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[No.211-1]あの空の向こうに

No.211-1

登場人物
=牽引役(男性 ) =相手(女性)
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目の前を飛行機が遠ざかって行く。
目指すは北の大地だ。
小さくなる飛行機を見上げながら、数時間前の会話を思い出した。

「今日はありがとう」
「うん・・・」

いつになく短い会話の後、沈黙が続いた。
ただ幸いなことに、ロビーは雑踏の王道を行く、ザワ付き感がある。

「私達って、どんな風に見えるのかな?」
「少なくとも、バカンスに行くようには見えないだろうな」

雑踏の中で、妙なスポットライトが当っている気分だ。
ふたりだけ別世界にいるような、そんな気分でもある。

「恋人同士に見えるかな?」
「見えて欲しい?」
「全然!」

ようやくいつもの会話のノリが戻ってきた。
このまま、このノリで乗り切りたい。

「恋人同士ではな・い・け・どぉ・・・」

やたら言葉を強調する。

「先に行って待ってるから」

同郷の同僚が、転勤で地元に戻ることになった。
僕も以前、そこに居たことがある。

「今度、逢える時、お互い、いい歳だろうな」
「かもね!」

会社勤めをしている限り、転勤先を自分で決めることはできない。
同じ職場で働けることは奇跡にも近い。

「奇跡?それなら一回使ったから、もう逢えないね」

場を盛り上げようと、わざと悪態を付いているのが分かる。
でも、確かにそうなんだ。
この地で再び出逢ったことが、その奇跡だったからだ。

(No.211-2へ続く)

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