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2011年7月

[No.286-1]レジャーシート

No.286-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「これ何かぁ、分かる?」

そう言うと、唐突にケータイで写真を見せられた。

「・・・これ?リラックマのグッズだよな・・・?」
「そっ!」

リラックマのグッズであることは簡単に分かる。
でも、それが何であるか、見た目では分からない。

「下敷き、かな?」
「全然違う!」

形状はともかく、そもそもそれの大きさの検討が付かない。
比較できるようなものが写っていないからだ。

「・・・じゃぁ、時期的にレジャーシートとか?」

今度は逆に大きなものを答えた。
改めて見ると、どことなくビニールの質感が漂っている。
それに光沢もあり、水を弾きそうでもあるからだ。

「・・・ぽいけど、違う」
「答え・・・書いてあるんよ」
「え!」

もう一度、よく見てみる。

(あ・・・本当だ・・・)

“Rilakkuma”のロゴの下に、その答えが書いてあった。

「いつもの、ほら、アレ・・・コピーライト表示かと思っていた」

ロゴの下に、sche・・・“スケジュールブック”と書いてあった。

(No.286-2へ続く)

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ホタル通信 No.082

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.31 もしも、あの時   
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性

実話度は低めです。小説のもとになるエピソードがあったというより、キーワードが当時存在していました。

ひとつ目は、後悔です。
小説には一言も登場していませんが、あえてその言葉を使わなかったわけではありません。
ただ、後悔というほど重い話に仕上げるつもりがなかったため、自然と言葉を選んだのかもしれません。
それに、小説を書いた時に後悔があったと言うより、程度の差はあっても毎日のように後悔はあるでしょう。

ふたつ目は、結婚です。
小説上では友人と私の両方に結婚間近な雰囲気が漂っていますが、実際は“友人だけ”です。
その友人からある日、“結婚”という言葉を聞かされました。

当時、このふたつのキーワードには全く何も関連はなかったのですが、くっ付けることで何らかの話が展開できるのかもと考え、創作してみました。
ところがいざ書き始めてみると、前述した通り、後悔というほど重いムードで話が展開しませんでした。
「~しませんでした」と、他人ごとのように書いているのは当ブログの創作方法に、特長があるからです。作者が話を書き上げるのではなく、あくまでも登場人物達が会話をし、それを作者が文字にしています。
従って、どんな話が展開するのか、どんな結末が待っているのか、作者自身も分からないことが多々あります。

もしも、あの時・・・と思える瞬間は、今だっていくらでもあります。ただ、その時に違う道を選んだとしても、その道の先には「もしも、あの時」が待っています。
例え、それがどこで待っていたとしても「やぁ!またお逢いしましたね」って感じでしょうか?
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[No.285-2]誰も居ない助手席

No.285-2

「そこの角をみぎ、右やで!」
「曲がったらなぁ、公園が見えるから・・・」

美紀(みき)に言われなくても、カーナビが教えてくれる。
けど、あえて美紀の指示に従った。
随分と楽しそうだからだ。

「公園だね・・・で、次は?」
「・・・」

今までのハシャギっぷりが嘘のように、静寂の時が流れた。
その時間がどれだけあったか分からない。
でも、静寂の理由はほどなくして分かった。

        ~目的地周辺です~

「もうすぐ・・・到着やね」
「・・・みたいだね」

ちょっとしたドライブがもうすぐ終ろうとしている。

(このまま、どこかへ行っちゃおうか?)

何度も口から出掛かった言葉を、もう一度深く飲み込む。

「うまくやって行けそう?」
「・・・わから・・・あっ!ここでええわ」

答えを聞く前に、目的地に到着した。

「ありがとう・・・」
「じゃぁ」

なぜだか二人共、やけにあっさりした会話だった。
彼女の背中・・・追いかけて行くべきか迷った。

(あれから2年か・・・)

誰も居ない助手席を見ていると、ふとあの夜を思い出す。
彼女の涙、笑顔、そして決意・・・。

(幸せなら、それでいい・・・)

その時、助手席から誰かが降りて行くような気がした。
ようやく、本当に誰も居なくなった。

(No.285完)

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[No.285-1]誰も居ない助手席

No.285-1     No.24一人だけの入学式

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
誰も居ない助手席を見ていると、ふとあの夜を思い出す。

「分かった、僕もすぐに向かう」

この一時間後に、美紀(みき)の涙を見ることになった。

「送って行くけどぉ・・・」

語尾に力がないのには、理由がある。
僕は美紀の家を知らない。
だから、送るにしても住所を聞かなければならない。

「住所はね・・・」

僕の躊躇をよそに、いともあっさり住所を教えてくれた。

「・・・あっ、そうなんだ・・門・・・なんだね」

土地勘はないが、遠い場所ではなさそうだ。
カーナビによれば、30分もすれば到着らしい。

「じゃ、帰ろうか」
「うん!」

さっきまでの泣き顔に、やや笑顔が戻った。

「そうだ!コンビニに寄って行こう」

暖かくなってきたとは言え、夜はまだ肌寒い。

「あったかいコーヒーでもおごるよ」

たかがコーヒー程度のつもりだった。

「ほんまぁ!ありがとぉ!」

それでも随分と喜んでくれた。

「どう、落着いた?」

単に寒さをしのぐためでなく、本当の目的はここにあった。
温かいものを口にすれば多少なりとも落着く。

「うん、心に染みるわぁ・・・」

彼女の目から一筋の涙が零れ落ちたことに、あえて触れなかった。

(No.285-2へ続く)

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[No.284-2]プラタナスの道で

No.284-2

「そうだけど・・・」
「ねぇ、“プラタナスの道”って分かる?」

さっきの歌詞にも出てくるそれのことだ。

「外国のどこかの道?」

(もう・・・これだから男性は)

歌詞の前後を考えれば多少、想像もできる。
素敵な歌も、これなら消化不良を起こす。

「木だよ、木!樹木の名前」
「・・・だから?」

本日、2回目の“だから?”顔だった。
それにしても、そろそろ気付いて欲しいところだ。
答えは、もう目の前に用意してあると言うのに・・・。

「もぉ!じれったいわね!」

(答えに気付いてもらう作戦だったのに!)

彼より少し前を歩き、振り向きざまに言った。

「こ・れ・が、プラタナスの道なの!」

言葉と同時に、つい両手を広げてしまった。
この空間を包み込むかのように・・・。
そう・・・私たちが歩いている道こそが“プラタナスの道”だ。

「だから、ここに連れて来たのか?」
「今で三度目よ・・・“だから?”顔は」
「・・・意味わかんないよ」

それでも、意識しているようだった。
チラチラと目線をプラタナスに向けている。
こうして、ちょっとしたゲームは幕を閉じた。
少し色づき始めたプラタナスの道を残して。
No284
(No.284完)

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[No.284-1]プラタナスの道で

No.284-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
「なんだよ、さっきからニヤニヤしてるぞ」
「そぉ?べつにぃ・・・」

ほころんだ口元が、ついだらしない返事を返してしまう。

「何だよ、気になるじゃないか」

彼は気付いているのだろうか、今、この状況を。

「ねぇ、覚えてる?」
「えっ!?はっ!・・・んっお」

最後はよく分からない返事になっていた。
ひとつ言えることは、かなり焦っている。

「いや、その・・・なんだ・・・アレだよ・・・そう、あれ!」
「・・・違うよ」

答えを聞くまでもなかった。

「何かの記念日だと思ったんでしょ?」
「ち、ちがうの?」

仮に記念日だとしても、男性を試すようなマネはしない。

「何の日か覚えてる?・・・って聞いてないよ」
「それも、そうだな・・・」

さっきまでの慌てようがウソのようだった。

「・・・でも、覚えてない・・・ごめん」
「じゃぁ、ねぇ・・・」

~少し色づくプラタナスの道で
    あなたの声が背中越しに聞こえてくる~♪

「その歌・・・」
「そっ!私が失恋してた時、聞かせてくれたでしょ?」

だから何なんだよ?・・・そんな彼の表情が微笑ましい。

(No.284-2へ続く)

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ホタル通信 No.081

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.185 忘れ物   
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

前半と後半の冒頭部分はほぼ実話です。冬のホタルでは日常がテーマであるために、気の利いた結末になることがほとんどありません

一旦、小説の内容について触れておきます。
彼女に出逢った時、看護学校の生徒であることだけしか知りませんでした。
それから、話の節々に仕事・・・撮影・・・というキーワードを聞くようになり、彼女がモデル業もしていることを知りました。

後で知ったからと言っても別に隠すつもりはなかったようでした。学生らしからぬ行動を説明するためには、ウソを付かない限り、本当のことを言う必要があったからです。
ただ、小説にもあるように、モデルさんもそれこそピンキリです。単にステータス・・・という意味のピンキリではなく、仕事の質としての意味も含まれています。

さて、改めて話の展開ですが、後半中盤辺りの「それから彼女は本当に・・・」以降から、今の瞬間の話になっています。
それ以前は過去のある部分を切り取り、ある種の思い出話としてまとめました
それを「自分から学生の頃の話をしてくる」の代わりにしています。

最後にですが、冒頭に書いた「気の利いた結末」になるこがほとんどありませんから、後悔・・・残してきたもの・・・学校などキーワードから“忘れ物”を結末にすることにして、これをタイトルにもしました。
従ってラスト付近は完全に作り話なんですが、最後のセリフには私の気持ちを込めてみました。
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[No.283-2]パープル・レイン

No.283-2

「それにしてもよく知ってたな?一般受けする映画じゃないのに」
「ま、まぁ・・・ね」

パープル・レイン・・・映画というより自叙伝だ。
ある世界的に有名なロック歌手のサクセスストーリーと言える。

「帰り道の、あの気まずさと言ったら・・・」

当時は純情な高校生だ。
映画の内容を冗談交じりで話せるわけでもない。

「逆に今は・・・ほら、こうして」
「苦い思い出として笑える・・・と?」
「・・・だね」

それから、数ヵ月後に僕達は別れた。
その映画が引き金になったかどうかは定かではない。

「・・・どう思う?」
「映画が原因かどうかってこと?」

少し考えていたものの、答えは簡単だった。

「・・・関係ないよ」
「でも、あんな映画見せられたら・・・」
「少なくとも私は気にしなかったよ」
「・・・美崎(みさき)も見た・・・の?」

聞けば美崎も僕と同じ経験をしたらしい。
考えてみれば、当時僕らは全く逆の立場を経験していたようだ。

「・・・ねぇ、映画行くのを止めて・・・」
「僕もそう考えていたよ」

今なら・・・語り合えそうだった。
No283
(No.283完)

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[No.283-1]パープル・レイン

No.283-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「えぇ~!信じられないぃ!」

予想された返事だけに、これ自体に驚きはない。
むしろ、それを知っていたことに驚いた。

「・・・知ってるの?」
「ある意味、有名よ」

美崎(みさき)と映画館へ向かう途中だった。
流れで、高校の時につきあっていた彼女の話題になった。
映画はいわゆるデートの定番でもあるからだ。

「ちゃんと調べてないからよ」
「今と違って事前に調べるなんて出来なかったんだよ」

他にも候補はあった。

(確か・・・怪獣物・・・とアニメだったな?)

初デートに見る映画としては、どちらも考えものだった。
怪獣好きの女性は、あまり聞いたことがない。
それにアニメは明らかに子供向けだった。

「何もそれを選ばなくても・・・」
「だから・・・知らなかったんだよ、ただ単純に」

結局、怪獣でもアニメでもなく、ある映画を選んだ。
でも、何の映画か全く知らなかった。
なんとなく、タイトルの雰囲気から決めた。

「そしたら・・・」
「当たり前でしょ!」

高校生には少し早すぎる内容が満載だった。

(No.283-2へ続く)

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[No.282-2]友だちの鏡

No.282-2

「な、なにさぁ!」

意味が分からない返事をしてしまった。

「失礼ね!おでこにシワなんて、ないわよ」
「そう?」

いつになく友人が冷静だ。

「最近、悩みごとでもあるの?」
「えっ!?」
「眉間のシ・ワ・・・すごいわよ」

今度は私が冷静に戻った。
今、社内の大きな仕事を任されている。
けど、思うような結果はまだ出せていない。
そんな焦りが影響してか、彼とも上手く行っていない。

「・・・そんなに難しい顔・・・してた?」
「まぁ・・・ね、見てて痛いほど」

知らなかった・・・。
自分で自分は見えない。
見えないというより、見る余裕がなかったのかもしれない。

「鏡になってくれて・・・ありがとう」
「なんのこと?」

分かっているのに、分からない振りをしている。
穏やかな表情を見れば分かる。
友人のさりげないやさしさに張り詰めていた気持ちが弾けた。
何かが伸びきったような・・・そんな心地よい脱力感が体を覆った。

「そうそう!それそれ!・・・今の感じ!」

(No.282完)

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[No.282-1]友だちの鏡

No.282-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
友人のある一言で、化粧室に飛び込む羽目になった。
それから大急ぎで鏡を覗き込んだ。

(・・・ないじゃない!)

美人であるかは別にして、いつもと変わらぬ顔だ。
今度は友人のもとへ大急ぎで戻った。

「ちょっとぉ!からかったでしょ!」
「からかう?」
「だってそうでしょ?なかったわよ!」

確かに全くないわけではない。
ただ、友人はそんな微妙なレベルを言ってはいない。

「そう?今でも、かなり深くあるわよ」

(かなり深いって・・・どういうことよ)

「そんなに深いの?」
「かなり」
「でも、鏡を見てもそう思えないわ」

自分の感覚がズレているだけだろうか・・・。
でも、まだ20代前半だ。
いくらなんでも早すぎる。

「じゃ、どこか具体的に指差してよ!」

進まぬ会話に、友人が詰め寄ってきた。

「いいわよ・・・ハイ!」

友人が私のおでこに人差し指を当てた。

(No.282-2へ続く)

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ホタル通信 No.080

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.72 変わりない日々   
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性

実際にやりとりがあったメールをもとにして作りました。ほぼ実話ですが、一部内容に手を加えています。

メールのやりとりを小説にすることは少なくありません。
そのメールが特長的であるからこそ「書こう」という気にさせてくれるのですが、こと今回の相手に関しては普通に交わす普通のメールが「小説を書かずにはいられない」ほどウィットに富んでいます。

さて、タイトルである“変わりない日々”・・・

現実にどっぷり浸り、新しいことにチャレンジしない消極性であったり、流されることなく守り続けて行く、継続性であったりでしょう。
そのため“変わりない日々”は、捉え方によって、プラスでもマイナスでも使われる言葉だと常々感じていました。

実話度80%なので、全体の雰囲気は小説の通りです。
彼女とのメールは、とても心地よい緊張感を与えてくれます。
頑張る姿を見て「自分も頑張らなければ」と決して義務ではなく、自発的な行動へと繋げてくれます。
多少、「良い所を見せたい」との男心が全くないわけではないものの、どちらかと言えばチョットした好敵手に近い存在なのかもしれませんね

No.72に登場する彼女は、他にもいくつかの話に登場しています。設定はいずれもバラバラです。良ければ「No.261 最高の誉め言葉「No.262 解けた氷」もご覧になってください。
No080
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[No.281-2]神隠し

No.281-2

「机の上から筆箱を床に落としてしまって」
「・・・消しゴムだけが見つからなかったの」

たかが教室内だ。
しかも、どこかへ入り込んでしまうようなスキマはなかった。

「手提げカバンの中とかは?」
「隣近所はもちろん、色んな所を探したわ」

結局、今回と一緒で見つけることはできなかった。

「けど、その逆みたいなこともあるんだよね」

正しくは、消しゴムは“その時”見つからなかった。
数日後、その消しゴムが見つかった。

「どこにあったと思う?」
「・・・想像できない・・・」
「家にあったの」
「ええっー!これぞ神・・・」
「・・・隠しじゃなくて!」

真相は簡単だ。
消しゴムはその時、筆箱の中には入っていなかった。

「持って行くのを忘れてたみたい」

必ず筆箱に入っている・・・そんな思い込みが生んだ騒動だった。

「教室で“神隠し!”って言った人がいたので、それから・・・」

それから神隠しが定番になった。
少なくとも私の消しゴムは神隠しではない、それは確かだ。
でも「家にあった」とは言えなかった。

「・・・まぁ、騒動になったくらいだからね」

それもあって神隠しで終ったほうが、都合が良かった。

「だから、ピアスが見つかっても神隠しのままの方がいいのかもね」
「・・・そ、そうかもね」

明らかに表情に焦りが見える。

「まさか、片方・・・最初からしてなかったとか?」

(No.281完)

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[No.281-1]神隠し

No.281-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
さっきから、友人が何やらゴソゴソしている。
それに・・・青ざめた表情だ。

「どうしたの?」
「どうしよう・・・ないの!」

さっき、何気なく耳を触ったらしい。
その時に、片方のピアスがないことに気付いたらしい。

「落としたんじゃない?」

私の言葉でようやく周辺を探し始めた。
ただ、私達はちょっと気取った店の中に居る。
あまり派手に探すのも見苦しい。

「そんなこと言ったって、大事なものなんだから!」

言われなくても分かっている。
彼から貰った・・・と、散々自慢されたピアスだ。

でも、結局見つけることはできなかった。

「・・・そう落ち込まないで」

友人の落胆ぶりが痛々しい。

「・・・か・・・くし・・・ね」
「ん?なに?」

友人がボソッと何かをつぶやいた。

「神隠しよ、きっとこれは!」

今度は逆に声を張り上げてしゃべった。

「神隠し?」

随分、久しぶりに聞いた言葉だ。

「久しぶり?」
「うん・・・私も小さい頃、よくそんなこと言ってたの」

何か物がなくなれば“神隠し”が小さい頃の定番だった。

(No.281-2へ続く)

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[No.280-2]赤ペン先生

No.280-2

学校の先生ではなくても、会社にも先生は居る。
もちろん、弁護士とか・・・の先生ではなく、教育者としてだ。

(赤ペン先生・・・か)

特に意識したことはない。
ただ、コメントを書く時に心がけていることはいくつかある。
それが、彼女に伝わったらしい。
自分もそうしたい・・・そんな文面でもあった。
それはそれで嬉しい。

「嬉しいけど、自分流を忘れずに・・・」

つい、つぶやいてしまった。

最初はマネから入ってもいい。
けど、ずっとそのままではいけない・・・。
メールに対する返信を考えながら、読み進めた。
読めば読むほど、懐かしさを感じる。

『私の時と変わらず・・・』

と感じるのは、私も同じだった。
思ったことを文字にすることは、昔から変わっていない。
それからも照れくさい内容が続いた。
叱られることはあっても、誉められることはそうないからだ。

(素直に喜んでおくか!)

ましてや、随分と年下の女子社員だ。
もう二度と誉められることはないかもしれない。

『・・・懐かしくなり、メールしました』

何とも彼女らしいストレートな言葉で締めくくられていた。
当時、彼女の日報に書いてあった、あの言葉のように・・・。No280
(No.280完)

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[No.280-1]赤ペン先生

No.280-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
それは一通のメールから始まった。

送り主は、同僚の女性だ。
・・・とは言え、歳は随分と離れている。
勤務地こそ違えども同じ部門だ。

「なんだろう?」

タイトルは“新入社員の件”となっている。

(確か・・・今、研修中だったよな?)

研修中とは言っても“受ける”方ではない。
合間を縫って出張先の研修センターからメールをくれたようだ。
その出張先に、自分もつい先日まで居た。
メールのタイトルと同じく、新入社員の教育のためだった。

『日報のコメントを読みました』

彼らは毎日、日報を書く。
それに対して、ひとりひとりにコメントを返すのも我々の仕事だ。

『私の時と変わらず・・・』

メールの内容は実に照れくさいものだった。
そう・・・彼女はかつての教え子だった。
そんな彼女も今では、コメントを書く立場になった。

(当時はひどかったよな、みんなの内容・・・)

社会人1年生には慣れていた。
それであっても、彼女達の時代は何かと問題が多かった。
でも、結果的には一番印象に残ることになった。

『・・・赤ペン先生みたい』

メールの中盤にはそう書かれていた。
コメントを赤で書く習慣があり、それを例えたようだった。

(No.280-2へ続く)

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ホタル通信 No.079

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.35 ルナの涙   
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

実話度は限りなくゼロです。タイトルでもある“ルナ”という言葉だけを頼りに創作しています。

冬のホタルには話のキーワードとなるものがいくつかあり、星に関係することもそのひとつです。
特にシリウスやルナ(月)はその代表格であり、これらを含んだ話も少なくありません。
さて、小説の内容ですが、一言で言えば不思議系の話であり、初期の作品というできの悪さも手伝って、更に不思議系に磨きが掛かってしまいました。
ただ、今読み返してみると、なかなか洒落た文章表現をしているな・・・と、当時の頑張った自分を誉めてあげたい気持ちもあります。

前半はユメであり、後半はユメから覚めた話です。
当ブログではファンタジーは取り扱わないので、ユメの話でギリギリセーフとしています。
冒頭に書いた通り、ルナという言葉から人の名前を連想し、あたかも人が涙したかのようなタイトルを決め、それだけを手掛かりに書き始めました

彼女はなぜ海に来たのでしょうか?
それに「ルナの涙」と名付けられた、単なるホットコーヒー。
それに後半は本当にユメから覚めたのだろうか・・・それに最後の店員さんのセリフの真相は?・・・などなど、突っ込みところが満載です
一応、自分の中ではちゃんとそれぞれの理由付けはしていますが、雰囲気を楽しむタイプの小説として、あえて全体をぼかしています。

また、今ではほとんど書かない情景描写に力が入っているのも、雰囲気を楽しむ・・・理由のひとつでしょう。
実話度は限りなくゼロなのですが、当時の何とも言い難いある気持ちを代弁させていることは事実なんです。
No079
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[No.279-2]うちの子

No.279-2

(俺も・・・育てるの!?)

最初は貰ったメールに戸惑った。
でも・・・これは“あり”だ。
さっき芽生えた気持ちがもっと強くなっていった。

『苗を買いに行くよ!なんかワクワクして来た!』

子供がはしゃぐような感じの返事をしてしまった。

『私もワクワクして来た!』

既に育てている響子(きょうこ)もなぜか同じ気持ちのようだ。
仲間が増えて、よほど嬉しかったのかもしれない。

(収穫・・・の喜びか・・・)

まだ見ぬキュウリが、頭の中でたわわに実っている。
瑞々しさで溢れんばかりの・・・。
想像ではなく、妄想に近くなってしまった。

『頑張って育ててみるよ、初挑戦だけど・・・』

残念ながら、家庭菜園の経験はない。
そのため少し不安はある。

『ねぇ、“うちの子”は・・・とか報告し合おうね!』
『うちの子!?』

ちょっと照れくさいメールだった。

(No.279完)

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[No.279-1]うちの子

No.279-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
『いっしょに育てようよ!』

帰り道、響子(きょうこ)からメールが来た。
響子とはさっきまで一緒だった。
話の発端は覚えていない。
それでも、どの辺りから、そうなったかは記憶にある。

「案外、多いんだね」

ネギは根元さえ残っていれば、また生えてくる。
響子曰く、ねぎは買うものではないらしい。

「みんな、やってると思うよ」
「まぁ、いつままでも生え続けるとは思わないけど」

詳しくは知らないが、それはあるだろう。
そうでもなければ、ネギが売れない。

「あっ!そうそう、キュウリも育て始めたのよ」
「家庭菜園?」
「うん!ベランダだけどね」

特別、家庭菜園に興味があるわけではない。
けど・・・良い意味で胸騒ぎがする。
大袈裟だけど、何かに目覚めたというか・・・。

「憧れはあるけどなぁ・・・」
「でしょぉ~」

この時は、これ以上先に話は進まなかった。

(No.279-2へ続く)

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[No.278-2]群れの外

No.278-2

「・・・寂しげに見えるからだろ?」
「えっ!?」

直球を投げられ、一気に気持ちに整理がつき始めた。
そうなんだ・・・寂しげな姿が以前の自分と重なる。
群れからはぐれたと言うより・・・。

「群れから出された?」
「自分から出て行った、が正解かな」
「そっか・・・」

それ以上は何も聞いて来なかった。
隠すつもりはないけど、積極的に話すようなことでもない。
その雰囲気を察してくれてのことだろう。

「群れてるイメージがあるから、余計に寂しげに見えるのね」
「実際、寂しいかどうか聞いてみる?」
「ハト・・・に?」

冗談だと分かっていても、聞いてみたい気もする。

「君なら、その気持ちが分かるんじゃない?」
「わたし?」

嫌な思い出として残っている。
でも、寂しかったどうかは別の話だ。

「やっぱり、寂しかった?」

群れから孤立した私は、周囲からはそう見えたかもしれない。
でもそうじゃない。
目の前の鳩のように、何食わぬ顔して生きている。
そんなふてぶてしは持っていた。

「そう見えるだけで案外、本人は気にしてないのかもね」No278
(No.278完)

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[No.278-1]群れの外

No.278-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
たまに、一羽だけでウロウロしている鳩(ハト)を見かける。
それが今も目の前にいる。

「俺もあるけど・・・それが?」

彼が疑問に思うのも無理はない。
まだ話の途中だ。

「ほら、鳥って群れをなしているイメージでしょ?」
「まぁ・・・そうだな」

その中でも、鳩は特に群れている感じがする。

「だから逆に、一羽だけでウロウロしてると・・・」

鳩が好きではなくても何だか心配になる。

「理解できるような、できないような話だな」

彼が困った表情を見せた。
実は・・・言い出しておいて、私もそんな気持ちだ。
たかが鳩相手に、何を心配すると言うのであろう・・・。

「それなら、ススメだって・・・どうして鳩なの?」

確かにスズメだって身近な存在だ。
でも小さくて目立たないからだろうか。

「そうね・・・憎めない存在だからかな?」

特に公園でよく見かける、あの図々しい態度。
一定の距離を置きながらも、エサを目当てに寄ってくる。

「わかる、わかる!蹴散らしても“はい、そうですか”的な」

そう言い終えると、急に神妙な顔つきになった。

(No.278-2へ続く)

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