[No.277-2]異人館
No.277-2
「随分とおとなしくないか?」
今日一日は、彼の言葉を素直に聞けそうにない。
ある疑念を持つ以上、何を言われても悪意と捉えてしまう。
「別に・・・いつもの通りよ」
今はこれが精一杯の返事だった。
強がっていても、今にも泣き出しそうなのが本音だ。
「・・・あはは」
「な、なにがおかしいのよ!」
「ここのジンクス、気にしてるんだろ?」
私から言い出せなかったことを、あっさり言われた。
「そうじゃないけど」
「・・・けど?」
「もぉ!知らない!」
彼は異人館のジンクスを知っていた。
「そんなの迷信、迷信!ただの都市伝説だよ」
「それでも心中穏やかじゃないよ」
幸せの絶頂なら逆にジンクスにチャレンジしたかもしれない。
ただ、今はジンクスを抜きにしても関係は危機的だ。
「だから来たんだよ」
「別れを決定付けるため?」
「ある意味、当ってるけどな」
そう言うと彼が歩いて来た道を振り返り、一言言った。
「これからの僕らのために、今までの僕らに別れを告げたくてね」
(No.277完)
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