[No.165-2]望郷の影
No.165-2
「なんか変な感じね」
「グレー・・・かな」
一見すると無塗装にも見える。
それでも、見た目はそっくりだ。
それから、しばらく会話が止まった。
「ねぇ、お盆休みどうする?」
「帰らないつもりだったけど・・・」
「私も、同じ」
再び会話が止まる。
敦子(あつこ)も同じ考えのようだった。
思いのほか住み慣れた町の光景と重なったはずだ。
「風が・・・気持ちいいね」
体には感じない。
木々の葉がささやく程度に揺れた。
敦子はそれを、そう表現した。
「見えてないでしょ?」
「何よ、その質問?」
敦子のリラックスモードを見ていると、つい聞いてしまった。
「目の前の光景のことよ」
「なんだ・・・そうね、見えてないね」
敦子も私も見えていない。
見えているのは望郷の影だ。
夕日にテレビ塔が赤く染まる。
そこには見慣れた赤いテレビ塔が立っていた。
(No.165完)
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