[No.192-2]想い出はうつらない
No.192-2
「写し損ねた?」
未由(みゆ)が不思議そうな顔をした。
「ごめん、適当なこと言っちゃって」
「ある意味、正解かもしれない・・・字は違うけど」
未由がケータイを操作し始めた。
さすがスマートフォンだ、操作のスピード感が違う。
「これ見て・・・意味分かんないと思うけど」
「メールフォルダ・・・だよね?」
受信フォルダのひとつを表示した。
ただし、データは入っていない。
“選択フォルダにメールはありません”と表示されているからだ。
「・・・移らなかった・・・んだ?」
ここまで出掛かっている答えを探るように聞いた。
「買い替えした時、データが移動しなかったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、全てが繋がった。
想い出とはメールのひとつひとつのことだ。
それが誰とのメールであるかは聞くまでもない。
「随分、買い替えしなかったからね」
買い替えなかったのも、こんなことを予想していたからだろう。
ただ、移し替える手段と言うか、やりようはあるはずだ。
「ひとつの区切りにしたつもりなんだ」
「そうね・・・良い機会になったかもしれない」
想い出は移らなかった。
けど、大切に保存されている・・・前のケータイに。
(No.192完)
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