[No.206-1]いくつもの顔を持つ女
No.206-1
登場人物=牽引役(男性 )
=相手(女性)
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何となく理由は分かっていたが、あえて聞かなかった。
「昔からの友達から手紙が届いたんよ、綾瀬(あやせ)宛てに」
たったこれだけの言葉なのに、驚くことがふたつある。
ひとつは手紙が届いたと言うこと。
今の時代、新年の挨拶さえ、メールで済ませている。
「今時、珍しいね」
「うちらも、そんな時あるねん」
そこにどんなことが書かれてあったのかは、知ろうとは思わない。
興味の先は宛名にある。
「・・・言ってなかったけどなぁ」
僕の興味顔が菜帆美(なおみ)には、困惑顔に見えたらしい。
それを察してか、彼女の方からもうひとつの“驚き”を話し始めた。
「とにかく、3回名前が変わったんよ」
「あぁ・・・うん・・・初めて聞く名前だったので」
彼女の昔話になると、色々な姓が交錯する。
それは全て彼女のことだ。
もちろん、彼女の責任ではなく、両親の離婚と再婚の結果だ。
「最初が松・・・やろ、でもすぐ離婚して母親の姓に戻ってん」
「それから再婚して綾瀬になった後、また離婚してん」
(なるほど・・・)
これなら昔話の時期によって出てくる名前が違う。
初めて聞く名前であってもうなづける。
「最後の離婚の後は?」
勢いに任せてつい聞いてしまった。
「離婚した後、家を飛び出したから、知らん」
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