[No.223-2]ブラジル
No.223-2
店に入ると、最後に由里(ゆり)と向き合った席を探した。
「ほら、あそこ、あそこ!」
人通りが見える、奥の窓際の席に向かった。
どちらからと言うわけでもなく、自分のポジションに座る。
「最後に座ったのは、別れた後、だった?」
「自然消滅だったから、微妙よね」
お互い、わだかまりもなく、素直に話せた。
「なかなか逢えなかったよな」
「意識して、外してたわけじゃないのよ」
何度か同窓会は開かれたが、すれ違いが続いた。
でも、それ以外の理由で二人だけで逢うのは違うと感じていた。
それは、由里も同じだった。
「もう一度この場所に、由里と一緒に来たかったんだ」
「私もよ」
何も発展しない・・・発展させようとも思っていない。
お互いはそれは分かっている。
「さすがに、向こうの店は変わったな」
「通りの向こう?靴屋さんだったよね」
「いいや、花屋だっただろ?」
懸命にふたりの記憶をたどる。
「なんだよ!誰と来たんだよ」
「そっちこそ、誰とよ!」
「一人に決まってるだろ!」
結局、ふたり共、ひとりではここを訪れていたようだった。
「まぁ、確かに・・・一緒に来たのはあの時、以来だから・・・」
嘘は付いていない・・・そう言いたげなのは僕も同じだった。
(No.223完)
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