぱいだ。

「だから、こうして話してみたんだ・・・何か進展しないかと」
「手掛かりになりそうなものは?」

彼女へつながる“モノ”や“人”は、なにも残っていない。

「じゃあ、やっぱり頑張って思い出すしかないじゃない」

彼女との接点を、改めて思い返してみる。
けど、そもそも接点自体がみつからない。
接点ができる前に、早々に彼女とは縁遠くなっていたからだ。

「うーん・・・ダメみたい」

それからも時より、思い出す努力を続けた。
そのせいだろうか・・・誰よりも深く記憶に残っている。
名も無き彼女のことが。

(No.310完)

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[No.310-1]名も無き彼女

No.310-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
細かく言えば、姓だけではなく、名も覚えていない。

「それって、ひどくない?」

そんな捉え方もあるだろうが、随分と前の話だ。
覚えていなくても責められる筋合いはない。

「でも、最初の彼女でしょ?」

高校1年生の時、初めて女性と付き合った。

「そうだけど・・・」
「だったら普通、印象に残らない?」

印象に残っていないわけではない。
どうしても名前だけが思い出せないでいる。

「もともと、告白された側だったし」

自分が好きになったわけじゃないから、ある意味、受身だった。
受身と言っても、無関心な受身だったが・・・。

「好きなら、どうぞご勝手に!って感じだったな」

正直、当時を振り返ればそんな高飛車的な感じだった。
でも、最初からそうだったわけではない。
告白された時は、それはそれで嬉しかった。

「・・・じゃあ、なんで?」
「最初のデートで・・・」

最初のデートは1対1ではなく、3対3のデートとなった。
お互い、それぞれ友達を2人連れてくる・・・。
それは彼女の提案でもあった。

「照れ隠しもあっただろうし」

彼女だけでなく、自分もそれの方がありがたかった。
けど、これが状況を一変させた。

(No.310-2へ続く)

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ホタル通信 No.094

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.43 モノクロ-ム
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:男性

この小説を一言で表せば、ムーディな作品です。比較的初期の作品でもあり、明らかに何かを狙った構成になっています。

実話度はゼロ、それに創作のきっかけとなる、キーワード的な存在も覚えていません
ただ、前述した通り、やや寂しさも漂うムーディな雰囲気から、当時の心境を映し出したのではないか?と思っています。

さて、小説の内容に触れて行きますね。

まず、前半の「雲のない・・・」から「濃い青一色なのだろうか」のくだりはどう感じましたか
このホタル通信を書くために、改めて読み直してみると「薄い青一色」「濃い青一色」のそれぞれの“青”が、“黒”の間違いであることに気付いた・・・けど、もう一度、深く読み直してみれば、やはり“青”が正解だと分かりました。
ファーストコンタクトでは黒一色だった絵が、タイトルを見たことで頭の中で“青に変換された”というシーンです。

自分でも言うのも変ですが、恐らく何らかの理由で「不思議なモノクロの絵」というネタを生み出したと感じています。
従ってラストは、私と女性の会話を、ただ重ねて行った結果に過ぎません。
いつもそうなんですが、ラストを考えてから書き始めることがほとんどなく、登場人物に展開は任せています。

最後に・・・。
絵画ではないのですが、写真を加工してモノクローム化してみました。何となく雰囲気を味わってみてください。
No094
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[No.309-2]乗り遅れた飛行機

No.309-2

「一言で言えば、不安の表れなんだって」

確かに、思い当たる節がある。
今も、具体的な不安もあれば、漠然とした不安も持っている。
とにかく性格的にも不安性だ。
あることないこと・・・不安がる傾向にある。

「見事なくらい、当ってるのよね」
「それなら、長く付き合うしかないんじゃない?」

都合よく考えれば、夢は一種の警告とも言える。
“今、不安を抱えてるよ”と・・・。

「警告か・・・いいこというね」
「長く付き合え・・・って、言ったからじゃない」

実際、これからも乗り遅れる夢は見るだろう。
その時には、自分に少しだけやさしくなればいい・・・。

「ただね、一度だけこんなパターンがあったの」

一度だけ、ギリギリで間に合ったことがあった。
いつもなら出発した後、乗り遅れたことに気付く。

「その時は、なんで気付いたの?」
「誰だかわからないけど、教えてくれたの・・・」

夢の世界のできごとだ。
そのほとんどが、うまく説明できない。

「“出発時刻が迫っていますよ”と」
「それに・・・ね」

空港に向かうまでに、手を差し延べてくれる人が大勢いた。
車で送ってくれたり、出発ゲートまで案内してくれたりした。

「・・・そう言えば、あなた・・・」
「えっ!わたしも居たの?・・・感謝しなさいよ!」

その一度だけ居なかったことを思い出した。

(No.309完)

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[No.309-1]乗り遅れた飛行機

No.309-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
その夢は、何度も見ている。
シチュエーションは多少違えども、ある2つのキーワードは同じだ。

「たかが夢でしょ?」

されど夢だよ・・・と、反論したくもなる。
それにしても、いつからだろうか。
こんな夢を見るようになったのは・・・。

「・・・でね、いつも乗り遅れるんだ」

ただ、乗り遅れる原因は夢ごとに多少、異なっている。

「乗り遅れる?・・・流行に?」
「うん、いつも!・・・って、こらぁ!」

つい、ノリツッコミをしてしまった。

「ごめん、主語が抜けてたわね」

そう・・・わたしは“飛行機に乗り遅れる夢”をよく見る。

「居眠りしちゃって、誰も起こしてくれなかったり・・・」

最近では空港にいながらも会話に夢中になり、気付けば・・・。

「飛び立った後だった」
「夢占いで調べてみた?」
「もちろん」

調べなくても、楽しい結果が待っていないことは予想できた。
ただ、何がそうさせているのか、は知りたかった。

「調査結果は?」

どのサイトで調べても結果は概ね同じだった。

「・・・なるほどね」

その反応が私に対してなのか、結果に対してなのかは分からない。

(No.309-2へ続く)

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[No.308-2]天ぷらうどん

No.308-2

「おなかいっぱいやわ~」

菜緒(なお)が苦しそうにおなかをさすっている。

「俺も!」

男性でも少しきついボリュームだった。
それに評判通りの味と、えびの大きさでもあった。

「えびはどうだった?」

大きいだけではなく、衣のサクサク感も絶品だった。
もちろん、素材自体が秀逸であることは言うまでもない。

「それがなぁ・・・」

場の雰囲気に反するような、明らかに浮かない表情だ。

「えっ!・・・美味しくなかった?」

味覚は人ぞれぞれ違う。
それに評判が良いからと言っても、好みもある。

「ううん、食べてないねん・・・」
「食べて・・・ない?」

意味が分からず、菜緒から事情を聞いた。

「俺も食べるのに夢中だったから・・・」

確かに菜緒が食べているシーンは見ていない。
けど、理由はよく分からないが、食べていないと言い張っている。

「・・・それなら、えびの天ぷらはどこに行ったんだよ?」
「もしかしたら・・・」

今度は明らかに笑顔になっている。

「あー!やっぱり、せいじゅうろうが持ってるやん!」
No308
(No.308完)

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[No.308-1]天ぷらうどん

No.308-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「うどんでいいの?」
「うん、ええよ」

今日、逢うにあたって、事前に菜緒(なお)から提案があった。
提案と言っても、単なる昼食のリクエストだったが・・・。

「うどん、好きだっけ?」
「いや、特別、好きやないけど」

その割には、あえて“うどん”を指名している。
でも、菜緒は大阪の人だ。
うどんが日常過ぎて、そんな特別視していないだけだろうか。
いつもの通り、なにか引っ掛かる気もするが・・・。

「じゃ、美味しいと評判の店へ行こうか?」
「やったぁー!」

特別好きでもないのに、この反応・・・。
ますます気になる・・・とは言え、深く考えるのはよそう。

「・・・で、なに食べるの?」
「うちな、天ぷらうどん、食べるねん!」

既に食べるものは決まっているらしい。

「天ぷらうどん?・・・丁度いいよ!」

その店は、天ぷらうどんで有名だ。
有名な理由は、味はもちろん、ある特徴があるからだ。

「えびの天ぷらが大きいんだよ!」

その瞬間、菜緒の目の奥がキラリと光った。

(なんだ・・・えびの天ぷらが好きだったんだ)

だから、うどん自体は“そこそこ好き”レベルなんだろう。
ただ、この時、俺は勘違いをしていた。
菜緒の目の奥が光った理由を・・・。

(No.308-2へ続く)

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ホタル通信 No.093

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.141 男女の友情 
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

タイトルである“男女の友情”が表す通り、話の主軸はそこにあるのですが、本来書きたかった内容ではありません。

男女の関係は、単純なものから複雑なものまで、それこそ人の数だけ存在するのかもしれません。
それでも、大きく括れば、いくつかに分類されるのでしょうが、どこにも属さない微妙な関係も少なくはありません。
この話で書きたかったことは、実はそのどこにも属さない微妙な関係でした。

では・・・書けば良かったわけですが、どこにも属さない関係なだけに、超短編ではどうしても書くことができませんでした。
その代用として、この話を仕立てましたが、この話自体はそれほど創作でもなく、多少の事実に基づいています。

男女の友情
テーマとしては、散々語りつくされていると思います。それに身近にもそんな関係の人が居ることも少なくありません。
でも、友情の位置付けは男性、女性という立場では全くことなっており、女性から見えば成立しても男性からは見れば成立しない・・・と、小説では書かせて頂きました。
小説上の私(女性)はそれを知ったうえで「彼の勇気」を試しています。考えようによっては、チョット艶(なまめ)かしいシーンですよね。現実の私はそんなことできませんが(笑)
No093
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[No.307-2]蜘蛛の糸

No.307-2

「・・・とは言っても悲鳴じゃないわよ」
「そんなの分かってるわよ」

さすが同僚・・・飲み込みが早い。

「だって、今日も糸、張ってるのよ」

だから、思わず声が出た。
“あんた何やってんのよ”・・・と。

「そのクモって、前日の?」
「うん、多分そう・・・そっくりだったから」

決して冗談のつもりで言ったのではない。
状況的にも、そう考えるのが妥当だと思ったからだ。

「嫌がらせ?それとも好かれてる?」
「そうね・・・好かれてると思いたいね」

それにしても、2度も糸を張られるなんて妙な気分だ。
わざわざ、自転車に・・・それに前と全く同じ場所だし・・・。

「よほど居心地が良かったんじゃない?」
「今度、会ったら聞いておくよ」

でも、今日は昨日と違い、大変だった。
クモを前と同じように草むらに投げようとしたら・・・。

「糸がくっついちゃって」

払いのけても、糸が私にまとわり付く格好がしばらく続いた。
意外にクモの糸はしつこかった。
それならば、いっそのこと・・・。

「朝、時間もないから仕方なく・・・」
「えっ!そんな可哀・・・ん・・・そっちじゃなくて!?」
「うん、ほら・・・」

朝から同僚の悲鳴が響き渡った。

(No.307完)

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[No.307-1]蜘蛛の糸

No.307-1

登場人物
=牽引役
(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「・・・ん?」

自転車のハンドルに手を掛けた時、あることに気付いた。
一匹のクモが、空中に浮いている。
もちろん、そんなわけはない・・・そう見えるだけだ。

(まさに綱渡り状態ね)

ハンドルとサドルの間にキラリと光る糸が一本見え隠れしていた。

「・・・でね・・・聞いてよ」

昨日のクモとの触れ合いを同僚に話した。

「よくもまぁ・・・冷静に話せるね」
「どうして?」
「だって、“キャー”とか“ワァー”がひとつも入ってないじゃない」
「そう言えばそうね」

全く、女子っぽくない私の行動に対するコメントだった。

「私なら絶対ムリ!」

あまり得意とする人は少ないだろう。
特に女子ともなれば・・・。

「それだと会社に行けないから、つまんで草むらに投げたの・・・」

私の言葉に明らかに同僚が引いている。

「そしたら、今日・・・」
「まさか・・・クモの恩返し?」

別に助けたわけじゃないから、恩返しは有り得ない。
それ以前に、恩返し自体有り得ないが・・・。

「ううん、また糸、張ってたの」

その時は、さすがに驚きの声が出た。

(No.307-2へ続く)

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[No.306-2]背筋がピン!と

No.306-2

「・・・朝から告白?」
「ち、ち、ちがうよ!」

本日、2回目の否定は、“ち”が1つ増えて、否定度を増した。

「一歩、間違えばストーカー的な発言よ」

畳み掛けるように、言葉を並べる。
告白でも、ましてやストーカーでもない。
タイミング的にいつも彼女の背中を追うような格好になるだけだ。

「そんなぁ~」

多少、大袈裟に落胆して見せた。

「まぁ、一応誉めてもらってるから、許してあげるけどね」

ツンデレタイプには有効な手段だった。

「でも、どうしてそんなに姿勢がいいの?」

それこそバレリーナのようにピン!と背筋が伸びている。

「・・・失恋したから・・・かな」

失恋と姿勢の良さ・・・僕の中ではつながらない。

「どういうこと?」
「いつもとは違う目線で歩けたということよ」

はっきりとは答えを言っていない。
ただ、不思議と伝わってくるものがある。
逆にこれ以上聞くと、場を白けさせてしまいそうだ。

「それから、前を向いて歩くようにしたわ」

その言葉通りでもあり、別の意味も含んでいると分かる。
行動として歩く、そして気持ちの上でも前を向いて歩くのだと・・・。No306
(No.306完)

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[No.306-1]背筋がピン!と

No.306-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
時々、通勤途中に彼女と出会う。
出会う・・・と言っても、彼女は僕の前を歩いている。

「おはよう!」
「あっ、おはようございます!」

その結果、いつも彼女の背後から声を掛けることになる。
決して、狙っているわけではない。
お互い通勤時間の習慣が、そんな位置関係にあるからだ。

「唐突だけど・・・」

なぜか、いつも感じていたことを口にしたくなった。

「転勤?」
「さ、させたいの!?」

時期が時期だけに誤解を生んだ。

「じゃあ、なに?」

基本、ツンデレタイプだ。
最初はそのかもし出す雰囲気に、見えない壁を感じていた。

「姿勢いいよね」

その言葉通り、後姿を見れば彼女だとすぐ分かるほどだ。

「そう?気にしたことないし・・・それに・・・」
「それに?」
「自分じゃ見えない」

誉めたつもりが、逆に攻められているような気がする。
もっとも・・・彼女らしい・・・が。

「僕はいつも見ていたよ」

僕としては彼女の言葉に、ただ反応したつもりだった。

(No.306-2へ続く)

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ホタル通信 No.092

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.177 時の引換券 
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

登場人物は、話の牽引役である女性がひとりだけなのですがラジオのパーソナリティも、登場人物のひとりとして存在させています。

小説では「ラジオを付けた瞬間には何の話か分かっていない」状態ですが、実際は最初から“夜行列車にまつわる思い出”というお題を聞いていました。
雰囲気的に単語の羅列が“連想ゲーム”っぽく聞こえたためやや謎解き風の出だしに仕上げました。

話の構成としては前半がラジオ、後半が列車にまつわる想い出という構成です。また実話度が示す通り、どちらもほぼ実話です。
小説を書くきっかけは、ラジオで“あかつき”という名前を聞き、当時のことを想い出した・・・という順番です。当時の想い出話をしたいがために、ラジオをくっつけた訳ではありません。
従って、ラジオで“あかつき”という名を耳にしなければ、恐らく小説を書くことはなかったでしょう

『  』の部分は、ラジオのパーソナリティのセリフです。
多少、ラストに向けて脚色はしていますが、話の流れとしてはこのような展開でした。
小説の通り、現在ではカシオペアや北斗星に代表される寝台特急は、それこそセレブな雰囲気さえ漂う列車で、豪華というより、“大人な余裕”を感じさせます。
ただ、子供の頃はそれを楽しむことができず、長時間の列車の旅はちょっとしんどいものがありましたね。

最後に、長崎は祖父母が住んでいたこともあり、今でもとても好きな場所です。
随分と足は遠のいてしまいましたが、蝉の鳴く頃、祖父母に逢いに行きたい・・・そんな想いで、今、ホタル通信を書いています。
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[No.305-2]不安のタネ

No.305-2

「そうよね・・・よく考えなくても、したことないね、私たち」

場の張り詰めた空気が、少し緩んだような気がする。

「ようやく、冴えない顔が少し・・・」
「なにさ、その“冴えない”って!」

場の空気と共に、私の口も緩んでしまった。

「まぁ、それはそれとして・・・不安があってもいいじゃない!」
「だからこそ、頑張れるんでしょ?」

プレッシャーは植物のタネと同じだと思う。
心という“土壌”でタネは育つ。
それに、不安を感じれば感じるほど、それは大きく成長していく。

「それって・・・励ましてる?それとも突き落としている?」

同僚が冗談半分、本気半分の顔でにらむ。

「まぁまぁ、最後まで聞いて」

プレッシャーは、言わば“不安”という肥料で成長する。
時には涙という水分も必要とするだろう。
そして、ついには・・・。

「なんか・・・怪談話みたいでオチを聞くのが怖い・・・」

同僚が、まさに固唾を呑んで、最後の言葉を待っている。

「そして、ついには・・・花を咲かす」
「・・・」
「“成果”という花を」
No305
(No.305完)

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[No.305-1]不安のタネ

No.305-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「どうしたの、浮かない顔ね?」

本当は“冴えない顔”と言いたいところだ。

「来週のプレゼンのこと、知ってる?」
「もちろんよ!だって、社運が掛かっ・・・あ、ごめん・・・」

同僚の冴えない顔の原因はそれだった。

「そう言えば・・・あなたが担当だったわね」

聞くまでもなく、どうやら相当のプレッシャーを感じているらしい。
確かに誰だってそうなっても不思議ではない。

「準備は順調?」
「・・・」

(マズイこと聞いたかな・・・)

「順調・・・よ」
「・・・なら、いいじゃない?」

これで“順調じゃない”と言われると、更なる重圧を与えかねない。

「けど・・・不安は尽きないものよ」
「どんなに順調であっても」

同僚にしては、至極、まともなことを言っている。

「・・・」
「今度は、なにあなたが黙ってるのよ?」
「こんな真剣な話、したことあったかな・・・って、考えてた」

いつも会話の中心は、衣食住ならぬ“衣食男”だったからだ。

(No.305-2へ続く)

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[No.304-2]言えない一言

No.304-2

いくつかの物件を調べ、彼女に電話した時だった。

「やっぱり無理・・・お金掛かるし・・・」
「それはどこでも同じだろ?」

自分でも分かるくらいに、少しイラついた。
金額の大小はあれ、どこを借りてもお金は掛かる。

「やっぱり、不安やもん・・・」

(そりゃ、誰だって新天地じゃ不安だよ!)

「・・・で、どうする?」
「仕方ないけど・・・今のまま」

彼女は幼い頃から、世間並みとは言い難い生活を経験してきた。
それを・・・今回の一件を通じて知った。

「母親は再婚と離婚を繰り返すし、住むところも転々とした」
「小さい頃は、いいこと、ひとつもなかった・・・」

それから高校に入学すると同時に、家を飛び出した。

「それでな、仕事始めるようになったんよ」

働き始めると同時に今度は、高校を中退した。
これらの経験が、次第にお金への執着を生んだ。

「だから、お金を使うことに、すごく不安を感じる」
「それなら・・・」
「・・・・それなら?」

「一緒に暮らそう」・・・そう言えたのなら・・・。

(No.304完)

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[No.304-1]言えない一言

No.304-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
いわゆるケチではない。
それに、お金に汚いわけでもない。
彼女をそうさせるもの・・・それは後になってから知った。

「ウィークリー・マンション系は?」
「確か・・・長期滞在も可能だよね?」

提案するのには、わけがある。
通常の物件よりも、まとまったお金を必要としないからだ。
敷金とか礼金とか・・・。
詳しくはないが、そんな記憶があった。

「せやね・・・うちもそんなこと考えてた」

のんびり物件を探すわけには行かない。
とにかく、急いでいることもそれを提案する理由のひとつだった。

「でも、どのくらいお金かかるんやろ・・・」
「いくつか物件を調べてみるよ」

それほどまとまったお金を必要としないものの、不安はあるだろう。
ただ、彼女の場合、その不安の感じ方に少し違和感を覚える。

「分かったらメールするから」
「うん、待ってる」

彼女に対する、その違和感・・・。
それは前から時より感じてはいた。
お金に対して、何らかの“執着”を持っている・・・と。

(でも・・・ケチとか汚い・・・とは違う)

「じゃあ、また後で」

(No.304-2へ続く)

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ホタル通信 No.091

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.197 スケジュール帳 
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性

交わされる会話については事実ではありませんが、話の主軸となるスケジュール帳にまつわる部分はほぼ事実です。

スケジュール帳は99%仕事用なのですが、残る1%が小説に書いた“青い文字”のプライベートな部分です。
それでも当初は書いていなかったのですが、備忘録的に一度書いた時、「この日に逢ってたんだ・・・」と、振り返ることができました。そうそう逢える人ではなかったので、それがいつの間にか、“記念日の記録”のようになって行きました。

今でも過去のスケジュール帳はリファイルして保存する習慣があります。ただ意外かもしれませんが、彼との想い出を残すためではなく、単純に自分の“軌跡”として残しています。
ですから、その習慣にたまたま、私的なスケジュールが書いてあり、それを懐かしんだ話です。

内容ですが、後半に掛けてちょっとしたクイズ形式で話が展開して行きます
手前味噌ですが、全くのノーアイデアで展開させた割にはそこそこのオチが付きました。ところでこの話、実は他の小説とリンクしています。キーワードはズバリ“京橋”です。

No.058 揺れるミニスカート」「No.108 約束の時間」の舞台がその駅であり、スケジュール帳に書かれているのも、この駅です。もちろん、それぞれの話の登場人物、設定はバラバラですが、全て関連があります。
このふたつの話は、ホタル通信でも紹介していますので、是非ご覧になってください。
ホタル通信→「ホタル通信 No.052」「ホタル通信 No.069
No091
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[No.303-2]絡まる

No.303-2

「どうしたの?考え込んじゃって」
「あ・・・ううん・・・人間関係に良く似てるなって」

特に恋愛関係がそう言える。

「へぇ~、なにか意味深な経験有り!って顔ね?」

自分の気持ちに気付いた時には、それこそ固結びになっている。
言わば“手遅れ”になっていることが多い。

「恋愛ってそんなものじゃないの?」

それに、解くには多少、時間も必要だ。
焦ってみても、そうそう簡単に解けやしない。

「ゴメン・・・随分、重い話になったわね」
「それなら、“固い”話って言ってよ」

いつもなら笑えないジョークで、今日だけは場の雰囲気が和んだ。

「まぁ、どちらも何でそうなるかは謎だよね」

確かに、コードも恋愛も、なぜそうなるかは謎だ。
けど、全く別物のふたつを並べて語るのも、何だか笑える。

「ところでさぁ・・・今は固結びはあるの?」

わざとらしく、遠回しに聞いてくる。

「どうだろう・・・今、絡んでる途中かな・・・」

お返しと言わんばかりに、遠回しに答えた。

「でも、あなたが言うと・・・」
「なによ?」
「酒癖の悪い話に聞こえちゃうから不思議よね」
「もぉ~!」

それから・・・しばらくして固結びがひとつ生まれた。

(No.303完)

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[No.303-1]絡まる

No.303-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「ねぇ、ねぇ、聞いてくれる?」

実はこんな時こそ、一番聞きたくない。

「拒否したら、話さないでいてくれるの?」
「・・・ううん、それでも話すぅ!」

友人は身近な出来事をよく私に話しかけてくる。
恋愛のこともあれば、それこそ、朝食のメニューまで・・・。

「ところで、今日はなに?」
「コードって、不思議よね」
「・・・コード??」
「ほら、ドライヤーとかの“ひも”のことだよ」

つまり、コンセントにつなぐ、電源コードのことらしい。

「ヘッドホンもそうかもしれない」

何がそうなのか、もう少し話を聞く必要がありそうだ。
とにかく、“ひも”が関係しているらしい。

「その・・・不思議って?」
「その気がないのに、いつの間に絡んでない?」
「それに固結びだって、する気もないのに」

確かに・・・そうだ。
いつの間にか絡まって、それこそ固結びになっている時も多い。
悔しいが、恐らくカバンに入れてあるヘッドホンも・・・。

「ねっ!でしょ~!」

手に取って見れば、案の定、いくつか固結びの輪が出来ている。

(知らないうちに絡まる・・・か)

「ほんと、不思議よね~」

しきりに不思議がる友人をよそに、ある想いが交錯する。

(No.303-2へ続く)

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[No.302-2]早すぎたメール

No.302-2

「なんだよ・・・その“別の人”って」

はっきり口にしてはいるものの、今でも状況を理解していない。
別の人・・・別の人・・・。
頭の中で呪文のように唱えることで、ようやく意味を理解した。

「もしかして、同じメールをその人にも送ったの?」
「うん・・・」

これで、さっきの“来なくていい”理由が何となく分かった。
ただ、納得できないことがひとつある。

「僕の方が先に返事しただろ?」
「そやけど・・・」

話を続けても、彩(あや)を追い詰めるだけだと分かっていた。
でも、言わずには居られなかった。

「もういいよ!」
「近く・・・」

何か言いかけた彩を無視して電話を切った。

そのことが原因であることは疑う余地もない。
それから彩とは音信不通になった。

今でも思う。
あの時、冷静に引き下がっていれば良かったと・・・。
けど、当時の僕なら無理だっただろう・・・とも考える。
なぜなら、メールで二股を掛けられ、僕は選ばれなかった。
そしてその悔しさが怒りに変わったからだ。

そのことがきっかけで、メールを直ぐには見ないクセが付いた。
あえて一呼吸置いて見る、そして返事をするようになった。

「あの時、もう少しだけメールを見るのが遅れた・・・」

今も彼女のそばに居られたのかもしれない。
No302
(No.302完)

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