« ホタル通信 No.042 | トップページ | [No.206-2]いくつもの顔を持つ女 »

[No.206-1]いくつもの顔を持つ女

No.206-1

登場人物
=牽引役(男性 ) 
=相手(女性)
-------------------------------
何となく理由は分かっていたが、あえて聞かなかった。

「昔からの友達から手紙が届いたんよ、綾瀬(あやせ)宛てに」

たったこれだけの言葉なのに、驚くことがふたつある。
ひとつは手紙が届いたと言うこと。
今の時代、新年の挨拶さえ、メールで済ませている。

「今時、珍しいね」
「うちらも、そんな時あるねん」

そこにどんなことが書かれてあったのかは、知ろうとは思わない。
興味の先は宛名にある。

「・・・言ってなかったけどなぁ」

僕の興味顔が菜帆美(なおみ)には、困惑顔に見えたらしい。
それを察してか、彼女の方からもうひとつの“驚き”を話し始めた。

「とにかく、3回名前が変わったんよ」
「あぁ・・・うん・・・初めて聞く名前だったので」

彼女の昔話になると、色々な姓が交錯する。
それは全て彼女のことだ。
もちろん、彼女の責任ではなく、両親の離婚と再婚の結果だ。

「最初が松・・・やろ、でもすぐ離婚して母親の姓に戻ってん」
「それから再婚して綾瀬になった後、また離婚してん」

(なるほど・・・)

これなら昔話の時期によって出てくる名前が違う。
初めて聞く名前であってもうなづける。

「最後の離婚の後は?」

勢いに任せてつい聞いてしまった。

「離婚した後、家を飛び出したから、知らん」

(No.206-2へ続く)

| |

« ホタル通信 No.042 | トップページ | [No.206-2]いくつもの顔を持つ女 »

(009)小説No.201~225」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [No.206-1]いくつもの顔を持つ女:

« ホタル通信 No.042 | トップページ | [No.206-2]いくつもの顔を持つ女 »