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2011年8月

ホタル通信 No.086

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.102 シリウス・ルナ   
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:男性

以前、ホタル通信で紹介したように、星に関係した話は少なくありません。

今回の話は、星そのものではなく、メールアドレスがシリウスとルナという“星の名前”になっている・・・ことから話が展開して行きます。
現実にはルナではなく、違う星の名前だったのですが、概ねメールアドレスに関係する部分だけが事実で、その他の部分は全て創作です。

話のきっかけは、それこそ“メールアドレス”だけです。
早い話、別に星の名前ではなくても、話の展開には恐らく影響しなかったと考えますが、逆にそうでなければ話自体が生まれなかった可能性はあります。
皆さんに公開している私のPC用アドレスにも、ルナが入っているように、自分の中では特別な存在なんです。

さて、話の内容ですが、なぜ、こんな展開の話を作ったのかと申しますと・・・それは結末が物語っています。
つまり、現実の私も「忘れたい」「忘れよう」としてしていた事実があったからです。
・・・とは言え、いつものごとく結末は考えず、話を展開させて行った結果、ややコミカル感を残したまま終らせることができました。

ひとつ、皆さんを煙に巻いている部分があります。
前半ではシリウス・ルナがメールアドレスであることに触れていないどころか、シリウス・ルナ自体も登場させていません。
“それ”で片付けてあり、“それ”が何であるかを、読み手に任せるパターンです。
読み手どころか、登場する麻奈さえもそうだったのですが、それが何であるかに気付いたからこそ「後でメールする」につながっています。
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[No.293-2]小さな命

No.293-2

「それが小さな命・・・ってわけね」

手の中に納まったセミは力なく、逃げ出そうとしていた。
その時、消え行く小さな命を感じた。
けど、同時に手から這い出ようとするたくましさも感じた。

「そう・・・とても小さいけど命を感じたの」
「で、そのセミは?」
「そうね、続きを話してなかったわね」

元気なら、そのまま外に向けて放り投げるつもりだった。
でも、今の状態では自力で飛び立つことは難しいと感じた。

「いつもなら、一目散に飛び立つはずだろうけど」

結局、会社に行く都合もあり、手に持ったまま1階まで降りた。

「そういうとこ、色んな意味で尊敬しちゃう」
「・・・でね、近くの木に移してあげたの」

壁で一生を終えるより、木の方がマシだと考えた。

「そりゃね・・・」
「その後は知らないわ・・・弱肉強食よ」
「力尽きた命は、また次の命のために・・・か」
「そういうこと」

次の日も、相変わらず朝からセミの大合唱がうるさい。

(まぁ、今日だけは許してあげるか!)

いつものヘッドホンを外して、セミの声をBGMに会社へ急いだ。
手に残る小さな命を感じながら。

(No.293完)

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[No.293-1]小さな命

No.293-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「・・・だったのよ」
「・・・」

私の話に言葉が出ないくらい、友人は感動したらしい。
もちろん、そのつもりで話をした。

「・・・でしょう?」
「ある意味、感動した」
「なによ、引っかかる言い方じゃない?」
「だって、そうでしょ?」

どうやら、さっきの無言は感動ではなく、あきれた無言のようだった。

「それにしても、よく触れたわね」

今朝、エレベータ横の壁に何かを見つけた。

「最初は何だか分からなくて・・・」

目の悪い私は、恐る恐るその壁に顔を近づけた。

「そしたら・・・」

元気のないセミが壁に張り付いていた。

「そう言えば、なんで元気がないって分かったの?」
「結果的に・・・ね」

昔を思い出して、慎重に手を伸ばした。
刺激すれば例のアレが飛んで来て、セミ自体も逃げてしまう。
それがいとも簡単に手に中に納まったからだ。

「それに・・・その瞬間、感じたんだ!」

(No.293-2へ続く)

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[No.292-2]決意の花火

No.292-2

あれから、1週間が経過した。
そろそろ結果は出ているはずだ。
それは良くも悪くも・・・だ。

(・・・どうしようか)

「メールして」と言いながら、こっちから連絡を取りたくなる。
けど、事を急いでしまえば全てが台無しになることだって・・・。

「このままモヤモヤしてても仕方ないし!」

思い切ってメールを送信した。
決意に反して思いのほか、有美(ゆみ)からの返信は早かった。

『まだ家に居る』

どこの家か聞くまでもないだろう。
“まだ”という言葉が添えられているからだ。

『ごめんね』

別に謝られることでもないし、謝って欲しいわけでもない。
ただ、謝りたい気持ちも理解できる。

『そっか・・・』

これで有美といつでも自由に逢える・・・そんな期待を持っていた。

「夢と消えた・・・か」

真夏の逃亡劇はこれで幕を閉じた。
まるで打ち上げ花火のごとく派手に咲いて、儚くも散った。
でも、ふたりで打ち上げた決意の花火は、とても綺麗だった。

(No.292完)

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[No.292-1]決意の花火

No.292-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------

最初で最後のチャンスのような気がした。

「・・・どうする?」
「バレないように荷物まとめとく」

今までも似たようなシチュエーションはあった。
でも、ここまで具体的に話が進んだことはなかった。

「大丈夫か?」
「うん、上手くやる」

まるでドラマのような展開が現実に起きている。
今夜・・・明日、明後日になるのだろうか?
有美(ゆみ)が家を飛び出そうとしている。

「彼とは、もう一緒に居たくない」

もともと好きで一緒に暮らしているのとはわけが違う。
そこには仕方なく・・・という言葉が似合っている。

「じゃあ、怪しまれると悪いから」

頻繁なメールは危険だ。
そこから感づかれることだってある。

「しばらくメールはやめておくよ」
「うん、わかった」
「じゃあ、落ち着いたらメールして」

次に彼女から届くメールは新天地からだろう。
その時は・・・そう思っていた。

(No.292-2へ続く)

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ホタル通信 No.085

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.68 ドキドキ感   
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

今更ですが、ホタル通信では紹介する小説の牽引役が語り手となり、作者の心情等を代弁しています。

語り手(牽引役)が作者かどうかはいつも伏せてはいますが今回紹介する小説であれば「ドキドキしている女性」か「その相手の男性」のどちらかが作者です。

さて、小説の内容ですが、前半のベースとなる電車内のひとコマはほぼ事実です。
ドキドキしている人、そしてそれに気付かずにドキドキされている人・・・このふたりの関係を描写しています。
まさしく、甘酸っぱい青春ドラマか漫画のような展開が実際起こりました

後半は前半とは一変して創作に変わります。
要約すれば、いつもの“あの人”が急に居なくなり、結局、何も進展することなく時が過ぎていった・・・です。
あの人が急に居なくなってしまったことについては、当時も今も何の設定もしていません。
あえて書くとすれば「引越した」が妥当だと思いますが、この部分が特に重要でもなかったため、深く触れていません。

後半に対して、もう少し触れてみると、実は全く逆のことが現実には起こっています
“ドキドキしている女性”と“された男性”はこの後ほどなくしてから付き合うことになり、ハッピーエンドを迎えるのですが、小説で書きたかったことがそれではなかったため、あえて寂しげな展開に作り変えました。

まぁ、ハッピーエンド・・・と言っても、その後はハッピーとは限らず、人物設定こそ違いますが、このふたりの想い出を題材にした話は他にも沢山あります。
直近では「No.283 パープル・レイン」「No.277 異人館」がそれにあたります。
No085
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[No.291-2]ブルー・スカイ・ブルー

No.291-2

「ん・・・どれだよ?」

彼がキョロキョロと空を見上げる。

「どれだよ・・・あれか?それとも、こっちか?」

いくつかの候補を指差す。
自分で言うのもおかしいが、確かにそう見えなくもない。

「ううん、違うよ」

どれかは答えなかった。
それにしても・・・雲がゆっくり流れている。
・・・違う、風に流されている。

「じゃ、どれだよ?」
「いいじゃない、どれでも」

もともと、どうでも言い話をしている。
だから、答えなんて必要ない。

「まっ、いいか」
「そうよ、空間を楽しまなきゃ!」

少しだけ高級な言葉で今の状況を表現した。

「静かだな」
「そうね」

子供たちのハシャグ声が逆に静寂を生む。
雲は今でも風に流されている。

でも、ハートは流されていない。
No291
(No.291完)

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[No.291-1]ブルー・スカイ・ブルー

No.291-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
「ねぇ、あれ見て・・・」
「ソフトクリームに見えない?」

点々と浮かぶ雲のひとつがそう見える。

「雲ならみんなそう見えるんじゃない?」

彼がそっけない返事をする。

「もぉ・・・」

暑さを避けるために、公園の木陰に入った。
真夏でも陰に入れば、吹く風も手伝って心地よく感じる。
こんな時は、ただボンヤリするのが似合う。
会話も成立こそすれ、どことなく脱力感が漂っている。

「空って不思議だよね」
「何がだよ?」

あの空の向こう・・・何があるわけでもない。
それなのに、人はそこに何かを求めずにはいられない。

「昼間から詩人してない?」
「そうかしら?」

ロマンティックに詩人を語るつもりはない。

「真っ青な空を見てると、そんな気になるだけ・・・」

ロマンティックさには欠けている。
でも・・・今なら何でも素直に話せる気がする。

「ねぇ、ハートの形に見えない?」

(No.291-2へ続く)

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[No.290-2]郵便番号

No.290-2

「実家?そりゃ、長く住んでたからでしょ?」
「そういう意味じゃなくて」

郵便番号が出てこない瞬間、少なからず寂しさを覚える。

「番号と寂しさ・・・何の関係が?」
「まだ、この土地に馴染んでない・・・なんてね」

実家の番号なんて、忘れようにも忘れられない。

「郵便番号って“馴染み度”のバロメータみたいなものよ」
「そんなものかな・・・」

長く住んでいれば、その気がなくても番号を覚えてしまう。

「その気があれば、今この瞬間にだって覚えられるじゃない?」

友人が言う通り、自然に任せず、覚えてしまえば良い。
ただ、何かがそうさせないし、そうしたくもない気持ちがある。

「・・・上手く言えないんだけど」
「でも、分かる気もするよ」
「私もね、小さい頃、似た経験をしたことがあるんだ」

友人は友人で、父親の仕事の関係で全国を転々としていたらしい。

「番号どころか、街の記憶もない!・・・かもね」

少しおどけて見せても、どこか寂しそうだった。

「ごめん、思い出させちゃった?」

私のつまらない話で、過去を掘り返してしまった。

「やっぱり、亜津子(あつこ)って、バカよ」

言葉とは裏腹に笑顔でこう続けた。

「まぁ、“バカ”っていう郵便番号はあなただけだから・・・」
「すぐに覚えられたけどね」
No290
(No.290完)

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[No.290-1]郵便番号

No.290-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「え~っと・・・なんだっけ・・・」

キーボードを打つ手が止まる。
今、ネット通販で買い物をしているところだ
いつものように、商品を選んで、名前を入れて・・・。

(どうしても、ここでつまづいてしまうのよね)

住所を入力する欄に来ると、必ず一度手が止まる。
郵便番号を覚えていないからだ。

「亜津子(あつこ)って、そこまでバカだっけ?」

「ちょっとぉ!そこまで言わなくても・・・」

悪意がないのことは知っているものの、相変わらず口は悪い。
郵便番号が覚えられないのには、それなりに理由がある。
もちろん、覚えようとしない自分が一番の理由だけど・・・。

「引越しが多いと、なかなか定着しなくてね」
「今で何回目?」

今の時代、女性にだって転勤がある。
働いている部署の関係と、私が“独身”だってことも手伝って・・・。

「かれこれ、3回目かな」

それも、7年の間で・・・だ。
独身だからこそ、本当はもっと気を遣って欲しいところだ。

「なんでさ?」
「決まってるでしょ!彼氏がいるかもしれないし」
「・・・かも?でしょ」
「あ・・・う、うん・・・」

急に声のトーンが下がってしまった。

「その気にならないと覚えられない気持ちも分かるわ」
「ただ・・・ね、覚えられないことよりも・・・」

今の住所の郵便番号は覚えていない。
けど、実家の郵便番号は今でも覚えている。

(No.290-2へ続く)

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ホタル通信 No.084

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.53 トータル・イクリプス   
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

登場人物の設定等々、本当の実話度は限りなくゼロの小説ですが、ホタル通信上では実話度40%としています。

牽引役の小夜(さよ)は設定上、夜の仕事をしていることにしています。彼女のモデルになった人は現実に居るのですが、仕事はやや違います。
結論から言えば、実在の女性に対する応援歌的な小説に仕上げるつもりで書きました。

ところで、タイトルは何だと思いますか?
英語で書けば“total eclipse”で、意味は皆既月食です。

実はこの小説を書くきっかけは前述した“応援歌的”な目的が先にあったからではなく、実在の女性が、皆既月食を見るために、ツアー旅行に行くことを耳にしたからです。
そこから、ぼんやりと月のイメージが頭に残り始め、月を題材とした話を書こうと考えました。
月は夜のシンボルなので、月と夜、夜の仕事・・・と関連付けて、小夜を誕生させました。
皆既月食をそのままタイトルにしなかったのは、漢字だと少し受ける印象が固くなりそうだったことに加えて、やや幻想的な雰囲気を作りたくて英語記述にしました

直接的ではありませんが、これに似た話は少なくありません。
何度か紹介していますが、光と陰・・・少し、暗い雰囲気がある小説も当ブログの特長です。
ただ、ブログのサブタイトルにもあるように、悲しい終わり方をさせたことは今まで一度もありません。

最後に冒頭で触れた実話度について書いておきます。
小説上の設定と現実はイコールではないものの、全体の雰囲気は現実そのものなんです。
それをもっとも表現したのが、小説の最後・・・2行の文章です。
No084
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[No.289-2]社交辞令

No.289-2

ハガキが届いた次の日に、メールを送った。
届いたことを、あえて知らせた。

「どう返してくるのかな?」

彼女を試すようで多少、気が引けなくも無い。

(もう少し、限定的に書けば良かったかなぁ?)

届いたことを知らせる以外、特に何も書かなかった。
今思えば、もう少し“狙えば”良かった。

「本当に遊びに行きますよ!・・・なんてね」

社交辞令を皮肉って、真意を確かめる方法もあった。
でも、返事がどちらであっても、それはそれで・・・。
しばらくしてから、彼女から返信があった。

『連絡ありがとう!』

こっちはこっちで、僕に負けず劣らず文章が短い。
・・・と言うより、キャッチボールが続けられない。
表現は悪いが展開次第で向こうが先にボロを出すことだってある。
このままでは展開どころか、終了だ。、

(どう返事を返そうか・・・)

色々な考えが頭の中を駆け巡る・・・が、まとまらない。

(ええいっ!ストレートに行くかぁ!)

本当に遊びに行く旨を冗談ぽくではなく、本気で返した。
すると、すぐに返事が返ってきた。

『社交辞令を本気にしないの!気分が悪いから家に謝りに来て』

(No.289完)

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[No.289-1]社交辞令

No.289-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
同僚の女性からハガキが届いた。
その同僚は1年前に転勤したが、今でもメール程度の交流がある。

“引越しました”

ハガキにはそう印刷されている。
それに、手書きのメッセージにも似たようなことが書いてあった。

(1ヶ月前に引越したんだ・・・)

引越したことに対しては、特に思うものはない。
ただ、ある部分がどうしても引っ掛かる。

「“近くにお寄りの際は是非遊びに”・・・・か」

何を期待するわけでもない。
引越しの社交辞令と百も承知だ。
ハガキに印刷されているわけだから、届いた全員が目にする。
自分だけに宛てられたメッセージではない。

「でも・・・なんだよな」

交流はあくまでもメール程度だ。
その実、今まで住んでいた住所さえ知らない。
だから、年賀状だって一度もやり取りしたこともない。

(新しい住所・・・知る必要がないんだよな)

引越した事実だけなら、メールで伝えれば十分だ。
だからと言って、その時に新しい住所を聞こうとは思っていない。

「本当に“遊びに来い”と、いうことかな?」

近況報告に、引越しのハガキを使ったと考えるのが妥当だ。
だけど、鈍感な男にもなりたくない。

(No.289-2へ続く)

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[No.288-2]幻の花屋さん

No.288-2

「ねぇ、知ってる?」

次の日、まずは“倉庫”から話を切り出してみた。

「ん?あの倉庫みたいなとこ?」
「そうだよ」
「その倉庫がどうかしたの?」

この口調では、どうやら知らない。
同じ総務部の同僚は私以上に帰りが遅い。
だから、知らなくて当然と言えば当然だ。

「その倉庫、花屋さんなのよ?」

自分だけが知る秘密を暴露している気分だった。

「・・・そんなのみんな知ってるわよ」
「え!うそ・・・帰りは私よりも遅いでしょ?」
「“遅さ”と“知らない”は関係ないよ」

どうやら、知らないのは自分だけのようだった。

「まぁ、別に知らなくても、大したことじゃないし」

つい強がってしまった。
・・・というより、すっぱいブドウの原理かもしれない。

(特ダネだと思ったのにぃ!)

「何、言ってるのよぉ!大したこと、大ありよ」

同僚から、衝撃の事実を聞かされた。

「うそ!・・・」
「ほんとよ、あなたがいつも花束を注文してる店よ」

事務的だった今までの仕事っぷりを反省する1日になった。

(No.288完)

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[No.288-1]幻の花屋さん

No.288-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
午後から私用があり、会社を休むことになった。
丸一日休むことはあったが、午後だけ・・・は初めてだった。

最寄の駅まで、朝、歩いて来た道を戻る。

(なんか、新鮮な気分!)

来る時にはまだ閉まっていた店も、元気良く営業中だ。
それだけで随分と空間の印象が変わる。

「この店・・・」

今更、何の店か気付かされた。
夜は夜で仕事が遅く、帰宅時には店の営業は終っている。

「えっ!あの倉庫!?」

倉庫だと思っていた建物に、花が飾られている。
朝の殺風景な雰囲気が一変している。
倉庫・・・花・・・アンマッチが逆にマッチして独特の味が出ている。

(花屋さんだったなんて)

花屋さんとは気付かずに通り過ぎる毎日だった。
今日がなければ大袈裟だが一生知らなかったかもしれない。

「たまには休むことも、ありね!」

このまま用事を無視して、もっとブラブラしたい気分だった。

(・・・どうしようかな・・・)

やっぱり、用事を無視するわけにも行かない。
けど、このままアッサリ帰るのも寂しい・・・それなら・・・。

目の前の一際鮮やかな、鉢植えを手に取った。

(No.288-2へ続く)

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ホタル通信 No.083

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.47 若葉の頃   
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性

会話によって話が展開することが多い中、登場人物が一人と一羽という、珍しい組み合わせです。

さて、エピソードとしては100%実話なんですが、あえて所々を脚色し、小説的には少し実話度を下げています。
登場人物がひとりであり、会話で話を展開することが難しいため、普段はあまりやらない“情景描写”を、メインにしようとしました
ところが、ベランダという狭い空間は思いのほか殺風景であったために、少しだけ“にぎやか”にしてみました。

忘れてはならない、もう一羽の主役のハト
ファーストコンタクトはまさに小説の通りで、お互い目が合って「わっ!」の状態でした。
でも、ハトって何だか憎めない存在なんですよね、どういうわけか。前述した“にぎやか”にした部分ですが、卵、ヒナのくだりがそれになります。巣は実際に在ったのですが主が不在の状態でした。

ラストは完全に創作です。
読んでもらえれば分かるように、ハトがカスミソウの花を落として行ったかもという設定です。
カスミソウの花言葉・・・のひとつに“感謝”があります。それを表現させています。
なぜ、感謝なのか・・・それは小説の中で何となく感じて頂ければ幸いです。
No083
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[No.287-2]おしゃれな演出

No.287-2

「それから、9割沈黙、1割会話だったわ」

普段とは違う雰囲気にお互い飲み込まれていた。

何かあるんじゃないかと思う、期待と不安の私。
そして、何かしなきゃならない・・・そんな風に見える彼。
そんなギクシャクした空気に包まれていた。

「今、思えば笑っちゃうけどね」
「それは、そうとして・・・ポッキーの話はこれだけ?」

ポッキーの想い出は、実はここからがメインだ。

「う、うん、沈黙が続く中・・・」
「気付いて見たら、ポッキーがね・・・」

グラスには薄紫色のジュースが入っていたと記憶している。
当時、そんな色のジュースが珍しかったからだ。

「どうなってたの?」
「溶けてドロドロに・・・」

グラスの中は、いつしか得体の知れない物質に支配されていた。
それが何であるか、当時も説明は要らなかった。

「ますます、気まずくなった・・とか?」
「それが逆に・・・」

緊張の糸が切れて、場の空気が和んだ。
それからは、今までがウソのように会話が弾んだ。

「ほんと、ポッキーに助けられたわ」
「彼がそれを狙って、仕掛けてたとしたら?」
「・・・そうなの?」

当時も今も、そんなことを微塵も考えたことがなかった。

(おしゃれな演出ではなく、そうなった時のために?)

「もし、自分なら、そうしていたかも知れないってこと」
「・・・そう言えば、パフェ・・・」

男性にしては珍しい注文に、随分会話が弾んだことを思い出した。

(No.287完)

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[No.287-1]おしゃれな演出

No.287-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
「そんなにジロジロ見るなよ・・・」
「あっ!ごめん、ごめん」

目の前のきらびやかなパフェに、つい見入ってしまった。

「そりゃ・・・ね・・・男じゃ珍しいと思うけど」
「ううん、そんなつもりで見てたんじゃなくて・・・」
「じゃあ、どんなつもりだよ?」

パフェ・・・というわけではないが、甘酸っぱい想い出がある。

「ポッキー?・・・お菓子の?」
「うん」

当時、何を見てマネをしたのか、ハッキリとは覚えていない。
恐らく、テレビドラマかCMの影響のような気がしている。

「ポッキーとパフェじゃ、随分違うだろ?」
「そうじゃなくて、グラスにね・・・・」

やや高さがあるグラスの中に冷えたジュースを注ぐ。
そのグラスの中に・・・。

「ポッキー入れるの?」
「そう」

それでポッキーが冷えて美味しくなる・・・とかではない。
何となくおしゃれな雰囲気が漂う、演出の小道具だ。

「・・・とは言え、一、二本は食べたんだ」
「それって、高校の時の?」
「うん・・・話したことあったよね?」

高校の時に付き合っていた彼の家へ初めて行った。

「あっ!何度も言うけど、何もなかったんだからねっ!」
「別に何かあっても気にしないさ、昔のことだろ?」

気にしないでくれるから、何でも素直に話せるのかもしれない。

「一、二本は口にしたんだけど・・・緊張がすごくて」

私だけでなく、もちろん彼も緊張していた。
それよりも、部屋の空気が一番緊張していたのかもしれない。

(No.287-2へ続く)

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[No.286-2]レジャーシート

No.286-2

「手帳・・・なんだ」

それなら写し方に工夫して欲しいところだ。
せめて、手帳を開いているとかペンが一緒に写っているとか・・・。

「そやかてな」

菜緒(なお)いわく、“その物”を写すことに余り意味はないらしい。
“みんな”が写っていることが重要だという・・・。

「確かに、みんな勢ぞろいしてるけどな」
「それが大切やねん!」

考えてみれば、写メはいつも全員集合だ。

「今回はせいじゅうろうを、ふたつ盛ってありますな」
「盛ってある?・・・あぁ、これね!」

印刷とは違う、せいじゅうろうがふたつ手帳に貼り付けられている。

「随分、にぎやかになったね」
「そやろ!」
「うちは寝袋で、ダラダラ中ですな・・・」

それからしばらく菜緒のひとり遊びが続いた。
それが下敷きだろうが、レジャーシートだろうが関係ない。
遊びの対象は、常に彼らなんだ。

「間違いのついでに今度、レジャーシート持って出掛けない?」
「いいけど、勢ぞろいしてるやつでな」
「あぁ・・・みんなが勢ぞろいしてるやつ買っておくよ」

菜緒がいう“みんな”とは、菜緒と俺も含まれている。
だから、プラス2名で勢ぞろいだ。
レジャーシートの上でなら、それが可能だ。
   No286
(No.286完)

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