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[No.206-2]いくつもの顔を持つ女

No.206-2

事情は薄々知っていたつもりだった。

幼い頃の話、中学の話・・・時代時代で、名前が異なっていた。
多分、意識はしていなかったと思う。
それを無意識に使い分けていた。

「今は、なんて呼べばいい?」

菜帆美(なおみ)をもじって、“ナオちゃん”としか呼んでいなかった。

「今?母親の姓でええよ、だから、北・・・でええよ」
「再婚してたりして」
「ほんまや!でも、えんどくさいから、もうええわ」

家を飛び出してからは、一度も戻っていないと聞いた。

「しんどかったやろ?今まで・・・」
「・・・楽ではなかったね」

なぜだか、なまりが逆転してしまった。
こんな時、大阪弁は温かい。

「なぁ・・・」
「言わんといて!」

菜帆美が会話を遮る。

「まだ、何も言ってな・・・」

今度は僕自身が話すことを止めた。
僕の言いたかったことを、どうやら菜帆美は気付いたようだ。

「ありがとう・・・でも、今は考えたくないんや」

そうだ・・・流れに任せて軽々しく言うことじゃない。

「もう、二度と名前は変わりたくないねん」
「次を最後に」

(No.206完)

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