[No.192-1]想い出はうつらない
No.192-1
「おもいではうつらなかったのよね」
未由(みゆ)が、わずかに聞き取れる声量で話した。
「えっ!おもいでは・・・うつらないって?」
「ううん、こっちのこと」
夏の暑さを避けるために、カフェに入った。
未由がケータイをいじり出した途端の一言だった。
気付けば、世間で話題のスマートフォンだ。
「いつ買い替えたの?」
「昨日」
「・・・嬉しそうじゃない・・・みたいだけど」
言われなくても自分から見せびらかすタイプだ。
それがどうだろう・・・いつものテンションを感じない。
「そうかな」
「使い勝手はどう?」
「良いんじゃない?」
質問したつもりなのに、質問で返されたようだった。
「そう言えば、さっきうつらないとか何とか・・・」
未由のテンションの低さは、さっきの一言が無関係ではないだろう。
それに、しきりにケータイを見つめている。
「想い出はうつらなかった」
今度ははっきり聞こえた。
でも“うつらない”とは・・・写らない?それとも、移らない?
「写真でも写し損ねたの?」
間の抜けた問い掛けかもしれない。
だけど、聞かなきゃ始まらない・・・そんな雰囲気だった。
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