[No.229-2]止まった時間
No.229-2
倒れたのは夕食の仕度中だったらしい。
そのまま、病院で帰らぬ人となってしまった。
「そこだけ時間が止まったように見えたよ」
温かみのある空間が、無機質な空間に一変する。
そんなことを言いたげな表情だった。
「煮物が下ごしらえしてあって、それでね、それでね・・・」
そのまま何かを堪えるように、黙ってしまった。
心の準備ができていたなら良い・・・とは言わない。
けど、少なくとも、今ほど傷は深くないだろう。
「涙は痛みを和らげてくれるよ」
今はそんなことしか言えなかった。
「うん・・・じゃあ、泣くから」
まるで予告するかのようなセリフの後、今度は泣き崩れた。
それから、1年の時が過ぎた。
「もうすぐ1年だな」
彼女に電話した時、自然とあの話になった。
「そうだね・・・まだ、信じられないけどね」
あの事と関係なく、彼女は転勤で実家に戻った。
「あっ!そうだ。今度、電池を送るから」
「電池・・・?」
数日後、彼女からメールが来た。
どうやら、止まっていた時間が動き出したようだった。
(No.229完)
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