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2011年1月

[No.237-1]かごの中のネコ

No.237-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-------------------------------
「ワッ、うっぉ!」

夜の住宅街へ声がこだまする前に、反射的に口を押さえた。
そのため、うめき声にも似た、おかしな声になった。

「な、なによ・・・もぉ!」

仕事から帰宅し、マンションの駐輪場へ自転車を置いた。
その瞬間、隣の自転車のかごの中から、何かが飛び出した。
それが今、やや離れた場所に居る。

「おどかさないでよ、まったく・・・」

私の気持ちとは裏腹に、恨めしそうな目でこっちを見ている。
何となく、その理由は分かる。

「理由?・・・猫から聞いたの?」
「・・・な、わけないでしょ!」

昨日の出来事を友人に話した。

「かごの中で、寝てたと思うの」
「それがあなたに起こされた、と・・・・そんな展開ね」

自転車を止めた時、何となく、隣のかごの中に目がいった。
そして、そこで丸まっている何かを見つけた。

「・・・で、その瞬間、飛び出してきたわけよ!」
「向こうも相当、驚いたんじゃない?」

確かにそれは言える。
尋常ではないスピードで、かごから飛び出したからだ。
けど、そのままどこかへ逃げて行くことはなかった。

「よぽど、お気に入りの場所じゃないの?」
「うん、多分そうなんだろうけど・・・」

でも、あれ以来、その猫の姿を見ていない。

(No.237-2へ続く)

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[No.236-2]朝靄のユーロスター

No.236-2

その時の心境は夢から覚めても残っている。
不安だけではなく、何らかの期待感も持ち合わせている。

「期待感?」
「様々な窓の景色、乗り合わせる乗客・・・かな?」

夢が続いていたら、どんなドラマが待っていたのだろう。
夢だけに、夢が広がる。

「言い換えれば、新生活、人との出逢い・・・とか」
「イケメンと、いい雰囲気になってたりして!」

それにしてもこの夢は何を暗示しているのだろうか。
確かに、今の心境・・・そう思える部分もある。
何でもありだったはずの夢を必死に分析する。

「思うんだ・・・どこに行きたいのかを見つける前に」
「自分がどこにいるのか分かってる必要がある」

そんな暗示のような気がしてならない。

「だから目が覚めたのではなくて・・・」
「そう・・・多分、続きが無かったのだと思う」

(何に迷ってるのかな?私・・・)

「いつか、列車に乗り込む夢を見られるよ」
「うん、何とかしてみる」

とにかく、思い当たる迷いと対決しなきゃいけない。

「ところで、そのユーロスターって、東京発なの?」
No236
(No.236完)

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[No.236-1]朝靄のユーロスター

No.236-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-------------------------------
大きな鞄を手に、駅のホームに立つ。
乗り換えのため待つのは、山吹色が眩しいユーロスターだ。

(でも、私はどこに行こうとしているのだろうか?)

それ以前に、どうしてここに居るのかさえ分からない。

『・・・行きは、2番線に到着致します』

頭の中では、日本語として理解している。
でも、スピーカーからは聞いたことが無い言葉が流れている。

(少し前まで誰かと居たような気がする・・・)

なぜだか、とても大切なことを思い出せない。

「ねぇ、どう考える?」
「いきなり、意味深な夢ね」

初夢の内容を友人に聞いてもらった。
言葉通り、新年早々、意味深な夢を見た。

「夢って、今の心境を代弁するじゃない?」
「・・・だから?」
「今の心境が、その夢って、ことかな」

夢は何でもありの世界で、平気で理不尽なことが起こる。
その割に今回の夢は、ストーリー仕立てになっている。

「雰囲気的に、これから旅立ち!って、感じよね」
「・・・で、続きを聞かせてよ」

残念ながら駅で待っている時に目が覚めた。

(No.236-2へ続く)

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ホタル通信 No.057

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.122 謎の計算式 
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性
   

推理小説の謎解きのような出だしかもしれません。数学的でもあり科学的でも有り・・・です。

この小説に出てくる数値は実話です。
数値を実話と言うのも変ですが、ある事実を数値的に計算しており、ある事実は後半に説明している通りです。
結論を言えば、彼と過ごした時間を小説しているのですが、単純に過ぎた時間を計算しているのではなく、二人の間だけに流れた時間を切り取り、それを小説のテーマとしました。

テーマは先に述べたような理由で決めましたが、書こうと思ったきっかけは別のところにあります。
ラストに書いた「私の人生を変えてくれたんだ」の部分を言わば計算で証明しようとしたものです。
友達や恋人というような決まった型のお付き合いではなく、彼とは、パートナー的な関係でした。
ドライな言い回しをすれば利害関係で成立していた関係だと言えます。それもあって逢える時間が有限であることが話の主軸になりました。

人生80年として、たった0.003%の人が本当に私の人生を変えてくれました
とても苦しい思いもしましたが、彼と出逢えてとても感謝しています。
No057
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[No.235-2]真珠のような女

No.235-2

「昨日、積極的だったじゃん!」

友人が飲み会の一部始終を見ていたらしい。
そういうところは目ざとい。

「それで、結果は?」
「結果が良好なら、こんな顔してないわよ」

別に告白して振られたわけではない。
でも、未遂のまま振られたような感じがする。
その結果、2次会で荒れた。

「だって、私と全く逆のタイプが好きなんだもん!」
「何て言われたの?」

飲み会の会話を再現して見せた。

「真珠・・・のような人?」
「そう、その瞬間、終わったと思った」
「ふ~ん・・・」

友人が急にニヤニヤ、私を見る。
言葉は悪いが、どこか薄ら笑いしているようにも見える。

「な、なんなのよ」
「告白してみたら?」
「だから、タイプが違うって!」

結局、友人の強引さに負けて告白することになった。
そして、彼とつきあうようになった。

「ねぇ、真珠のような人って?」
「人は傷つくからこそ美しくなれる・・・そう思わない?」

(No.235完)

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[No.235-1]真珠のような女

No.235-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)=相手(女性)
---------------------------------------
「好きなタイプか?」

職場に気になる彼がいる。
思い切って、飲み会の席で好きな女性のタイプを聞いた。

「特にこだわりはないけどな」
「なにか、ひとつぐらいあるでしょ!」

つい、食い下がってしまう。
突破口を開くには、ひとつでも情報が欲しい。

「そ、そうだな・・・」

彼が引いているのが分かる。
逆効果と思えるほどの私の気迫に押されたせいだろう。
けど、何も発展しないよりは、ずっとましだ。

「ねっ!あるでしょ」

なかば強引に結論に迫る。

「あると言えばあるかな」

(だから、早く結論を言ってよ!)

「で、なに?」
「真珠のような人」
「真珠って、パールのこと?」

ピュア、清純・・・そんな言葉が似合う。
他とは違う、自己主張しない、控えめな宝石と言える。
つまり、私とは正反対の宝石なんだ。

(No.235-2へ続く)

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[No.234-2]ハズレの景品

No.234-2

「あれ?まだ枯れてない」

毎日、目にしていたはずなのに、改めて気づいた。
鮮やかな赤が、一向に衰える気配がない。

「2週間は経過したよな?」
「そうね・・・あの日からだと、それくらいよね」

花をもらっても、すぐに枯れるイメージがある。
だから、もらっても仕方がない・・・というのが持論だ。

「でも、何でだろう?」

確かに余っていた花の栄養剤を与えた。
でも、そうとも言えない雰囲気がある。

「知ってる?植物ってね、話しかけると・・・」

聞いたことはある。

「・・・で、話しかけてたの?」
「そうよ、悪い?」
「いや、そうじゃなくて」

朋子(ともこ)の意外な一面を見た。
全く、そんなタイプではないからだ。

「僕もそうしてみるよ」

その日から、僕も積極的に話しかけるようにした。
その赤い花とそして彼女に・・・。
No234
(No.234完)

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[No.234-1]ハズレの景品

No.234-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-------------------------------
正直、僕は嬉しくない。

「えっ!一等なの?」

僕の気持ちとは裏腹に、朋子(ともこ)がはしゃぐ。
引きの強さが今回だけは僕に災いした。

「そんなに好きじゃないだろ?」
「そう?時と場合によるけど」

朋子がくじ引きで一等を引いた。
くじ引きと言っても、商店街の気持ち程度のものだった。

「クリスマスにはお似合いでしょ」

景品として、鉢植えの花を当てた。
鮮やかな赤が印象的だけども・・・。

(これなら2等以下のほうが・・・)

自分的に好みの景品が並ぶ。
安物だと分かっていても、もらえるとなると別だ。

「なに、ボケっとしてるのよ」

僕に鉢植えを押し付けて、歩き出した。

「これ、どうするんだよ」
「どうするって、育てるに決まってるでしょ!」

それから2週間が経過した。

(No.234-2へ続く)

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ホタル通信 No.056

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.161 生命の足音 
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:男性
 

この話は、読者の人からテーマを頂いて作った話です。話の相手である女性をその読者として設定しています。
但し、現実の読者が男性であるのか女性であるのかは伏せさせていただきます

話の軸になるのは、(小説中の)女性の不思議な体験です。
気持ちが通い合う人たちの間で起こる俗に言う“虫の知らせ”の経験談を、冬のホタル風に仕上げてみました。
前半は経験談を会話調に変更し、後半はほとんど創作しています。
多少なりとも人の死について触れた話であることから、良い意味で、笑って終われるラストに仕上げました。

実は小説中の私(男性)が、疑問に思いながらも話を発展させなかった部分があります。
前半の「それにもう一つ、亡くなった相手が誰かと言うことだ」がそれであり、これに対する明確な答えを書いていません。
後半に“虫の知らせは親しい間柄に起きる”と入れたことを、遠回しにその答えとしました。

小説中の私(男性)が、その答えを聞くことをためらっていたからなんですが、現実の作者である私もためらっていました。
でも、それを察してくれたのでしょうか・・・こちらから聞かずとも読者の人がその人との関係を話してくれました

最後になりますが、この話には続きがあります。
決して暗い話ではなく、むしろとてもさわやかな話なのですがその人だけに続編のような形式で、コメントを贈らせて頂きました。
No056
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[No.233-2]360円の思い出

No.233-2

「母からね、特別におこづかいを貰えたの」

年に何度も出掛ける場所ではない。
それもあってのことだろう。

「で、いくらほど?」
「そこがポイントなんだ」

その思い出は、どちらかと言えば、ほろ苦い。
決して悲しくはないにせよ、楽しくもない。

「360円の人形買うんだから・・・」
「でも、1つ・・・ってこともないか」

そう・・・おこづかいの額と人形の数が問題だ。
そして、そこに複雑な思いが存在した。

「3つなら、いくらになる?」
「・・・1080円だよね」
「でね、おこづかいは、1000円なの」

別に人形を3つ欲しかったわけじゃない。
ただ、もう80円あれば・・・そんな思いを持っていた。

「言い出せなかった?」
「まぁ、子供なりに気を使ったのかもね」

お陰で、欲しいものを絞り込む目が養われた。

「へぇ・・・原点はここにあったんだ」
「どう言う意味よ?」
「合コンのあなたの目利きは大したものよ」

(No.233完)

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[No.233-1]360円の思い出

No.233-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-------------------------------
「360円の思い出?」

子供の頃の話になった。

「それって、安っぽい話?」
「失礼ね!」

・・・とは言うものの、話の出だしが悪かった。
見方を変えればそうとも言えなくもない。

「当時、女の子向けの人形を売ってて」

有名どころの人形ではなかった。
それでも、そこそこの種類が発売されていた。

「あっ!それ、私も知ってる」

一年に2回ほど、デパートに連れられて行った。
今ほど気軽に行ける場所ではなかったことを覚えている。

「まぁ・・・そうよね」
「子供心に特別な場所だったわ」

そんな特別な場所であったから、その思い出も深い。

「その人形が360円だったんだ?」
「そうよ、でもそこから先が思い出だけどね」
「なんだろう・・・」

多分、誰も予想することはできないだろう。
人形そのものよりも、値段に秘密がある。
だから、360円の思い出なんだ。

(No.233-2へ続く)

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[No.232-2]空のつながり

No.232-2

「空ってね、いろんなドラマを運んでくれるのよ」

今までとは打って変わって、ロマンチストになっている。

「例えば?」

あえて今での嘘や態度を責めなかった。
それより、今は素直に早百合(さゆり)の話を聞くことにした。

「白ワインがね、夕焼けでロゼに変わるのよ」
「あんた、夕方から飲んでるの?」
「そこ突っ込むぅ!!」

アンニュイでもロマンチストでもない、いつもの早百合に戻った。

「何もない空間なのに、どこかで繋がっている気がするの」

それは私もそう感じことがある。
同じ空の下・・・どこにいても、繋がっている。
それは空を通じて、心が繋がっているということと等しい。

「そうね・・・だけど」
「だけど?」
「まずは、飲みに行かない?白ワインを」

奇しくも、空が茜色に染まっている。

「その、ドラマってやつを聴かせてもらおうじゃない!」

ふたりで、グラスを傾けに向かった。

「ねっ!いい雰囲気でしょ?」

確かに白ワインが茜色に染まり、何ともいい雰囲気だ。
ただ、ひとつここに来て分かったことがある。
ドラマは空が運んで来るのではない。
空は舞台であり、主役は私たちなんだと。

(No.232完)

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[No.232-1]空のつながり

No.232-1

登場人物
=牽引役(女性) =相手(女性)
-------------------------------
「空って、本当は無いのにね」

早百合(さゆり)が、意味ありげな一言を言い放った。
なんとも、アンニュイな雰囲気をかもし出している。

「それって、クリスマスに彼氏不在だったことが関係してる?」
「言わないの!」

残念ながら、違うらしい。

「その言葉通りよ」
「・・・空が無いってこと?」
「私は、てっきり・・・」

サンタがどこからやってくるのか、正確には知らない。
けど、少なくとも、空を駆け巡っているイメージが強い。
だから、時期的に空・・・サンタ・・・クリスマスと連想した。

実際、クリスマス直前に彼氏と別れている。

「てっきり、クリスマスの恨み節かと思った」
「ふん!それはそれで、もう十分泣いたわ」

目の腫れには、そんな意味があったらしい。
先に聞かなくて正解だった。

「話を戻すけど、空が無いってどういうこと?」
「建物なら屋根があるけど・・・なんて言えばいいのかな・・・」
「空は空間だけ・・・と、でも言えばいいのかしら?」

空と呼ばれる部分は、単に空間でしかない。
暗い宇宙に繋がる途中が、青く見えているだけだ。

「なんでそんなに否定的なの?」
「ひとりで、クリスマスを過ごしたらそうなる・・・あっ!」

やっぱり、恨み節は続いていたらしい。
相変わらず、嘘が下手だ。

(No.232-2へ続く)

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ホタル通信 No.055

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.193 石ころ 
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:女性   

優等生的な発言をすれば、誰も見ていなくても自分で決めたことはやり遂げる・・・そんなとこでしょうか。

何気なく石ころを蹴る。
最初の頃は、すぐにどこかへ飛んで行ってしまい、それが長くは続かない。でも、ある日、家まで蹴り続けることができました。その時、子供心に達成感があったことを記憶しています。
そこにルールを作ったのは、途中で投げ出さないための自分なりの考えだったと思います。
  “家まで石ころを蹴り続けなければ、悪いことが起こる”こんなバカげたことを、子供は真剣に考えるものです。実際にオカルトめいたことが起こるわけでもなく、モチベーションとかプレッシャーに通じるものなんでしょうね。

話の構成はほぼ事実で、何度が田んぼに石ころは落ちはしましたが、私自身が落ちて泥まみれになったことはありません。
冒頭、多少興味深いエピソードが必要と考え、創作してみましたが、これによって思いのほか話がスムースに進行したように思えます。

それから・・・○×年が経過しました。
今の私は、その頃と少しも変わっていないのかもしれません。こうやってブログを続けているのも、石ころと同じ理由なのかも知れません。
長い長い帰り道ですから、いつか、田んぼに落ちてしまうこともあるでしょう。その時、そのまま家路についてしまうか、泥まみれなるのかは、正直分かりません。

なんだが急に、道端の石ころを蹴ってみたくなりました。
No055
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[No.231-2]季節外れの運動会

No.231-2

怒涛のごとく、競技が進んで行く。

「もうすぐ、クライマックスや!」

(菜緒やせいじゅうろう達は、そりゃ楽しいだろ!)

どうでも良かったことに不満を言い出す始末だ。
案外、自分って小さい男だと感じ始めた。

(そう言えば、さっきから・・・)

菜緒が時々、メモらしき紙を手にする。

「それ、何だよ?」
「これ?競技の順番・・・ほら、見てええよ」

確かに、タイムスケジュールが書かれてある。
運動会風に言えば、式次第だろうか。

「えっと・・・最後は・・・組み体操?」

あることが頭をよぎる。
そうなんだ・・・こいつらは、どう考えても組めない。
なんせ、フニャフニャなぬいぐるみだからだ。

「もう一度、聞くけど組み体操だよな?」
「そうやけど、ほら!時間、時間!」

答えを聞けぬまま、組み体操の時間になった。
まぁ、いい・・・どうせ、もうすぐ答えが分かる。

「最後は、せいじゅうろう達による組み体操です」
「演目は、ひ・・・り、です」

夏の陽射しを受けて、さんさんと輝く、あの花が咲いた。
   No231
(No.231完)

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[No.231-1]季節外れの運動会

No.231-1 [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性) =相手(女性)
-------------------------------
菜緒がせいじゅうろう達と遊び始めた。
ただ、明らかにいつもと違うところがある。

「・・・なんだよ、このBGM?」
「知らんの?」
「いや、そうじゃなくて」

逆に誰もが一度は聞いたと思われるBGMだ。

「いつもBGMなんかないだろ?」
「せやかて、運動会にはこの音楽やろ」

多分そうとは思っていたが、どうやら考えていた通りらしい。
ただ、かなり季節外れと言っていい。

「世間の運動会はそやけどな」
「うちらは、今が旬!」

少し、気になる言葉が含まれている。

「うちら・・・って、せいじゅうろう達のことだよな?」
「もちろん!それにうちとあんたも入ってるで」

それから、しばらく菜緒たちの運動会に付き合うことになった。
巧に彼らを操り、競技をこなして行く。

「みんな同着1位や!」

明らかに不正の匂いがする、1メートル走だった。

「ほら!みんなを誘導せな、あかんやろ!」

そう言うと、俺に彼らを押し付ける。
なぜか俺は参加者でなく、いわばスタッフらしい。
しぶしぶ、彼らを手作りの1位の旗に並ばせた。

(No.231-2へ続く)

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[No.230-2]多くても少なくても

No.230-2

そろそろキーワードを整理しないとマズい。

彼の話を上の空で聞いていたのが原因だ。
つい、ケータイのゲームに夢中になっていたからだ。

「佳代子(かよこ)は、どっちだろうな?」
「私・・・?自分じゃ、よく分からないよ」
「それもそうだな」

何とか会話が成立している。
今の所は・・・。

「佳代子は若干、多い方かな?」
「じゃ、あなたは?」
「俺は、少ない方だろ?」

返事に困る。
素直に「そうね」と言えば良いのか、否定すれば良いのか・・・。

「そんなことないよ」

曖昧だけど、この瞬間はベストと思える返事だろう。
これなら、否定しながらも、強く肯定もしていない。

「まぁ、難しいよな」
「そうね」

予想に反して、テーマが分からないまま話が終了ムードだ。

(ふぅ~・・・なんとか切り抜けたようね)

緊張の時間が過ぎ、反動で気が抜けて口数が減った。

「いつもと違って静かじゃない?」
「そう?そんな時もあるのよ、私だって」

嘘っぽいことを、もっともらしく、しゃべった。

「でも、言ったろ?多くても少なくてもダメだと」
「“一言”は多くても、少なくてもダメ」

(No.230完)

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[No.230-1]多くても少なくても

No.230-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-------------------------------
「・・・う、ううん・・・」

自分でも分かるくらい、気の無い返事をしている。
彼の話に興味がないからではない。

「なっ!佳代子(かよこ)も、そう思うだろ?」
「思う!思う!」

さっきとは正反対に、今度はノリノリで応えた。

(こうなったら、最後まで話を合わせるか・・・)

正直、何の話をしているのか、分かっていない。
話のきっかけを聞き逃したからだ。
でも、その原因は私にある・・・だから、聞き返せない。

「なんてゆうか、微妙なんだよな」

彼は彼で、曖昧な表現を繰り返す。
それもあって、なかなか話のテーマが見えない。

「そうね・・・微妙よね」

相手の言葉を繰り返していれば、多少、何とかなる。
けど、話の核心に迫られると問題だ。
何となく・・・その時期が近付いて来ているように感じる。

「やっぱり、バランスが大事だろうな」
「そ、そうね・・・それが健康の秘訣よね」

バランスという言葉を聞いて、食事・・・健康と連想した。
それで、つい口に出てしまった。

「健康・・・?」

(ま、まずい!)

「・・・面白い表現だな・・・でも、そうだよな」

全くのハズレではないらしい。

「確かに、多くてもダメ、少なくてもダメ、だよな!」

(No.230-2へ続く)

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ホタル通信 No.054

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.010 二人の足跡 
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:女性 

ストーリー的な実話度は、全くの0%と言えるでしょう。従って、場所や登場人物の設定は作り物です。

実話度0%であっても、話を作るきっかけは必ず、存在します。
冒頭の「幼い頃の個性は成長するにつれ、単に“気の強い女”と片付けられるようになった」の部分・・・実はこれがこの話のきっかけになっています
これは、小説上の私(女性)のことではなく、別人がモデルになっています。

自分で言うのもなんですが、初期の作品の割に比較的、雰囲気を持っていますし、改めて読んでみると現在の作風と違った印象があります。
現在はあえて場所の描写を避けていますが、当時はそんなに拘りを持っていませんでした。加えて、タイトルにあるように「二人の足跡」がポイントになるため、海辺の描写がそこそこ書かれています。

この話も回想シーンが挿入されているため、話の展開が分かりにくいと思いますので、ちょっと整理してみます。
1話目は現在進行形で、足にケガを負い、「少し休もう」と砂浜に腰を下ろすところから、回想シーンの2話目へと続きます。
そして、回想シーンが始まり、ラスト2行で再び現在へ戻ります。

当時、モデルとなった女性への応援歌的に作った話です。
自分自身としては精一杯、海辺のワンシーンを切り取ったつもりで、お気に入りの作品のひとつです。
このような話は、映像が共にあれば良いですね。冬のホタルももうすぐ3年目に突入しますので、新コーナーを立ち上げてみようかとも考えています。
A0001_010312
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[No.229-2]止まった時間

No.229-2

倒れたのは夕食の仕度中だったらしい。
そのまま、病院で帰らぬ人となってしまった。

「そこだけ時間が止まったように見えたよ」

温かみのある空間が、無機質な空間に一変する。
そんなことを言いたげな表情だった。

「煮物が下ごしらえしてあって、それでね、それでね・・・」

そのまま何かを堪えるように、黙ってしまった。
心の準備ができていたなら良い・・・とは言わない。
けど、少なくとも、今ほど傷は深くないだろう。

「涙は痛みを和らげてくれるよ」

今はそんなことしか言えなかった。

「うん・・・じゃあ、泣くから」

まるで予告するかのようなセリフの後、今度は泣き崩れた。
それから、1年の時が過ぎた。

「もうすぐ1年だな」

彼女に電話した時、自然とあの話になった。

「そうだね・・・まだ、信じられないけどね」

あの事と関係なく、彼女は転勤で実家に戻った。

「あっ!そうだ。今度、電池を送るから」
「電池・・・?」

数日後、彼女からメールが来た。
どうやら、止まっていた時間が動き出したようだった。A0960_000660
(No.229完)

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