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2010年7月

[No.188-1]ブルーメの丘

No.188-1 [No.89-1]遠い喫茶店

ブルーメの丘に行ってみたいんよ」

初めて聞く名前だ。
単純に地名と言うか、場所の名前だろうか。
名前から判断すれば、日本とは思えない名前だ。

「ごめん、初めて聞いた」

知ったかぶりするつもりはない。
素直に聞いた。

「うちも、そんなに詳しくないんやけど・・・」

そう前置きをしながらも、どんな場所か話してくれた。
一言で言えば、色々な体験ができる施設だ。
それにしても、興味の先はそこよりも彼女の表情にある。

「随分、楽しそうに話すなぁ」

まるで行って来たような口ぶりだったので、思わず聞いた。

「・・・行ったことは?」

そう言えば聞いていなかった。
行きたいからと言っても、初めてじゃない場合もある。

「まだ行ったことないよ」
「それなら今度一緒に行こうか?」

自分で誘っておいて、ある想いが頭をよぎる。

「そやね」

関西弁独特の返事だ。
行くのか行かないのか・・・はっきりしない。
彼女もまた僕と同じ想いを感じているのかもしれない。

(No.188-2へ続く)

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ホタル通信 No.033

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.64 きのこの山
実話度:★★★★★(100%)
語り手:男性

一部会話の内容を除きほぼ実話です。但し、実話度100%のお決まりで、語り手はあくまでもけん引役です。作者とは限りません。

この話は、最近書いた「No.183 ベルサイユのばら」と、同じ手法を用いています。
通常、タイトルと内容には何らかの関連性を持たせています。もちろん、直接関係ないこともあります。今回の話はどうでしょうか?
文中では“甘いもの”のくだりがあり、きのこの山をスナック菓子と気付けば、弱めの伏線となります。きのこの山を“きのこが生えている山”と捉えてしまえば、それこそ伏線がありません

今回はあえて“やってはいけない”手法を用いています。
3人で会話した時、痩せた・・・疲れた・・・から甘いものの話になりその時に私が一言つぶやきました。
   「最近、疲れてるので、きのこの山を食べている」と。
この一言を小説では書いていません。あえて伏せておいて、最後にタイトルを登場させる手法をとりました。

きのこの山もベルサイユのばらも、言うなれば固有名詞であるためそれが何であるか連想しやすい特長があります。
これが「夕暮れに消えた僕の淡い夏」のようなタイトルなら、色んな
ことが想像されて、一本に絞れません。「どこで“きのこの山”が登場するんだろう?」などと思って見て頂けたら狙い通りなんですけどね

近々、この話のプロローグとエピローグに相当する話を掲載予定です。登場人物の設定はやや変えていますが“きのこの山”とつながる話だと思って読んで頂けたら幸いです。
それでは「No.189 小さな勇気」でお持ちしています
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[No.187-2]大きな悩みごと

No.187-2

結局、せいじゅうろう達のこととは別に、焼肉に行く約束はした。
連れてくるか、来ないかは当日決めるらしい。

(それにしても、なにを悩んでたのかな?)

なんにせよ、今日聞いてみることにしよう。
いつものごとく、笑える話が待っていると思うから・・・。

「・・・で、連れてきたの?」
「ジャ、ジャアァ~ン!」

定番の効果音と共に、彼らが登場した。
雨が降っていることもあり、ビニール袋に包まれた念の入れようだ。

「連れて来たんだぁ!」

彼女の笑顔に釣られて、俺の声もどことなく弾んだ。

「随分、悩んでたから、てっきり連れて来ないかと・・・」
「でも、やっぱりみんなで食べたいやん!」

彼らが本当に食べられるわけではない。
けど、一緒に席を囲みたい気持ちは理解しているつもりだ。

「良かったな」

何が良かったのか・・・自分で言っておいて不思議に思う。

(・・・そうか)

肝心なことを聞いていなかったからだ。

「どうして、連れてくること悩んだの?」
「さっき、答え見たやろ?」
「答えを見た・・・えっ!・・・見たの?」

答えを言った・・・のではなく、“見た”と言う・・・。

「そのビニール袋がそれなの・・・・?」
「せいじゅうろうが焼肉臭くなるやん!でも、出してあげるわ」
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(No.187完)

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[No.187-1]大きな悩みごと

No.187-1 [No.07-1]せいじゅうろう

「今度、焼肉でも食べに行かない?」

世間では親密な男女関係のバロメータになるらしい。
・・・が、俺らには深い意味はない。

「焼肉!うち、むっちゃ好きやねん!」
「それなら話は早い」
「でも、ちょっと、待って!」

話の展開とは逆の発言だった。
なにか、まずいことでもあるのだろうか・・・。

「なにか問題でも?」
「違う・・・連れてこようか迷ってるんやけど」

この時点でピンと来た。
クイズで言えば、超ウルトライントロだ。

「連れてくればいいよ」

あえて答えを言わず、その先を答えた。

「誰を連れてくるか言ってへんやん」
「せいじゅうろうだろ?」
「そうなんやけど・・・」

知り合いを連れてくるならまだしも、あいつはぬいぐるみだ。

(時々、ストラップやシールだけどな)

「悩むことないだろ」

(・・・まてよ・・・)

「せいじゅうろう・・・達を、連れてくれば?」
「う~ん・・・どないしよ」

いつもなら、呼んでもいないのに連れて来られるあいつらだ。
ただ、今日に限って、何とも煮え切らない。

(No.187-2へ続く)

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[No.186-2]花火

No.186-2

開幕後は、それぞれが好き勝手に花火を手にしている。

打ち上げ花火で派手にはしゃぎ回る者。
片や、線香花火でまったりしている男女ふたり。

(男女ふたり・・・)

「えっ!・・・そんな関係だったの?」
「知らなかったの?」

1ヶ月そこそこで、そこまで気付かない。
・・・と言うより、そんなに興味もない。

「うやらましい?」
「べ、べつにそんなんじゃないよ」
「今だけ、恋人になってあげる」

そう言うと僕の手を引っ張った。

「ちょ、ちょっと!」

多少強引な所もあるが、これが彼女なりの気遣いだ。
それからも花火大会は大いに盛り上がった。
送別会ではなく、花火が目的になっているのが何とも笑える。

「は~い!以上で花火大会閉幕ぅ~!」

浜辺は来た時と同じように、静寂に包まれた。

「じゃ、片付けるわよ」
「おっ!地球にやさしいね」

当然と言えば当然だが、メリハリのある行動に改めて感心した。

「想い出と共に、持ち帰るのよ」

その言葉にどんな意味があったのか、後日知ることになった。
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(No.186完)

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[No.186-1]花火

No.186-1

「今夜、花火行かない?」
「花火?」
「あっ!もちろん、みんなとだけど」

出張先の職場の女性に誘われた。
・・・とは言っても会話の通りだ。

「どこで花火大会やってるの?」
「ごめん、言い方が悪かったわね」

彼女はそう言うと、後ろ手に隠し持っていた物を僕に見せた。
何やら派手なパッケージが目に飛び込んできた。

「花火セットだよね?」

言い終わるころに、彼女の言いたいことが理解できた。

「花火をしにいくんだね」
「それ!身内だけの花火大会!」 

その夜、どこかの海に連れていかれた。

「送別会も兼ねた花火大会なのよ」

1ヶ月ほど、ここでお世話になった。
それが今日で終る。
仕事上での出逢いとは言え、寂しさも感じていた。

「ありがとう・・・想い出になるよ」
「なに黄昏てんのよ!これからよ、こ・れ・か・ら!」

彼女はそう言うと、ねずみ花火を僕の足元に投げつけた。

「わぁ!こら!あぁ!」
「花火大会開幕ぅ~!」

僕の悲鳴にも似た叫び声で、花火大会は幕を開けた。

(No.186-2へ続く)

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ホタル通信 No.032

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.131 最も危険な一言
実話度:☆☆☆☆☆(0%)
語り手:男性

現実にも良くある話なのですが、特にこれと言った小説のヒントとなるものがなかったため、実話度はゼロとしています。

手前味噌ですが、ありがちなテーマに上手くオチが付いたと考えています
この話は「私(女性)の変化に何か気付かない?」との問い掛けに対して、あやふやな答えをする男性とのやりとりを描いたものです。

どうにでも取れる返事を繰り返すことで、何とか危機を脱したと思ったら・・・それでも笑って許してくれた彼女に感謝ですね。
小説では直接触れていませんが、彼女の変化は何だと思われますか?
とくにひねっていませんので、答えは“コンタクト”になります。
この手の話は、日頃から耳に入ってきていたので、ピンポイントできっかけになるようなエピソードはありませんでした。
多分、トリガーになるものはあったと思いますが、残念ながら記憶していません。

最後にタイトルなのですが、結構気に入ってます。
あまりタイトルには拘りはなく、よほど狙いが無い限り、悪く言えば適当に付けています。
今回も適当だったのですが、その割にはいい線行ったかな?と。

最も危険な一言・・・。
それが発せられたら、実はもう手遅れなのかもしれませんよ。そうならないように、世の男性方、先に気付いてあげましょう
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[No.185-2]忘れ物

No.185-2

「うちね・・・バイトしててん」
「知ってるよ、モデルだろ?」

(もしかして・・・そうなの・・・)

「モデル・・・目指す・・・とか?」

彼女が照れながら小さく頷いた。
これなら悪い話ではないし、むしろ一緒に喜びたい気分だ。
でも、そうハシャゲないのは、あの一言があったからだ。

『そうとも言えへんけどな』

一口にモデルと言ってもその世界は幅広い。
町の広告レベルから、それこそ手の届かないレベルまである。

「うん、モデル業、続けようと思うんや」
「そっか・・・目標があれば何でもいいさ」

それから彼女は本当にモデルの道を選んだ。
彼女に逢うと、懐かしそうに自分から学生の頃の話をしてくる。

「後悔はしてへんけど・・・」

そして、いつも歯切れが悪くなる。
でも、その言葉に嘘はないと思う。

「・・・忘れ物したんやろか、学校に」
「忘れ物?」

何らかの気持ちを学校に残して来たということだろうか。

「・・・なら取ってくる、そして俺が持っておくよ」

(No.185完)

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[No.185-1]忘れ物

No.185-1

「そう言えば・・・卒業したの?」

何とも季節外れなことを聞いた。
したたり落ちる夏の汗に似合わないセリフだった。

「看護学校のこと?」
「あぁ、何もなければもう卒業してるだろ?」

気遣って、あえて聞かなかったわけではない。
単純に卒業しているものだと思っていたからだ。

「卒業はしたんやけど・・・」

隠すつもりはなさそうだが、歯切れが悪い。

「資格は取らへんかった」
「え・・・看護師になるつもりだったんだろ?」

この後、しばらく沈黙が続いた。
答えを渋った彼女・・・余計なことを聞いたと反省する僕・・・。

「・・・夢とゆうか・・・気持ちが変わったんよ」

先に口を開いたのは彼女の方だった。

「それなら別に悪いことじゃないだろ?」
「そうとも言えへんけどな」

再び沈黙が続いた。
もう一度答えを渋った彼女・・・この先を聞こうかと迷う僕・・・。

「聞いてもいい?」

今度は僕が先に口を開いた。

(No.185-2へ続く)

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[No.184-2]怒るって難しい

No.184-2

「怒るって難しいと思う・・・そう思わない、佐知子?」

それは相手が誰であっても、どんな関係の人でも言えることだ。
ただ、恋愛関係にあれば多少、駆け引きも必要になる。

「嫌われたくないし、流されたくもない・・・か・・・」

言えば関係がギスギスする。
言わなければ関係はスカスカになる。

「本当は怒りをあらわにすべきだった」

それでも彼を許すつもりではいた。

「そうね、修羅場も悪くない」
「愛情があるからこそ、怒れる時もあるし」
「本当に怒るって難しい」

けど、いくら愛情があっても、相手に伝わらなければ同じだ。
勘違いのまま終ってしまうことだってある。

「それにルールがあると思うんだ」

怒るとは・・・ルールを無視した殴り合いではない。
厳格なルールの下で怒らなければならない。

「そう考えるとルールを破ってしまったのは私の方ね・・・」

いつしか“怒(おこ)る”ことが、“怒(いか)り”に変わった。
昔の出来事まで引っ張り出し、私は怒(いか)ってしまった。

「彼とはどうするつもり?」
「怒ってみる・・・真剣に」

まずは自分に対して怒ることから始めよう。

(No.184完)

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[No.184-1]怒るって難しい

No.184-1

案外、褒めることは難しい。
怒ることは・・・更に難しい。

ケータイの普及で、“約束をしない約束”が増えていると聞いた。
私達も例外ではない。

『明日じゃなかった・・・?』

逢う“約束”はしていたが、何時にどこでは“約束”していない。
せっかちではない私でも、さすがに心配になる。
それに、急ぐメールに返信がないと尚更だ。

(電話してみよう・・・)

今の時間なら仕事も終っているだろう。
迷惑にならないはずだ。

『とにかく連絡ちょうだい』

結局、電話は繋がらず、もう一度メールするはめになった。

『ごめん・・・ケータイ、放置してた』

彼からメールが来た。
ただ、時計の針は約束の日が終る位置まで近付いていた。

今思えば後悔している。

彼からのメールにまたメールで返してしまった。
直接・・・そう・・・直接ストレートに怒れば良かった。
感情的になることは決して悪いことじゃない。

私の冷静なメールは、かえって彼との距離を生んだ。
やがて、心の距離は物理的な距離へと変わった。

(No.184-2へ続く)

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ホタル通信 No.031

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.89 遠い喫茶店
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:男性

この話は先に後半を書いた後に、前半を書き上げました。これにはいくつかの理由があります。

後半は概ね実話です。
自分の中にある“遠い喫茶店”を、表現するのは難しいものがありました
人目を避ける行動は、人目が多い喫茶店を敷居の高いものに変えた・・・と言うことになります。簡単に言えば距離ではなく、願いが叶えられる可能性の低さを“遠い”と表現しました。
ただ、これだと少し堅苦しい雰囲気があり、説明っぽくなってしまいます。

タイトルは早い段階でできており、やや謎めいた感じになりました。
これもあって、前半は夢を用いて“遠い喫茶店”を不思議調で説明することにしました。
これによって、掛け湯のごとく“遠い喫茶店”の受け入れ態勢を整えて頂けたと思います

話は変わりますが、夢を用いた話は他にも書いています。
ただ結果的に「全て夢だった」で終るような話はありませんし、これからも多分書きません。
もちろん、夢とかSFっぽい話を書けば幅広く、それこそ無限に作ることが可能ですが、そうなれば話を作るためのアイデアを考えることに終始しそうな気がしてなりません。
あくまでも実話や実話からのヒントと言う骨があり、そこに肉付けして行くのが冬のホタルなんです。

最後にブルーメの丘ってご存知ですか?
いまだ行ったことはありませんが、私にとっては一生の想い出になりそうな、そんな場所なんですよ
近々、これを題材に話を作ってみようと考えています。
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[No.183-2]ベルサイユのばら

No.183-2

食いしん坊ではない私でさえ、バイキングはテンションが上がる。

必要以上に選んでしまい、完食するのに苦労することも多い。
それだけ、魅力的であると言える。

「ほら、見て!見て!」

まるで観光地や動物園に来たかのようなハシャギようだ。
目の前には名所や動物達ではなく、料理が並んでいる。

「恥ずかしいじゃ・・・」

全てを言い終わる前に、お皿は山盛りになった。

「ほら、早く選ばないと無くなっちゃうよ!」

そうとも言えるし、そんなことは無いとも言える。
どちらにせよ、敦子(あつこ)だけじゃなく、周りもそんな雰囲気だ。

「ボケッとしてるなら、お皿取ってよ!」

敦子の威勢の良い言葉が飛んできた。

「もう!私の番なんだから!」

敦子の勢いに押され、やや意味不明な返事を返してしまった。
とにかく私も早く、選ぶことにした。

改めて料理を見る。

色とりどりの料理が、何とも食欲を誘う匂いを発している。
和洋食に加え中華もある。
しかも、カロリーオフの気の使いようだ。
スイーツはメジャーなものから初めて見るものまで揃えてある。

とにかく、女子が喜びそうなものが全て詰まっている。

(・・・全て詰まっている?)

「ベルばら!」
「えっ!なになに・・・それ美味しいの?」

(No.183完)

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[No.183-1]ベルサイユのばら

No.183-1

「ねぇ、ねぇ、ランチ何にする?」

敦子(あつこ)が甘えた声を出している。

「ちょ、ちょっと暑いからベタベタしないの!」

夏だと言うのに敦子の食欲が落ちる気配がない。
何ともその元気が羨ましい。

「先週オープンした店、行ってみない?」

提案されているようで、内心強制と感じる。

(確か、行列ができていたっけ・・・)

人気の様子がテレビでも放映されていた。
先週のオープンでもあり、楽に食べられるとは思えない。
でも、敦子の勢いを止められそうにない。

「混んでるわよ、きっと」
「だから、いいんじゃない!」

(だから、行列が行列を生むんじゃない・・・)

「仕方ないわね・・・」

勇み足でその店へ向かった。
もちろん、それは敦子であり、私の足取りは重い。
私にとってのランチは食事の時間であり、休憩時間でもある。
だからわざわざ、混んでいる場所には行かない。

「・・・で、何食べるの?」
「バイキングなんだよ、バイキング!」

なるほど・・・食いしん坊な敦子にピッタリな場所だ。

「・・・今、私のこと考えてたでしょ」
「ち、違うわよ」
「どうせ、私は食いしん坊ですよ」

それでも敦子の足取りが止まることはなかった。

(No.183-2へ続く)

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[No.182-2]汚れた世界

No.182-2

「うちな・・・その人と結婚を前提に付き合ってるねん」
「えっ!結婚・・・」

結婚することに驚いたわけではない。
話を戻せば父娘の不仲は、結果的に彼との不仲になる。

「その人とはうまく行ってないんだよね?」
「そやけど、ええねん」

ええねん・・・前向きな発言ではない。
むしろ、諦めにも似た、後ろ向きな発言だと感じた。

「住むところがあれば、それでええねん」

幼い頃から衣食住に苦労し、加えて大人の事情が彼女を苦しめた。

「ふぅ・・・それにしても、相変わらずサラリと言うよな」

衝撃的な発言も、彼女の前では普通に感じる。
時にはあまりにも凄過ぎて、“笑”撃になる場合さえある。

「“笑”撃って、笑うところちゃうし」

そう言いながらも、笑顔で突っ込んでくれる。
重い話を笑い話に変える・・・彼女はそんなパワーを持っている。

「でも、うち・・・汚れてるやろ?こんな生き方しかでけへんし」

以前も聞いたことがある、自分は“汚れた世界”の住人だと・・・。

「汚れてるなら、洗えばいいよ」
「上手い冗談やん」

なにも、中身が腐っているわけじゃない。
簡単なことだ・・・汚れたら洗えばいい。
そしたら、また輝き出す。

(No.182完)

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[No.182-1]汚れた世界

No.182-1

幼い頃から刻み続けられた記憶・・・。
彼女はその呪縛から逃げ出すことができずに居る。

「うち、この前、北海道に旅行に行ったやん」

“冬の北海道”を満喫するには、やや早い時期だったと思う。

「あぁ、旭川だろ?」

薄っすらと雪化粧した風景の写メが記憶に残っている。

「お父さんと行ったんだよね?」

この時、多少、違和感を感じていた。
世間では仲の良い父娘関係は、特段珍しくもない。
ただ、彼女の場合は逆だった。
そんな関係で「旅行に行く気になったな」と感じていた。

「本当は違うねん・・・今、一緒に住んでる人と行った」
「住んでる人?それがお父さんだろ?」

菜央(なお)が事情を話し始めた。
今まで会話に出てきたお父さんは、全て彼氏のことだったらしい。
確かに今思えば、しっくりこない話も多かった。

「・・・黙ってたら、隠し通せたのに、どうして?」
「うちもわからへん」

全くそれを感じていなかったわけでもない。
菜央と別に付き合ってはいないし、彼女は自由の身だ。
僕がとやかく言う筋合いもない。

「薄々感じてたけど正直・・・驚いた」
「もうひとつあるねん」
「・・・もうひとつ?」

僕は一日で、2度驚くことになった。

(No.182-2へ続く)

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ホタル通信 No.030

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.55 豆電球ネックレス
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

この手の話は、さすがに実話をベースにしなければ思い付かないほど変わった話です。

話の前半はほぼ実話で、実際に豆電球ネックレスは存在しています。他にも、IC(集積回路)を昆虫風に仕上げている作品を見せて
もらいました
なんでも、電気パーツ屋に通って、作品の元になりそうな品を探していると言う、熱の入れようでした。

後半は前半とは逆に創作です。
前半がやや、エレクトリックな話で進んだため、後半もその流れを継承しました。
いつもそうですが、オチは全く考えておらず、ただただ変わったタイプの話を作り進めて行きました。そして前半を書き上げた時に光るアイデアを思い付きました。
半分に割れたハートのネックレスを、ふたりで合わせるとひとつになる・・・これと考え方は同じです。
ただ、ふたつ合わせて光るだけでは、そこに話の軸が移動してしまうため、ラストはもう一工夫して、そのような構造にした理由を間接的に書いています。

“豆電球ネックレス”と言うタイトル・・・タイトル自体非常に変わったネーミングをしたつもりでした。
ところが、ブログ内に設置してある検索フレーズランキングに登場したこともあり、世間の広さを知らされた話でもありました。
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[No.181-2]雨男

No.181-2

「ねぇ、知ってた?」
「何だよ、唐突に」

急に降り出して来た雨を見て、彼と付き合うきっかけを思い出した。
目の前に居る“彼”は“あいつ”だ。

「雨男って、ウワサされてたんだよ」
「なんだ・・・そんなことか」

彼は知っていたらしい・・・雨男だと、ウワサされていたことを。

「でも、イメージは良くないよな」
「そうよ、私だって・・・」
「・・・なんだよ?」

彼が私の言葉の先を知りたがっている顔をしている。
あのウワサ話の“あいつ”は、偶然にも私の憧れている人だった。
結果的に同僚達の勘違いが、今の私達の関係を生んだ。

「私も・・・なの!」

雨男に雨女・・・お似合いのカップルだ。

「私だって雨女・・・なの」
「今、降り出したこの雨だって私のせいかもしれないし」

彼はキョトンとした顔をしたが、すぐ笑顔に変わった。

「雨女?・・・君が?」

「だって皆と飲みに行ったりしたら、雨に降られることが多いし・・・」
「よく思い出してみろよ、その時のメンバーを」

そうだった・・・そんな時は、いつも彼も居た。
彼が居たからこそ、メンバーに加わっていたことを思い出した。
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(No.181完)

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[No.181-1]雨男

No.181-1

積極的にかかわれない話がある。
それについて無知だからではない。
その話の当事者だからだ。

「でさぁ・・・あいつって雨男だと思わない?」
「分かる、分かる!この前もホラ・・・そうだったもんね」
「ありさもそう思うでしょ?」

性別こそ違うが何を隠そう・・・私もソレだ。

「・・・そ、そうね・・・困った人だよね」

声が若干、上ずってしまった。
私の場合、晴れを雨に変えるほどの神通力はない。
さっきまで止んでいた雨が、また降り出す程度だ。
もちろん、私が外に出た瞬間に・・・だ。

「ほら、偶然ってこともあるじゃない?」

心の中で自分を弁護したつもりが、つい口に出てしまった。
その瞬間、一斉に視線が私に向けられた。
何とも波紋を引き起こしそうな雰囲気に変わった。

「もしかして・・・」

同僚の一人が口火を切った。

(まずい!バレたかも・・・)

「あんた、あいつのこと好きなわけ?」
「そ、そうかも!」

矛先をかえるため同僚達の勘違いに、適当に答えた。
それが思わぬ方向へと発展した。
そもそも“あいつ”が誰なのか、把握していなかった。

(No.181-2へ続く)

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[No.180-2]答えはひとつ

No.180-2

杓子定規ではなく、その時々で最善を尽くすこと。
その小説にも書かれていた答えだ。

「まぁ・・・間違ってない・・・よね?」
「そうだね、私もそんな気持で仕事してるから」

ところが、責任が増すにつれ、答えに疑問を感じ始めた。
自分が出した答え・・・。
果たしてそれは、本当に最善なのだろうか・・・と。

「だから、ちょっと調べようかなー、と思ったら」
「小説の方に目が行っちゃった・・・わけね」

小説の中で彼は最善の答えを出したと思う。
その瞬間にもっとも必要な答えであった。

「余り無理しない方がいいよ」
「ありがとう・・・疲れてるのかも」

最善を尽くすことは楽なことじゃない。
いくつかの可能性の中から、ひとつの答えを見つける。
それが正しいかなんて分からないのも本音だ。
全ては結果がそれを教えてくれる。

「そうなるとケースバイケースってなんだろう・・・と思う」
「そうね・・・じゃあ、私が新しい定義を作ってあげるよ」

そう言うと、意図も簡単に定義を作ってみせた。

「最も最適と思われる答えが見つからない時の最も最適な答え」
「よくわかんないけど、なんか凄そう!」
「でしょう?」

これ以来、この言葉を使わなくなった。
結果的に小説の中の彼と同じになったと言える。
逃げずに答えを出そう・・・そう心に決めた瞬間でもあった。

(No.180完)

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[No.180-1]答えはひとつ

No.180-1 [No.151-1]ケース・バイ・ケース

感覚的に使っている言葉・・・。
いざ、説明するとなると案外難しい。

(ケース・バイ・ケース・・・っと・・・)

ネットで検索すれば、苦も無く解決できる言葉だ。
ただ、今の時代、幸か不幸かオマケも付いてくる。

「ケース・バイ・ケース・・・小説・・・?」

気になる検索結果が表示されている。
ネット検索では思わぬ出逢いを演出してくれる時がある。

「ヘぇ~、小説あるんだ」
「まずは、こっち・・・と」

本来の目的は後回しにして、その小説のリンクを辿った。

「興味深い話ね」

友人にリンク先で出逢った、あの小説の話をした。
ケース・バイ・ケース・・・。
柔軟に対応しているように見えて結論を先延ばししている。
その瞬間の答えから逃げている・・・。
悪く言えばそんな印象がある。

「最後はどうなるの?」
「本当に必要な時に、その言葉を使った・・・こんな感じかな」

私自身も頻繁に使っている。
仕事をしていれば、大袈裟だが毎日使っているのかもしれない。
だからこそ、調べてみようと思った。

「まぁ、確かに便利な言葉だから」
「つい・・・使っちゃうよね」

(No.180-2へ続く)

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ホタル通信 No.029

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.156 季節限定商品
実話度:★☆☆☆☆(20%)
語り手:男性

この話のきっかけは、一風変わっています。経験と言えば経験なのですが、その割には実話度は低めです。

ある人とメールのやりとりがあり、話の流れでラスト2行の「桜入りの風」のくだりを書いたのがきっかけです。
手前味噌ですが書いた瞬間に「これ小説にできるかも」と、思える程、広がりを予感させる表現でした。つまり、これ以外は全て創作
になります。

創作の割には非常にスラスラと話が書けました。
すぐにアイデアが出たのも季節柄、春や桜に関係した限定商品の話題を目にする機会が多かったからです。
この手の話は、いきなり話の核心部分を投げ、最後にそれが分かるタイプの話です。最初と最後が決まれば、ものの数分でこの話を
書き上げることができました。

話を戻すとメールでのやりとりで生まれた話は結構あります

実は今回の話のきっかけを作ってくれた人は、他の小説にも、多くのヒントを与えてくれました。
色々と考えさせられるテーマを与えてくださる方で、随分、文章力や何事にも向き合う心を鍛えて頂きました
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