[No.293-2]小さな命
No.293-2
「それが小さな命・・・ってわけね」
手の中に納まったセミは力なく、逃げ出そうとしていた。
その時、消え行く小さな命を感じた。
けど、同時に手から這い出ようとするたくましさも感じた。
「そう・・・とても小さいけど命を感じたの」
「で、そのセミは?」
「そうね、続きを話してなかったわね」
元気なら、そのまま外に向けて放り投げるつもりだった。
でも、今の状態では自力で飛び立つことは難しいと感じた。
「いつもなら、一目散に飛び立つはずだろうけど」
結局、会社に行く都合もあり、手に持ったまま1階まで降りた。
「そういうとこ、色んな意味で尊敬しちゃう」
「・・・でね、近くの木に移してあげたの」
壁で一生を終えるより、木の方がマシだと考えた。
「そりゃね・・・」
「その後は知らないわ・・・弱肉強食よ」
「力尽きた命は、また次の命のために・・・か」
「そういうこと」
次の日も、相変わらず朝からセミの大合唱がうるさい。
(まぁ、今日だけは許してあげるか!)
いつものヘッドホンを外して、セミの声をBGMに会社へ急いだ。
手に残る小さな命を感じながら。
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