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2010年11月

[No.220-2]苦しい言い訳

No.220-2

「理由?・・・それで見つかったん?」
「あぁ・・・だから、こうしてぶら下げてるんだけど」

・・・とは言っても大した理由ではない。
とにかく、自分が納得できればそれで良かった。

「この流れなら、理由を聞かんわけにはいけへんな」
「厄年って知ってる・・・よな?」
「目の前の人が、まさにそうやろ?」

(あれ?・・・俺、しゃべったことあったっけ?)

確かに俺は厄年だ。
それも後厄で、人によっては本厄より怖いと言う人もいる。

「せいじゅうろうと厄年か・・・関係が全然想像でけへん」

つまり、せいじゅうろうを厄除けに使った。

「お札代わり?」
「そうだよ」
「効き目なさそうやん!」

効き目以前に・・・あのダラダラぶりはまるで説得力もない。

「でも、理由をよく思い付いたやん」

実はその苦しい理由に、更に理由がある。
ほとんど言い訳に近いが・・・。

「“厄除けに効果がある物”をネットで調べたら・・・」
「自分の場合、リラックマ・・・だったという設定なんだ」

ある意味、“仕方なく付けている”感をアピールしている。
でも、別の意味では随分救われもした。
そう考えれば、厄除けの効果はあったのだろう。
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(No.220完)

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[No.220-1]苦しい言い訳

No.220-1 [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性) =相手(女性)
-------------------------------
ケータイにぶら下がる、せいじゅうろう・・・。
こいつをストラップにするには、実は大きな勇気が必要だった。

それは菜緒と出逢って間もない頃だった。

「俺も買おうかな」

早速、有言実行のため、ロフトのリラックマ売り場へ向かった。

(さて・・・どうしたものか・・・)

購入する時は贈り物だとか、適当に理由は付けられる。
ただ、それをぶら下げるとなると・・・。

「なに、ぼやっとしてんねん」

菜緒の声で我に返る。

「せいじゅうろうを見てたんやろ?」
「あ、ごめん・・・ちょっと昔のこと思い出してたんだ」

別に隠すことでもないし、そのことを話した。
大の大人が、それも男がリラックマをぶら下げる。
同性はもちろん、異性にだってどう思われるか分からない。

「一言で言えば、キモくない?」
「うちは、今でもええと思ってるよ」

言葉通り、菜緒さえ喜んでくれればそれで良かった。
だから、逢う時だけ、ぶら下げるという手もあった。

「それだと家に忘れたりするし、それに気持ちの上でも・・・な」
「気持ちの上?」
「菜緒と同じように、いつもぶら下げていたいし」

とにかく、何か理由が必要だった。
ぶら下げても、それが当然のような理由が・・・。

(No.220-2へ続く)

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ホタル通信 No.049

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.111 ヒカリとカゲ 
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:男性 

「冬のホタル」の数ある小説の中でも、際立って人物設定が他の話とは異なっています。

一言で言えば、タレントとマネージャーとのワンシーンを切り取っています。
この話には、モデルになる人が居ます。だからと言って、世間で知られているようなメジャーなタレントではありません。これを踏まえて、実話度20%です
いわゆる、アキバ系とかローカル系とか・・・そんな感じをイメージして頂ければ幸いです。
はっきり言えば、「せいじゅうろう」シリーズに登場する“菜緒”がモデルになっていますし、実際、彼女がそうなんです。

その彼女が、自分の活動状況を話してくれたことがありました。
これが小説を書くヒントにはなりましたが、実話度が示している通り、話自体はほぼ創作です。
ただ「カゲのように生きてきた」のセリフを代表として、やや暗めの雰囲気は、実話に近いものがあります。

この話を書こう!・・・と、考えた瞬間に、ラストシーンもほぼ決まりました
ここで、小説的なヒネリを少しだけ入れて・・・影ではなく、あえて陰としました。物理的な影ではなく心情的な陰が消えた・・・。
また、スポットライトも物理的な光と共に、世間の光も兼ねているんですよ。

影と陰・・・。
これをタイトルや話の途中で意識させないように、カタカナで表記しています。
前述した「カゲのように生きてきた」と言うセリフ。作者がわざとカタカタにしたのですが、彼女自身もまた、影でも陰でもない・・・そんな気持が込められています
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[No.219-2]雲が赤い

No.219-2

それにしても夕焼け空は、何とも心が落ち着く。
その空の下では、誰もが詩人でもある。

「詩人?でも、今、語り出したらなぐるわよ」
「元気を出してくれるなら、構わないぞ」

どれくらいだろうか、沈黙が続いた。
でも、僕からそれを破ろうとはしなかった。

「・・・ありがとう・・・もう大丈夫だよ」
「次、頑張れはいいさ」

いい雰囲気で話が進む。

(夕焼けの効果かもしれないな)

これが雨空や、まして雷雨なら僕も立ち直れないかもしれない。

「夕焼け空って、ほんと不思議ね・・・だって・・・」

彼女が僕と同じようなことをしゃべり始めた。

「あなたが言う通り、詩人になれそうね」
「なってみたら?」

半分冗談で、半分本気だ。

「じゃ、詩人風に・・・茜色に染まるうろこ雲を見ていると想い出す」

(・・・で、なにを?)

「確か、そんな感じのスイーツが美味しい店を」

彼女が完全に立ち直ったのは、その店を出た後だった。
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(No.219完)

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[No.219-1]雲が赤い

No.219-1

登場人物
=牽引役(男性) =相手(女性)
-------------------------------
高速道路を運転中にあることに気付いた。

「ほら、アレ見て?」
「わぁー!大きなパン工場」

見覚えがあるパンメーカーの看板と巨大施設が目に入る。

「・・・じゃなくて!空だよ、そ・ら!」

空が茜色に染まっている。

「あなたの顔も真っ赤よ」
「それは君もだろ・・・って!話が進まないんだけど」

夕焼け空なんて、もう何度も見ている。
だからといって、見飽きたわけではない。
逆に今になって、あることに気付いた。

「綺麗な夕焼け空じゃない」
「よく見てみろよ」

空が染まっていると言うより、雲が染まっている。
途切れ途切れのうろこ状の雲がなんとも幻想的だ。

「ほんとだ・・・雲が染まってる」

普段の夕焼けがどうなっているのか・・・そんなことは抜きだ。
とにかく、余り目にしたことがない情景が広がっている。

「ロマンティックね・・・」
「そうだろ?」
「仕事帰りじゃなくて、それに隣があなたじゃなければね」

契約が取れず、落胆していたムードには丁度いい会話だ。

(No.219-2へ続く)

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[No.218-2]願いが叶ったら

No.218-2

「あんた、そんなとこあるよね?」

言われる通り、そんなところがある。
だからどうした・・・朝の出来事も他人から見たらそんな程度だ。

「でもさぁ、何か良いことありそうじゃない?」
「そう?ほら、ホールインワンは逆に・・・」

クラスメートが縁起でもない話をする。

「運を使い果たした!って言いたいわけ?」

私の問い掛けに、クラスメート達がノッて来ない。

(あれ?)

なにやら嫌な予感がする。

(ホールインワン・・・ホールインワン・・・!?)

ゴルフに詳しくなくても、聞いたことがある。
そうだ・・・ホールインワンを出したら・・・。

「ようやく気付いたようね・・・まっ、冗談だけど」
「でも、願いが叶ったら、何かしようと企んでたんでしょ?」

「それは・・・」

つい、口ごもってしまった。
確かに言われた通り、心に決めていたことがある。

「もし・・・信号に引っ掛からずに学校に来れたらね」
「告白しようと思ってたの」
「もしかして、あいつ?・・・なら、あなたの隣にいるじゃない」
「えっ!?」

今日の出来事は、ホールインワンとは違ってたようだ。
運を使い果たしていない結果が待っていたからだ。

(No.218完)

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[No.218-1]願いが叶ったら

No.218-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
「随分、ご機嫌じゃない?」

クラスメートが興味有りげに声を掛けてきた。

「へへぇ・・・今日ね」

朝の出来事を話した。
駅から学校に向かう通学路にいくつか信号がある。

「そりゃ、あるでしょ?」

話の区切りが悪く、妙な疑問を抱かせた。

「・・・じゃなくて、信号にひとつも引っ掛からなかったんだよぉ!」

何となく“どうでもいい”感が一面に漂う。

「だからなに?って感じなんだけど・・・」

どうでもいいと言うより、やや怒っているように感じる。

「松本人志風に言えば、ラッキーな話?」
「ちょっと違うかな~」
「ハイ、解散!」

しびれを切らして、クラスメート達がその場を去ろうとする。
少しもったいぶったせいかもしれない。

「ごめん、ごめん!ちゃんと話すから!」

ここから一気に話した。
学校までにひとつ、ふたつ・・・全部でななつ、信号機がある。
今日、赤信号で止まることなく全て通過できた。

「それって、珍しいことなの?」
「約2年半・・・帰りも含めて、今日が初めてなんだよ!」

長年の願いが叶った瞬間だった。

(No.218-2へ続く)

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ホタル通信 No.048

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.42 わたしの説明書 
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

小説を書いた当時、血液型別などによる“自分の説明書”が少し流行していました。

話の前半に書いてある、好きなもの、嫌いなものは、全て事実ですが、その他の部分は対照的に創作です。
従って、彼が説明書を作り、私に贈ってくれた部分は創作になります。

話のタイトルにもなるわたしの説明書
実は話の途中で、流行の説明書風に仕上げることを思いつきました。
小説の通り、今までの会話の中で出てきた好き嫌いを一挙に書いていたところ、説明書のことを思い出して、そのような話の構成することに決めました。
タイトルはそのままストレートに付けましたが、ちょっとだけ思い入れがあり、“私”ではなく、あえて“わたし”にしています。
私(さと美)の設定は、少なくともバリバリに洗礼された都会人ではありません。“わたし“とすることで、良い意味でどこにでも居る普通の女の子を演出したつもりです。

この話は比較的、書き易かった小説でした。
割と創作に向いているテーマでもあり、ラストもほぼ悩まずに書きあげることができました。
冬のホタルでは、ラストや書き始めに悩むことが少なく、中盤あたりが最も悩むところです。

この好き嫌いが全て当てはまる人が、この世にひとりだけ居ます。
もちろん、それは私(さと美)なのですが、それは小説上だけの設定であり、実在する人物は他に居ます
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[No.217-2]変えない理由

No.217-2

「昔の彼氏とか?」

いきなり直球が来た。

「・・・じゃ、ないんだ」
「友達?なら、つまんないぃ」

どうやら昔の彼氏とのアレコレを期待していたらしい。

(そりゃ・・・私だって・・・色々あったけど)

来るはずのないメールと言うより、来るかもしれないメール。
それを待っている。
だから、メアドを変えられない。

「こっちから連絡すれば済むことでしょ?」
「それが出来ないから、困ってるの」

その相手とは訳あって、疎遠になってしまった。

「疎遠って言っても、別れたとかケンカしたとかじゃないからね」

別れ際に私が言ったセリフに、どうしてもこだわっている。

「セリフ?」
「うん・・・“落ち着いて気が向いたらメールして”と言ったの」
「・・・だから、自分からは送れない・・・と?」

意地や見栄ではないけど、彼の本心を確かめるチャンスでもある。
このまま疎遠になるか、繋がっていられるか・・・。

「メアド変更を口実にメールしたい気持ちはあるけど・・・」
「まぁ・・・分からなくもない・・・か!」

疎遠になった人に、変更を告げるにはある意味、勇気がいる。

『あなたになんかメールしないわよ!』

受け取った時に、そんなことを思われるのが怖いからだ。

「まずは、メアド変える前に、気持ちを変えないとダメね!」

(No.217完)

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[No.217-1]変えない理由

No.217-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
「さっきからメール、多くない?」

一応、マナーモードにはしている。
でも、テーブルの上では振動音が結構すごい。

「彼氏から?」
「もぉ!彼が居ないこと知ってて言うんだから」

誰から来たのか確認しなくても検討は付いている。
彼氏でもなく、友達でもない。

「両親?」
「迷惑メールよ・・・文字通り迷惑なメール」

いつの頃からか迷惑メールが来るようになった。
最近は特にひどい。

「メールフィルターとかは?」

それなりに対応はしている。
けど、きりがないのも事実だ。

「じゃ、メアドを変更すれば?」
「うん・・・そうしたいんだけど・・・」

メアドを変えてしまえば、それこそスッキリ解決する。

「そう出来ない理由がありそうね」
「そんなとこはよく気付くわね」

友人の言う通り、変えられない理由がある。

「皆に連絡するのが面倒だから?」
「それもあるかもしれな・・・」

言い終わる前に、友人の目がキラリと光る。

「はは~ん・・・」
「な、なによ・・・」
「来るはずのないメールを待つためでしょ?」

微妙に違う。
どちらかと言えば、来るかもしれないメールを待ってる。

(No.217-2へ続く)

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[No.216-2]見返り美人

No.216-2

プレゼントとかなら、まだマシなのかもしれない。
私はいつしか“心”の見返りを求めていた。

「何につけても、反応が欲しくなったの」

そう思うようになってからは、自然なままではいられなくなった。
それどころか、おかしな考えさえ、生まれてきた。

「おかしな考え?」
「・・・どうして私の想いに応えてくれないの!・・・ってね」

電話やメールの内容も変わって行った。

「でも、恋愛なんてそんなものじゃない?」

助け舟・・・と言う感じではない。
友人の顔を見えれば分かる。

「私も・・・と言うより、多少あるんじゃない・・・そんなところ」

何がどうあるのか、肝心な部分には言及していない。
でも、その掴みどころがない表現が、今は妙にしっくりくる。

「それでね、自分が嫌になっちゃって」

そうなると、素直に彼とは逢えない。
自分の行動に自信がないからだ。

「逢えば逢うほど、迷惑を掛けそうで・・・」
「それだけ、想いが強いってこと!・・・それでいいじゃない」
「見返り美人になればいいのよ」

なんとなく、分かったようで、わからない表現だ。

「それって、見返りは求めるの?」

素直に聞いてしまった。

「もちろんよ!でも、返せばいい・・・彼より多くの愛情を」

(No.216完)

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[No.216-1]見返り美人

No.216-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
いつしか彼と素直に逢えなくなった。
そんな自分が嫌になっていた。

「見返りブス?」

友人がキョトンとした顔をする。
無理もない・・・私もしゃべっている最中の思い付きだ。

「私には劣るけど、あなたもそこそこイケてるわよ」

図々しいにもほどがある。

(少なくても、あ・な・たよりはマシよ!)

話をややこしくするだけなので、心の声として叫んだ。

「私は言ったのは単なるブサイクじゃなくて」
「じゃ、複雑なの?」

他人からは、漫才のネタ合わせのように見えるかもしれない。
ノリが良すぎるのも考えものだ。

「・・・もう!最初から話すから」

彼と付き合い始めた頃、彼からプレゼントを貰った。
誕生日でもなく、記念日でもなかった。

「詳しい話は省略するけど・・・お礼の意味があったみたい」

彼の予期せぬ行動に正直、驚いた。
見返りなんて全く考えてもみなかったからだ。

「まぁ・・・いい話じゃない?」
「最初はね」
「最初・・・?」

それから、そんなことが、何度か続いた。
けど、彼が何かを狙った行動でないことは分かっていた。
それは私だって、見返りなんて・・・。

「それがね・・・いつしか・・・見返りを求め始めたの」

(No.216-2へ続く)

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ホタル通信 No.047

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.181 雨男
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性 

なんとか持ちこたえていた空から雨がポツリ、ポツリ・・・。
これが何度も続けば、自分を雨男、雨女と思わない人は少ないでしょう。

小説のように晴れを雨に変える力はありません。もともと降り出しそうな空が前提ですから、全くの偶然と言えば偶然です。
私が外に出た瞬間に、雨が降り出したとしても、同じようにどこかの誰かが外に出てるわけですから・・・。
このような考えが、小説を生み出すきっかけとなりました。従って実話度は低めです。

雨は風、夕焼け、星空などと共に、冬のホタルでも度々扱う自然現象のテーマです。ただ、何度かお話しているように、テーマから話を作ることはありません。
今回の話は雨女だと思いこんでいた(実際そうなのかもしれないが)女性と行動を共にすることが多かった男性が実は雨男だったと言うお話です。
手前味噌ですが、有り触れたテーマであったにも係わらず、上手く、まとめられたと思っています

この話は雨そのものではありませんが、前述した通り、雨は多くの話のタネを運んでくれます。
差し出される傘、雨宿り・・・人との出逢いを演出してくれますし、雨に降られて流される悲しみもあるでしょう。

雨男、雨女の皆さん・・・。
もしかしたら皆さんはそんな素敵な演出家なのかもしれません。
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[No.215-2]予言なんてそんなもの

No.215-2

「あはは・・・」
「もぉ!笑わなくてもいいじゃないの!」
「ごめん、ごめん!」

予言のことを話すと、大笑いされた。

「考えすぎよ、そんなの」

ある時から、彼の自転車が隣に並ばなくなった。
見慣れない自転車が私達の間に、割り込むようになったからだ。

「ドラマならライバル登場!って感じね」

誰かは分からないけど、その行為に別に意味はないと思う。

「この頃から自転車が離れて並ぶようになったの」

気付いてみれば、心にも距離ができていたような気がする。
そこに来て、彼の転勤だ。
お互いの自転車の距離は、彼が居なくなる予言だったんだ。

「バカね!そんなのこじつけよ」
「だって!現実に彼は・・・」
「予言なんて昔からずっとそんなもの・・・だってね・・・」

過去を振り返って、予言に近い内容を見つけ出す。
元が抽象的だから、どうとでも取れる・・・友人が語ってくれた。

「そうなのかな・・・」
「そうなの!」

友人の言葉が力強く聞こえる。

「でも、電話してみたら?転勤先は分かるんだし」

そうなんだ・・・予言とかどうとか・・・関係ない。
自分に都合の良い言い訳をしていただけなんだ。

「後でこじつけてみたら?彼と上手く行ったわけを」
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(No.215完)

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[No.215-1]予言なんてそんなもの

No.215-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
(やっぱり・・・そうだったのね・・・)

「・・・なに、納得した顔をしてるのよ?」
「どうして分かるの?」

意識して声は出さなかったつもりだった。

「そんなリアクションでうなづいてたら、誰でも分かるわよ」
「で、何を納得したわけ?」

会社の駐輪場での出来事だった。
私の自転車と、ある男性の自転車はいつも隣同士になる。
もちろん、最初からそうなるように狙ったわけではない。

「じゃ、相手の人が狙ってたとか?」

それはそれでないと思う・・・たまたま隣であっただけだろう。
それでも毎日並ぶと、妙に親近感が出る。
逆に自転車がない時は心配になるほどだ。

「あはは・・・分かる、分かる!」

学生の頃に経験した“同じ電車”・・・と、同じシチュエーションだ。
但し、世間では一方的な思い込みの方が多い。

「そのうちね、どちらからともなく、話すようになったんだ」

自転車が結んだ縁・・・と、でも言おうか。
隣同士に並ぶ自転車のように、心の距離も近付いた。

「その割には、浮かない顔じゃない?」
「彼、転勤したの」

仲は良かったが、恋人ではなかった。

「・・・そう・・・それは残念ね・・・」
「でね、それを予言するかのようなことがあったの」
「予言?」

私が納得したのは、この予言のことだった。

(No.215-2へ続く)

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[No.214-2]ワン切り

No.214-2

「あら?お帰り、早かったのね」

まだ、勘違いしたままらしい。

「あ・・・うん」

否定するには、理由を言う必要もある。
それはそれで面倒だ。

「帰りは随分と冷静になったじゃないの」
「そんなに、行く前はひどかった?」
「そりゃもう!なにかあったんでしょ?ト・イ・レじゃないことが」

友人は気付いていたようだ。
私がトイレを口実にこの場を離れたことを。

「それで、解決したの?」
「どうして分かるのよ!」
「言ったでしょ?行く前と随分違うって」

今までのいきさつを話した。
ある人・・・元彼と連絡が取れなくなった。
“現在、使われておりません・・・”
致命的と思えるメッセージしか聞くことができなくなっていた。
それでも、電話番号は残していた。

「なるほど・・・そりゃ、驚くわね」
「でも、よく考えたらね・・・1年ぐらい経過したんだし」

彼とは違う誰かに番号が与えられた結果だと思う。
そう考えるのが自然だ。
いまさら、何かを期待しようとかは思わない。

「それで冷静に戻れた・・・ってことね」
「・・・で、どうするの?」
「なんだが、ふっきれた感じがする」

夢見たことが現実になったお陰で、逆に長い夢から冷めた気分だ。

「誰だが分かんないけど感謝しなきゃね、電話の相手に」

(No.214完)

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[No.214-1]ワン切り

No.214-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
「・・・うそぉ!」
「急になにさぁ!ビックリするじゃない」

友人以上に私自身が驚いた。
決して大袈裟ではなく、一瞬、心臓が止まりそうなほどだった。
会話が途切れ、ケータイをいじりだした途端のワンシーンだ。

「ごめん・・・ちょっと・・・トイレに行ってくる」

大急ぎで店内のトイレへ向かった。

「ちょっと~漏らさないでよぉ」

背後から友人の声がした。
少なくとも心配しているような声ではない。
行く場所が場所だけに、当然、勘違いされている。
でも、今はそんなことは気にしていられない。

(いやだぁ・・・ドキドキが止まらない・・・)

とにかく、なぜか人目に付かない場所に行きたかった。
トイレに駆け込み、もう一度ケータイの画面を眺めた。

ある人への発信履歴が残っている。
相手を呼び出す音も聞こえた。

「今まで、ずっと繋がらなかったのに・・・」

1年前・・・ぐらいからだろうか。
ある人と連絡が取れなくなった。
呼び出しても聞こえてくるのは、機械的なアナウンスだけだった。

「なによ・・・いまさら!」

誰に対しての怒りか分からない。
全く予期せぬ出来事に、パニックになりそうだった。

(あっ!)

ある事に気付いた。
その瞬間から、一気にパニックもドキドキ感も冷めて行った。

(No.214-2へ続く)

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ホタル通信 No.046

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.70 素顔のままで
実話度:★★★★★(100%)
語り手:男性
 

会話のひとつひとつには、事実と多少異なる部分はありますが、ほぼ100%実話です。但し、100%のお決まりで、語り手はあくまでも話の牽引役(今回は男性)になります。

この話をホタル通信で取り上げようと思ったのには、理由があります。最近、「悪夢のエレベーター」という映画をDVDで見た時、ある登場人物が、小説に出てくる“知美”に雰囲気が非常に近かったからです。
特に、化粧の仕方が「白っぽい」のはそっくりでした。こんなことがあって、フッとこの小説を思い出したのです。

知美が化粧らしい化粧をしたことがあるのを見たのは、この小説の舞台となった時と写真の中だけでした。
もともと色黒のせいか、普通に化粧してもその対比で白っぽく見えるのでしょうか。とにかく、自分自身でも不慣れな化粧に落ち着かない仕草がなんとも微笑ましくもありました。

この小説はコミカルな感じを表に出しています。

でも、少しだけ心に引っ掛かるものがあります。僕と素顔で逢うことは、気兼ねなく逢える間柄だからなのか、それとも逆にどうでもいいと考えているのか・・・。
仕事が仕事だけにさすがに化粧をしない訳にはいかず、たまたまその瞬間に居合わせたのが、話のきっかけです。

ラストは小説っぽく、それらしくまとめていますが、実際の彼女も心を着飾ることなく純粋でそれこそ“素顔のままで”なんです。

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[No.213-2]ORION

No.213-2

♪泣いたのは・・・見せないことが・・・
  強い訳・・・君が・・・言っていたからだよ・・・♪

「へぇ~以外に上手いじゃん!」

説明するより先に、その部分を歌ってみせた。

「そうじゃなくて、歌詞に注目してよ」

何となく分かっているような感覚で聴いていた。
歌詞を目の間にしても、そうだった。

「ホントだ・・・聴いたあとに、あれ?って思う」

確かにそんな感じなんだ。
状況も歌詞も、言葉としては理解している。
でも、なんだかスッキリしない。

「先に結果を言ってから、さかのぼるように理由を話してる」

友人らしからぬ分析だった。
なるほど・・・そうかもしれない。
それに、その理由にさらに理由がある・・・そんな構成だ。

「考えている以上に、すごい歌詞かもしれないね」
「ねぇ、時間を巻き戻してみない?」

歌詞を逆から考えれば、はっきり見えてくるのかもしれない。

「そうね!」
「じゃ、始めるね」

朝、理解した内容を改めて口にしてみた。

『君が以前、言ってたよね
 “弱さを見せないからといっても強い訳じゃない”・・・と
 だから、僕は素直に泣いたんだ』

「・・・どうかな?」
「うん、いい線、行ってる・・・と、思うけど」
「・・・けど?」
「どうして、“僕”は泣いたのかな?」

学校帰りのカラオケBOXで、何度もオリオンを歌うはめになった。
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(No.213完)

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[No.213-1]ORION

No.213-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
(・・・あっ!)

思わず学校へ向かう足を止めた。

「わっ!」

友人の驚いた声と共に、背中に衝撃が走る。

「ちょっとぉ!・・・急に立ち止まらないでよ!」
「ご、ごめん!」

突然、あることを思い出した。
単に思い出したのではなく、“理解した”と言った方が正しい。

「急にどうしたの!?」
「歌詞の内容」

しゃべった私も友人も、なぜか放心状態に近い表情だ。
自分でも急な展開に、状況が上手く飲み込めていない。

「えっ!・・・なに?・・・お菓子が無いの?」

朝、混雑する駅のホームでの会話だ。
雑踏にまぎれて、ハッキリ聞き取れない。

「まずは、学校に行くよ!」

友人の手を引いて大急ぎで駅のホームを駆け抜けた。
私が原因で友人共々、遅刻するわけには行かない。

ようやく、雑踏から抜け出し後、改めて聞かれた。

「・・・で、美味しいスイーツの店ってどこ?」

短時間で、随分話がグレードアップしている。

「歌詞よ・・・歌詞!う・た・の・か・し!」

最近、ある歌を耳にしてから、繰り返し何度も聞いている。
その歌詞の一部に、引っ掛かる部分がある。

「その部分の前に、誰の、なんて歌なの?」
中島美嘉のORION(オリオン)よ」
「ん!?オニオン?」

どうしても食べ物に結び付けたいらしい。

(No.213-2へ続く)

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[No.212-2]片付かないもの

No.212-2

「・・・以外に片付いてるじゃん」

彼の話とは裏腹に、荷造りがほとんど済んでいた。

「は・は~ん・・・」
「何だよ・・・」

これだから男は素直じゃない。
荷造りを口実に、私を家に呼んだのだろう。

「素直に言えばいいじゃない」

お互い、そんな性格だから発展しそうな関係も発展しない。

「素直に言ったよ、荷物の整理が大変って」
「うそ!片付いてるじゃないの」

ほとんどの物はダンボール箱に入れられている。

「ここだよ、ここ!」

彼が自分の胸を指差した。

「・・・胸・・・?・・・“心”って言うこと?」
「そうだよ、心の整理はまだなんだ」

彼の表情がいつになく真剣だった。
永遠の別れではないにせよ、頻繁には逢えなくなる。
その心の整理がついていないと言う。

「ありがとう・・・嬉しいけど・・・」
「けど?」
「私って、荷物なの?」

ある意味正解とも言える表現に、ふたりして大笑いした。

(No.212完)

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