[No.290-2]郵便番号
No.290-2
「実家?そりゃ、長く住んでたからでしょ?」
「そういう意味じゃなくて」
郵便番号が出てこない瞬間、少なからず寂しさを覚える。
「番号と寂しさ・・・何の関係が?」
「まだ、この土地に馴染んでない・・・なんてね」
実家の番号なんて、忘れようにも忘れられない。
「郵便番号って“馴染み度”のバロメータみたいなものよ」
「そんなものかな・・・」
長く住んでいれば、その気がなくても番号を覚えてしまう。
「その気があれば、今この瞬間にだって覚えられるじゃない?」
友人が言う通り、自然に任せず、覚えてしまえば良い。
ただ、何かがそうさせないし、そうしたくもない気持ちがある。
「・・・上手く言えないんだけど」
「でも、分かる気もするよ」
「私もね、小さい頃、似た経験をしたことがあるんだ」
友人は友人で、父親の仕事の関係で全国を転々としていたらしい。
「番号どころか、街の記憶もない!・・・かもね」
少しおどけて見せても、どこか寂しそうだった。
「ごめん、思い出させちゃった?」
私のつまらない話で、過去を掘り返してしまった。
「やっぱり、亜津子(あつこ)って、バカよ」
言葉とは裏腹に笑顔でこう続けた。
「まぁ、“バカ”っていう郵便番号はあなただけだから・・・」
「すぐに覚えられたけどね」
(No.290完)
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