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2010年10月

[No.212-1]片付かないもの

No.212-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(男性)
-------------------------------
彼が進学のため、引っ越すことが決まった。

「いよいよ来週だね・・・」

彼とは恋愛関係にはなかった。
とは言え、友達と呼ぶことには少し違和感を感じる。
友達以上恋人未満・・・そんな表現があてはまる。

「まぁ・・・ね」
「元気ないわね」

その理由が私と別れ別れになることであって欲しい。
それが今の素直な心境だ。

「荷造りが大変でさぁ」

(なんだ・・・そうなんだ)

「・・・それに、美沙(みさ)と頻繁に逢えなくなるだろ?」
「私はどうせ、荷造りのオマケですよぉ!」

嬉しかったけど、わざとすねて見せた。
これでお相子だと思いたい。
彼だって、照れ隠しの意味で私のことをオマケにしたのだと・・・。

「そう怒るなよ、実際、荷物の整理は大変なんだぞ」
「じゃ、手伝いに行くよ・・・時給はいくら?」

それからも、相手をからかうような会話が続いた。
お互い、湿ったムードにならないための精一杯の努力だった。

(No.212-2へ続く)

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ホタル通信 No.045

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.04 パンドラの箱
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:女性 

第4作目の小説であり、実話度が示す通り、現在の作品作りとは大きく仕上がりが異なっています。

特にこの頃は“実話ベースの話を作る”と言うコンセプトが確立されていなかったため、初期の作品に見られるファンタジー的な要素がやや見られます
前半は、私(今日子)の心の声と占い師の会話が中心です。どうにでも取れる結果にウンザリしている私の心情を描いています。

占いの話でありがちな「占い師に言われたことが現実に起きる」のパターンなのですが、少しだけ工夫を凝らしました。
登場する男性も私と同じように「占いなんて・・・」と思っていた所に現実にそれらが起きてしまう。そして、大急ぎで占い師のもとへ駆けつけ、私と出逢う
たった数行で、これらのことを読んでくださる方に伝えるには、まだまだ未熟でした。

この小説はまだマシな方ですが、一人称かつ超ショートストリーをテーマにする冬のホタルでは“時間の経過”を扱うのが苦手です。
それでも今思えば“-あれから3年が経過した-”のような一人称であるからこその、ストーリーテラー的なセリフを入れた方が良かったと思います
ラストの5行では、それまでからある程度、時間が経過しています。
それに私のそばに居る男性は、あの時の男性です。

最後に“パンドラの箱”をタイトルにした理由、お分かり頂けますか?

私も彼も悪いことが続いたものの、最後に出逢いがあり、幸せになれた・・・それをパンドラの箱に残されていた“希望”に引っ掛けてみました。
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[No.211-2]あの空の向こうに

No.211-2

この地で、様々な出逢いがあり、別れもあった。
彼女との出逢いも別れもそのひとつだ。

「へぇ~、ひとつひとつ、深~く、聞きたいけど」
「また今度にしておくわ」

わざと言ってるのか、それとも気付いてないだけだろうか。
妙に冷静に考えている自分に気付く。

「出逢って得るものより、別れて失うほうが多いね」

さっきよりも、余計考えさせられる言葉だ。

(失う・・・僕を失う?ってこと)

うぬぼれた考えであることは分かっている。
でも、今はそう思いたい。

「じゃ・・・失ったものって、なに?」
「あたな・・・」

期待していた答えだったが、ストレートに言われるとたじろぐ。

「・・・じゃないことは確か!本気にした?」
「こらぁ!からかうなよぉ・・・」

湿った雰囲気より、よっぽど良い展開になってきた。

「僕は弱さを失った代わりに、強さを手に入れたな」
「・・・綺麗にまとめ過ぎじゃない?」

別れる度、何だか強くなっている。
それ自体は自信をもって言えることだ。

「根本的に、間違ってるよ」
「根本からぁ?」

思わず声が裏返る。

「私達ただの同僚でしょ?失うものは最初からないじゃない!」
「じゃ、また今度!」

まるで会社帰りと同じ感覚で、出発ゲートに消えて行った。
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(No.211完)

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[No.211-1]あの空の向こうに

No.211-1

登場人物
=牽引役(男性 ) =相手(女性)
-------------------------------
目の前を飛行機が遠ざかって行く。
目指すは北の大地だ。
小さくなる飛行機を見上げながら、数時間前の会話を思い出した。

「今日はありがとう」
「うん・・・」

いつになく短い会話の後、沈黙が続いた。
ただ幸いなことに、ロビーは雑踏の王道を行く、ザワ付き感がある。

「私達って、どんな風に見えるのかな?」
「少なくとも、バカンスに行くようには見えないだろうな」

雑踏の中で、妙なスポットライトが当っている気分だ。
ふたりだけ別世界にいるような、そんな気分でもある。

「恋人同士に見えるかな?」
「見えて欲しい?」
「全然!」

ようやくいつもの会話のノリが戻ってきた。
このまま、このノリで乗り切りたい。

「恋人同士ではな・い・け・どぉ・・・」

やたら言葉を強調する。

「先に行って待ってるから」

同郷の同僚が、転勤で地元に戻ることになった。
僕も以前、そこに居たことがある。

「今度、逢える時、お互い、いい歳だろうな」
「かもね!」

会社勤めをしている限り、転勤先を自分で決めることはできない。
同じ職場で働けることは奇跡にも近い。

「奇跡?それなら一回使ったから、もう逢えないね」

場を盛り上げようと、わざと悪態を付いているのが分かる。
でも、確かにそうなんだ。
この地で再び出逢ったことが、その奇跡だったからだ。

(No.211-2へ続く)

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[No.210-2]記事を読む理由

No.210-2

僕が記事を読み続けている理由には、ふたつ前提がある。

ひとつは記事に出るであろう人とコンタクトできないこと。
もうひとつは・・・。

「その人は、本気なのかな?」

無理もない。
口にする人ほど実行はしない・・・と言う人もいる。

「それなら、僕も記事を見ないさ」
「そっか・・・これからも載らないことを祈るばかりね」
「ありがとう」

僕がお礼を言うのも変とは感じる。

「羨ましいなぁ・・・」
「おいおい・・・できればこんな想いはしたくないよ」

そうなんだ。
全く浮かれた話ではない。

「ごめん!そこまで思われてる彼女が羨ましい・・・かな、って」

僕がこの話をしたのは、晴菜(はるな)が最初で最後だ。

「なぜ、私だけに話してくれたの?」

正直、今でもその理由は分からない。

「私の時も心配してくれた?」

晴菜とも一時期、連絡が途絶えた時があった。
こうして再び出逢えたことが、話すきっかけになったかもしれない。

(No.210完)

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[No.210-1]記事を読む理由

No.210-1

登場人物
=牽引役(男性 ) =相手(女性)
-------------------------------
今まで、ひとりだけに話したことがある。
なぜ、僕が新聞の市内記事を熱心に読み続けているかを・・・。

「やさしいのね」
「ありがとう・・・でも、そう思われたいからじゃない」

そう・・・やさしいとか、人から評価されたいわけじゃない。
単に気掛かりなだけだ。

「気を悪くしないでね」

晴菜(はるな)が気遣いながら、聞いてきた。

「分かってるよ、記事があったか、なかったか、だろ?」
「あっ・・・うん・・・聞くのもどうかと思ったんだけど・・・」

晴菜が興味本位で聞いていないことは分かっている。
それに、聞かれたくないなら、僕から理由を話したりしない。

「・・・記事はないよ、今は」

今はそうかもしれない。
でも、明日には記事が出ているかもしれない。

「毎日、心配でしょ?」
「そうとも言えるし、違うとも言える」

毎朝、市内記事を見るのが怖い。
けど、見終わった後、ホッとする。

「心配した後、記事がなければ安心できるからね」
「毎日、大変ね」
「それに関しては、当ってるな」

決して明るい話題ではないのに、場の空気は穏やかだった。

(No.210-2へ続く)

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ホタル通信 No.044

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.192 想い出はうつらない
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性 

この話は、買い替えをしたケータイのデータが一部移動しなかった事実が主軸になっています。

ケータイのネタだけに、“うつらない”と漢字を用いないことで、写らない・・・写真や写メのイメージを先行させるようにしました。
そうすることで前半は「?」マークが飛び交う内容になっています。

小説に書いたように、随分買い替えなかったのは、こんなことを予想していたからです。気付いてみれば、7年間は使っていたと思います
7年経過している割りには、バッテリーの持ちも良く、動作も良好でした。贅沢言わなければそれでも十分でした。それでも買い替えようと思ったのは書いたように、ひとつの区切りを付けたかったからかもしれません。

実はこの話に裏でリンクしている話が複数あります。
その中でも特に「No.25 受信フォルダ8」と「No.62 かくれんぼ」に関係が深い話になっています
受信フォルダ8に振り分けられるメール、ケータイに貼り付けられたせいじゅうろう(リラックマ)のシール・・・。小説上、それぞれの登場人物は異なりますが、紛れも無く使っているケータイは買い替える前の機種です。
受信フォルダ8に振り分けられるメールこそ移動して欲しかったものであり、貼り付けられたシールを剥がすことに抵抗があったから・・・買い替えを渋っていたのが本音です
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[No.209-2]身近なケンタウルス

No.209-2

「ソファーにおった!って・・・ぬいぐるみだろ?」

この手の話には、かならず“あいつ”が関係している。

「さすがやね!」
「だろ?」

(・・・待てよ)

せいじゅうろう・・・つまりリラックマだ。
確かにぬいぐるみで、かぶりもののシリーズもある。
ついに、ケンタウルスシリーズでも発売されたのだろうか?

「それなら上がせいじゅうろうで、下はウマか?」

せいじゅうろうをクマとすれば、上がクマ、下はウマになる。
違和感がないようで、あるような気もしないことはない。

「えへへ、それが違うねん!」
「まさか、上がウマで下がせいじゅうろうとか?」
「それ、想像したないわぁ!」

ツッコミを褒められることを期待したが、気持ちわるがられた。

「じゃ、なにが違うんだよ」
「下が違うんよ」

下がウマじゃない・・・ってことになる。
そうなると、もはやケンタウルスでも何物でもない。

「じゃ、下は何だよ・・・現代風にバイクとか?」

似たような雰囲気でウマの4脚を、バイクの2輪にしてみた。

「そこそこ、おもしろいけど、現実はもっとおもしろいで」

菜緒がケータイを取り出して、写メを見せる。

「上はせいじゅうろう、下は紙袋やねん」
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(No.209完)

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[No.209-1]身近なケンタウルス

No.209-1 [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性 ) =相手(女性)
-------------------------------
「久しぶりじゃない?こんな話するの」

出逢った当初は、よく星の話をしていた。
菜緒(なお)が好きだったこともあり、話を合わせていた。
お互いのことをよく知らない内は好きなことの話題が無難だった。

「ほんまや!久しぶりやね」
「それにしても、急にどうしたの?」

今の時期、特に星にまつわる話題はない。

「ケンタウルスって知ってる?」
「ギリシャ神話に出てくるアレだろ?」

一応、怪物の部類なんだろうか・・・でも、あまり悪い印象はない。

「うん!上半身が馬で下半身は人間」
「・・・」

(なんか微妙に違うような・・・)

「今、ツッコむ、とこやろ!」
「わぁ!ごめん」

菜緒の勢いに押されて、つい謝ってしまった。
とにかく、この流れなら、ケンタウルス座・・・っていう展開だろう。

「で、ケンタウルス座がどうしたって?」
「・・・そんなとこは、よお気付くんやね」

いやみのようで・・・やっぱりいやみだ。
ただ、腹が立たないのは、菜緒に言われたからこそだ。

「話はそれるけど、ケンタウルスを見たんや」
「写真で?」

ネットで検索すればいくらでも出てくる。

「違うねん!ソファーにおったんや」

突っ込むべきか、その先を読むべきか・・・悩む。

(No.209-2へ続く)

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[No.208-2]宇宙の果て

No.208-2

「じゃぁ、さぁ・・・果ての先には何があるのよ」

恭子(きょうこ)が私の理由も聞かずに、その先を質問してきた。
確かに理由よりも、その先が気になるだろうけど。
他のメンバーもそんな雰囲気だ。

「適当に答えた?」

恭子がいつになく、疑いの目を向ける。

「そうじゃないけど・・・」

果てがない方が、ロマンティックなのかもしれない。
有限に囲まれて暮らす私達にとっては、それこそ無限は魅力だ。

「それなら説明してよ」

適当に答えた訳ではないけど、明確な答えも持ってはいない。

(科学者じゃないんだから・・・)

それに、その分野に興味があり、知識があるわけでもない。

「・・・ないの・・・」
「えっ!聞こえないよ」
「ないの・・その先には何もない」

果てがあると言っただけで、その先に何かあるとは言ってない。

「そりゃ・・・果ての先のことは、私が言い出したことだけどぉ」
「何もないけど、今ならあるかもしれない」

きっと私を含めて、果てのことやその先まで想像したことだろう。

「今なら、みんな夢があるでしょ?」

(No.208完)

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[No.208-1]宇宙の果て

No.208-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)  =相手(女性)
-----------------------------------------------
話の発端は、思い出せないことが多い。
気付けばそんな話になっている。

「・・・でさぁ、宇宙に果てはあるのかな?」

昼間から正面切って言われると、引いてしまう話題だ。
けど、飲み会の席なら、大丈夫なことが多い。

「私は、無いと思うな」

正面に座る恭子(きょうこ)が、真っ先に口を開く。
お酒の席では、熱い話やロマンティックな話が案外似合う。

「美穂(みほ)は?」
「わ、わたし?」

正直、考えたことがなかった。
逆に、普段そんなことを考えている方が、どうにかしている。

「別に・・・どっちでも・・・」
「もう!あんたみたいな人が居るから、地球が・・・」

恭子が地球環境のことについて、熱く語り始めた。
アルコールの勢いを借りて・・・とは、まさにこのことだろう。
それに、話が脱線するのも酒の席の特長かもしれない。

「わ、わかったから・・・果ては有ると思うよ」
「えー、以外ぃ」

何が以外なのか、さっぱり検討が付かない。
それよりも、宇宙に果てがあると考えるのには理由がある。

「宇宙人にさらわれて、果てを見せられたとか!?」
「あのねぇ・・・」

どちらかと言えば、恭子の方がさらわれた後っぽい。

(No.208-2へ続く)

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ホタル通信 No.043

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.171 りゅうとりゅうた
実話度:★★★★☆(80%)
語り手:女性 

ストーリー的には実話度100%なのですが、高校生、10年・・・など時間の経過を表現する部分は、あえて手を入れています。

“りゅう”が家に来た理由は覚えていません。もともと、猫好きだったわけでもありません
でも、不思議なものですよね。猫の生態が分かってくると、悪く言えばあの身勝手な行動が逆に愛らしく思えて来ました。気を遣っているようで、いないような、いるような・・・。

“りゅう”が病気で天国に行った後、“りゅうた”が家に来ました。
“りゅうた”の場合は、なぜ家にやって来たのかはよく覚えています。
ある天災が発生した時に、姉が拾って来たそうです。そうです・・・と他人事のような表現になっているのは、その時、私は違う地域で生活をしていたからです。

小説に書いたように、気性は荒い方だったにもかかわらず、初対面でも、じゃれ付かれたほどでした。
たまに実家に戻ると、絶妙なタイミングで家に戻ってくる。でも、顔を見せて、軽くじゃれ付いた後、また出て行く。犬と違い、突っ込み所満載の猫を好きにならずにはいられませんよね

そんな彼らの影響を受けている場所や習慣。それがラストシーンを飾ります。
戸やドアを少し開け、彼らの通り道を作っている・・・そんな習慣が抜けていない家族に笑っちゃうようで、少し胸が熱くなります。
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[No.207-2]長靴の想い出

No.207-2

想い出はないこともない。
ただ、想い出は決して楽しいことばかりじゃない。

「へぇー・・・・それは、可愛そう」

水たまりを車が勢いよく通り過ぎた時だった。

「雨なら濡れてもいいけど、水たまりだろ?」
「何だが、コントみたい」

現実はコント以上に、悲惨だった。

「私もあるわよ」
「おっ!泥水コンビ結成か?」
「そっちじゃなくて!」

景子(けいこ)にも、水たまりの想い出があると言う。
新しい長靴を買った時のワンシーンらしい。

「それって、わざと水たまりに入りたい!ってやつ?」

(長靴を買った・・・雨が待ち遠しい・・・か)

「そう!それ!」

アニメとかで、出てきそうなシーンだ。
真新しい長靴を履いて、水たまりの中ではしゃぐ子供達。

「・・・でね、今もそんな気分なんだ」
「水たまりに入りたい?」
「バカ!違うわよ」

晴れ間が見え始めた空を見上げ、景子がこっち向いて言った。

「雨が待ち遠しいな・・・そしたら、また話せるかもしれないね」

(No.207完)

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[No.207-1]長靴の想い出

No.207-1

登場人物
=牽引役(男性) =相手(女性)
-------------------------------
「あれ?何してるの」
「見ての通りだよ」

会社帰り、駐輪場で同僚の景子(けいこ)とバッタリ会った。

「雨が止むのを待ってるの?」
「正解・・・だけど、ちょっと無理そうだな」

夕方から降り出した雨は、衰える所か勢いを増している。
無駄だと思いながらも、多少期待をせずには居られない。

「こんな雨じゃ、傘も役に立たないし」

いっそのこと、雨の中、自転車を飛ばした方が良いかもしれない。
どうせ、歩こうが走ろうが、ずぶ濡れ決定だ。

「待てばいいじゃない」
「それとも、私じゃ役不足?」

景子と積極的に会話することはない。
同僚と言えども、働いているフロアは異なる。
それでも、年齢が近かったり、何かと接点は多い。

「まとまって話すの、前の飲み会以来じゃない?」
「そうだっけ?」

あえて、覚えていない振りをした。

「仕事は順調?」
「ちょっと!仕事の話は無しにしない?」

珍しく景子が強い口調になった。

「それより、雨にまつわる想い出ってある?」

想い出と言う言葉に合わせるかのように、雨は弱まり始めた。A0006_000479
(No.207-2へ続く)

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[No.206-2]いくつもの顔を持つ女

No.206-2

事情は薄々知っていたつもりだった。

幼い頃の話、中学の話・・・時代時代で、名前が異なっていた。
多分、意識はしていなかったと思う。
それを無意識に使い分けていた。

「今は、なんて呼べばいい?」

菜帆美(なおみ)をもじって、“ナオちゃん”としか呼んでいなかった。

「今?母親の姓でええよ、だから、北・・・でええよ」
「再婚してたりして」
「ほんまや!でも、えんどくさいから、もうええわ」

家を飛び出してからは、一度も戻っていないと聞いた。

「しんどかったやろ?今まで・・・」
「・・・楽ではなかったね」

なぜだか、なまりが逆転してしまった。
こんな時、大阪弁は温かい。

「なぁ・・・」
「言わんといて!」

菜帆美が会話を遮る。

「まだ、何も言ってな・・・」

今度は僕自身が話すことを止めた。
僕の言いたかったことを、どうやら菜帆美は気付いたようだ。

「ありがとう・・・でも、今は考えたくないんや」

そうだ・・・流れに任せて軽々しく言うことじゃない。

「もう、二度と名前は変わりたくないねん」
「次を最後に」

(No.206完)

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[No.206-1]いくつもの顔を持つ女

No.206-1

登場人物
=牽引役(男性 ) 
=相手(女性)
-------------------------------
何となく理由は分かっていたが、あえて聞かなかった。

「昔からの友達から手紙が届いたんよ、綾瀬(あやせ)宛てに」

たったこれだけの言葉なのに、驚くことがふたつある。
ひとつは手紙が届いたと言うこと。
今の時代、新年の挨拶さえ、メールで済ませている。

「今時、珍しいね」
「うちらも、そんな時あるねん」

そこにどんなことが書かれてあったのかは、知ろうとは思わない。
興味の先は宛名にある。

「・・・言ってなかったけどなぁ」

僕の興味顔が菜帆美(なおみ)には、困惑顔に見えたらしい。
それを察してか、彼女の方からもうひとつの“驚き”を話し始めた。

「とにかく、3回名前が変わったんよ」
「あぁ・・・うん・・・初めて聞く名前だったので」

彼女の昔話になると、色々な姓が交錯する。
それは全て彼女のことだ。
もちろん、彼女の責任ではなく、両親の離婚と再婚の結果だ。

「最初が松・・・やろ、でもすぐ離婚して母親の姓に戻ってん」
「それから再婚して綾瀬になった後、また離婚してん」

(なるほど・・・)

これなら昔話の時期によって出てくる名前が違う。
初めて聞く名前であってもうなづける。

「最後の離婚の後は?」

勢いに任せてつい聞いてしまった。

「離婚した後、家を飛び出したから、知らん」

(No.206-2へ続く)

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ホタル通信 No.042

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.19 天使の輪
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:女性 

この話を書くきっかけはすごく単純でした。寒い時期の会社帰り、実際に眼鏡が曇ってしまったことがありました。

いわゆる結露なので、本来なら時間の経過と共に曇りも治まって行くのですが、マスクをしていたせいか、息をする度に曇ったり晴れたりの繰り返しでした。そんな時、信号機を見ると赤い光を取り囲むように、光の輪が見えました
光の輪を見た時のシチュエーションは小説の通りですが、そこまでに至る過程は創作です。

冬のホタルは心をテーマにしていますが、この話はあまりテーマらしいものは想定していませんでした。前述通り、光の輪が印象的だったことが話を書くきっかけだったからです。
ラストの“その光は赤から緑へ変わり、黄色に変わった”の意味は分かりますか?当時は単に時間の経過を、信号機の色の変化で表したつもりでした。
ところが、いざホタル通信を書き進めて行くと、心の変化も表しているのかもしれない・・・と考えるようになりました。
そうなると黄色で終るのは冬のホタルらしくないので、ラストを以下に追加しておきますね。


その光は赤から緑へ変わり、黄色に変わった。

すると意味も無く元気が出てきた。
ずっと光を見てきたせいだろうか・・・光は時より心を癒してくれる。

「さぁ!行こう」

私は歩き始めた。
黄色の信号を横目に、目の前の緑の信号を・・・。
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[No.205-2]特別な関係

No.205-2

「バカね」

女友達から一蹴された。

「そんなの良くあるし、それにねぇ・・・」
「なんだ!よぉ・・・」

強がっては見たものの、語尾に力がない。
言われなくても答えは分かっている。

「まぁ、勘違いさせるつもりはないんだけどね」

まるで、自分のことのように話す。
同じ感性を持つからか・・・それとも・・・・。

「・・・女はみんなそうよ」
「男だって!・・・そうだよ」

男はそれを特別な存在と勘違いする。
彼氏に対して本気で悪口を言ったとしても、それはそれなんだ。

「それで、その人は彼氏と別れたの?」
「聞かなくても分かってるだろ」

美菜(みな)はそれからも彼氏と別れることはなかった。
逆に、僕との関係が遠のいて行った。
その時、初めて自分の思い込みに気付いた。

「余裕というか・・・特別風を吹かせていたのかもしれない」
「でもね、相談する人は選んだと思うわよ」

女性にとって特別ではなくても、男性にとっては特別な場合もある。

(No.205完)

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[No.205-1]特別な関係

No.205-1

登場人物
=牽引役(男性 ) =相手(女性)  =相手(女性)
-----------------------------------------------
悪口は例え、他人のことであっても余り良い気はしない。
けど、場合により例外もある。

「ほんまに、最悪な男やで」

美菜(みな)がこの後も、延々悪口を言い続けた。
悪口を聞くのは、好きじゃない。
聞かされる苦痛より、悪口を言う人の格が下がるように思うからだ。

「そうなんだ、ひどいな・・・それで?」

いつもなら、途中で会話を遮ることもある。
でも、今回は逆に積極的に話しに乗ってしまう。

「そう思うやろ・・・ほかにもな・・・」

悪口の相手は美菜の彼氏だ。
考えようによっては、一種のノロケともとれる。

「そんなに嫌なら別れれば?」

間を飛ばして結論を言った。

「それもええな」

美菜の表情を見る限り、言葉に嘘はないと思う。
悪口自体も本気だろう。
この瞬間、あることが頭を過ぎる。

(彼氏に勝った・・・)

別に彼氏をライバル視しているわけではない。
それに、僕と美菜との関係は特別なものではない。
でも、悪口や愚痴を聞ける立場はある意味、特別なんだ。

(No.205-2へ続く)

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[No.204-2]背中越しの告白

No.204-2

「意識してたんじゃない?」
「ど、どうかなぁ・・・」
「嬉しいくせに!」

単に女子を乗せたからなのか、私だからなのかは分からない。
でも、確かにドキドキ音を感じた。
漫画やアニメの擬音として出てきそうなくらいの音だった。

「好きなんだから、ラッキーだと思わなきゃ!」

そうなんだ。
気分が悪くなったことは、言うまでもなくアンラッキーだ。
ただ、結果的にそれがキューピット役になった。

「キューピット?もう、そこまで妄想してるわけ?」
「いいじゃない!本当にそうなるかもしれないし」

言われるまでもなく、矢が放たれたわけではない。
まだ、何も始まってもいない・・・。
いや、何も始めなかった・・・と言うのが正しいのかもしれない。

「チャンスだったのにね」
「気分も悪かったし、それどころじゃ・・・」
「そんなの言い訳よ、私ならふたりでどこかへ逃避行ぉ!」

残念会のような後にもかかわらず、あいつと付き合うことになった。
あいついわく、あの時がきっかけだと言う。

「彼も好きだったんじゃないの・・・ドキドキ音を感じたでしょ?」
「そうかもしれないけど・・・」

実は、後から考えて心当たりがある。

「彼以上にドキドキしてたの私・・・」

私が鼓動で告白し、それを彼は鼓動で返してくれたんだ。

(No.204完)

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[No.204-1]背中越しの告白

No.204-1

登場人物
=牽引役(女性 ) =相手(女性)
-------------------------------
「へぇ~それはラッキーだったよね?」
「結果的に・・・だけどね」

通学途中で気分が悪くなった。
連日の猛暑の影響もあるし、夜更かしも原因のひとつだ。

「あいつに感謝ね!」
「そうね、神々しく見えたぐらい」

道端に座り込んでいたら、クラスメートが声を掛けてくれた。
いつも私は始業ギリギリに学校に来る。
だから、通学路には人影が見えない。
それが、今日に限って、あいつも遅刻寸前だった。

「でも、上手く利用されたのかも」
「そんなこと言ったら、悪いよ」

自転車通学の彼は私を後ろに乗せて、学校まで運んでくれた。
私を介抱していたので、遅刻してしまった・・・。
あいつに対する職員室の雰囲気はそんな感じだった。

「あなたは?」
「わたし?・・・決まってるじゃない」

あなたのせいで、あいつが遅刻してしまった・・・。
職員室はそんな雰囲気でもあった。

「でも、自転車に乗せてもらえて良かったじゃん!」
「まぁね、それに・・・」

後ろに乗せてもらった時、あいつの背中にしがみついた。
その時、だった。

「あいつのね・・・鼓動が聞こえたの」

背中越しに鼓動が聞こえた。
自転車を漕いでいるせいかもしれないが、鼓動が早く感じた。

(No.204-2へ続く)

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ホタル通信 No.041

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.60 もてポイント
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

話のキーワードとなる“もてポイント”と前半は実話で、後半になるにつれて創作の要素が強くなって行きます。

実は“もてポイント”の“ポイント”とは、箇条書き的なポイント(1つ目、2つ目など)ではなく、メンバーズカードのようなポイントのことです。つまり、言い換えれば点数になります。
身長が高いこと10点、高学歴であること15点・・・この点数を付けされたものを、もてポイントと名付けたようでした。

この話を書くきっかけは、この“もてポイント”と言う言葉が非常に印象的であったことに他なりません。
造語や新語のレベルまでは達してはいませんが、うまく言葉を組合せ、1文字だけですが略語にもなっています。女性っぽい・・・と言うよりも、女の子っぽい表現であると感じました。
美咲の名誉のために言っておけば、ポイント付けして男性を品定めする意味合いではなく、単純に「それ、ポイントゲット!」のようなノリで、もてるであろう条件に、ただポイントを付けているだけです。

後半は、もてポイントを男女逆転させ、話を展開させました。
実話は都合よく“オチ”が付きませんので、実話度が上がれば上がるほど、締め括りが難しくなります。
この話も根本となるものは実話度が高いため、どのような結末を用意できるのか、いつもの通り“書きながら考えて”いました。
どちかと言えば、無理に結末を考えるタイプではなく「会話を重ねて行けば、こんな流れになるかもしれない」的な発想です。

会話を重ねて行けば、おのずと結末が完成する・・・と言えば良いのでしょうか?冬のホタルは、ほぼそんな感じで作っています。
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[No.203-2]夕焼けの秘密

No.203-2

ソーラーと夕焼け・・・関連が全くないとは思えない。
ただ、どんな関係があると言うのだろうか。

「夕焼けって、なんで赤いか知ってる?」
「太陽があか・・・」

言いかけて気付いた。
感じ方は人それぞれあるだろうが、太陽はいつでも赤い。

「今、“赤い”って言いかけた?」

夏海(なつみ)が痛いところを突いてくる。

「ち、違うわよ」

ムキになるようなことでもないのに、思わず否定してしまった。
太陽がいつも赤いなら、昼間だって夕焼け空でもおかしくない。

「自分で矛盾に気付いたの!」
「まぁまぁ・・・でね、こういうことなの・・・」

夏海が解説し始めた。

「七色を・・・でね・・・空が・・・引き剥がす感じね」

夏海にしては分かりやすい話だ。
虹でもわかるように、太陽の光は正確には七色だ。
その七色の内、夕焼けは赤色が私達の目に届いていると言う。

「難しいことは抜きに空気と言うか・・・空が他の色をベリッ!と・・・」
「剥がしてるんでしょ?」

確かに、朝夕は昼間よりも通過する空気の層が長い。

「だから昼間だけは赤くならないんだ!」
「じゃあ、どうして空が青いか知ってる?」

この話の流れなら、なんとなく推測できる。

「それなら、ブルーな気持ちと同じような理由なのかな?」

(No.203完)

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