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[No.285-1]誰も居ない助手席

No.285-1     No.24一人だけの入学式

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
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誰も居ない助手席を見ていると、ふとあの夜を思い出す。

「分かった、僕もすぐに向かう」

この一時間後に、美紀(みき)の涙を見ることになった。

「送って行くけどぉ・・・」

語尾に力がないのには、理由がある。
僕は美紀の家を知らない。
だから、送るにしても住所を聞かなければならない。

「住所はね・・・」

僕の躊躇をよそに、いともあっさり住所を教えてくれた。

「・・・あっ、そうなんだ・・門・・・なんだね」

土地勘はないが、遠い場所ではなさそうだ。
カーナビによれば、30分もすれば到着らしい。

「じゃ、帰ろうか」
「うん!」

さっきまでの泣き顔に、やや笑顔が戻った。

「そうだ!コンビニに寄って行こう」

暖かくなってきたとは言え、夜はまだ肌寒い。

「あったかいコーヒーでもおごるよ」

たかがコーヒー程度のつもりだった。

「ほんまぁ!ありがとぉ!」

それでも随分と喜んでくれた。

「どう、落着いた?」

単に寒さをしのぐためでなく、本当の目的はここにあった。
温かいものを口にすれば多少なりとも落着く。

「うん、心に染みるわぁ・・・」

彼女の目から一筋の涙が零れ落ちたことに、あえて触れなかった。

(No.285-2へ続く)

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